Murphy:「Djangoくん、前回のジャンゴのアルバム、ボクも初めて聴いたんだけど、とってもよかった。素晴らしくスイングしているね。それにヴァイオリンが加わって、とてもいい雰囲気だね。」
Django:「そうだろう。以前は録音が古いこともあって、聴きづらかったんだけど、ずいぶんクリアになったしね。ジャンゴのギターが生き生きと響くようになった。」
M:「そうだね。ところで、ジャンゴを聴いて、少しジャズギターに興味を持ったんだけど、まず何から聴けばいい?」
D:「Murphyくんは、アコースティック・ギターを演奏するんだろう。マーティンのギターについても詳しそうだし。ジャズギターはあまり聴いてなかったの?」
M:「うん。自分で演奏しようと思っても、あまりにもむずかしくてね。ちょっと敷居が高そうだし。」
D:「確かにジャズギターは、それなりのテクニックが必要なんだけど。聴いて楽しむ分には関係ないから、是非聴いてみたらどう?」
M:「うん。それで、まず誰から聴けばいい?」
D:「そうだな。Murphyくんはけっこう古いものが好きだから。それにあまりうるさくないものが好みだろう?」
M:「オールドファッションというか、レトロなものが好きだね。それと、やはりスイングしているもの。」
D:「そうか。この前、Murphyくん、戦前の古いハワイアンなんか聴いていたね。そのぐらい古くてもいいの?」
M:「その方がいいよ。あのハワイアン、Djangoくん覚えていたのか。」
D:「しっかり覚えているよ、あれよかったね。ところで、今回のアルバムなんだけど、ジャズギターで最高のものを選ぼうか?」
M:「いきなり? むずかしくない?」
D:「全然、そんなことないから安心して。それより、Murphyくんがジャズギターに興味を持ったんだから、この際中途半端なものはだめだと思ったんだ。それに、Murphyくん、アコースティックギターをやっているからね。」
M:「誰の演奏?」
D:「このアルバム、BGMで聴いてもいいと思うよ。いわゆるスイングジャズで1939年から40年ごろの演奏だから。レトロな味わいがあるよ。1曲3分前後だからすぐ終わるし。でも、ギターのパートが出てきたらいつか真剣に耳を傾けてくれる?」
M:「Djangoくん、また始まった。もったいぶるなよ。はやく言えよ。」
D:「わかった。伝説のジャズギタリスト、ビバップの元祖、チャーリー・クリスチャン。その彼が、ベニー・グッドマン六重奏団に加わっていた頃のアルバムで、「ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー」というアルバム。そのなかに入っている、「ボーイ・ミーツ・ゴーイ(グランド・スラム) (Boy Meets Goy (Grand Slam))」という曲を是非聴いてくれる?」
M:「チャーリー・クリスチャンって、聞いたことあるなあ。確かギブソンのギターでチャーリー・クリスチャンモデルっていうのがあったと思うけど、その人?」
D:「そのとおり。そのギター、ギブソンのES-150っていうモデルだね。」
M:「どんな演奏なの。」
D:「このボーイ・ミーツ・ゴーイでみられる彼のアドリブソロは、フレーズがものすごくカッコいいんだ。非常にシンプルで、音に全く無駄がない。シンプルなアドリブ・フレーズで、一つの音を的確なところに落とし込むことがどれほどむずかしいものかは、多くのジャズギタリストが指摘しているが、彼はいとも容易くやってのけ、カッコいいフレーズを連発する。」
M:「へえ、そんなにシンプルなの?」
D:「そのとおり。すばらしいテクニックをもったジャズギタリストは、多く存在するが、彼ほどシンプルで生き生きとしたフレーズを奏でることのできるギタリストはいないね。それと一音一音が太くて明晰で、リズム感がすばらしい。かつてジム・ホールが、ボーイ・ミーツ・ゴーイでのチャーリー・クリスチャンのアドリブラインを自ら弾きながら、目を輝かせて、「素晴らしいフレーズだ。」と言っていた。「ボクはこのフレーズを弾きたくてギターを練習したんだ。こんなにカッコいい、フレーズを連発するチャーリーは本当に素晴らしいね。」って生き生きと語っていたんだ。」
M:「そうか、他のジャズギタリストにも影響を与えてるんだ。」
D:「そのとおり。実は先ほどのアルバムは、2002年に4枚組で発売された「チャーリー・クリスチャン/ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター」のダイジェスト版なんだけど、ボックスセットのライナーノートに、多くのギタリストからのチャーリーに対する絶賛の言葉が集められている。レス・ポール、ウエス・モンゴメリー、ジョージ・ベンソン、タル・ファーロウ、バーニー・ケッセル、B.B.キング、ラッセル・マローン、ジョン・スコフィールドなど、蒼々たるギタリストがこぞって絶賛している。実は、ボクも、この曲のアドリブフレーズを弾けるようになりたくて、ジャズギターを始めたんだ。いまでも何てカッコいいフレーズだなあって思うね。」
M:「そうだったのか。」
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ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー ダイジェスト版 チャーリー・クリスチャン 1939〜1941年録音 Benny Goodman Sextet

ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター 完全版4枚組セット


