Murphy:「Djangoくん、また、ハワイの別の友人から、ジャズのアルバムについて問い合わせがあったんだけど。」
Django:「今度はどんな質問?」
M:「彼は、サーファーなんだ。
もちろんプロでなく趣味でやっているんだけど。その彼が、ノースショアでサーフィンをした帰りに、クア・アイナでハンバーガー
を買って、車の中に持ち込んで食べていたら、ラジオでジャズが流れてきたんだ。いつもは、ジョン・クルーズやIZのCDなどをかけているんだけど、たまたま聴こえてきたジャズがけっこう良かったらしい。それで、何か、ジャズのCDを買おうかと思ったらしく、ボクのところにメールが来たんだ。」
D:「そう、サーファーか。」
M:「Djangoくん、また何か選んでくれる? 前回は、その後確かめたらピッタリ当たっていたよ。」
D:「わかった。その人に合いそうなCDをセレクトするよ。ところで、その人は、いつもアロハを着てるの?」
M:「そうだな。いつもではないけど、アロハはけっこう、こだわりを持って着ているようだね。Django君は、知らないと思うけど、ビッグ・アイランドのヒロに店を構える、シグ・ゼーンのデザインしたアロハをよく着ているね。」
D:「シグ・ゼーン? 聞いたことないね。」
M:「で、どうして、アロハを着ているかって聞いたの? 関係あるの?」
D:「いや、それほど関係はないんだけど。アロハの柄って、ほんとに種類が豊富だよね。ちょうど、ジャズのアルバムみたいに。だから、ジャズ・アルバムを選ぶということは、好みのアロハ・シャツを探すのと似ていると思ったから.
何かヒントになるものはないかと思ったんだけど。それで、シグ・ゼーンのアロハって、どんなイメージ?」
M:「シグ・ゼーンは、もともとサーファーなんだよ。サーフィンをした後、街で着る気に入ったアロハが見つからなかって、自分のオリジナルデザインのアロハを考案したのが、きっかけらしいよ。」
D:「そうか。そのハワイの友人は、相当こだわりをもっている人だね。その人のアロハが好きだということは。」
M:「その通り。」
D:「それなら、センスのよいもの、こだわりを持ったものを選ばないとね。泥臭いものではなく、洗練されていて、聴いててあまり重くないものだな。」
M:「そういう感じだね。Djangoくん、イメージできた?」
D:「ある程度ね。いまイメージしているのは、Murphyくんの話の中に出てきた、ヒロにある、シグ・ゼーンのお店でBGMとして流れていても、おかしくないアルバムを考えているんだけど。」
M:「なるほど、それはおもしろいね。」
D:「それで、もうひとつ。イメージとしては、ハワイだろう。それにサーファー。そうなるとますます重いものはだめだね。普段着で軽く聴けて、さらっとしているもの。でも、味がなければね。」
M:「決まってきた?」
D:「これはね。Murphyくん、思いっきりスイングしているものがいいね。でも、重量級の大編成スイングジャズは、合わないし。あと、風がキーワードだね。ハワイ、海、風となると、ウエスト・コースト・ジャズだね。」
M:「ウエスト・コーストって?」
D:「西海岸だよ。」
M:「なるほど、それは合うかもね。西海岸はサーファーも多いしね。気候もハワイと似ている。」
D:「そうだろう。決まったよ。ズバリ、アート・ペッパーの50年代初期の傑作、「サーフ・ライド」 。人形のような女性がサーフィンしているジャケットもお似合いだし。」
M:「それはスゴい。アルバムのタイトルといい、ジャケットまでピッタリだね。ところで、アートペッパーって、サックス?」
D:「そのとおり。アルト・サックスの名手。このアルバム、50年代の録音で、軽快にスイングしながら、けっこう波乗りのようなスリルもあるし。重くないからいいね。」
◇◇◇
アート・ペッパー(as)のファースト・リーダー・スタジオ・アルバム。
サーフ・ライド / アート・ペッパー(as) 1952〜54年録音
サーフ・ライド

日: 2007年3月2日
第23回 不滅のジャズ名曲-その23-モーニン(Moanin’)
Murphy:「ハワイの友人から、最もジャズらしいアルバムを探しているんだけど?って聞かれたんだけど。Django くんならどう答える?」
Django:「それはむずかしいね。ジャズは時代によって様々な演奏スタイルを持っているからな。どのあたりのジャズを聴きたいかで、選曲も変わるし。なにか参考になるものある?」
M:「そうだね。その人が言っていたのは、ホノルルのカイムキ・タウンにある古いカフェでコーヒーを飲んでいたら、BGMでジャズが流れていたんだって。ものすごくかっこいいフレーズだと思ったらしいよ。」
D:「ああ、カイムキ・タウンか。古いお店がけっこうあるところだね。そのフレーズって、みんな知っているぐらい有名なフレーズかな?」
M:「そうらしいよ。以前にも聞いたことあるって言っていたね。一度聞いたら忘れないくらいシンプルだって。そのカフェが50年代風のインテリアで統一されていて、その曲が流れたとたん、すごくその場の雰囲気に溶け込んだそうだよ。それで、家に帰って、急にジャズを聞きたくなったらしい。できれば、その時流れていた曲が入っていたらいいんだけど、と言っていた。彼はもともとゴスペルが好きなんだ。」
D:「そうか、だいたいわかってきた。そのフレーズって口ずさめるぐらい?」
M:「さあ、それはどうかわからないな。」
D:「じゃあ、その曲が入っているアルバムを選んだらどう?」
M:「そう言っても、Djangoくん、その曲、わかるの?」
D:「およその検討はついている。たぶんレーベルは、ブルーノートじゃないかな。」
M:「ああ、あの有名なブルーノート・レーベルね。そういえば、これまで一度も、ブルーノートのアルバムは、採り上げていなかったね。ところで、その曲はなんていう名前?」
D:「まだ、少し迷っているんだけど、他に何か言ってなかった?」
M:「そうだなあ。覚えてないなあ。」
D:「よし。それじゃあ、アルバム強引に決めよう。ゴスペルが好きだと聞いてピンときたんだ。その曲は、モーニン。演奏は、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ。ブルーノート4000番台のはじめで、4003番だ。」
M:「アートブレイキーね。聞いたことあるな。ボク実は、ブルーノートのアルバムはほとんど持ってないんだ。モーニンっていう曲、ボクでも知っているかな?」
D:「もちろん。モダンジャズ史上で最も人気の高い曲だよ。いわゆるファンキー・ジャズっていうカテゴリーに入るんだけど。この曲、1958年の吹き込みで、当時一世風靡した大ヒット作。かつてソバ屋の出前持ちまでが口ずさんでたっていうのが伝説になっている。そのくらい流行った曲。」
M:「ああ、思い出した。ソバ屋で。あの曲か。知っているよ。曲名を知らなかっただけだね。」
D:「今でも、ライブでとても人気があるね。ウィントン・マルサリスがリンカーンセンター・オーケストラを統率して来日したコンサートで、アート・ブレーキー特集をやったんだけど、モーニンが始まると、会場は大拍手。みんなこの曲の演奏を待っていたんだね。それから、昨年春、ルイス・ナッシュと会った時に、その年の秋のライブは、50年代のハードバップ全盛時代の有名な曲をシリーズで採り上げる予定だと言っていた。美術館で名画を見るように、50年代ハードバップ・ギャラリーという企画にしたいと言っていたね。それで、その秋のライブでは、50年代ギャラリーとして、モーニンも演奏したんだけど、会場の拍手はすごかった。みんな、このモーニンが今でも大好きなんだ。ところで、その時のルイス・ナッシュの編成したグループの演奏は、本当に素晴らしかったね。」
M:「よし、このモーニンの入っているブルーノートのアルバムを彼にすすめるよ。ところで、いつも聞くけど、この曲は誰が作ったの? アート・ブレーキーだろう。」
D:「いや、違うんだ。ジャズ・メッセンジャーズのメンバーでピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)の作曲。 そうそう、Murphyくん、その人に伝えておいて。確かにこのアルバムは大ヒット作で、名盤なんだけど、ジャズはこれだけではないからって。それに、このモーニンは、もう一つ有名なライブアルバムがあるからね。そちらの方のタイトルは、サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ 。」
◇◇◇
モーニン+2
第22回 不滅のジャズ名曲-その22-ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(You’d Be So Nice To Come Home To)
Murphy:「Djangoくん、今日は自分の持っているアルバムを持ってきたよ。ボクが最初に買ったジャズ・ヴォーカルのアルバムはこれなんだけど。」
Django:「Murphyくんも、ジャズ・ヴォーカルのアルバムを持ってたのか。どれ、あっ、これか。超有名なアルバムだね。ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン。」
M:「ヘレン・メリルの有名な曲、ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥを聴きたくてね、買ったんだ。いつもほとんど、この一曲だけしか聴かなかったんだけど、Djangoくんの影響を受けて、全曲通して聴いてみたよ。」
D:「どうだった?」
M:「ホワッツ・ニュー、とか、イエスタデイズもいいね。でもやっぱりこの曲が一番だと思った。それと、この間から、Djangoくんのジャズの話を聴いて、少しジャズ・ミュージシャンの名前がわかってきたんだけど、あの、クリフォード・ブラウンが演奏していたんだね。それと、ベースが、オスカー・ペティフォードだったんだ。」
D:「その通り。Murphyくんも詳しくなってきたね。このメンバーはすごいよ。それに編曲は、その後一世風靡した、クインシー・ジョーンズ。ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥの間奏で、出てくるトランペットのあの音色がブラウニーなんだ。」
M:「ところで、この曲は、誰が作ったの?」
D:「コール・ポーター。「サムシング・トウ・シャウト・アバウト」という映画のために作曲したんだけど、1943年ごろだね。コール・ポーターは、1920年代から60年代まで、数々のスタンダードを書き続けた作詞・作曲家で、この曲以外にも、All Of Youや Night And Day、Begin The Beguineなど、数多くの名曲を残しているんだ。2005年には、彼の一生を綴った映画『五線譜のラブレター 』が公開されたし、その概要はいまでもホームページ上で見られるよ。」
M:「そう、さっそく見てみるよ。もう一つ質問なんだけど、ヘレン・メリルは、他に有名なアルバムがあるの?」
D:「あるけど、当分は、Murphyくんにはこのアルバムだけでいいと思うよ。ヘレン・メリルは、60年代の後半から5年ほど日本にも住んでいたんだ。その後、毎年のように来日しているから、そのうちまた、ライブでも聴けると思うけど。」
◇◇◇
ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン