Murphy:「ジャズピアノというのは硬質で力強く明確なフレーズを奏でるような男性的なタイプと、やわらかくて雰囲気たっぷりに弾くどちらかといえば女性的なタイプに分かれるような気がしたんだけど、前回のバリー・ハリス(Barry Harris)は硬質のタイプと思った。ぼくはどちらかといえばそういったタイプの方が好きなんだけど、Djangoくんどう思う?」
Django:「確かにバリー・ハリスは、そちらの方だね。いわゆるパウエル派といわれる人は、Murphyくんのいう男性タイプに相当するかな。ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーたちが40年代にビ・バップ・ムーブメントを起こした頃から、ピアノのスタイルも変わってきた。バド・パウエルがその先兵で、新しいモダンなピアノ奏法が出現した。一言で言えば、ホーンライクな奏法。右手で管楽器のようなフレーズを奏で、左手はどちらかといえばかなり省略した和音をサブ的に用いて、トランペットやサックスのように単音でアドリブフレーズを次々に展開していくスタイル。このパウエル・スタイルをこれ以降の多くのピアニストたちが用いるようになった。だからそういった意味では、当時のピアニストの大半がパウエル派といえる人たちで、バリー・ハリスもその1人。
多くのパウエル派のなかでも、バリー・ハリスは、当時の典型的なバップ・フレーズを奏でるタイプの人。シングルノートで次々とアドリブ展開していくので、右手のタッチはとても重要になる。力強く歯切れのよい音で、鋭いタッチがバップフレーズを生きたものにしていく。だから思わず引き込まれる。」
M:「なるほど。確かに右手のタッチが鋭い。だからいわゆるモダンジャズらしさが感じられるんだね。それと、音にムダがない。」
D:「そうなんだ。装飾的な音はあまり用いない。いわゆるビバップの典型的なフレイジングを次々と展開していく。時代は少し遡るけど、30年代の終わりから、チャーリー・クリスチャンが現れて、ジャズギターに革命を起こした。彼の演奏は、まさにホーンライクなスタイルで、当時開発されたエレクトリックギターを使ってアンプで増幅し、シングルノートでアドリブを展開していった。」
M:「そういった意味では、ピアノにおけるバド・パウエルの果たした役割と似ているんだね。」
D:「ところで、バリー・ハリスの1960年の吹き込みで、アット・ザ・ジャズ・ワークショップ (At The Jazz Workshop)というアルバムがあるんだけど、ここではそういったピアノによる典型的なビバップ演奏が聴ける。このアルバムは、サンフランシスコのジャズクラブでのライブレコーディング。チャーリー・パーカー作曲のムース・ザ・ムーチェ(Moose The Mooche)が入っている。バリー・ハリスは、まさにビバップのお手本のようなアドリブを繰り広げる。ムダがない。バネのような右手の鋭いタッチがパーカー特有のシンコペーションを伴ったリズム感を強調していく。有名な曲なのでMurphyくんも知っていると思うけど、オリジナルのパーカーの演奏と聴き較べてみてもおもしろいよ。」
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Moose The Mooche (Music by Charlie Parker)
|B♭ |Cm7 F7 |B♭ |Cm7 F7|
|B♭7 |E♭7 A♭7|B♭ |Cm7 F7|
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※このCDは2007年4月にユニバーサルより超限定版1100円で発売された。