手になじみいつまでも愛着がわくオリンパスペンFT

Penft「手に馴染む」ということが、最もよく当てはまる、オリンパスペンFT。
デジタル全盛時代を迎え、各種デジカメが発売されても、未だに「手によく馴染む」と感じるカメラはそれほど多くは見当たらない。かえって以前のフィルムカメラの方が、両手でカメラを構えたときに、グリップなどなく、自分なりに工夫した自由な持ち方が出来て安定する。

コンパクトデジカメを除くデジタル一眼レフは、いずれの機種も複雑な曲面で構成され、どのメーカーも申し合わせたように、右手のグリップ部分が張り出し、正面左側にしっかり配置されている。右手の構え方は、このグリップ部分を握りしめるので、誰でもほぼ同じような構え方になる。ところが、人間の手は、人によってサイズが異なる。大きな手の人は、グリップが小さく感じられ、持てあましてしまう。反対に小さな手の人は、グリップが大きすぎて、人差し指がシャッターレリーズボタンに届きにくく感じる。いずれのメーカーも、標準的な手の平サイズから割り出して人間工学的に設計していると思われるが、実際にはメーカーの機種ごとにサイズは異なっている。

フィルムカメラの全盛時代、80年代以前には、もともとカメラにグリップは標準装備されていなかった。オプションでグリップを装着するものが存在するくらいであった。グリップがないから持ちにくいか、といわれたら、ほとんどのユーザーはそうは考えていなかったと思う。むしろ、グリップなどがあれば、そこに手を置きなさいと、なんだか強制されているような感じもする。カメラは、横位置、縦位置のいずれでも撮影されるが、もともと人によって持ち方は様々で、それぞれが自分の経験をもとに、独自のスタイルを工夫していたのではなかったか。経験を積んでいくうちに、そのカメラの癖を知り、自分の納得のいく持ち方で、手に馴染ませながら、次第にスタイルを固めていったという人が多い。使うほどに手に馴染み、カメラに対して愛着もわいてくる。例えばハッセルブラッドなど、最初は少し戸惑うが、その作法を心得ると、不思議に手によく馴染む。

実を言えば。デジタル一眼レフの、堂々としたグリップを持った姿が、未だにあまり好きになれない。もちろんデジタルの機能性については、十分理解しているつもりであるが、カメラそのもののスタイル自体にあまり愛着がわかないということは今でも変わらない。贅肉を取り払い究極まで突き詰めたデザインが、日本のカメラの優れた点であった。デジタルカメラは一方では驚くほどコンパクトになりついにカードサイズまで至った。他方、デジタル一眼は、いずれの機種も大容積だ。電池のサイズは、フィルムカメラ時代のボタン電池から見ると肥大になった。バッテリーの収納場所は大きくとらなければならず、いずれもグリップ部分に位置している。人間のためのグリップと、電池の格納庫としての機能が重なっている。

オリンパスペンFTと同等のサイズでグリップなどがついていないシンプルで、「手に馴染む」デジタル一眼レフを発売してほしいと以前から思っている。オリンパスペンFTは、横位置でも縦位置でも、どちらも構えやすい。ペンタプリズムの出っ張りが無いので使いやすく、収納しやすい。

フォーサーズシステムのCCDはハーフサイズよりも小さなサイズである。E−330は、ライブビューというオンリーワンの優れた機能を持つが、残念ながら大きなグリップ付きで、ペンタプリズムを無くした効果が、デザイン上あまり生かされていない。それと、カメラにまだまだ厚みがありすぎる。せっかくサイドスイングミラー&ポロミラー式光学ファインダーを採用して、ペンタプリズムの出っ張りを無くしているのだから、もっと魅力的な形状を今後は期待する。E-330はE-300の発展型で、新たにライブビュー機能を搭載し、他メーカーにはないオリンパスならではの独自性を持った魅力的な機種である。液晶ファインダーでライブビューが可能になりウエストレベルファインダーのように使用できる。実用性の高い大変便利な機能だ。あとはデザインの問題だけ。(もっともE-330はE-300よりずっとスタイルがよくなったと思うが。) E-330の次には、ペンFTに近いコンパクトサイズでシンプルで贅肉を取り払ったものを期待する。いわばコンパクトカメラサイズのレンズ交換式一眼レフである。交換レンズも、単焦点でよいからもっとコンパクトなものが同時に出ないだろうか。
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オリンパスはもともとペンシリーズやOMシリーズで、他社にはない独自のコンパクトなものを開発してきた。
ペンFシリーズもOM一桁シリーズも、未だに根強い人気がある。極限まで切り詰めたアイデアが、コンパクトでしかも手に馴染む形状に至っている。一度これらの機種を使えば、手がその使いやすさを覚えてしまい、カメラを持って写す楽しさが深まり、手放せなくなってしまうのだ。
以前のカメラは、金属ボディの制約上、複雑な形状は困難であった。プラスチック素材、マグネシウム合金などを用いる現在のカメラは、以前に比べるとずっとその形状の自由度は高まった。しかしそのことにより、カメラのデザインは、シンプルで飽きのこない優れた形状を容易に生み出せなくなってしまった。「素材の制約は、自由が利かないが故に、作為的にならず、本当に必要な機能のみを整理して表出するので、シンプルで優れた形状を生み出しやすい」。皮肉なことである。
ペンFTは、ハーフサイズで35mmフルサイズに比べるて画質の点では劣る。でも、今でも使ってみたいと思うのは、手に持って撮影するときの感触がすばらしいからだ。スケッチブックを持ち歩くような感覚、その画用紙のサイズは、小さくてもよい。ハーフサイズでもよいのだ。自分のその日見た光景、思ったこと、感じたことをいつも記録するのに、コンパクトさは大切だ。

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