第45回 不滅のジャズ名曲-その45-ダイナ(Dinah)

ジャズのCDは少し油断して買いそびれると入手困難になることが多い。50〜60年代のいわゆるジャズの名盤といわれるアルバムは、少し待てば再発されるし、それほど問題はない。特に、ブルーノート、プレスティッジ、リバーサイドなどの名門レーベルは、ほとんどいつでも入手可能である。ところが、1980年代以降の比較的新しいジャズCDは、いったん廃盤になると、再発されることも少ない。

現在、NYで若手No.1のトランぺッターといわれる、ニューオリンズ出身のニコラス・ペイトン(Nicholas Payton)のアルバムをもう一度、彼のデビューした当初から聴いてみようと思い、自分が購入してなかったCDを調べてみたが、残念ながら90年代のものは廃盤になっているものが多い。

ニコラス・ペイトンは、1973年9月26日ニューオリンズ生まれ。現在34歳。4歳でトランペットを始め、13歳の時にウィントン・マルサリスと出会い、エリス・マルサリスの「ニューオリンズ・フォー・クリエイティヴ・アーツ」で学ぶ。90年にマーカス・ロバーツの全米ツアーに加わり注目を集める。その後、自己の故郷であるニューオリンズスタイルからスイング、モダン、さらにはそれ以降の、ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーターなどの新主流派も含め、まさにジャズの歴史遺産を伝承しつつ、新解釈で数々の名アルバムを録音してきた。

最新作はMysterious Shorter(チェスキー・レーベル)で、ウエイン・ショーターの作品をフィーチャーしたアルバム(2006/10/24 Release)。1997年にリリースされたFingerpainting: The Music of Herbie Hancockは、サブタイトルどおり、ハービー・ハンコックの作品集。ウエイン・ショーターとハービー・ハンコックは、60年代以降の最も重要なミュージシャンであるばかりでなく、作曲家としても今後ますますその評価は高まるものと思われるが、この二人の作品集をニコラスが採り上げたことは注目すべきことだ。

2001年には、ルイ・アームストロング生誕100周年記念トリビュート・アルバムDear Louis(Verve)を発表している。同じニューオリンズ出身でもあり、スタイルもサッチモに似ていることから"ヤング・サッチモ"と呼ばれてきたニコラスが、満を持して発表した話題作。1928年にサッチモが吹き込んだ名曲、 「ウェスト・エンド・ブルース」や戦後の大ヒット曲、「ハロー・ドーリー」などが網羅されている。

ニコラス・ペイトンの一連の作品のなかで、ヴォーカルの入ったユニークなアルバムがある。CDタイトルは、Doc Cheatham & Nicholas Paytonで、Verveから1997年にリリースされたもの。もちろんニコラスはトランペットのみで、ヴォーカルは、ドック・チーサム(Doc Cheatham)(tp,vo)。ドック・チーサムは、このアルバムがリリースされた年に92歳で亡くなっているが、もともとディキシー、スイング系のトランぺッターであり、歌の方も相当な腕前の持ち主。この二人が往年のスイング系の演奏を繰り広げており、リラックスしたなかで時には名人芸的な技をみせながら、最後まで楽しませてくれるアルバムだ。ドック・チーサムの歌にあわせ、ニコラスがオブリガートでやさしくトランペットを奏でるあたりは、思わずこんなヴォーカルアルバムを聴きたかったんだと実感し、これは自分の愛聴盤になること間違いなしと確信したことを今でも強く覚えている。

このアルバムは、実は前回採り上げた、ディキシーの名曲、世界は日の出を待っている(World Is Waiting for the Sunrise)が収録されており、他にStardustや、サッチモやベニー・グッドマンが戦前に盛んに演奏したダイナ(Dinah)も吹き込まれている。とにかく実に楽しいアルバムだ。

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Doc Cheatham & Nicholas Payton Verve1997

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