第30回 不滅のジャズ名曲-その30-ビリーズ・バウンス(Billie’s Bounce)

Murphy:『Djangoくん、ギターのことで聞きたいんだけど。ジャズ・ギターってどうしたら弾けるようになるの?」
Django:「練習を積むことだね。」
M:「それは、わかっているんだけど。ギターに限らずジャズの人って、アドリブが自在にできるよね。どうしたらできるのか不思議なんだ。」
D:「Murphyくんもジャズをやりたいの?」
M:「いや、そういうわけではないんだけど。いつもアコースティック・ギターを弾いていて、ほとんど譜面どおりなんだ。たまに、アドリブらしきものをやっても、ペンタトニックやダイアトニック・スケールで作るフレージングは、何とか出来るんだけど、ジャズにはならないし、やっぱりどう考えても不思議なんだ。ジャズが弾けるということが。それに、ジャズっていろんなスタイルがあるだろう。スイング・ビバップ・ハードバップ・クール・ファンキー・モードとか、いっぱいあるから、ますますわからなくなってくるんだ。」
D:「Murphyくん、一応ジャズの歴史、知っているんだね。いつのまに、勉強したの?」
M:「いや、ちょっと本を読んだだけなんだ。そしたら、1910〜20年代までは、ニューオリンズ・ジャズが全盛で、30年代にはビッグバンド中心のスイング時代に入った。その後、40年代からビバップ・ムーブメントが起こり、いわゆるモダン・ジャズになった。50年代半ばからハードバップ、そしてファンキーへと続く…、確かそういうストーリーだったような気がするけど。」
D:「確かにそのとおりだけど。」
M:「それで、Djangoくんに聞きたくなったんだ。そういうスイングとかビバップとかハードバップっていうのは、全然違うの? Djangoくんは、どのあたりのスタイルが得意なの?」
D:「それほど明確には区別してないけど。基本はそんなに変わらないし…」
M:「それ、どういうこと?」
D:「確かにスイングからビバップへは、大きく表現が変わったけどね。その後の、ハードバップ以降っていうのは、基本的にはビバップのフレーズの派生型だね。」
M:「その程度なの?」
D:「確かにジャズ史的にみれば、そのようにムーブメントが発展していくのかもしれないけど。前の時代の音楽と次の時代の音楽が、それほど一気に明確に変化しているとは思わないなあ。それと、どちらかと言えば、「発展」とは言いたくないね。前の時代でもいいものがたくさんあるし。新しいスタイルが出てきて古いスタイルがなくなるわけではない。次の新しい時代だといわれても、依然として前の時代のスタイルも脈々と根付いていたと思うね。新しいっていっても、ちょっとスタイルが変わる程度かな。」
M:「なるほどね。確かにビバップとハードバップの違いって、はっきり区別できないよね。」
D:「そのとおり。基本的には、今の時代の演奏もやっぱりビバップ・フレーズが基本だしね。ソニー・ロリンズもクリフォード・ブラウンも、パーカーやガレスピーなどと、フレーズをつくっていく理屈やハーモニーに関しては、そんなに違いはない。その人の個性の方が大きいよ。だた、ひとつ言えることは、40年代に、チャーリー・パーカーを中心に、Cpark_aガレスピーなどのグループが、飛躍的にアドリブの可能性を広げたということ。ジャズのアドリブは、ハーモニーを基本に展開しているんだけど、特にパーカーのフレージングが画期的だったということだね。パーカー以降は、様々なアーティストが登場するが、表現手法は異なっても、基本はみんなビバップ的な発想でアドリブを展開しているんだ。」
M:「そういうことか。みんなジャズのアドリブは、コード進行に基づき展開しているってことだね。」
D:「そう。一部の例外はあるけど、基本的にはそのとおりだ。」
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ー 休  憩 ー

M:「また素人考えなんだけど、アドリブってアルペジオみたいなもの?」
D:「まあ、そういうことだね。フレーズでハーモニーを表現していくんだから、バーチカルに展開していくんだ。その上で、ビバップ・フレーズは、代理コードを使って、別のコードに置き換えたりする。それと、テンション・ノートも付けていく。」
M:「だんだんわからなくなってきたよ。今回はこの程度でいいよ。それにしても、パーカーの存在はすごいんだね。」
D:「ところで、Murphyくんは、パーカーの演奏聴いたことある?」
M:「もちろんあるんだけど。何回かは、でも...」
D:「でも?」
M:「なんだかむずかしそうだよ。」
D:「そうか。どんなアルバム聴いたの?」
M:「あまり古い録音もいやだし、確か50年代のものだったと思う。」
D:「わかった。Murphyくん、パーカーはやっぱり40年代の演奏をまず聴いた方がいいよ。SavoyやDialに吹き込んだもの。演奏は1曲3分前後だから。何回か聴いていくうちに、パーカーのフレーズに親しみを覚えるよ。」
M:「そのSavoyかDialか、どちらを先に聴けばいいの?」
D:「両方だよ。Murphyくん、1940年から48年までのパーカー絶頂期の演奏を1つにまとめた、いいアルバムがあるよ。セットなんだけどボクはこれをすすめるね。以前ジャンゴの時に採り上げたイギリスのJSP Recordsがパーカーの決定版ともいえる、ほんとにいい復刻盤を出してくれた。さすがJSPだけあって、音質は向上しているし、しかも低価格。5枚組で3000円切れるよ。パーソネル、録音年月日などのデータもしっかり記述されているし、JSPのこのセットは、いずれ在庫が切れて品薄になれば値段も上がるだろうね。」
M:「パーカーの代表曲ってなに?」
D:「いろいろあるけど。例えば、ビリーズ・バウンス(Billie’s Bounce)。Murphyくんもこの曲練習してみたら。」
  ◇◇◇
A Charlie Parker: A Studio Chronicle 1940-1948 イギリスJSP Records 5枚組Boxセット
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