
Django:「真夏にジャズを聴くなら、ボサノバは欠かせない。古くは、アストラッド・ジルベルトから始まり、現在まで多くのボサノバのアルバムがリリースされている。選択肢は多い。今年は何を聴くか。出来れば新譜の方がいい。
でも、案外本当のボサノバの味を持ったアルバムを探すのはむずかしい。まずボサノバに適した歌い手。次にボサノバには欠かせないギター。ボサノバはギターが要。このボサノバ・ギターがうまいと俄然アルバムがよくなる。ボサノバは通常の4ビートジャズとは違った感覚が必要だから、ジャズギタリストなら誰でもよいというわけにはいかない。ナイロン弦だからクラシックのギタリストでも可能というわけでもない。ボサノバは歌もギターも独特だ。当たり前のことだけど、ボサノバ気分というものが出てこないと、ボサノバらしくならない。
では、ボサノバ気分って何だろう。ヴィーナスレコードから最近リリースされたLaura Ann & Quatro Na BossaのSummer Sambaというアルバムを聴いてみたが、これがまさにボサノバ気分だった。ボサノバのアルバムだから、ボサノバ気分が出るのは当たりまえだろう!と言われそうだけど、どのアルバムでもそうとは限らない。強いて言えば、このアルバム、ボサノバ気分100%です、と言う方が適切かもしれない。
ボサノバの名曲にTristeという曲があるが、このアルバムでのTristeの演奏は、まさにボサノバ気分100%だ。スローなテンポでマイナー調のこの曲、ギターのバッキングが意外に難しい。もし、どこかで試聴する機会があれば、是非この演奏を聴いていただきたい。実にゆったりとしたスローテンポでリズムを刻んでいる。ボサノバはせかせかしてはいけない。急いではだめ。力を抜いて静かな波のようなリズムをつくり出さなければならない。4ビートじゃない、2ビートの演奏。十分な間合いを持ったリズムを刻む。実はこれが出来る人がボサノバ向きのギタリスト。Desafinadoのイントロも歯切れよく、しかもせかせかせずゆったりとした雰囲気をキープしている。
アルバムタイトル曲のSamba De Verao[Summer Samba]も実にいい。肩の力を抜いた歌い方とバッキングはまさにボサノバ演奏のお手本だ。Laura Annという歌い手のことはあまりよく知らないけど、ボサノバの歌手として実にぴったりな人。力まず自然体で歌っていながら、この手の歌手によくある素人くささがなく、しっかり声が出ている。うまいから力が抜けている。ボサノバというのは結局、脱力系の音楽なんですね。」