第44回 不滅のジャズ名曲-その44-世界は日の出を待っている(The World Is Waiting For The Sunrise)

前回紹介したBurgandy Street Bluesとならぶ、ジョージ・ルイスの十八番、世界は日の出を待っている(The World Is Waiting for the Sunrise)は、かつて世界中のディキシーランド・ジャズの楽団が盛んに演奏した曲。この曲は、もともとカナダのクラシック系ピアニスト兼指揮者のジーン・ロックハートとその友人であるアーネスト・サイツが合作した歌曲であったといわれている。第一次世界大戦当時に流行したポピュラー曲で、その後、ニューオリンズ・ジャズバンドのスタンダードとなり、後にはベニー・グッドマンやレス・ポールもこの曲を録音している。ジョージ・ルイスのコンサートでは、必ずこの曲が採り上げられている。

東京公演でも(前回紹介のCD)でも、この曲が始まると、待ってましたとばかりに観客から声がかかり、大変な盛り上がりを見せた。ジョージ・ルイスのアルバムで、一時幻の名盤といわれた、1954年3月3日のオハイオ州立大学でのライブレコーディングアルバム、Jass At Ohio Unionでも、この曲が始まると、会場全体に熱気が漂い、素晴らしい演奏を披露された。特に、バンジョーのローレンス・マレロが素晴らしかった。

このオハイオ・コンサートは、会場全体にただならぬ熱気が漂い、当時のジョージ・ルイスバンドの巡回コンサートへの大変な歓迎ぶりが伺える。この時は、ロサンジェルスから東部までの長い巡業のなかの途中であったらしい。1954年のコンサートであるから、ニューオリンズ・ジャズ誕生から数えると、既に半世紀ほど経過しており、決して時代の先端ではなく、どちらかといえばトラッドな過去の音楽であるにも関わらず、観客は同時代的なリアリティのなかでこのバンドの演奏を存分に楽しんでいたように思える。

ジョージ・ルイスをはじめ、各プレイヤーと、観客が一体となり、会場を興奮のルツボに巻き込んだこの日のライブの熱気は、レコードを通してこちらの方までダイレクトに伝わってきた。LPレコード2枚組のボックスセットから1枚目のレコードを取り出したときは、最後まで聴く気はなかったのだが、針をおろした瞬間から惹き込まれ、2枚目の終わりまで一気に聴いたのを覚えている。

このアルバムを聴いて、ニューオリンズ・ジャズというのは、ワイルドでラフで俗っぽくて、時には崇高ともいえる音楽だと思った。人間の喜怒哀楽がすべて含まれ、これほど各プレイヤーが理屈抜きで生き生きと音楽を奏でられるということが自分には驚きであった。ドラムスのジョー・ワトキンスのヴォーカルは、南部なまりで、洗練されておらずワイルドであるが故に文句なしの説得力を持つ。地域色が豊かであるからこそ、誰もが新鮮に感じるのだ。トロンボーンのジム・ロビンソンは、Ice Creamで迫力満点のソロを見せる。バンジョーのローレンス・マレロも大活躍。

ニューオリンズ・ジャズは、かつてはローカル音楽だったのが、ラジオ、レコードなどにより1930年代の終わり頃から、アメリカ中に知れ渡るようになった。そして一大センセーションを巻き起こした。いわゆるニューオリンズジャズ・リバイバルだ。戦後も、このジョージ・ルイスのオハイオコンサートに例をみるように、ジョージ・ルイスらの全米ツアーにより多くの感動を与え、人気は衰えなかった。また、ヨーロッパでもブームが起きた。60年代には、日本でもツアーが行われ、多くの人々にディキシーランド・ジャズの魅力や楽しさを教えてくれた。しかし、1968年12月31日にジョージ・ルイスは亡くなる。本当のニューオーリンズジャズバンドの終わりであった。(Djangoより)

※参考文献:河野隆次: JASS AT OHIO UNION(BMC-4032〜33) LPレコード ライナーノート

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※このアルバム(JASS AT OHIO UNION 徳間ジャパン)は、2000/3/16にリリースされましたが、新品は入手困難です。

ジャズ・アット・オハイオ・ユニオン

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第43回 不滅のジャズ名曲-その43-バーガンディ・ストリート・ブルース(Burgandy Street Blues)

最近街のどこのレコード店に行っても、ジャズのコーナーでジョージ・ルイス(George Lewis)のCDが見あたらない。大型ストアでは、アルファベット順に並んでいるなかで、一応 ジョージ・ルイスのタグは、存在するのだが、一枚も入っていないことが多い。ジョージ・ルイス に限らずニューオリンズ・ジャズはめっきり影をひそめてしまった。かつて、LP時代には、ジョージ・ルイスといえば、OJC盤などを含め10枚程度のレコードが置いてあったのに。世の中で次第に忘れ去られようとしているトラディッショナル・ジャズ。レコード店の現状を見るとそう思わずにはいられない。

ジョージ・ルイスは、1900年にニューオリンズ市で生まれた。奇しくもこの年に、もう1人のニューオリンズ出身の巨人、ルイ・アームストロングも生まれている。1940年代にニューオリンズ・リバイバルブームが訪れ、その頃からバンク・ジョンソンとともに、ニューオリンズ・ジャズの代表的存在として認められるようになった。その後、天性の音楽的才能と素朴で暖かみのあるヒューマンな人柄により、その名声は次第にアメリカ全土にまで及んだ。

1960年代の前半、63年、64年、65年の3年にわたり日本にやってきて、延べ250回にもおよぶコンサートを行った。1963年の東京厚生年金でのコンサートは、深い感動をもたらした歴史に残る伝説のライブといわれている。当日の模様は、幸いにもキングレコードが、レコーディングを行い、LPをリリースし名盤となった。その後、85年にそのCD版が発売された。2004年8月にも再リリースされたので、現在でもまだ入手が可能である。録音状態も良く、今でもそのライブの熱気を高音質で味わうことができることは、有り難いことだ。

歴史に残る名演がレコード化され、今でもその演奏が聴けるということの有り難みをつくづく感じるアルバムの一つが、このアルバムで、タイトルは、ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963。このアルバムに初めて触れたのは今から20年以上前になるが、これがきっかけで、ディキシーランド・ジャズにも興味を持つようになった。それまではひたすらビバップ以降のいわゆるモダンジャズばかりを聴いていたし、当時ジャズ喫茶に行っても、モダンジャズばかりで、普段からあまり耳にする機会がなかったので、ディキシーランド・ジャズについては、特に強い関心を持っていたわけではなかった。

ところが、このアルバムを初めて聴いて、大変深い感銘を受けた。特に驚いたのは、ジョージ・ルイスのクラリネットだった。8曲目のバーガンディー・ストリート・ブルース(Burgandy Street Blues)は、ジョージ・ルイス自らの作曲で、彼の十八番中の十八番であり、この静かな曲を聴いて、しみじみと響き渡る彼のクラリネットが、聴き終わったあとも、いつまでも自分の心に残り、忘れられなかった。彼のクラリネットは、独自の奏法でユニークなスタイルを持っており、他の誰もがそう易々とまねのできないものである。

セントルイス・ブルースが3曲目に入っている。普段聞き慣れたセントルイス・ブルースとは随分異なり新鮮だ。ジョー・ワトキンズのヴォーカルを是非聴いていただきたい。ヴォーカルの後は、ジョー・ロビショーのピアノが続く。このブギスタイルのピアノは、ロックンロールにつながるノリの良さを持っており、これなら今の若い人が聴いても、けっこう惹かれるのではないかと思う。そこへバンジョーが絡む。最後のルイスのクラリネット・ソロが光る。

エマニュエル・セイレスのバンジョーを聴いて、これは到底ギターで代用は無理だと思った。あの歯切れの良さ、カラッとした音色は、ディキシーラン
ド・ジャズには不可欠である。どうしてバンジョーが入っているのか、初めてわかったような気がした。それ以来、バンジョーにも関心を持つようになった。
バンジョー抜きでは魅力は半減する。このアルバムの最後を飾る聖者の行進での、彼のバンジョー・ソロは圧巻である。フォスターのスワニー河が出てくる。

この歴史的記録を収録したアルバムのライナーノートは、野口久光、油井正一という、かつて日本のジャズ論壇を代表した両氏が書かれ、ニューオリンズ・ジャズ研究家の平松喬氏も寄稿されている。ライナーノートの冒頭で野口久光氏は、ジョージ・ルイスの音楽について以下のように記されている。(Djangoより)

「ある人たちが古いとおもい込んでいるジョージ・ルイスのジャズには素朴ではあるが純粋な美の追究、ヒューマンな温いこころが脈打っていてわれわれに大きなよろこびと感銘を与えずにおかない。」(野口久光、ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963 ライナーノート、1963年)

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ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963
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第42回 不滅のジャズ名曲-その42-スティープルチェイス(The Steeplechase)

パーカーの名曲スティープルチェイス(The Steeplechase)。この曲を最初に聴いたのは、パーカーのサヴォイ(SAVOY)盤だった。メンバーは、Charlie Parker (as)、Miles Davis (tp)、John Lewis (p)、Curly Russell (b)、Max Roach (ds)。ダイアルのパーカーよりもサヴォイの方が気に入って、ほぼ日常的に聴いていた。サヴォイ盤は、何回聴いても聴き飽きなかった。はじめはマスターテイクで満足していたが、その後、全テイクの入ったアルバムを入手して、それぞれのテイクごとの違いを楽しむようになった。でも、普段聴くときは、マスターテイクの方がよい。同じ曲を何度も聴かずに済むからだ。

学生時代に同級生が、パーカーのNow’s The Timeを口笛で吹いていた。もちろんテーマだけだった。さすがにDonna Leeあたりは、口笛ではなかなか難しいと思うが、これなら可能かも知れないと思い、自分でも練習した。でも、もともと口笛がそれほど得意でないので、あまりうまく吹けなかった。自分で一番吹きたかったのは、スティープルチェイス(The Steeplechase)だった。この曲は、パーカーの数ある曲のなかでも特に気に入り、他のサックス奏者のアルバムでも、この曲が入っているとつい買ってしまうようになった。

あるとき、ワーデルグレイ(Wardell Gray)のアルバムのなかで、スティープルチェイスが入っているのを発見し、すぐにその場で買って帰った。アルバムタイトルは、邦題がザ・チェイス、オリジナルは、The Chase and The Steeplechaseというまさに、曲そのものがアルバムタイトルになっていた。このアルバムは、ワーデルグレイ(ts)、デクスター・ゴードン(ts)、ボビー・タッカー(p)、ドン・バグレー(b)、それにドラムスがチコ・ハミルトン。2曲目に入っているスティープルチェイスは、収録時間が14分近くにも及ぶ長時間セッションで、ライブの雰囲気を存分に楽しむことができる。

ワーデル・グレイは、歌うようなフレージングが次から次へと沸き上がり、聴いている方も思わず惹き込まれる。代表作は、プレスティッジから出ている、ワーデル・グレイ・メモリアル、Vol.1と2の2枚のアルバム。1950年から52年の録音。B000000y3501_sclzzzzzzz_sl210__1残念ながら、彼は1955年に亡くなり短命に終わっている。だから、作品の数は少なく、それほど知名度も高くなかった。しかしそのアドリブは一度聴くと忘れられないほどの魅力を持ち、聴き手を引きつける。フレーズが自然でなめらかだ。しかも、フレーズの間(ま)が絶妙で、全く抵抗なく聴き続けられる。こちらの耳が、積極的にアドリブ展開を聴き逃さないように追いかけるようになる。ソニー・ロリンズ出現以前では、最もよく歌うモダンテナーだとも言われている。チェースのアルバムでは大和明さんがライナーノートを担当。岡崎正通さんとの共著モダン・ジャズ決定版で、氏は以下のようにワーデル・グレイを絶賛している。(Djangoより)

「レスター・ヤングとチャーリー・パーカーを統合化しモダン化したテナーマンで、歌心とスイング感に溢れたくつろいだプレイは他のテナーマンの追従を許さぬものがある。」(大和明、岡崎正通:モダンジャズ決定版、音楽の友社、1977年)

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ワーデル・グレイ=デクスター・ゴードン/ザ・チェイス (紙ジャケット) DECCA
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第41回 不滅のジャズ名曲-その41-星影のステラ(Stalla By Starlight)

DjangoよりMurphyくんへ:

前回(第40回)ジャズ・ヴォーカルの素敵なアルバムとして、ジューン・クリスティを紹介しましたが、このジューン・クリスティ、以前に採り上げたクリスコナーとならんで、忘れてならないシンガーがいます。それは、アニタ・オデイ(Anita O’day)。アニタは、この2人の先輩格にあたります。白人女性ヴォーカルのトップといえる存在です。アニタは、ジーン・クルーパ楽団、スタン・ケントン楽団を経て独立。スイングジャズもモダンジャズも自在にこなします。1918年生まれ。

今からずいぶん前(15年以上前)になりますが、いつもポータブルCDプレーヤーを持ち歩き、レコード屋で買った時にもすぐに聴けるようにしていました。アニタ・オデイを初めて聴いたのは、実は、このポータブルCDプレーヤーにヘッドフォンをつけて聴いたのが最初です。彼女の存在は、もちろん知っていたのですが、そのうち購入しようと思いながら、LP時代は一度も買ってなかったということです。どうして買わなかったのか、よくわかりませんが、なぜかジャケットを見てあまり気が進まなかったのかも知れません。でも、50年代から60年代のアルバムですから、決してジャケットデザインに魅力がなかったわけではなく、アニタの容姿ももちろん悪くありません。単に購入を見送っていたというだけです。

ところが、ヘッドフォンで初めて聴いたとき、その本格的な歌唱力に驚きました。ジャズシンガー特有の楽器のように自在に歌いこなす力量、スキャットのうまさ、どんなアップテンポの曲でも、バックの伴奏に遅れをとらないどころか、リードしていくスピード感など、いやもう正直言って予想以上の素晴らしさで思わずうれしくなりました。この1枚のCDを買ってよかったという思いとともに、これまで自分がアニタのアルバムを買ってなかったことが、つくづく悔やまれました。でも、こんな素晴らしいシンガーを見つけたのだから、これからじっくり聴いていけばいいという気持ちにもなり、なにか宝物を探し当てたような喜びを正直、感じたわけです。

そのときのアルバムは、アニタの50年代の名盤アニタ・シングズ・ザ・モスト(Anita Sings The Most)です。1956年の録音ですが、これが自分にとってもアニタ・オデイとの出会いです。バックは、オスカー・ピーターソン・トリオにドラムスが加わりカルテットでの演奏。1曲目のS’Wonderfulから、ピーターソン独特の急流下りのようなスピード感に乗って、アニタは、ものすごい速さで軽々とフレーズを渡り歩いていく。歌に力みがなく、全く自然体で歌える人、だからスイングする。喉によく効くハーブ・エリスのギターも、アニタのスキャットに刺激されてか、Them There Eyesで全快。アニタのスキャットもハーブ・キャンディ効果でさらに調子が高まる。

6曲名に入っている、星影のステラ(Stalla By Starlight)を、電車のなかで何回も繰り返し聴きました。書店で自分の欲しい本を見つけたときや、素晴らしいオーディオの音に触れたとき、あるいは欲しいカメラをやっと探し当てたときのような、本当に好きなものを見つけたときに、からだのなかでエネルギーがグッとわき起こってくる感覚が、彼女の音楽を聴いて感じられました。

クリス・コナーやジューン・クリスティを知りながら、アニタ・オデイを知らなかった、その頃がなつかしく、彼女の歌声からその時の自分が、今でも思い出されます。彼女の歌は、料理で言えば、あっさり味で淡泊で、ベタベタしていない、サラッとしているんですが、味付けは決して単調ではなく、バリエーション豊富で、何回聴いても飽きがこないという印象です。

一生に一度でいいからアニタ・オデイのライブを聴きたかった、とつくづく思ったのがアニタ・オデイ・アット・ミスター・ケリーズです。このアルバムは、1958年にシカゴのミスター・ケリーズでのライブ録音で、バックはピアノ・トリオ。大阪梅田にある同名のミスター・ケリーズというライブハウスへ行くたびに、このアルバムのことを思い出します。もう少し、早く気がついたらアニタのライブが聴けたのに。

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※アニタ・オデイは、Verveレーベルに50年代から60年前半にかけての数々の名盤を残しているが、追悼企画として、今月(2007/3/7)一気に16枚のアルバムが復刻再発売された。しかも、今回のアルバムは、オリジナルLPに忠実な紙ジャケット仕様で、新規にオリジナル・アナログマスターからリマスタリング。

アニタ・シングズ・ザ・モスト(紙ジャケット仕様) 1956年 Verve

パーソネル:オスカー・ピーターソン

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第40回 不滅のジャズ名曲-その40-ミスティ(Misty)

Django:「40回目ということで、今回はとっておきのジャズ・ヴォーカル・アルバムを紹介しよう。このアルバムは、意外に知られていないんだ。」

Murphy:「白人女性歌手で、さりげなく自然に歌っていながら、それでいてジャズ・フィーリングが豊かな人の方が、ボクはいいんだけど。」

D:「Murphyくんの好みはわかっているよ。ジューン・クリスティ(June Christy)がまさにそのとおりだ。もともと、スタン・ケントン楽団で歌っていただけあって、歌の実力は相当なもの。歌い方に変なクセがなく、聴きやすい。そうかといって、一般のポピュラー歌手とは違って、自然なジャズ・フィーリングが備わっている。」

M:「スタン・ケントン楽団っていえば、クリス・コナーもそうじゃなかった?」

D:「そのとおり。クリス・コナーの先輩格に当たる人。この二人はともに白人知性派ジャズ・シンガーともいわれていた。以前にクリス・コナーを採り上げたときに、いずれ、ジューン・クリスティも紹介しようと思っていた。今回は、ジャズの名曲中の名曲といわれる、エロール・ガーナー(1921〜77)が1954年に作曲した、ミスティが収録されているアルバムをおすすめしたいね。しかも、クリスティは、この曲を、アル・ヴィオラ(Al Viola)のクラシックギターの伴奏だけで歌っている。」

M:「それはよさそうだ。しかも曲がミスティだからね。」

D:「この曲、飛行機の機内で聴けばいっそう雰囲気が出るよ。」

M:「機内?」

D:「この曲は、有名な話なんだけど、エロール・ガーナーが、ニューヨークからシカゴに行く飛行機の中で、窓から霧深い情景を眺めていて浮かんだメロディーをもとに作曲したらしい。」

M:「ところで、アル・ヴィオラってどういう人?」

D:「アル・ヴィオラは、1919年NYブルックリン生まれのジャズ・ギタリストで、幼少の頃からギターを始め、チャーリー・クリスチャンに傾倒してプロになった。クラシックギターでも演奏し、特に歌伴では定評のある人。歌伴のうまい人は、ピアノでもギターでもそうなんだけど、本当に実力のある人。名脇役っていうのは、相手の気持ちを汲み取りながら、そのシンガーの実力を引き出し、いかに歌いやすくサポートしていくかという点で抜きん出ている人だから。」

M:「録音は相当古いの?」

D:「いや、1962年だからまだ比較的新しいよ。」

M:「62年で新しいって! 録音悪そうだな。」

D:「ジャズを聴いているものにとって、1962年っていうのは、そんなに古くない。ここでちょっとオーディオの話をしておくと、50年代末から、ステレオ録音になり、録音技術は完成域に入っている。ある意味では、今の時代を基準に考えても、この時代は、相当音質の優れた時代であったと言える。こと、録音技術に関しては、50年代後半から60年代中頃までが、ある意味で黄金時代。真空管マイクロフォン、真空管アンプを使用し、テープレコーダー技術も相当なレベルに達していた。オーディオに全精力が傾けられていた時代だね。」

M:「そうか。そういえばブルーノートの名録音もその時代だ。」

D:「ところで、話を戻すと、ジューン・クリスティのアルバムのタイトルは、ジ・インティメイト・ミス・クリスティ(The Intimate Miss Christy)聴きやすくて、センスがよく、しかも本格的なジャズ・フィーリングに溢れたこのアルバムは、広くジャズ・ヴォーカル入門の方にもお薦めします。ギター1本、あるいはフルートとギターの伴奏だけで、ジャズを歌える人は、そう多くはない。相当な実力シンガーでないとむずかしい。そんななかで、肩の力を抜いてさりげなく歌う、リラックスしたなかで、余裕を持って大人の歌を聴かせる、クリスティはそんなシンガーです。このアルバム、2006年9月Blue Note Records(U.S.)より再発売され、今なら購入可能です。」

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The Intimate Miss Christy/June Christy 1962

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第39回 不滅のジャズ名曲-その39-ムーンライト・セレナーデ(Moonlight Serenade)

Murphy:「映画スウィング・ガールズの影響がまだ残っていて、ビッグバンドをもう少し聴いてみようと思うんだけど。家にあるグレン・ミラーの古いアルバムは録音も古いし、新しい演奏でなにかおもしろいものってない? せっかくビッグバンドを聴くんだったら最新CDの方が録音もいいからな。」

Django:「録音は古くてもオリジナル演奏はやっぱり価値あるよ。」

M:「それは、わかっっているけど。」

D:「そういえば、昨年ルイス・ナッシュに会ったとき、2004年にグレン・ミラーとかカウント・ベイシーの有名曲を録音したって言ってたね。2004年は、二人の生誕100年目にあたり、それにちなんだアルバムが企画されたって。..確か、湯どうふ定食を食べていたときだ。」

M:「へえー、ルイス・ナッシュって、湯どうふ食べるの?」

D:「彼はベジタリアンで、大の日本食好きだよ。日本に来たときは、湯どうふとか鍋物をよく食べている。「ゆず」とかも知っているしね。」

M:「それで体力が持つの?」

D:「全然問題ないらしいね。その方がヘルシーだし。..ちょっと、話が脱線したので、もとに戻すと、ルイス・ナッシュが参加したそのアルバムは、スーパー・トロンボーン/ムーンライト・セレナーデ〜プレイズ・グレン・ミラー&カウント・ベイシーというタイトルで、普通の編成と違って、なんとトロンボーンが4人。それにピアノとベースとドラムスが加わり7人編成で演奏している。メンバーは、トロンボーンが、ジム・ピュー、コンラッド・ハーウィグ、デイヴ・バージェロン、デイヴ・テイラー(b.tb)。あと、ピアノがビル・メイズ、ベースがチップ・ジャクソン、それにルイス・ナッシュのドラムス。編曲があのデビッド・マシューズ。この顔ぶれをルイス・ナッシュから聞いて、次の日に買ったんだ。」

M:「曲目は?」

D:「Murphyくんの期待している曲が全部入っているよ。グレンミラー作曲した大ヒット曲ムーンライト・セレナーデ(Moonlight Serenade)、イン・ザ・ムード (In The Mood )、茶色の小瓶(Little Brown Jug )など、あと、ベイシーのヒット曲、ワン・オクロック・ジャンプ(One O’clock Jump)、ジャンピング・アット・ザ・ウッドサイド(Jumping At The Woodside)も入っている。小編成で、しかもトロンボーンが4人だから、かなりユニークでおもしろいサウンドだよ。ピアノのイントロに続き、スローテンポでトロンボーンがムーンライト・セレナーデのメロディを奏でるあたりはなかなかいいね。」

M:「サウンドはどんな感じ?」

D:「どの曲も、暖かみのある柔らかいトロンボーンのサウンドに対し、ルイスナッシュのドラムスがそれらを引き締め、素晴らしいコントラストを成している。編曲が秀逸だね。」

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Super Trombone:ムーンライト・セレナーデ~プレイズ・グレン・ミラー&カウント・ベイシー
【パーソネル】
ジム・ピュー(tb) コンラッド・ハーウィグ(tb) デイヴ・バージェロン(tb) デイヴ・テイラー(b.tb) ビル・メイズ(p) チップ・ジャクソン(b) ルイス・ナッシュ(ds) 2004
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第38回 不滅のジャズ名曲-その38-ソフト・ウインズ(Soft Winds)

Murphy:「北欧インテリアの、木質を生かしたシンプルでモダンなカフェがあるんだけど、今回はその空間にマッチする音楽をアドバイスしてくれる?」

Django:「北欧のインテリアっていうと、まず家具を思い浮かべるね。有名な"Yチェア"もそうだったかな。」

M:「そう、デンマークのアルネ・ヤコブセンがデザインしたもの。あと、セブンチェアも彼の代表作で、そのカフェで使っている。北欧家具は飽きのこないシンプルさと機能性を尊重してきたし、見た目の美しさと実用性が共存しているからボクも好きなんだ。それで、Djangoくん、どんな音楽がいい?」

D:「リラックスしたムードのなかで、温かみのある音楽かな。それこそ北欧のジャズを流せばいいんじゃない?」

M:「なるほど。北欧のジャズってどんな感じ?」

D:「スウェーデンは、とてもジャズが盛んで、生活に密着している。どちらかと言えば、泥臭くなく、上質で洗練されている。超絶技巧や迫力で圧倒する方じゃなく、じっくり聴かせるタイプ。北欧インテリアが素材を生かしたデザインを得意としているように、北欧ジャズもアコースティック楽器本来のサウンドを最大限生かしたものが多い。だから、リラックスして聴けるし、スインギーな演奏だ。特にジャズをいつも聴いていない人でも抵抗なく十分楽しめるよ。」

M:「ずいぶん前に採り上げたグループも北欧だったね。確か、スイート・ジャズ・トリオ。あれ本当に気に入ってるよ。コルネットとギターの組み合わせが抜群だった。」

D:「あのイメージだよ、北欧ジャズ。他に最新アルバムでいいのがたくさんある。ギターが入ると、リラックスできて、しかも聴きやすいし、空間イメージがずいぶん変わると思うね。今、一番おすすめしたいのは、スウェーデン生まれ(1959)のジャズ・ギタリスト、ウルフ・ワケーニウス(Ulf Wakenius)。オスカー・ピーターソンが、絶賛し、現代のスウェーデンで最も国際的な活躍をしている一人。実は、1997年からオスカー・ピーターソン・カルテットのレギュラー・メンバーでもある。これまでに何枚かアルバムを出しているんだけど、昨年(2006年6月)、イン・ザ・スピリット・オブ・オスカー(In the Spirit of Oscar)というグループを結成し、ケーク・ウォーク(Cake Walk)というファースト・アルバムをリリースした。さすがにオスカーの薫陶を受けただけあって、実によくスイングしている。収録曲は、オスカーの曲が多いんだけど、古い曲も入っている。例えば、ベニー・グッドマンの演奏で有名な、ソフト・ウインズ(Soft Winds)。」

M:「聞いたことないなあ? その曲。」

D:「あまり有名じゃない。でも、この曲、実は、チャーリー・クリスチャンが、グッドマンのバンドで演奏していた曲。そういった意味では、なかなか興味深いよ。フレッチャー・ヘンダーソンが作曲したともいわれている。まずアルバムの1曲目、"ケーキウォーク"を聴けば、Murphyくんもすぐに気に入ると思うな。」

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スウェーデンのジャズギタリスト、ウルフ・ワケーニウスの最新アルバム

ケークウォーク/イン・ザ・スピリット・オブ・オスカー Savvy 2006/06 Release

Cakewalk

第37回 不滅のジャズ名曲-その37-ハニサックル・ローズ(Honeysuckle Rose)

Murphy:「以前にビールバーの企画の件で依頼のあったプランナーが、また別件でDjangoくんに相談したいといってたんだけど。」

Django:「ああそうなの。」

M:「今度は、サントリー・バーで、音楽を変えてお店のイメージを一新したいらしい。そこで、なにか良いアイデアはないかと。他の店にはないユニークな音楽を考えているそうだ。」

D:「これまではどんなジャンルの音楽を流していたの?」

M:「50〜60年代のオールディーズ中心で、時たまヘレンメリルなんかのジャズボーカルをかけていたらしい。」

D:「客層は?」

M:「ビジネス街にあって、サラリーマン層が中心。30代〜50代で、女性客もけっこういるそうだ。」

D:「それで、店内のイメージは?」

M:「サントリー・バーだから、コの字型のカウンター中心。壁は木製のダークな色合いで、50年代のポップス系歌手のモノクロ写真なんかが飾ってある。プレスリーの人形も置いてある。」

D:「だいたいイメージできたよ。それでそのプランナーの希望は?」

M:「大人のムードなので、レトロなイメージは維持したい。でも今かかっているオールディーズは、新鮮味がないので、もっと他の店とは違うユニークな音楽がほしいということ。ジャズもいいんだけど少し重いので、もっと軽いものを求めている。店内の照明は暗めだけど、音楽は明るく軽快にしたい。本当は、ジャンゴなんかがいいらしいけど、既にビール・バーで提案してしまっているので、重複はさけたいとのこと。でも、ジャンゴのようなスイング感があればいいなあ、と言っていた。」

D:「そうかおよそ見当はついてきた。レトロな味わいで、懐かしくもあり、気軽にBGM的にも聴けて、ウキウキした気分にもなる。思いっきりスイングしている音楽だろう。そうかといってビッグ・バンドは派手すぎるし、モダンジャズは重くて、もっと明るいものが欲しいということだね。」

M:「そんな条件を満たすものってあるの?」

D:「ズバリ、"ファッツ・ウォーラー"だね。1920年代から40年代に活躍したスイング・ピアノの元祖。いわゆるトラディッショナル・ジャズ。おおらかにスイングし、楽しくてウキウキする音楽。彼は、道化師でもあり風来坊のように生き抜いた。でも、彼の一番優れた才能は、ピアノ演奏と作曲。生まれたのは1904年。スイング時代を代表する名ピアニストだ。しかも、コンボ・リーダーであり、名作曲家でもあった。Murphyくんも知っているカウント・ベイシーの初期の演奏は、ファッツそっくり。名ピアニスト、アート・テイタムも「ファッツこそ、私の出発点であった」と語っている。ストライド奏法を駆使するファッツのピアノ演奏が、その後のピアニストに与えた影響は計り知れないものがある。後の、ベイシー、エリントン、さらにはモンクなどにつながるフレーズのもとがある。左手のリズムのバネと跳躍感はすごいね。初めて聴いた時、二人で弾いているのかと思った。」

M:「それほどの人なら、けっこうジャズを聴いている人はみんな知ってるの?」

D:「いや、あまり知られていないね、残念だけど。」

M:「そうすると一般にはほとんど聴くチャンスはないということか。」

D:「どこの店にも流れていないから新鮮だぞ。この愉快な音楽は、空間イメージまで変えてしまうよ。サントリー・オールド・バーが、サントリー・ヴィンテージ・バーに変身!。これからの店舗のプランニングは、もっと音楽とインテリアが一体になって空間を演出しなければ。そのリアリティが大事なんだ。壁にかかっている額縁の写真も1930年代風に変えればさらによくなるよ。」

M:「これなら、ビール・バーでジャンゴの曲を提案したときと同じくらいインパクトがあるね。」

D:「ファッツ・ウォーラーのアルバムは、LP時代にはけっこう出ていたんだけど、CDに変わった当初はあまり出てこなかった。でも、最近は、少しずつ発売されるようになってきた。以前から度々採り上げているイギリスのJSPも、昨年10月ついにファッツの4枚組Boxセットをリリースした。音質は改善され格段によくなった。最大のヒット曲、"ハニサックル・ローズ(Honeysuckle Rose)"が1枚目の1曲目に入っている。この曲、実は以前に紹介したけど、ルイ・アームストロングもファッツのソングブック集"Satch Plays Fats"で吹き込んでいる。」

※参考文献 油井正一:「RCAジャズ栄光の巨人たち8 ファッツ・ウォーラー」LPレコード(RVC RMP−5108)付録ライナーノート,1978

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The Complete Recorded Works, Vol. 2: A Handful of Keys

イギリスJSP盤  2006/10 Release

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第36回 不滅のジャズ名曲-その36-シング・シング・シング(Sing Sing Sing)

Murphy:「Djangoくん、前回質問したことなんだけど、矢口監督の映画”スウィング・ガールズ”を見てビッグバンドに興味持ったんだ。それで本で調べたら、グレン・ミラーとかデューク・エリントン、ベニー・グッドマン、カウント・ベイシーなどいろいろ出てきて、どのアルバムから聴けばいいかよくわからない。アドバイスしてくれる?」
Django:「”スウィング・ガールズ”の影響だな。」
M:「このあいだも、CDショップに行ったんだけど、ジャズのコーナーのなかでどのへんにビッグバンドがおいてあるのかよくわからなかった。ようやく見つけたのがカウント・ベイシーとベニー・グッドマン。」
D:「以前は、ビッグバンドなどスイング時代のものは一まとめにおいてあったんだけど。最近は、特に区別なく単にABC順に並べてあるところが多いから、わかりにくいね。」
M:「うん。」
D:「まず、どの曲を聴きたいの?」
M:「シング・シング・シング」
D:「ああ、それなら紅井良男さんだね。」
M:「誰、それ」
D:「ベニー・グッドマン。グッドマンだから、日本語で”良男”だろ。」
M:「Djangoくんがかってにつけたの?その名前。」
D:「いや、以前からそういわれていた。ところで、”シング・シング・シング”について話すと、この曲は、トランペッターのルイ・プリマが1936年に作曲した。Benny Goodman Orchestra at the Stanley Theatre, Pittsburgh, Pennsylvania, 1936

その後、グッドマンが演奏し、大ヒットにつながった。この曲のグッドマン版は、スイング・ジャズのバイブルと言われるほど有名。以来ほとんどのバンドのレパートリーになっている。」
M:「じゃあ、ベニー・グッドマンのアルバムがいいの?」
D:「そう。やはりこの曲を聴くなら、ベニー・グッドマンだね。」
M:「やっぱりそうか。ある程度の検討はつけていたんだ。でも、ショップへ行くと、ベニー・グッドマンのCDは何枚かあって、どれがいいのかわからない。とりあえず、ベスト盤かなと思ったんだけど。ここは、Djangoくんにまず相談してと思い、買わずに引き上げたんだ。」
D:「ああ、よかった。ベスト盤を買わなくて。ベニー・グッドマンを選ぶなら、決定盤があるよ。録音は古いんだけど、1938年1月16日のライブ。」
M:「よく覚えているね。」
D:「ジャズ史上で最も重要な日の一つだから、忘れないね。実は、この日、クラシックの殿堂といわれるニューヨークのカーネギー・ホールで、異例のジャズコンサートが開催された。これがベニーグッドマンの伝説のコンサート。この夜の演奏を収録したアルバムが、”ベニー・グッドマン ライヴ・アット・カーネギー・ホール(Live at Canegie Hall -1938)”。ジャズ史に残る名盤だね。20世紀を代表するジャズのイベントともいわれている。」
M:「へえー、そんなに貴重なライブだったの?」
D:「そのとおり。この日は、ベニー・グッドマン楽団に加え、カウント・ベイシー楽団から、ベイシー(p)、レスター・ヤング(ts)、バック・クレイトン(tp)、フレディ・グリーン(g)などの蒼々たるメンバーが参加した。また、デューク・エリントン楽団からは、ジョニー・ホッジス(as)も。これは当時の最高のメンバーだ。」
M:「レスター・ヤングって聞いたことあるな。」
D:「レスターは、戦前(1945年まで)の演奏の方がはるかにいいよ。このアルバムの録音当時は、レスターの絶頂期。この日のプログラムは、グッドマン楽団の大編成ビッグバンドから、少人数のコンボ、さらに、ジャムセッションなど、実に多彩なプログラムが展開された。”ハニー・サークル・ローズ”というタイトルのジャム・セッションは、実に、16分余りの長時間にわたっている。これだけでも、このアルバムの価値はあるよ。まず、レスターがソロをとるんだけど、これがレスター本来の実力だね。さすがに素晴らしい。続いて、あのベイシーがソロ、以後白熱のライブが繰り広げられる。最高のリズム・ギタリスト、フレディ・グリーンのバッキングも聴ける。リズムセクションの心臓ともいうべき存在。せっかくMurphyくんが、スイング・ジャズに興味を持ったんだから、ベスト盤なんか買わずに、最初から最高の名演が収録されたこのライブ盤を選ぶべきだよ。どちらにせよ、グッドマンを追いかければ、ここに行き着くんだから。」
M:「そうか、すべてグッドマンのビッグバンドばかりでないんだ。コンボも入っているのか。」
D:「先ほどのジャムセッションを聴いてから、ビバップを聴けば、そのつながりが次第にわかってくる。ビバップの謎を解くには、このジャムセッションは必聴だよ。レスターは、後のビバップ派に多大な影響を与えたんだ。彼の演奏がそのインスピレーションの一つ。」
M:「そうか。Djangoくんの言いたかったことは、ビバップの謎を理解するには、その直前のスイング・ジャズを聴けばわかってくるということだね。」
D:「そのとおり。ジャズを聴くのにビバップからスタートするのもいいけど、やはりその前のスイング時代から聴くほうがはるかにおもしろい。ジャズをこれまで以上に楽しめるんだ。そういう意味で、ベニー・グッドマンの存在は大きいよ。彼の演奏もさることながら、その協演者たちが、後のビバップの引き金につながっている。例えばグッドマンのスモールコンボに参加していたチャーリー・クリスチャン。もうひとつのインスピレーションだね。」
M:「なるほど。最初は、”シング・シング・シング”だけでいいか、と思っていたんだけど。」
D:「もちろん、このカーネギー・ホールでのライブにも、”シング・シング・シング”は入っているから。他に、グッドマン楽団の十八番であるアヴァロン、その手はないよ、私の彼氏、ブルースカイズなど名曲がぎっしりつまっている。それにしても、ハリー・ジェイムス(tp)、バック・クレイトン(tp)、ジョニー・ホッジス(as)、ライオネル・ハンプトン(vib)、テディ・ウイルソン(p)など、当時のトップ・プレイヤーたちが、楽団の垣根を越えてこのライブに結集したのだからすごいよ。アメリカでは、1990年代から、スイングジャズが若者の間で流行しはじめ、今リバイバルしている。スイング・ジャズは理屈抜きに楽しめるからね。からだが自然にスイングしはじめる。そこが一番の魅力だよ。」
 ◇◇◇

ライヴ・アット・カーネギーホール1938 (完全版)
Bennygoodman_c

第35回 不滅のジャズ名曲-その35-イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン(It’s Only a Paper Moon)

Murphy:「前回出てきた、ナット・キング・コールっていう人に興味を持ったんだけど。確か矢口史靖監督の映画"スウィング・ガールズ”のなかで、彼の歌が出てこなかった?」
Django:「そのとおり。映画のエンディングで流れていたのがナット・キング・コールの有名な歌で"ラブ(L-O-V-E)"っていう曲だよ。当時大ヒットした曲。」
M:「映画で歌っていたのも彼なの?」
D:「そう。ナット・キング・コールは、1950年代前半からのキャピトル(Capitol)の看板シンガーだった。でも、ジャズピアニストとしての力量も相当なもの。1956年にリリースされた"アフター・ミッドナイト(After Midnight)"というアルバムはまさにその名盤で、彼が一流のピアニストであったことがわかるよ。」
M:「そうか。てっきり歌手だと思っていたよ。ところで、映画スウィング・ガールズで流れていた"ラブ”っていう曲は、どのアルバムで聴けるの?」
D:「Murphyくん、映画を見てその曲をもう一度聴きたくなったのか。」
M:「そのとおり。それと、あとビッグ・バンドにも興味が出てきたよ。とりあえず、アルバムの方を教えて?」
D:「"L-O-V-E"という曲名がタイトルになっているアルバムは、東芝EMIから1992年にリリースされたものがある。でも、発売からずいぶん経過しているので、入手困難かもしれないね。他には、2005年にナット・キング・コールの没後40年を記念してイギリスEMIが編集したベスト盤がある。彼のキャピトル時代の代表曲が、ほとんど網羅されている。音質はこのアルバムが一番いい。但し、40年記念アルバムということで現在値段がちょっと割高になっている点が問題。それにこだわらなければ、2002年のリリースで東芝EMIから"ナット・キング・コール・ベスト"というアルバム。これもベストセラー曲をまとめたもの。このあたりから入ったらどう?」
M:「そうだね。その3つ目の国内盤は他にどんな曲が入っているの?」
D:「大ヒット曲、モナ・リザをはじめ、スターダストなども入っている。それに"ハロルド・アーレン(Harold Arlen)"が
1933年に作曲した有名なジャズ・スタンダード曲、"イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン(It’s Only a Paper Moon)"。この曲は前回紹介したマーカス・ロバーツも吹き込んでいる。」
M:「わかった。あの暖かみのある声が魅力だなあ。」
D:「ところで、言っておくけど、ナット・キング・コールはこれだけではないからね。先ほどあげた、"アフター・ミッドナイト(After Midnight)"も忘れるなよ。このアルバムにも、"イッツ・オンリー・ア・ペイパー・ムーン"が入っているんだから。」
 ◇◇◇

After Mid Night / Nat King Cole [Limited Edition] 東芝EMI 1956年録音
アフター・ミッドナイト
Aftermidnight_1

Nat King Cole Best  東芝EMI 2002年リリース
ナット・キング・コール・ベスト

Natkingcole_1

The World of Nat King Cole 英EMI 2005年リリース
The World of Nat King ColeWorld_of_natkingcole_1