第53回 不滅のジャズ名曲-その53-ブルー・モンク(Blue Monk)

Django:「今回はとっておきのピアノソロを紹介しよう。以前にロンカーターとジムホールのデュオアルバムを紹介したけど、その時のレーベル名を覚えてる?」

Murphy:「確か、コンコード(Concord)レーベルだったね。」

D:「そう。そのコンコードレーベルが1989年から、カリフォルニアのバークレイにある、メイベック・リサイタル・ホール(Maybeck Recital Hall)で、ユニークなソロピアノコンサートを企画し、ライブレコーディングを行ってきた。このホールはライナーノートによると、定員50〜60名ぐらいの小さなホールで、アットホームな雰囲気のなかで、往年の名ピアニストのソロコンサートをすでに40回以上開催している。」

M:「へえ、それはユニークだね。これまでどんなピアニストが登場したの?」

D:「70年代からコンコードレーベルでおなじみのデイブ・マッケンナを始め、ケニー・バロンやバリー・ハリス、それにエリス・ラーキンスなども登場した。今回はその中から、第16回のコンサートで1991年11月11日に収録された、大御所ハンク・ジョーンズを採り上げてみたい。」

M:「ハンク・ジョーンズといえば、この間、ロバータ・ガンバリーニの最新アルバムで歌伴をやってた人だね。」

D:「そのとおり。ラッシュ・ライフというアルバムだった。ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)は、古くて新しい大人のジャズといった感じで、決して派手ではないが、実に味のある渋いピアノを聴かせる人で、今となっては貴重な存在だ。ボクはこのアルバムを発売と同時に買ったのだけど、期待どおりの演奏で、久々にくつろいで楽しむことができた。以来、このCDは、まわりが静まり返った夜によくかけるんだけど、聴けば聴くほど味の出るアルバムで、もう10数年飽きずに聴き続けている。

全部で17曲収録されており、スタンダード曲を中心に、どの曲も3分〜5分程度の時間にまとめられている。こういったソロアルバムは、案外少なく、コンコードのこのシリーズは今となっては実に貴重な記録だ。セロニアス・モンクの作品が2曲収録されており、ブルー・モンク(Blue Monk)ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)という名曲中の名曲が、ハンク・ジョーンズならではの、さらっとした演奏で楽しめる。あまり重くならず、かといって軽快に流れすぎず、中庸を得た演奏は絶品で、先ほども言ったように、大人のジャズをたっぷりと聴かせてくれる。リラックスしてさりげなく味のあるジャズを聴きたい人に最適だね。」

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Live at Maybeck Recital Hall, Vol. 16 : Hank Jones 1991

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第52回 不滅のジャズ名曲-その52-ザ・スター・クロスド・ラヴァーズ(The Star-Crossed Lovers)

Murphy:「エリントンは作曲家としての評価が高いけど、ボクはまだよくわからない。20世紀の最も優れた作曲家の一人だといわれているけど、今回はDjangoくんに是非そのあたりのことを具体的に話してほしい。」

Django:「エリントンの作曲家としての実力を示す一枚のアルバムを紹介しよう。サッチ・スイート・サンダー(Such Sweet Thunder)という1957年にCBSからリリースされたアルバム。このアルバムは、カナダのストラトフォードで開催されたシェイクスピア・フェスティバルのために、エリントンがビリー・ストレイホーンとともに書き下ろした組曲。この大作は、エリントンがシェイクスピアの全作品を読んで感動し、オセロ、ハムレット、ロミオとジュリエットなど数作品からのインスピレーションにもとづき作曲したといわれている。」

M:「シェイクスピアを題材としたその曲は、やっぱりジャズなの?」

D:「もちろんジャズ。でも、ジャズという枠を超えている。このアルバムのなかに、ロミオとジュリエットからインスパイアーされたザ・スター・クロスド・ラヴァーズ(The Star-Crossed Lovers)という曲が入っているんだけど、ボクはこれを聴いた時、こんなに美しい曲が世の中にあったのか、と驚いた。もはやジャズという狭い枠を超えて、広く音楽としてわれわれに深く訴えかけてくる。この曲を含む12曲がオリジナルLPに収録され、あたかもクラシック音楽の組曲を聴くように仕立て上げられている。エリントンとストレイホーンのコラボレーションにより出来上がったこの組曲は、エリントン音楽特有のユニークなメロディーライン、構図のおもしろさ、色彩豊かなハーモニーを持っており、エリントン音楽の素晴らしさの一端を味わうことができる。」

M:「エリントン音楽が、色彩豊かな音楽であると感じられるのは、どのあたりからそう思うの?」

D:「エリントン音楽はものすごく個性的だと思う。メロディもさることながらハーモニーが独特で、普通じゃない。ある種の響きの実験ともいえる曲が多い。わかりやすくて歌いやすく覚えやすいというタイプの曲ではない。絵具に例えると、明快で単調な色合いではなく、複数の色をブレンドした深みを持ったトーンを作り上げている。色彩感が豊かで絵画的な印象を持つエリントン音楽は、そういった意味ではドビュッシーやラヴェルに近いタイプの音楽だともいえる。でもエリントン音楽はジャズであり、スイング感やビートを持ち合わせているので、クラシック分野の音楽とは全く異なる。でも、もしクラシック音楽が好きで、特にドビュッシーなどのフランス音楽を好む人であれば、きっとエリントン音楽に魅力を感じると思う。しかし、それにしても、エリントン楽団はどうしてこんなにユニークなサウンドが出せるのか…。エリントン・マジック、実に不思議だ。」

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Such Sweet Thunder / Duke Ellington & His Orchestra 1957

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