第21回 不滅のジャズ名曲-その21- アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)

Murphy:「Djangoくん、さっそくW.C.ハンディのアルバム聴いてみたんだけど、これ、すごくいいね。ルイ・アームストロングってこれまで、あまり聴いてなかったけど、けっこうおもしろいね。」
Django:「そうだろ。Murphyくんは、明るい曲が好きだからね。ルイのアルバムは、前回にも言ったけど、1920年代から録音していたから、かなりのアルバム数で、おそらくどれを選べばよいかわからないと思って、真っ先に決定版といえるものを選んだんだ。」
M:「ところで、Djangoくん。ルイのアルバム、もっと教えてくれない? 実はね、この間、たまたま戦前のハワイアン・ミュージックを聴いてみたんだけど、かなりジャズのようにスイングして、とてもノリがよかったんだ。ギターのかわりにウクレレが入っていたりして、編成もおもしろかったね。それがきっかけで、モダンジャズ以前のスイング時代のジャズを少し聴いてみたいと思うようになったんだ。それと、もう一つ、映画の「スウィング・ガールズ」を見て、ああ、ジャズっていいなあって、実感したよ。」
D:「そう、スウィング・ガールズ、見たのか。あれはビッグ・バンドだったね。それなら、Murphyくん、ルイのかなり古い頃の演奏を聴いてみたら?」
M:「それって、いつ頃のもの?」
D:「1920年代から30年代の頃だね。」
M:「そんなに古いのか。でも、そのころの録音って、ものすごく悪いんじゃない? ノイズなんかも多くて。SPレコードだろう?」
D:「そう、SPレコードの時代だよ。でも、けっこう聴けるよ。以前は、CD化されてもかなり音質が悪かったけど、今ではかなりよくなっているよ。」
M:「音質ってそんなによくなったりするの?」
D:「そう。デジタル技術が発達して、ノイズが除去できるようになったんだ。しょせん古い録音だから限界もあるけど、ヘッドホンで聴いても耳障りでなくなったし。そうだな、最新のデジタル・ノイズ・リダクション技術をつかって、見事に復刻した、ルイのアルバムがあるんだ。これ一度聴いてみたら?」
M:「そうか。音質がよくなっているのか。知らなかったなあ。古い録音というだけど、これまで見向きもしなかったよ。それで、どんなアルバム?」
D:「ナクソス(NAXOS)レーベルって知ってる?」
M:「ああ、クラシックの廉価盤で有名なレーベルだろう。」
D:「その通り。ここのナクソス・ジャズ・レジェンド(NAXOS JAZZ LEGENDS)というシリーズで、ルイの20年代から30年代のアルバムが確か2枚ほど出ていたと思うんだけど、おすすめは、「アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)」というアルバム。このアルバム名は、ハロルド・アーレン(Harold Arlen)という人が作った、コットン・クラブのショーのために書かれた曲をタイトルにしている。もちろんアルバムの1曲目に入っている。」
M:「ハロルド・アーレンって有名な作曲家?」
D:「そう。Murphyくんの好きな、ハワイの「イズ」が歌っているOver The Rainbowの作曲者だよ。数々のスタンダード名曲を残した人だね。ハロルド・アーレンは、NYのハーレムのコットン・クラブでピアノを弾いているうちに作曲家としての頭角をあらわした人で、数々の名曲は、今でも多くのジャズ・シンガーに歌われている。ところで、コットン・クラブといえば、その昔デューク・エリントンが出演していたクラブ。コッポラ監督の「コットン・クラブ」という映画もあるよ。」
M:「タイトル曲以外にどんな曲が入っているの?」
D:「有名な曲では、スターダストやセントルイス・ブルース、ベイジン・ストリート・ブルースなど。太くて、誰よりも遠くまで届く元気なトランペット、ルイ独特の大きな目玉を動かしながらの歌声、ラップのようなメンバー紹介など、すべてが生き生きとジャズを奏でる。特に、スローになりすぎず、軽快なミディアムテンポで演奏する、スターダストは、何度も聴きたくなるね。一度聴けば、忘れられないほど、印象的だ。」
M:「そうか、またスターダストが出てきたね。同じスターダストでも、今回の1930年代のルイの録音、第18回に出てきた50年代のエラ・フィッツジェラルドの録音など、同じ曲でも、演奏スタイルによって曲の雰囲気がガラッと変わるところが、ジャズの面白さだね。」
D:「Murphyくん、いいこというね。そのとおりだよ。」
 ◇◇◇
Louis Armstrong Vol.2 / I’ve Got the World on a String (Naxos Jazz Legends)は、OKehレーベルとVictorレーベル時代のSPレコード音源。1930〜1933録音。
Louisarmstrong_naxos_1I’ve Got the World on a String/Louis Under the Stars

第20回 不滅のジャズ名曲-その20- セントルイス・ブルース(St. Louis Blues)

Django:「このところ、ヴォーカルアルバムの話題が続いているんだけど、ジャズ・ヴォーカルを語るなら、やはりこの人のことをもっと言わないと...。」
Murphy:「だれ?」
D:「第16回に登場したんだけど、もう一度、今回改めて採り上げたいんだ。」
M:「第16回といえば、エラ&ルイのアルバムだけど、どっち?」
D:「ルイの方だよ。サッチモことルイ・アームストリング。Murphyくんは、ルイの曲は他に何か知ってる?」
M:「そうだな、以前にホンダのCMに出てきた歌ぐらいかな。」
D:「ああ、What a Wonderful Worldね。この曲は一番ポピュラーかもしれないね。今回は、ルイのもっと古い録音で、どうしても採り上げたいアルバムがあってね。ルイのアルバムはとても多いけど、そのなかで彼のベストアルバムの1つだと思っているのがあるんだ。でも、案外このアルバム、あまり知られていないかもね。」
M:「古い録音って、いつ頃の?」
D:「1954年の録音で、CBSに吹き込んだ「ルイ・アームストロング プレイズ・W.C.ハンディ」というアルバム。」
M:「W.C.ハンディ? 聞いたことないけど、ひょっとして作曲家の名前?」
D:「そのとおり。このアルバムは、ルイの傑作の1つだね。ハンディという作曲家は、ブルースの父といわれる人で、数々のブルースを作曲している。一番有名な曲は、セントルイス・ブルース。」
M:「ああ、その曲知っているよ?」
D:「そうだろう。みんな知っている曲だね。ルイは、この曲を1920年代から何度も吹き込んでいるんだけど。このアルバムでの演奏が間違いなくベストだね。あの陽気なルイが、いつになく真剣に取り組んだアルバムで、相当な集中力で気迫が漂っている。すべてハンディの曲で11曲も録音するっていうことは、ルイにとっても、相当なプレッシャーがあったと思うね。ブルースの父、ハンディの曲を演奏するんだから、へたなものは作れないという気持ちが、アルバム全体を支配している。当時のレコードのライナーノートで、大和明さんが書いているけど、作曲者であるハンディ自らが、

「当時出来上がったテープを、レコード編集室で聴いた81歳のW.C.ハンディは視力を失った目に感激の涙を浮かべ、自分の作品をこれ以上に素晴らしく演奏したのはルイ以外にかつてなかった。(大和明著 ライナーノートより)」

と、絶賛したらしい。」
M:「あの、サッチモがそんなに気迫を込めて演奏したのか。」
D:「そう。Murphyくんにも、ぜひ一度聴いてほしいんだけど。ボクは初めてこのアルバム聴いた時、1曲目のセントルイス・ブルースで、うわあ、スゴイと思ったね。ルイが素晴らしいリズム感でリードしていく。これまで聴いてきたこの曲のイメージとは異なり、セントルイス・ブルースって、こんな生命力があったのか、と思ったね。まさに、ブルース。名曲!。でも、ルイのことだから、ユーモアも忘れていない。この曲を聴いて以来、一番好きなブルースは? と聴かれれば、真っ先に、ルイのセントルイス・ブルースが浮かぶんだ。」
M:「Djangoくんにとって、セントルイス・ブルースは、マイ・フェイバリット・ソングだったのか。」
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プレイズ・W.C.ハンディLouishandy

Louis Armstrong- Live