第47回 不滅のジャズ名曲-その47-アイ・ヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー(I’ve Found a New Baby)

Murphy:「Djangoくんの影響で、モダンジャズ以前の、ニューオリンズ・ジャズに興味を持ったんだけど、リラックスできて気軽に楽しめるアルバムを教えてくれる?」

Django:「ニューオリンズスタイルのジャズで、真っ先にあげなければならないのは、ジョージ・ルイスだろう。1940年代にリバイバルブームが起こり、クラリネットの名手であるジョージ・ルイスは精力的にツアーを行い、数々の名アルバムを残している。このジョージ・ルイスについては以前にも紹介したので、今回は他のアーティストのなかから選ぼうと思うんだけど。」

M:「それならトロンボーンで誰かいない?」

D:「ニューオリンズスタイルのトロンボーンで最も有名なのはキッド・オリー。彼は、1922年に黒人ジャズバンドとして初レコードを吹き込み、その後シカゴで活躍した。1940年代の、リバイバルブームで注目され、生粋のニューオリンズジャズを演奏し、彼の功績により、トロンボーンは一躍ジャズの中心楽器としての地位を確立した。そういった意味では、キッド・オリーはジャズトロンボーンの父といわれる人。」

M:「他には誰かいる?」

D:「ニューオリンズ生まれではないんだけど、もう一人優れたトロンボーン奏者がいる。ジャック・ティーガーデン(Jack Teagarden)。彼は、1905年にテキサス州のヴァーノンで生まれた。1964年にニューオリンズのフレンチ・クォーターで亡くなるまで、多くのバンド歴を持っている。ベニー・グッドマン楽団にも所属していた。彼のトロンボーンは、一言でいえば、実によく歌うトロンボーンで、演奏テクニックと持ち味である詩情豊かな音楽性は、その後のトロンボーン奏者に多大な影響を与えた。また、ヴォーカルもうまい。今回は、彼の50年代のアルバムを紹介しよう。50年代といえば、オリジナル・ニューオリンズ・ジャズが演奏されていた時代から相当の年月が経過しており、このアルバムは、古い時代の単なるコピーではなく、スイング時代を経験してきたなかで、新たな表現としてニューオリンズ・ジャズを解釈している。そういった意味では、Murphyくんのように初めてトラッド・ジャズを聴く人にもほとんど抵抗なく聴けると思う。アルバムタイトルは、Jack Teagarden & Bobby Hackett / Complete Fifties Studio Recordings。Lone Hill Jazzというレーベルから2004年に初CD化されたもの。このアルバムは、ボビー・ハケット(tp)ジャック・ティーガーデン(tb)のそれぞれのリーダーアルバム2枚分を1枚のCDにまとめたもので、全部で23曲収録されている。」

M:「ニューオリンズ・ジャズっていうのは何人編成なの?」

D:「本来は7人編成で、トランペット、トロンボーン、クラリネット、ピアノ、バンジョー、ベース、ドラムスという構成が一般的。このアルバムは、一部テナーサックスやバリトンサックスが入っており、その辺からも時代の新しさがわかる。サックスはジャズの演奏の中では、スイング時代から中心楽器になってきたもので、もともとニューオリンズ・ジャズではサックスは入ってなかった。スイング時代までは、クラリネットが大変重要な役割を果たしていたといえる。アルバムに話を戻すと、このCDは、先ほど説明したように50年代の吹き込みなので、ジャック・ティーガーデンのバンドの演奏はずいぶんモダンになっており、スイング期のリラックスした演奏スタイルを持ち、おそらくモダンジャズに耳慣れた人でも、何の抵抗もなくその良さがすぐにわかるだろう。それに、彼のトロンボーンは、モダンジャズのトロンボーン奏者と比較しても、劣るどころかむしろその魅力は、時代を超えて高まるばかりで、特に彼の歌うようなフレージングは本当に素晴らしい。ゆったりとした気分でリラックスできる演奏だから、いつでも楽しく聴けると思うよ。ところで、I’ve Found a New Babyという曲、知っている?」

M:「知らないなあ。」

D:「このアルバムに収録されているんだけど、素晴らしい演奏だよ。この曲は、ニューオリンズ生まれのSpencer Williamsという作曲家兼ピアニストの1926年の作曲で、作詞はJack PalmerSpencer Williamsは他にも数多くの名曲を生み出している。その2年後には、有名なBasin Street Bluesを作曲している。Royal Garden Bluesも彼の作品。ところで、I’ve Found a New Babyは、チャーリー・クリスチャンもグッドマンのコンボで演奏しているし、 他にはDjango ReinhardtとStephane Grapelliのコンビなど、スイング期には盛んに演奏された。Dマイナーで始まる素敵な曲だから、1回聴いただけで覚えるよ。それと、このCDは、先ほど言ったように2枚のアルバムを1枚に収録しているんだけど、ジャック・ティーガーデンのバンド演奏分(11曲目〜23曲目)は、1957年(Capitalレーベル)のステレオ録音で音質もいいから、その味わいを存分に楽しめるし、これだけでも価値あるCDだと思う。」

※このアルバムは、スペイン、バルセローナのLONE HILL JAZZレーベルから2004年にリリースされており、現在はまだ入手可能。LONE HILL JAZZは、このところ貴重なレア音源を次々と復刻しており、注目すべきこだわりのジャズレーベルである。

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Jack Teagarden & Bobby Hackett/Complete Fifties Studio Recordings

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