第33回 不滅のジャズ名曲-その33-聖者の行進(When The Saints Go Marching In)

Django:「Murphyくん、ニューオリンズ・ジャズで知っている曲は?」
Murphy:「ニューオリンズ・ジャズってディキシーランド・ジャズのことだろ?」
D:「そう。ディキシーランドというのは、アメリカ南部の州を指す通称だからね。」
M:「それなら知っているよ。だれでも知っている曲で、”聖者の行進”。」
D:「今回は、その曲を採り上げようと思うんだ。」
M:「へえー、こんなポピュラーな曲を? あまりにも知られすぎていて、面白くなさそうだけど。どうしてこんなものを採り上げるの?」Madam Begue's Restaurant, New Orleans, Louisiana

D:「おいおい、”聖者の行進”をバカにするなよ。Murphyくんは本場の演奏を聴いたことある?」
M:「ないね。アマチュアバンドぐらいかな。」
D:「本場のニュー・オリンズで、演奏しているグループのものを聴けば、認識新たにすると思うよ。」
M:「本場って、どんなバンド?」
D:「プレザベーション・ホール・ジャズ・バンド(Preservation Hall Jazz Band)というグループ。このバンドは、ニューオリンズ市内にあるプレザベーション・ホールの専属バンド。このホールは、地元のジャズメンたちによって1950年代から毎夜ライブ演奏が行われていた場所で、今やニューオリンズ・ジャズの遺産を継承したシンボルとして位置づけられるジャズのメッカなんだ。建物は古いけどね、それだけにリアリティがあるんだ。新築の立派なホールでは決して味わえない、手作りのアットホームな雰囲気がある。」
M:「このあいだのニューオリンズを襲ったハリケーンで問題なかったの、このホールは。」
D:「フレンチクォーター付近にあるんだけど、やはり半年間は閉鎖された。その間このバンドは、全米ツアーに出かけ演奏していたらしい。ところで、そのバンドの92年のライブアルバムがあるんだけど。」
M:「そのバンドってどんな編成なの?」
D:「トランペットまたはコルネット、クラリネット、トロンボーン、ピアノ、ベース、ドラムス、バンジョーの7〜8名の編成。実はこのアルバムに吹き込んだ、クラリネット奏者のウイリー・ジェイムス・ハンフリー(Willie James Humphrey)は、1900年12月生まれ。1994年になくなっている。このアルバムの録音年月日は、アルバムに書かれていないが、おそらく80〜90歳、あるいは90歳を過ぎてからの録音かも。弟の、パーシー・ハンフリー(Percy Humphrey)が、トランペットを担当している。」
M:「90歳過ぎても現役で演奏していたのか? 驚いたね。」
D:「ウィリーは93歳で亡くなるまでこのホールで演奏していた。すごいだろう。現役最長老のハンフリー兄弟のバンドの演奏は、これが本場のジャズだというべき、実に生き生きした演奏で、本当に素晴らしいよ。ウィリーの祖父はコルネット奏者で音楽教師。父親がクラリネット奏者のWillie Humphrey Sr.で、同じニュー・オリンズ出身のマルサリス一家のように、家族全員音楽一家。ウィリーは、1920年頃キング・オリバーと共演したほどの実力の持ち主だ。1960年代から弟のパーシーとともにPreservation Hallで演奏している。それでね、Murphyくん、このアルバムには、ニューオリンズ・ジャズのエキスのような曲が詰まっていて、最後に”聖者の行進”で締めくくっているんだ。この曲の演奏時間はなんと、8分09秒の長時間にわたっている。」
M:「ヴォーカルは入ってないの?」
D:「弟のパーシーが歌っている。これがまた味のある歌だね。まさにヴィンテージものだね。それにしても、兄弟ともに70年以上演奏してきたんだから、そのリアリティはすごい。それとウィリーの演奏には、他には真似のできない独特のリズム感がある。微妙に遅れ気味のなかに絶妙なスイング感が宿っている。とにかく、バンドがものすごくスイングしている。ジャズなんだよ。まさにジャズ。ジャズの香り、楽しさ、面白さがダイレクトに伝わってくる。」
M:「ところで、このバンド、バンジョーが入っているんだね。」
D:「そう。聴いてみれば、どうしてギターでなくバンジョーなのかきっとわかるよ。」
  ◇◇◇
※本CDはリリース後15年経過しており、やや入手困難かと思われます。でも、他に代え難い貴重な演奏ですので、もし発見されましたら、ぜひご購入をおすすめします。

Preservation Hall Jazz Band Live / 1992 Sony Music SK48189
Sk48189

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