第46回 不滅のジャズ名曲-その46-フォー・オン・シックス(Four On Six)

50〜60年代のいわゆるモダンジャズ黄金時代の主要レーベルといえば、ブルーノート(Blue Note)プレスティッジ(Prestige)コンテンポラリー(Contemporary)リヴァーサイド(Riverside)などがあげられるが、このうちの、ブルーノートを除く3レーベルの国内発売元がこのほど移籍した。これら3レーベルは、長年国内ではビクターから発売されていたが、2007年4月より、メジャーレーベルであるユニヴァーサル(Universal Music)からリリースされることとなった。

これを記念して、JAZZ THE BEST 超限定 \1,100と称し、4/11に100タイトル、5/16に50タイトル、いずれも初回生産限定版で1100円というおそらくこれまでの国内最安値で一挙に発売される。もっとも輸入版では、米国ファンタジー社からOJC(Original Jazz Classics)シリーズとして、LP時代から低価格で販売されており、80年代には、OJCのLPレコードは国内実売価格1000円前後であったことを今でも記憶している。しかし、CD時代に入ると、値上がりし1500円前後が相場であった。そういった意味では、今度の1100円盤は、これからジャズを聴こうという入門者にとっては願ってもない機会だといえる。

さて、これら3レーベルについて、順を追って紹介すると、まず、プレスティッジは、1949年にボブ・ワインストックにより録音が開始され、その後、オジー・カデナ、テディ・チャールズもプロデューサーとして加わり、文字通りモダンジャズの東海岸における名門レーベルとして君臨してきた。50年代のジャズといえば、ブルーノートと並びまずこのプレスティッジが最強レーベルであった。モダンジャズの黄金時代といわれるビバップ以降の、ハードバップ路線を強力に推進してきたのもこのレーベルだ。ソニー・ロリンズ、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーンを筆頭とするラインナップは、数々の不滅の名盤を生み出し、現在でも最も人気の高いレーベルの一つである。ソニー・ロリンズは、このレーベルに超有名なサキソフォン・コロッサスを吹き込み、他にワンホーンカルテットの傑作を残している。また、マイルスは、50年代前半からCBS時代に移行する直前までの、ハードバップ期の名アルバムを数多く残しており、マイルスをこれから聴いてみようという方は、是非このプレスティッジ時代のアルバムを聴いていただきたい。プレスティッジ・レーベルは、60年代以降は、R&B色が強まり、やや魅力に欠けるレーベルとなった。

プレスティッジが東海岸の名門レーベルであるのに対し、コンテンポラリー・レーベルは、西海岸の50年代の雄であるといえる。1949年にレスター・ケーニッヒにより設立された。彼自身が、プロデューサーをつとめ、気に入ったアーティストだけを厳選してすぐれたアルバム作りを行ってきた。主なアーティストは、アート・ペッパー(as)、チェット・ベイカー(tp)、ハンプトン・ホーズ(p)、バーニー・ケッセル(g)など。特筆すべきことは、このレーベルは、当時の最先端の録音技術を駆使して、50年代の録音であるにも関わらず、現在の水準からみても立派に通用する優れた音質を誇ってきたことだ。このレーベルのアルバムをかけると、自分のオーディオシステムがグレードアップした気分になるくらいそのクオリティーは高い。

リヴァーサイドは、ビル・グロウアーが社長、オリン・キープニュースが副社長となって設立された名門レーベル。初期の頃は、ニューオリンズジャズなどの古い音源の発掘などを手がけ、1955年からモダンジャズの新録音を開始した。ワルツ・フォー・デビーで有名なビル・エバンス(p)のスコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)とのトリオ時代のアルバムは特に有名。セロニアス・モンクもこのレーベルに吹き込んでおり、彼の最高傑作といわれるブリリアント・コーナーズも残している。その他には、50年代後半から60年代にかけて、ジャズ・ギターの分野で幾多の優れたアルバムを残した、ウェス・モンゴメリーも、リヴァーサイドに多くの名盤を残している。

このリヴァーサイドに吹き込んだウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)のアルバムのなかで、ザ・ウェス・モンゴメリー・トリオフル・ハウスなどとともに名盤として今でも人気の高い、インクレディブル・ジャズ・ギター(The Incredible Jazz Guitar)を是非紹介したい。このアルバムは、ギターをリーダーとしたクァルテットアルバムで、管楽器が入っていない分、ウェスの演奏を十分に堪能できる。パーソネルは、ウェス・モンゴメリー(g) 、名脇役のトミー・フラナガン(p) 、MJQのパーシー・ヒース(b)、それにアルバート・ヒース(ds)という当時の理想的なリズム陣で構成されている。

ウェスといえばオクターブ奏法が有名だが、彼のギターは、シングルトーンでも、芯のある太い音を奏で、それだけでも十分迫力がある。ミディアムゲージ以上の太い弦を張り、ピックを使わず右手の親指だけで演奏する。その音色は他に追従を許さぬ独自のものだ。このアルバムのなかで、ウェス自らが作曲した、フォー・オン・シックス(Four On Six)を是非聴いていただきたい。素晴らしいノリで突き進む、彼のジャズギターの特徴が最もよく表れている。

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The Incredible Jazz Guitar of Wes Montgomery

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第45回 不滅のジャズ名曲-その45-ダイナ(Dinah)

ジャズのCDは少し油断して買いそびれると入手困難になることが多い。50〜60年代のいわゆるジャズの名盤といわれるアルバムは、少し待てば再発されるし、それほど問題はない。特に、ブルーノート、プレスティッジ、リバーサイドなどの名門レーベルは、ほとんどいつでも入手可能である。ところが、1980年代以降の比較的新しいジャズCDは、いったん廃盤になると、再発されることも少ない。

現在、NYで若手No.1のトランぺッターといわれる、ニューオリンズ出身のニコラス・ペイトン(Nicholas Payton)のアルバムをもう一度、彼のデビューした当初から聴いてみようと思い、自分が購入してなかったCDを調べてみたが、残念ながら90年代のものは廃盤になっているものが多い。

ニコラス・ペイトンは、1973年9月26日ニューオリンズ生まれ。現在34歳。4歳でトランペットを始め、13歳の時にウィントン・マルサリスと出会い、エリス・マルサリスの「ニューオリンズ・フォー・クリエイティヴ・アーツ」で学ぶ。90年にマーカス・ロバーツの全米ツアーに加わり注目を集める。その後、自己の故郷であるニューオリンズスタイルからスイング、モダン、さらにはそれ以降の、ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーターなどの新主流派も含め、まさにジャズの歴史遺産を伝承しつつ、新解釈で数々の名アルバムを録音してきた。

最新作はMysterious Shorter(チェスキー・レーベル)で、ウエイン・ショーターの作品をフィーチャーしたアルバム(2006/10/24 Release)。1997年にリリースされたFingerpainting: The Music of Herbie Hancockは、サブタイトルどおり、ハービー・ハンコックの作品集。ウエイン・ショーターとハービー・ハンコックは、60年代以降の最も重要なミュージシャンであるばかりでなく、作曲家としても今後ますますその評価は高まるものと思われるが、この二人の作品集をニコラスが採り上げたことは注目すべきことだ。

2001年には、ルイ・アームストロング生誕100周年記念トリビュート・アルバムDear Louis(Verve)を発表している。同じニューオリンズ出身でもあり、スタイルもサッチモに似ていることから"ヤング・サッチモ"と呼ばれてきたニコラスが、満を持して発表した話題作。1928年にサッチモが吹き込んだ名曲、 「ウェスト・エンド・ブルース」や戦後の大ヒット曲、「ハロー・ドーリー」などが網羅されている。

ニコラス・ペイトンの一連の作品のなかで、ヴォーカルの入ったユニークなアルバムがある。CDタイトルは、Doc Cheatham & Nicholas Paytonで、Verveから1997年にリリースされたもの。もちろんニコラスはトランペットのみで、ヴォーカルは、ドック・チーサム(Doc Cheatham)(tp,vo)。ドック・チーサムは、このアルバムがリリースされた年に92歳で亡くなっているが、もともとディキシー、スイング系のトランぺッターであり、歌の方も相当な腕前の持ち主。この二人が往年のスイング系の演奏を繰り広げており、リラックスしたなかで時には名人芸的な技をみせながら、最後まで楽しませてくれるアルバムだ。ドック・チーサムの歌にあわせ、ニコラスがオブリガートでやさしくトランペットを奏でるあたりは、思わずこんなヴォーカルアルバムを聴きたかったんだと実感し、これは自分の愛聴盤になること間違いなしと確信したことを今でも強く覚えている。

このアルバムは、実は前回採り上げた、ディキシーの名曲、世界は日の出を待っている(World Is Waiting for the Sunrise)が収録されており、他にStardustや、サッチモやベニー・グッドマンが戦前に盛んに演奏したダイナ(Dinah)も吹き込まれている。とにかく実に楽しいアルバムだ。

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Doc Cheatham & Nicholas Payton Verve1997

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