ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第13回- Across The Tracks / Scott Hamilton

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アクロス・ザ・トラックス

Murphy:「もう秋だね。朝晩涼しくなってきた。日が暮れるのも早くなったな。秋の夜長にジャズ! 何かいいアルバムない?」

Django:「秋の夜長にリラックスした雰囲気で楽しめるアルバムだろ? アルトよりテナーサックスがいいね。編成はピアノレス。ギターとオルガンなんかが入っているといい雰囲気になる。」

M:「テナーサックスに、ギター、オルガン、ドラムか。よさそうだな。でもピアノレスのアルバムって案外少ないね。新譜で何かある?」

D:「実は、以前にも紹介したけど、テナーサックスの名手、スコット・ハミルトンアクロス・ザ・トラックスという最新アルバム(2008/5/14発売)が、ピアノレスの編成なんだ。リーダーがスコット・ハミルトンだから聴きやすいし、初めてジャズを聴く人にもおすすめのアルバム。スコットは、どちらかといえば昔の古いスタイルのテナーだから、スインギーでよく歌うし、とてもスムーズなジャズなんだ。しかも、コンコードレーベルの創始者、カール・E・ジェファーソンに70年代の後半に見いだされたプレイヤーだけあって、とてもセンスがいい。フュージョン全盛だった当時に、オールドファッションに身を固めたレトロなジャズの魅力を再び世に知らしめた功績は大変なもの。彼の演奏は、スイングジャズからモダンジャズへと移行する過渡期の、中間派と呼ばれる演奏スタイルで、一度聴くと、”ああ、こんなスタイルのジャズが聴きたかったんだ!”と思わず手を叩きたくなるようなプレイを繰り広げる。

今回のアルバムは、2年ぶり。選曲が実に渋い。かつてのサックスプレーヤーたちの愛奏した、隠れた名曲がズラリ並べている。これだけで価値あり!。それと、ピアノレスでギター、オルガンとともにバリトンサックスを加えたユニークな編成が実に素敵だね。おかげで秋の夜長に最適な、落ち着いたなかなか渋いサウンドに仕上がっている。録音は、あのルディー・バン・ゲルダーが担当しただけあって優秀。スムースなジャズ、少しばかりオールドファッションなジャズ、メロディックでよく歌うジャズ、大人のジャズをお探しの人に最適です。」

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第12回- Complete Live in Tokyo 1976 / Barry Harris Trio

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Complete Live in Tokyo 1976

Django:「バリー・ハリス(Barry Harris)といえば、現在もNYで活躍する長老クラスのピアニストで、40年代から50年代にかけてのビバップを今も伝える貴重な存在。ビバップの伝道師ともいわれ、バド・パウエルの直系として今も演奏活動のみならず後任の指導にも力を入れている。

その演奏スタイルは、一言でいえば、”これがジャズだ!”ともいうべき、正当派の演奏だ。

バリー・ハリスは、これまでにも度々来日しているが、最近、1976年に来日の際の、東京の郵便貯金ホールと中野サンプラザでのライブレコーディングを1枚のCDに編集した貴重なアルバム(Complete Live in Tokyo 1976 / Barry Harris Trio)が、イギリスのJazz Lipsレーベルからリリースされた。曲目は12曲収録され、トータルで79分もの長時間におよんでいる。

この時のバリーハリス・トリオのメンバーは、ベースがサム・ジョーンズ(Sam Jones) 、ドラムスがルロイ・ウィリアムス(Leroy Williams)という理想のリズム陣で、白熱した演奏とともに会場のライブの熱気がそのまま伝わってくる。ただ、録音状態は、決してベストとは言えず、特にベースの録音に難点があるのが惜しまれる。

演奏曲目は、パーカーのOrnithology、ガレスピーのSalt Peanuts、モンクのRound Midnightなどビバップの名曲がズラリ並んでいる。また、Like Someone in Love、Tea for Two、I’ll Remember Aprilなどの歌ものも含まれている。

今改めて聴くと、フュージョン全盛時代の70年代にもかかわらず、ひたすらビバップを守り続ける、バリーハリスの気骨あふれるジャズがこのCDからは溢れており、すべてのアドリブフレーズが実に生き生きと伝わってくる。セロニアス・モンクと最後まで親交が深かったバリーハリス、その音楽は、渋くて、深くて、味がある。何度聴いても聴き飽きないどころかますますその魅力が伝わってくる。まさに”これがジャズだ!”と思えるのは、全てのフレーズが聴き手に語りかけてくるからだ。」