第14回 不滅のジャズ名曲-その14- 4月の思い出(I’ll Remember April)

Django:「Murphyくん、今回はいきなりボクの好きな曲から話をはじめよう。」

Murphy:「Djangoくんの好きな曲か。 ボクも知っている曲かなあ?」

D:「「四月の思い出(I’ll Remember April)」という曲。どう? 知っている?」


M:「さあ、知らないね。聴けばわかるかな?」

D:「おそらく。この曲は、これまで本当に多くのジャズプレーヤーが演奏してきたからね。」


M:「たとえば?」

D:「ビバップの開祖の一人といわれるピアニスト、バド・パウエルが40年代の後半に録音した名盤、バド・パウエルの芸術(THE BUD POWELL TRIO)の1曲目に入れているし、ソニー・クラークもブルーノート・レーベルに吹き込んでいる(Sonny Clark Trio(1957)/Blue Note)。他に、それこそ、もう、ほとんどのジャズ演奏家がこの曲を好んで採り上げているよ。まさにジャズの名曲だね。」


M:「そうか。誰の作曲なの?」

D:「ジーン・デ・ポール&パット・ジョンストン(G.D.Paul & P.Johnston)。もともとは確か映画音楽だったと思うけど。」


M:「テンポは速いの?」

D:「そうだね。どちらかと言えば速いテンポで演奏する人の方が多いかな。でもソニー・クラークなんかはスローテンポだね。」


M:「おすすめの演奏は?」

D:「この曲は名演奏が多いから、1つだけに絞り込むのはむずかしいんだけど...。」


M:「どちらかといえば、聴きやすくて肩のこらない演奏がいいな。」

D:「それなら.....、新しいアルバムから選んでみようか?」


M:「新しいって、最新?」

D:「そう。2007年の2月21日発売の新譜で、スタンダードソングばかり、昨年の秋に何と50曲も一気に録音したピアノトリオがいるんだ。」


M:「へえー、そんなに一気に録音できるの?」

D:「4日間で50曲。恐るべきペースだね。マイルス・デイビスの50年代のマラソン・セッションに匹敵するかな。」


M:「そんなに一気に録音したら、演奏内容は大丈夫なの?」

D:「うん、それなりにね。エディ・ヒギンズという人のピアノトリオで、アルバム名は、「素敵なロマンス(A Fine Romance)」というタイトル。」


M:「聴いたことないなあ。若い人なの?」

D:「年配の人で、もう75歳だよ。50年代の後半から60年代にかけて、シカゴのジャズクラブで演奏していたらしい。97年からヴィーナスレコードで最新録音のアルバムがリリースされて以来、有名になり、今では日本の多くのジャズファンに知られているよ。」


M:「どんな演奏?」

D:「そうだね。どちらかといえばイージーリスニング的で、肩のこらない聴きやすい演奏だ。でもそれなりに味わいもあるよ。BGMとして気軽に聴くのに最適だね。Murphyくんの好みだと思うけど。でも、もし、この曲のビバップ期の歴史的名演を、というのであれば、ぜひバド・パウエルを。これはもうすごい演奏だから。いつかは是非聴いてほしいな、決定版だから。パウエルのピアノは壮絶だよ。ボクはこちらの方がもちろん好きなんだけど。」


M:「わかった。バド・パウエルはいつかは聴いてみるよ。ところで、エディ・ヒギンズトリオのアルバムには50曲全部入っているの?」

D:「まさか。1枚のCDに12〜13曲程度しか入らないよ。この企画は、シリーズ四部作で、CDが四回にわけてこれから順次リリースされるということだ。名曲ぞろいだし、Murphyくん、これでスタンダード曲を覚えたら。」


M:「そうか。それを聴いて自分の好きな曲を発見するという方法もあるね。」

D:「うん。でも、Murphyくん、バド・パウエル、覚えといてね。」

  ◇◇◇
Edy_rom1
素敵なロマンス エディ・ヒギンズ・トリオ Venus Records 2007.2.21
エディ・ヒギンズ Eddie Higgins(p)
ジェイ・レオンハート Jay Leonhart(b)
マーク・テイラー Mark Taylor(ds)

 

第13回 不滅のジャズ名曲-その13- ノーバディ・エルス・バット・ミー(Nobody Else But Me)

Murphy:「Djangoくん、前回の曲、「バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)」をさっそく聴いてみたんだけど、曲が始まった途端、ああ、この曲か、とすぐにわかった。これがクリス・コナーだったのか。改めて聴くと、実にいい曲だね。」

Django:「そうなんだ。それに録音もいいだろう。50年代の録音って、今の時代のようなステレオじゃなくてモノラルだけど、サウンドに奥行き感があり、味があるんだ。」

M:「そうだね。想像以上だった。Django君、この時代の録音で、他にいいアルバムない?」

D:「いっぱいあるよ。50年代といえば、ジャズの黄金時代だから、選ぶのに困るぐらいたくさんあるよ。もうすこし、具体的に言ってくれないかな。」

M:「うん。そうだなあ、ジャズ・ボーカルでレトロな味わいというか、ノスタルジックで、くつろいで聴ける曲だね。ゆったりとした気分になれるもの。」

D:「わかった。およそのイメージがついてきた。それなら、あまり知られていない歌手だけど、実にしっとりとした、暖かみのあるボーカルを選んでみよう。バーバラ・リー(Barbara Lea)という白人女性ボーカリストのアルバムで、この歌手の名前がそのままタイトルになった「バーバラ・リー」というアルバムをすすめよう。録音は、50年代半ばで、たしか1956年だったと思う。アルバムの一曲目は、ジェローム・カーン&ハマーシュタインの名コンビによる「ノーバディ・エルス・バット・ミー(Nobody Else But Me)」というミュージカルナンバーで始まるんだ。」

M:「ジェローム・カーンの曲ってよく出てくるね。原曲は、なんていうミュージカルなの?」

D:「ブロードウエイのヒット作、ショウ・ボートだよ。このアルバムは、ずいぶん以前にLP時代に見つけたんだ。たまたま店頭で。バーバラ・リーのことは何も知らなかったんだけど、偶然このLPを発見し、アルバムに収録されている曲をみていたら、「ノーバディ・エルス・バット・ミー」が入っていたので思わず買ってしまったんだ。家に帰って聴いてみたら、想像以上に素晴らしかったね。原曲の持ち味を生かし、実に端正に歌っているんだ。しかも、よくスイングしている。バラードもうまいしね。その後、バーバラ・リーの他のアルバムも集めたんだけど、彼女のアルバムは少なく、50年代のものは確か3枚ほどしか出ていなかったと思う。」

M:「へえ、店頭でそんないいものが、偶然に見つかることってあるんだね。ボクなんか、ABC順に順番に見ていくと、途中で疲れてさっぱりわからなくなるんだけど。何かコツがあるの?」

D:「コツというほどのものではないけど。そうだね。以前のLP時代は、探しやすかったんだ。今みたいにABC順に並べてあっても、アルバムサイズが大きいから、手にとって一枚一枚見ていけたんだね。それと、レーベルごとにまとめてあったお店も多かったよ。例えば、ブルーノートとか、ヴァーヴとか、OJCなど(OJCはプレスティッジ、リバーサイド、コンテンポラリーなどの再発もの)レーベルごとに分かれていたので、レーベルで選ぶ方が多かったね。レーベルである程度の内容がわかるからね。たとえば、軽い感じのジャズがほしかったら、ウエストコーストのパシフィックから選ぶという感じ。」

M:「そうか、レーベルの特徴がわかれば、さらに奥深く入っていけるんだね。」

D:「そのとおり。それと、やはり曲だね。好きな曲を選んでいけばいいんだ。」

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バーバラ・リーは、決して華やかな歌手ではないが、都会的で洗練された雰囲気と暖かみのある歌声は、今聴いてもノスタルジックで味わい深く、大人のジャズとして隠れた人気を持っている。伴奏役の、ジョニー・ウインドハーストが奏でるトランペットも、中間派ならではのリラックスした雰囲気で、このアルバムの魅力をさらに高めている。本当に心が安らぐアルバムだ。

Barbaraleaバーバラ・リー(Vo) PRESTIGE ビクターエンタテインメント

第12回 不滅のジャズ名曲-その12- バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)

Murphy:「Djangoくん、気楽にくつろいで聴けるジャズで、何かいい曲ない?」

Django:「そもそもジャズは気軽にくつろげる曲が多いんだけど。気楽っていうけど、どういうときに聴きたいの?」


M:「そうだな。夜、まわりが静まりかえったあと、落ち着いて聴ける曲だね。」

D:「夜に聴く曲か。うーん、いっぱいあるんだけど…、例えば子守唄なんかどう?」


M:「Djangoくん、まじめに答えてくれよ。子どもじゃないんだから。大人が聴く曲だよ。」

D:「そうか、それなら大人が聴く子守唄はどう?」


M:「大人の子守唄? ジャズでそんなのあるの?」

D:「あるよ。バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)っていう曲。有名なニューヨークのマンハッタンにあるジャズ・クラブ「バードランド」に由来する曲で、盲目のピアニスト、ジョージ・シアリングが1952年に作った曲だよ。」

M:「誰の演奏がいいの?」

D:「もちろん作曲者自らの演奏したアルバムもいいけど、今回はジャズ・ボーカルのなかから選んでみよう。クリス・コナーという歌手、知ってる?」


M:「いや、知らないな。女性なの?」

D:「そう。クリス・コナー(Chris Connor)という白人女性歌手のアルバムで、「バードランドの子守唄」っていうタイトル(ベツレヘム・レーベル)。Murphyくんもこれまでに、きっと聴いたことあると思うよ。」


M:「そうかな。ところで、クリス・コナーってどんな人?」

D:「白人ジャズ・ボーカルを代表するシンガーの一人で、ジューン・クリスティとならぶ、白人特有の理知的なタイプ。一言でいえば、クールな歌声だね。」


M:「そう。実はジャズ・ボーカルの世界は、あまりよく知らないんだ。でも、これから是非いろんな歌手のアルバムを聴いてみたいと思うんだ。」

D:「それなら、是非クリス・コナーのこのアルバムをおすすめするよ。クールに淡々と歌いながら、よくスイングするし、しつこく粘らず、そのさりげなさがいいね。彼女は、スタン・ケントン楽団で認められただけあって、本当の意味での実力シンガーだ。このアルバムを録音したのは、確か1953〜54年だと思うけど、当時彼女は20代の半ばで、非常に安定しており、完成度が高いね。ボクは、10インチ盤の復刻LPを持っているんだけど、今入手できるCDだと1枚にまとめられていて、ピアノ・トリオ、オーケストラ、クインテットのさまざまな伴奏の曲が入っている。彼女の初期の名盤だね。」

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他に、「星影のステラ」、「スプリング・イズ・ヒア」、「風と共に去りぬ」などの名曲が入っている。このアルバムは現在東芝EMIよりリリースされている。

バードランドの子守唄Birdland_conn