Murphy:「エリントンは作曲家としての評価が高いけど、ボクはまだよくわからない。20世紀の最も優れた作曲家の一人だといわれているけど、今回はDjangoくんに是非そのあたりのことを具体的に話してほしい。」
Django:「エリントンの作曲家としての実力を示す一枚のアルバムを紹介しよう。サッチ・スイート・サンダー(Such Sweet Thunder)という1957年にCBSからリリースされたアルバム。このアルバムは、カナダのストラトフォードで開催されたシェイクスピア・フェスティバルのために、エリントンがビリー・ストレイホーンとともに書き下ろした組曲。この大作は、エリントンがシェイクスピアの全作品を読んで感動し、オセロ、ハムレット、ロミオとジュリエットなど数作品からのインスピレーションにもとづき作曲したといわれている。」
M:「シェイクスピアを題材としたその曲は、やっぱりジャズなの?」
D:「もちろんジャズ。でも、ジャズという枠を超えている。このアルバムのなかに、ロミオとジュリエットからインスパイアーされたザ・スター・クロスド・ラヴァーズ(The Star-Crossed Lovers)という曲が入っているんだけど、ボクはこれを聴いた時、こんなに美しい曲が世の中にあったのか、と驚いた。もはやジャズという狭い枠を超えて、広く音楽としてわれわれに深く訴えかけてくる。この曲を含む12曲がオリジナルLPに収録され、あたかもクラシック音楽の組曲を聴くように仕立て上げられている。エリントンとストレイホーンのコラボレーションにより出来上がったこの組曲は、エリントン音楽特有のユニークなメロディーライン、構図のおもしろさ、色彩豊かなハーモニーを持っており、エリントン音楽の素晴らしさの一端を味わうことができる。」
M:「エリントン音楽が、色彩豊かな音楽であると感じられるのは、どのあたりからそう思うの?」
D:「エリントン音楽はものすごく個性的だと思う。メロディもさることながらハーモニーが独特で、普通じゃない。ある種の響きの実験ともいえる曲が多い。わかりやすくて歌いやすく覚えやすいというタイプの曲ではない。絵具に例えると、明快で単調な色合いではなく、複数の色をブレンドした深みを持ったトーンを作り上げている。色彩感が豊かで絵画的な印象を持つエリントン音楽は、そういった意味ではドビュッシーやラヴェルに近いタイプの音楽だともいえる。でもエリントン音楽はジャズであり、スイング感やビートを持ち合わせているので、クラシック分野の音楽とは全く異なる。でも、もしクラシック音楽が好きで、特にドビュッシーなどのフランス音楽を好む人であれば、きっとエリントン音楽に魅力を感じると思う。しかし、それにしても、エリントン楽団はどうしてこんなにユニークなサウンドが出せるのか…。エリントン・マジック、実に不思議だ。」
◇◇◇
Such Sweet Thunder / Duke Ellington & His Orchestra 1957
