ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第11回- The Original Quartet With Chet Baker / Gerry Mulligan

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The Original Quartet With Chet Baker [2-CD SET]

Django:「あまりエネルギッシュなジャズだと、普段、家で聴くにはしんどくなる。ライブならいいんだけど。真夏のこの季節、ただでさえ暑いなか、ホットなジャズは聴く回数が減る。

涼しくなるようなジャズってないんだろうか?

家でいつも聴くジャズは、クールなものがいい。BGMで聴くのもいいし、昼寝しながらでもいい。でも、BGMだからといって、ジャズのクォリティは落としたくない。余りスムーズでなめらかなものでも手応えがない。ただ左の耳から右の耳へ素通りしてしまうものもおもしろくない。

では何がいいか? 実は、LP時代から、パシフィック・ジャズ・レーベルをよく聴いていた。繰り返し聴く回数は、ジャズのLPのなかでこのレーベルのものが一番多かったかもしれない。リチャード・ボックが52年に設立したパシフィック・ジャズは、ウエストコーストのレーベル会社。このレーベルのなかで、今でもよく聴くアーティストは、ジェリー・マリガン。バリトンサックス奏者だ。あの大きなごつごつした音色をもつ無骨なバリトンサックスが、彼の手にかかると突然軽快にスウィングしはじめる。

パシフィックレーベル時代のジェリー・マリガンのバンドは、ピアノレスで多くの名演を吹き込んでいる。もちろんトランペット奏者チェット・ベイカーとのコンビで。ピアノが入っていないからサウンド的に引き締まる。マリガンとベイカーの対位的な絡みがすばらしい。何度聴いても飽きない。ボクはこの時代(50年代)のマリガンと60年代のRCAに吹き込んだポール・デスモンドとの共演のいずれも好きで、LP盤でもCDでも家でよく聴いている。

マリガン〜ベイカー・コンビによるピアノレス・カルテットの名演は、CD時代に入りThe Original Quartet With Chet Bakerというアルバム(ブルーノートレーベル)に2枚組でおさめられている。このレーベルは50年代録音のなかでは、LP時代から音質面で定評があっただけに、今聴いてもまったく色あせていない。アルバム全体に漂う、普段着のジャズっていうか、いつでも気楽に聴ける雰囲気がいい。力まかせの演奏はいくらでもあるけど、こういったクールな演奏で、何度聴いても飽きない味わい深い演奏は案外少ないものだ。」

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第10回- Summer Samba / Laura Ann & Quatro Na Bossa

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サマー・サンバ

Django:「真夏にジャズを聴くなら、ボサノバは欠かせない。古くは、アストラッド・ジルベルトから始まり、現在まで多くのボサノバのアルバムがリリースされている。選択肢は多い。今年は何を聴くか。出来れば新譜の方がいい。

でも、案外本当のボサノバの味を持ったアルバムを探すのはむずかしい。まずボサノバに適した歌い手。次にボサノバには欠かせないギター。ボサノバはギターが要。このボサノバ・ギターがうまいと俄然アルバムがよくなる。ボサノバは通常の4ビートジャズとは違った感覚が必要だから、ジャズギタリストなら誰でもよいというわけにはいかない。ナイロン弦だからクラシックのギタリストでも可能というわけでもない。ボサノバは歌もギターも独特だ。当たり前のことだけど、ボサノバ気分というものが出てこないと、ボサノバらしくならない。

では、ボサノバ気分って何だろう。ヴィーナスレコードから最近リリースされたLaura Ann & Quatro Na BossaのSummer Sambaというアルバムを聴いてみたが、これがまさにボサノバ気分だった。ボサノバのアルバムだから、ボサノバ気分が出るのは当たりまえだろう!と言われそうだけど、どのアルバムでもそうとは限らない。強いて言えば、このアルバム、ボサノバ気分100%です、と言う方が適切かもしれない。

ボサノバの名曲にTristeという曲があるが、このアルバムでのTristeの演奏は、まさにボサノバ気分100%だ。スローなテンポでマイナー調のこの曲、ギターのバッキングが意外に難しい。もし、どこかで試聴する機会があれば、是非この演奏を聴いていただきたい。実にゆったりとしたスローテンポでリズムを刻んでいる。ボサノバはせかせかしてはいけない。急いではだめ。力を抜いて静かな波のようなリズムをつくり出さなければならない。4ビートじゃない、2ビートの演奏。十分な間合いを持ったリズムを刻む。実はこれが出来る人がボサノバ向きのギタリスト。Desafinadoのイントロも歯切れよく、しかもせかせかせずゆったりとした雰囲気をキープしている。

アルバムタイトル曲のSamba De Verao[Summer Samba]も実にいい。肩の力を抜いた歌い方とバッキングはまさにボサノバ演奏のお手本だ。Laura Annという歌い手のことはあまりよく知らないけど、ボサノバの歌手として実にぴったりな人。力まず自然体で歌っていながら、この手の歌手によくある素人くささがなく、しっかり声が出ている。うまいから力が抜けている。ボサノバというのは結局、脱力系の音楽なんですね。」

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第9回- Yours Is My Heart Alone / Dan Nimmer Trio

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ユアーズ・イズ・マイ・ハート・アローン

Django:「ジャズはベースとドラムが要。この2人が優れていれば、スリルと興奮に満ちあふれたジャズが味わえる。でも、普段なかなかそういった一流のリズム陣にお目にかかれない。

優れたベースプレーヤーの手にかかると、ジャズの骨格がしっかりと引き締められ、ジャズ特有の強烈なグルーブ感がわき起こってくる。スウィング感だ。みんなこれを求めてジャズを聴いているんだけど、スウィング感というものはそう容易く出せるものではない。

ジャズの醍醐味である、スウィング感やグルーブ感を本当に味わいたいなら、やはりNYの第一線のリズム陣が参加する演奏を聴くべきだ、と常々思っている。ジャズの持つスリルと興奮と熱気は、NYの第一線のリズム陣の演奏を聴いた瞬間に、ああ、これだ!と間違いなく確認できる。

ところで、NYジャズシーンでの第一線リズム陣といえば、ベースがピーター・ワシントン(Peter Washington)、ドラムスがルイス・ナッシュ(Lewis Nash)をあげて、異論を唱える人はいないだろう。この二人がリズム陣として起用されれば、ジャズがまさしくジャズとして目覚める。ルイスのドラムは、剣道にも相通じる瞬発力とスピード感を伴い、抜群の安定感で軽々とスウィングし始める。一方のピーター・ワシントンはロン・カーター以来の腰の据わった重心の低いベースワークで強烈なグルーブ感を醸し出す。そしてこの二人が、チームを組むと、一糸乱れぬ強力なビート感が持続される。

この二人のリズム陣をバックに、今NYのジャズシーンで最も注目すべき若手ジャズピアニストの一人、ダン・ニマー(Dan Nimmer)を起用したピアノトリオアルバムが、昨年の11月に吹き込まれ、今年の5月21日にヴィーナス・レコードよりリリースされた。アルバムタイトルは、ユアーズ・イズ・マイ・ハート・アローン (Yours Is My Heart Alone)

ダン・ニマーは以前にもこのブログで取り上げたが、1982年Milwaukee生まれ。ウィントン・マルサリス率いるリンカーンセンター・ジャズ・オーケストラのピアノ奏者をつとめる。ヴィーナスレコードからすでに2枚のリーダーアルバムがリリースされている。

日頃ジャズに親しんでいる人もそうでない人も、もし、NYの第一級の本物のジャズを聴きたいなら、間違いなくこのアルバムをお薦めします。12曲目のSpeak Low IIの冒頭のピーターワシントンのベースワークに注目してください。この躍動感、これがなかなか出せないんです。10曲目Only Trust Your Heartでのシングルノートのベース、実にいい音ですね。11曲目のFalling In Love With Love、思わず歌い出したくなる親しみやすいジャズスタンダード曲、実にリラックスしたムードを演出しているのもやはりピーターワシントンのベースのお陰です。ラストのWhims Of Chambersは、まさに50年代のジャズ黄金時代のハードバップの再現。ここでもピーターワシントンのベースが、ポール・チェンバースに勝るとも劣らない生き生きしたビート感を打ち出している。そして何より全ての曲を引き締め、時にはものすごい瞬発力を秘めながら、軽やかでのびのびした演奏を繰り広げるルイスのドラムが、このアルバムを支配している。これまでの2作もよかったけど、やはりルイスとピーターの二人の超強力なリズム陣が参加した今回のアルバムは、それ以上の出来ですね。

ところで、ルイス・ナッシュがこの秋の富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル 2008の全国ツアーのために来日する。しかもベースのピーター・ワシントンとともに。これは見逃せないですね。」

【富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル 2008】

■公演期間:2008年10月30日(木曜日) ~ 11月9日(日曜日)

■ルイス・ナッシュ・ビバップ・オールスターズ ≪フィーチャーリング≫フランク・ウエス
ルイス・ナッシュ(ds)/テレル・スタッフォード(tp)/ジェシー・デイビス(as)/マルグリュー・ミラー(p)/ピーター・ワシントン(b)
≪フィーチャーリング≫フランク・ウェス(ts、fl)

●10月30日(木曜日)    東京    Tokyo TUC    A    TUC  03-3866-8393
●10月31日(金曜日)    広島    広島県民文化センターふくやま(エストパルク) 
A    Jazz Spot DUO  084-923-5727
●11月1日(土曜日)    高知    香南市夜須中央公民館 マリンホール   
 A    香南市夜須中央公民館  0887-54-2121
●11月3日(月曜日・祝)    山口    阿武町町民センター 文化ホール   
A  VILLAGE 0838-25-6596
●11月4日(火曜日)    大阪    ザ・シンフォニーホール   
A B C    PROMAX 06-4802-3438
●11月5日(水曜日)    札幌    札幌コンサートホール Kitara   
A B C    BOSSA 011-271-5410
●11月6日(木曜日)    名古屋    名古屋ブルーノート   
A C    名古屋ブルーノート 052-961-6311
●11月7日(金曜日)    名古屋    名古屋ブルーノート   
A B    名古屋ブルーノート 052-961-6311
●11月8日(土曜日)    焼津    焼津市文化センター 大ホール    
B    焼津市文化センター 054-627-3111
●11月9日(日曜日)    東京    東京・ゆうぽうとホール   
A B C    オールアート・プロモーション 03-3441-1173

※出演アーティスト

A  ルイス・ナッシュ・ビバップ・オールスターズ ≪フィーチャーリング≫フランク・ウエス
B    イリアーヌ・イリアス
C    寺井尚子カルテット