第75回 不滅のジャズ名曲-その75-マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ(My One And Only Love)

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ザット・ガール

Django:「スウェーデンの名ヴォーカリスト、モニカ・セッテルンドが亡くなった後、彗星のごとく現れたのがロヴィーサ(Lovisa)。ストックホルム生まれのジャズ・シンガーで現在25歳。モニカ・セッテルンドを記念して創設された奨学生に、ロヴィーサは選ばれ、現在スウェーデンで最も期待されるシンガーといわれている。」

Murphy:「モニカ・セッテルンドといえば、ビル・エヴァンスとの共演盤が有名だね。ところで、ロヴィーサはどんなタイプの歌手?」

D:「実は7/18にデビューアルバム、ザット・ガール(That Girl!)が発売され、さっそく聴いてみたんだけど、新人ながらすでに相当の実力を備えていると思った。アルバムの完成度は高い。クールで知的でしかも情感豊か。ノンビブラートの器楽唱法でさらっと歌い、スッキリ爽やかだね。」

M:「アルバムにはスウェーデンの曲も入っているの?」

D:「いや、今回のアルバムは、アメリカのソングブック集で、スタンダード曲でまとめられている。その中にはRobert MellinとGuy B Woodのコンビで1953年に作曲された名曲、マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ(My One And Only Love)も入っているんだけど、自然な歌い方で特に高域がすばらしい。音程が完璧だからノンビブラート唱法が生きている。力を抜いて歌っているから、曲の美しさがストレートに出ている。とにかく、この夏一番のおすすめのヴォーカルアルバムだね。」

第74回 不滅のジャズ名曲-その74-イージー・トゥ・ラヴ(Easy To Love)

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Personal Appearance

Django:「コール・ポーターの名曲、イージー・トゥ・ラヴ(Easy To Love)は、古くはビリー・ホリデイ、最近ではロバータ・ガンバリーニなど、これまで多くのヴォーカリストに歌われてきた。また、器楽演奏では、パーカーがストリングスをバックにVerveに吹き込んだものや、チェット・ベイカーのトランペットなどがすぐに思い出されるが、ワンホーン・カルテットのなかで選ぶなら、ソニー・スティット(Sonny Stitt)が50年代半ばにVerveに吹き込んだパーソナル・アピアランス(Personal Appearance)というアルバムを是非採り上げてみたい。」

Murphy:「ソニー・スティットといえば、前回も出てきたけど、アルト奏者、それともテナー?」

D:「アルト、テナー、さらにはバリトンまでこなす、まさに”サックスの神様"と呼ばれる腕前の持ち主。もともとは、アルト奏者としてスタートしたが、40年代末から50年代前半までは、パーカーとの類似性を避けてテナーに持ちかえたといわれる。それほど彼の実力はパーカーに迫るものがあったということ。」

M:「Djangoくんは彼のアルバムのなかで、いつ頃のものをすすめる?」

D:「アルトでは、50年代後半の、ルーストやヴァーヴに吹き込んだアルバム。テナーでは、40年代末から50年代にかけてプレスティッジに吹き込んだものがいいね。例えば、バド・パウエルとの共演盤(Sonny Stitt/Bud Powell/J.J. Johnson)などは非常に有名。

今回採り上げたアルバムは、アルトで演奏しており、1957年にリリースされたもの。このVerve盤の収録曲は、Easy To Loveのほかにも、Easy Living、Autumn in New York、You’d Be So Nice to Come Home To、Avalonなどが含まれ、まさに名曲名演といえる充実した内容。先程も言ったように、いわゆるパーカー派と呼ばれる多くのホーン奏者のなかでも、最強の実力の持ち主であることがこのアルバムでも伺える。ビバップ・ファン必聴盤。」

第73回 不滅のジャズ名曲-その73-オーニソロジー(Ornithology)

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Breakin’ It Up

Django:「今もNYで活躍するビバップの伝導師、バリー・ハリス(Barry Harris)の初リーダー作Breakin’ It Up(1958年)が、欧州のJAZZ BEATレーベルからこの6月に再発された。音質はかなりよくなっている。しかも、オリジナル盤の8曲以外に、初リーダー作の翌日にソニー・スティット(Sony Stitt)も加わり録音された9曲もボーナス・トラックとして収録されている。実は、この9曲は、ソニー・スティット名義でBurnin!というタイトルで発売されたアルバム。今回のこの復刻盤には12ページのブックレットが付いている。ビバップの好きなMurphyくんにおすすめだね。」

Murphy:「バリー・ハリスといえば、これまでにも何枚かのアルバムをDjangoくんに紹介してもらったけど、今ではボクの愛聴盤になっている。このアルバムはどんな曲が入っているの?」

D:「おなじみのジャズ・スタンダード、オール・ザ・シングス・ユー・アー(All The Things You Are)や、パーカーがダイアル・レーベルに吹き込んだ彼のオリジナル曲、オーニソロジー(Ornithology)など。」

M:「オーニソロジーってむずかしい名前だったので、以前に辞書で調べたんだけど、鳥類学という意味だったね。パーカーのニックネームがバードだから、そのような曲名を付けたんだね。」

D:「そのとおり。オリジナルのパーカー演奏もいいけど、ピアノでバリー・ハリスが奏でると、新鮮で、いっそうこの曲の良さが引き出されるね。ボーナストラックのソニー・スティットが加わった方でも、Lover Man、Koko、Easy Livingなどの名曲が入っている。ソニー・スティットは最もパーカー的な演奏だから、バリー・ハリスとの相性も文句なし。」

M:「バリー・ハリスって年齢はいくつぐらい?」

D:「1929年生まれだから、今年で78歳。今やビバップ・スタイルのジャズピアノを継承する大変貴重な存在。彼は、現在NYのリンカーンセンター近くで、自らワークショップを主宰して多くのミュージシャンを育てている。まさに伝導師だ。」

第72回 不滅のジャズ名曲-その72-イン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)

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デューク・エリントン・ソングブック

Django:「エリントンは実に多くの名曲を残しており、これまで選んだ曲は、ほんのわずか。これからもっと採り上げたいと思うけど、誰もが知っている有名曲で、まだ掲載していない曲の一つが、イン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)。この曲は、デューク・エリントン・オーケストラが1935年にBrunswick labelに吹き込んだヒット曲。その後、ベニー・グッドマンも演奏し有名曲となった。その後、現在に至るまで、実に多くのジャズ・プレイヤーに演奏され、この曲を吹き込んだヴォーカリストも多い。そうしたなかで、この曲の名演をひとつだけ選ぶとすれば、ボクはやはり、エラ・フィッツジェラルドのソングブック・シリーズのなかで吹き込まれたものが忘れられないね。」

Murphy:「ジャズ入門者のボクでも知っている有名曲だね。ゆったりとしたバラードでああジャズだ!と思わせる独特の雰囲気を持っている。それにしても、Djangoくんにソングブック・シリーズを教えてもらって思ったんだけど、エラ・フィッツジェラルドってよくこれだけ多くの曲を歌ってきたものだと感心するね。」

D:「エラのソングブックシリーズは、ジャズヴォーカル界の金字塔ともいえる名作だ。Verveのノーマン・グランツとの出会いにより、前人未到のソングブック・シリーズが出来上がったのだから二人とも凄いね。でも、その中で、ボクが最高傑作だと思っているアルバムは、やはりエリントンのソングブック。これはもう人類の宝と言っても過言ではない。

このアルバムは、エラの伴奏を、エリントン楽団自らが演奏しているからすばらしい。それと、曲ごとに、オーケストラ演奏、コンボ演奏、さらにバーニー・ケッセルのギター一本、あるいはオスカー・ピーターソンのピアノによるシンプルな伴奏も含まれており実に多彩な内容だ。エラとエリントンの引き合わせをノーマン・グランツが企てたのだから、まさに名プロデューサーである。」

M:「なるほど、ノーマングランツだから出来たことか。」

D:「エリントンの曲はいずれエラという第一級の歌手が歌う運命にあったのだ思うと、このソングブック集は感慨深いものがある。実は、エリントンの曲のなかで、ソリチュード(Solitude)は、ピアノかギターのシンプルな伴奏が最もこの歌曲の美しさを発揮すると思っていたんだけど、まさにここでは、バーニー・ケッセルのギター一本による歌伴で実現された。他に、アズール(Azure)と今回採り上げたイン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)も同様だ。でもギター一本で歌える人なんて、ジャズヴォーカリスト多しといえども、そうはいないわけで、エラはまさに適役といえる。

それと、エリントンの片腕、ビリー・ストレイホーンの名作ラッシュライフ(Lash Life)を、オスカー・ピーターソンとのデュオで吹き込んでいるから、これまた貴重な永久保存版ともいえる演奏だ。」

M:「ぼくもジャズのことが少しわかってきたような気がする。改めて聞くけど、ジャズで最も大事なことはなに?」

D:「歌うということ、どんなアドリブ演奏でも結局は歌うということだと思う。実際、すぐれたジャズの名手は、みんな歌いながら演奏している。」

第71回 不滅のジャズ名曲-その71-ソルト・ピーナツ(Salt Peanuts)

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Murphy:「このところ気温も30度近くまで上がりもう夏だね。ところで夏の暑さを吹き飛ばしてくれるジャズで何かいいアルバムない?」

Django:「ジャズに季節は関係ないよ。」

M:「そう簡単に言うなよ。Djangoくんにいろいろ教えてもらったけど、やっぱりビ・バップが一番。パーカーとガレスピーのコンビは、夏の暑さも吹き飛ばしてくれるし、最近よく聴いている。」

D:「よし、それなら、パーカー、ガレスピー路線のビバップ派のアルバムのなかから選ぼう。ズバリ矢野沙織だね。」

M:「矢野沙織って高校生じゃなかった?」

D:「もう高校は卒業しているけど、夏向きジャズで推薦!。彼女のビバップ三部作の第三弾で2005年春にリリースされた、SAKURA STAMPというアルバム。アルバム名は春向きだけど中身は夏向きだ。」

M:「矢野沙織ってこれまで聴いたことないけど、そんなにいいの?」

D:「あたりまえだろう。知らないでは済まされないぞ。」

M:「どんな演奏スタイル? なんとなく女性的なやさしいイメージだけど?」

D:「ぜんぜん違う。バリバリのパーカー派だ。気持ちの良いくらいパーカー的な演奏をする。SAKURA STAMPには、Donna Lee、Shawnuffなどのビバップの有名曲が入っている。それにガレスピーの愉快なソルト・ピーナツ(Salt Peanuts)という曲も吹き込んでいるからおもしろい。ボクは事あるごとにガレスピーの魅力を言い続けているけど、矢野沙織がガレスピーの曲を次々と吹き込んでくれるからうれしいね。

このアルバムは、NYのトップ・アーティストとの共演(2004年)だから文句なしの秀作だ。Nicholas Payton(tp) 、それにPeter Bernstein(g)も参加している。ビバップ好きのMurphyくんには、是非、矢野沙織を聴いてほしいね。」