第11回 不滅のジャズ名曲-その11- セント・トーマス(St. Thomas)

Murphy:「Djangoくん、このあいだ川辺を散歩していたら、ソリー・ロリンズのあの有名なセント・トーマス(St. Thomas)が聞こえてきたんだ。どこで吹いているのかと思ったら、橋の下だったね。テナー・サックスってずいぶんよく響くもんだね。」

Django:「そうだね。サックスの音は野外でも相当遠くまで響きわたるよ。」


M:「ところで、セント・トーマスは、ソニー・ロリンズ自身の作曲なの?」

D:「そのとおり。ジャズファンならみんな知っている「サキソフォン・コロッサス」というアルバムの1曲目に入っている。カリプソ調のこの曲は、彼自身も何度か録音しているし、ライブではこの曲が始まったら、いつも大歓声だね。」


M:「ボクは、このアルバムでジャズが好きになったんだ。それ以来、ソニー・ロリンズのアルバムは、他に「テナー・マッドネス」や「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」、「ウェイ・アウト・ウエスト」など何枚か集めたよ。」

D:「Murphy君が、ソリー・ロリンズのアルバム、そんなに持っているとは知らなかったね。他に、「」は持ってる?」


M:「いや、それは知らないな。いつ頃のアルバム?」

D:「確か1962年の録音だっとと思うけど。1959年の夏から3年間の沈黙を経てリリースした復帰第1作。このアルバムはピアノレスで、そのかわりに、ギターのジム・ホールが入ったんだ。その間、ニューヨークのイーストリバーにかかるウイリアムズバーグ橋の上で、ひたすらテナー・サックスの練習に明け暮れていたことは有名な話だ。ソニー・ロリンズという人は、いまでも現役で活躍しているけど、50年代に傑作を出しても、60年代に再び新しいコンセプトで挑み、さらに70〜80年代、そして現代に至るまで、常に時代の第一線で活躍し、チャレンジし続けている。日本びいきだし、日本のファンを本当に大切に思っている人だ。おそらくジャズ界の最高のインプロヴァイザーの一人に違いない。彼の演奏の魅力は、熱気のなかでのユーモア精神というか、ジャズの楽しさを本当に伝えてくれるところにある。テンションとリラックス、簡潔さと複雑さなど、ジャズならではの魅力が最大限に表現されている。特にライブが素晴らしいね。それと、歌が好きでたまらない人だと思うね。」

M:「これまでソニー・ロリンズは50年代のアルバムしか聴かなかったけど、それ以降もいいアルバムがあるんだね。」

D:「そう。Murphyくんは、ソニー・ロリンズがかなり気に入っているようだから、珍しいアルバムを紹介しよう。このアルバムは、1985年にニューヨークの近代美術館でライブ録音されたもので、なんと56分すべてテナー・サックスの無伴奏ソロで演奏した前人未踏のアルバム。初心者にはやはり、サキソフォン・コロッサスなどのオーソドックスなカルテットの名盤の方から先にすすめるけど、もし、ソニー・ロリンズという森の奥深いところを知りたければ、このアルバムおすすめします。(但し、初めての人にはややとっつきにくいかもしれません。) いきなり豪快なブローで始まり、途中、突然「セント・トーマス」が出てきたり、「夢見る頃を過ぎても」や「アルフィー」なども登場するし、「ホーム・スウィート・ホーム」まで飛び出してくる。最後は手拍子が入り終わっていく。」

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サキソフォン・コロッサスビクターエンタテインメントSaxcolo_1

BMG JAPANBridge_1

 

ザ・ソロ・アルバムビクターエンタテインメントSonny_solo

第10回 不滅のジャズ名曲-その10- ワン・ノート・サンバ(One Note Samba) 

Murphy:「Djangoくん、いきなり質問するけど、ジャズに名曲はなし、演奏がすべて、と誰かが言っていたように思うんだけど。どう思う。」

Django:「確かにジャズの場合、アドリブが重要だよ。でも、原曲が魅力的だと、当然アドリブもそれに触発されて良くなるし、やはり原曲はとても大切だと思うね。だからジャズに名曲なしというのは、アドリブ演奏の重要性を強調しただけだと思うな。」

M:「やっぱりそうか。」

D:「かつて60年代以降、フリージャズが流行ったころは、原曲の面影すらなかった演奏もみられたけど、80年代以降は、ふたたびかつての原曲を大切にする、オーソドックスな4ビートでの演奏に回帰していったんだ。その頃から、ジャズ・スタンダードといわれる名曲をふたたび採り上げるプレーヤーが増えた。そういうスタンダード・ナンバーは、みんながよく知っている曲だから、わかりやすく、なによりメロディを口ずさめるし、親しみやすいんだ。それと、もう一つ大切なことは、ジャズのアドリブは、原曲のコード進行にのっとって演奏されるから、やはり原曲の構造が非常に大切だと思うね。」

M:「なるほど。そうすると、ジャズを聴くには、まず自分の好きな曲を選んで聴いていけばよいということ?」

D:「そのとおり。例えば、スター・ダストが好きだとすれば、そこから入り、誰かの演奏を聴いていけばよいと思う。そうすると、次第にプレーヤーの演奏スタイルの違いがわかるようになってくる。原曲を知っているからその違いがよくわかるんだ。ところで、Murphyくん、もともとジャズ・スタンダードは、歌ものが多いんだよ。ガーシュインリチャード・ロジャースなど、数々の名曲を作曲しているんだけど、大半が歌なんだ。だから覚えやすくて印象に残るんだ。20世紀を振り返れば、本当に優れた後世まで愛される数々の名曲が生み出されたんだ。それは、ボクたちにとって宝だね。まちがいなくクラシックになるだろう。そういった歌ものは、メロディーラインが印象深くて、おまけに曲の構造もジャズ演奏家にとっては魅力的なんだよ。」

M:「さっきからDjangoくんが言っている、「曲の構造」ってどういうこと?」

D:「つまり、コード進行だよ。そのコード進行がいろいろな曲を生み出すんだ。その曲を演奏できるということは、テーマを演奏するだけでなく、アドリブプレイも含まれるんだけど、アドリブはコード進行に基づきプレイするから、コード進行を頭に入れておかなければならない。ジャズにとって、コード展開は、最も大切な要素だね。」

M:「そうか。コード進行がわかっているからアドリブができるということだね。」

D:「そのとおり。だから、ブルースなんかは、コード進行が決まっているから、打ち合わせなしに、すぐにジャム・セッションができるんだ。」

M:「ところで、Djangoくん。今回は誰の曲を選んだの?」

D:「アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)作曲のワン・ノート・サンバ(One Note Samba)。この曲は、曲の1つのモチーフでメロディが変わらず、コードだけが変化していく、面白い曲だよ。」

M:「ああ知っているよ。ボサノバだね。Djangoくん、ボサノバもジャズなの?」

D:「大きくみれば、ジャズだよ。ジャズの影響を色濃く受けているという方が適切かな。」

M:「そういえば、海の向こうのブラジルでは、リオのカーニバルが昨日まで開催されていたね。」

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アントニオ・カルロス・ジョビンは、ボサノバの創始者であり、「ワン・ノート・サンバ」をはじめ、「イパネマの娘」、「ウェイヴ」、「コルコヴァード」など、多くの名曲を残したブラジルの作曲家。ボサノバの演奏家としては、ご存知「スタン・ゲッツ」が、多くの名演奏を残している。ギターのチャーリー・バードとの競演アルバム「ジャズ・サンバ:スタン・ゲッツ&チャーリー・バード」は、後のジャズ・ボサ・ブームの火付け役となった。Jazz_sumba
ジャズ・サンバ
~ スタン・ゲッツ&チャーリー・バード  ユニバーサルクラシック