第47回 不滅のジャズ名曲-その47-アイ・ヴ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー(I’ve Found a New Baby)

Murphy:「Djangoくんの影響で、モダンジャズ以前の、ニューオリンズ・ジャズに興味を持ったんだけど、リラックスできて気軽に楽しめるアルバムを教えてくれる?」

Django:「ニューオリンズスタイルのジャズで、真っ先にあげなければならないのは、ジョージ・ルイスだろう。1940年代にリバイバルブームが起こり、クラリネットの名手であるジョージ・ルイスは精力的にツアーを行い、数々の名アルバムを残している。このジョージ・ルイスについては以前にも紹介したので、今回は他のアーティストのなかから選ぼうと思うんだけど。」

M:「それならトロンボーンで誰かいない?」

D:「ニューオリンズスタイルのトロンボーンで最も有名なのはキッド・オリー。彼は、1922年に黒人ジャズバンドとして初レコードを吹き込み、その後シカゴで活躍した。1940年代の、リバイバルブームで注目され、生粋のニューオリンズジャズを演奏し、彼の功績により、トロンボーンは一躍ジャズの中心楽器としての地位を確立した。そういった意味では、キッド・オリーはジャズトロンボーンの父といわれる人。」

M:「他には誰かいる?」

D:「ニューオリンズ生まれではないんだけど、もう一人優れたトロンボーン奏者がいる。ジャック・ティーガーデン(Jack Teagarden)。彼は、1905年にテキサス州のヴァーノンで生まれた。1964年にニューオリンズのフレンチ・クォーターで亡くなるまで、多くのバンド歴を持っている。ベニー・グッドマン楽団にも所属していた。彼のトロンボーンは、一言でいえば、実によく歌うトロンボーンで、演奏テクニックと持ち味である詩情豊かな音楽性は、その後のトロンボーン奏者に多大な影響を与えた。また、ヴォーカルもうまい。今回は、彼の50年代のアルバムを紹介しよう。50年代といえば、オリジナル・ニューオリンズ・ジャズが演奏されていた時代から相当の年月が経過しており、このアルバムは、古い時代の単なるコピーではなく、スイング時代を経験してきたなかで、新たな表現としてニューオリンズ・ジャズを解釈している。そういった意味では、Murphyくんのように初めてトラッド・ジャズを聴く人にもほとんど抵抗なく聴けると思う。アルバムタイトルは、Jack Teagarden & Bobby Hackett / Complete Fifties Studio Recordings。Lone Hill Jazzというレーベルから2004年に初CD化されたもの。このアルバムは、ボビー・ハケット(tp)ジャック・ティーガーデン(tb)のそれぞれのリーダーアルバム2枚分を1枚のCDにまとめたもので、全部で23曲収録されている。」

M:「ニューオリンズ・ジャズっていうのは何人編成なの?」

D:「本来は7人編成で、トランペット、トロンボーン、クラリネット、ピアノ、バンジョー、ベース、ドラムスという構成が一般的。このアルバムは、一部テナーサックスやバリトンサックスが入っており、その辺からも時代の新しさがわかる。サックスはジャズの演奏の中では、スイング時代から中心楽器になってきたもので、もともとニューオリンズ・ジャズではサックスは入ってなかった。スイング時代までは、クラリネットが大変重要な役割を果たしていたといえる。アルバムに話を戻すと、このCDは、先ほど説明したように50年代の吹き込みなので、ジャック・ティーガーデンのバンドの演奏はずいぶんモダンになっており、スイング期のリラックスした演奏スタイルを持ち、おそらくモダンジャズに耳慣れた人でも、何の抵抗もなくその良さがすぐにわかるだろう。それに、彼のトロンボーンは、モダンジャズのトロンボーン奏者と比較しても、劣るどころかむしろその魅力は、時代を超えて高まるばかりで、特に彼の歌うようなフレージングは本当に素晴らしい。ゆったりとした気分でリラックスできる演奏だから、いつでも楽しく聴けると思うよ。ところで、I’ve Found a New Babyという曲、知っている?」

M:「知らないなあ。」

D:「このアルバムに収録されているんだけど、素晴らしい演奏だよ。この曲は、ニューオリンズ生まれのSpencer Williamsという作曲家兼ピアニストの1926年の作曲で、作詞はJack PalmerSpencer Williamsは他にも数多くの名曲を生み出している。その2年後には、有名なBasin Street Bluesを作曲している。Royal Garden Bluesも彼の作品。ところで、I’ve Found a New Babyは、チャーリー・クリスチャンもグッドマンのコンボで演奏しているし、 他にはDjango ReinhardtとStephane Grapelliのコンビなど、スイング期には盛んに演奏された。Dマイナーで始まる素敵な曲だから、1回聴いただけで覚えるよ。それと、このCDは、先ほど言ったように2枚のアルバムを1枚に収録しているんだけど、ジャック・ティーガーデンのバンド演奏分(11曲目〜23曲目)は、1957年(Capitalレーベル)のステレオ録音で音質もいいから、その味わいを存分に楽しめるし、これだけでも価値あるCDだと思う。」

※このアルバムは、スペイン、バルセローナのLONE HILL JAZZレーベルから2004年にリリースされており、現在はまだ入手可能。LONE HILL JAZZは、このところ貴重なレア音源を次々と復刻しており、注目すべきこだわりのジャズレーベルである。

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Jack Teagarden & Bobby Hackett/Complete Fifties Studio Recordings

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第46回 不滅のジャズ名曲-その46-フォー・オン・シックス(Four On Six)

50〜60年代のいわゆるモダンジャズ黄金時代の主要レーベルといえば、ブルーノート(Blue Note)プレスティッジ(Prestige)コンテンポラリー(Contemporary)リヴァーサイド(Riverside)などがあげられるが、このうちの、ブルーノートを除く3レーベルの国内発売元がこのほど移籍した。これら3レーベルは、長年国内ではビクターから発売されていたが、2007年4月より、メジャーレーベルであるユニヴァーサル(Universal Music)からリリースされることとなった。

これを記念して、JAZZ THE BEST 超限定 \1,100と称し、4/11に100タイトル、5/16に50タイトル、いずれも初回生産限定版で1100円というおそらくこれまでの国内最安値で一挙に発売される。もっとも輸入版では、米国ファンタジー社からOJC(Original Jazz Classics)シリーズとして、LP時代から低価格で販売されており、80年代には、OJCのLPレコードは国内実売価格1000円前後であったことを今でも記憶している。しかし、CD時代に入ると、値上がりし1500円前後が相場であった。そういった意味では、今度の1100円盤は、これからジャズを聴こうという入門者にとっては願ってもない機会だといえる。

さて、これら3レーベルについて、順を追って紹介すると、まず、プレスティッジは、1949年にボブ・ワインストックにより録音が開始され、その後、オジー・カデナ、テディ・チャールズもプロデューサーとして加わり、文字通りモダンジャズの東海岸における名門レーベルとして君臨してきた。50年代のジャズといえば、ブルーノートと並びまずこのプレスティッジが最強レーベルであった。モダンジャズの黄金時代といわれるビバップ以降の、ハードバップ路線を強力に推進してきたのもこのレーベルだ。ソニー・ロリンズ、マイルス・デイビス、ジョン・コルトレーンを筆頭とするラインナップは、数々の不滅の名盤を生み出し、現在でも最も人気の高いレーベルの一つである。ソニー・ロリンズは、このレーベルに超有名なサキソフォン・コロッサスを吹き込み、他にワンホーンカルテットの傑作を残している。また、マイルスは、50年代前半からCBS時代に移行する直前までの、ハードバップ期の名アルバムを数多く残しており、マイルスをこれから聴いてみようという方は、是非このプレスティッジ時代のアルバムを聴いていただきたい。プレスティッジ・レーベルは、60年代以降は、R&B色が強まり、やや魅力に欠けるレーベルとなった。

プレスティッジが東海岸の名門レーベルであるのに対し、コンテンポラリー・レーベルは、西海岸の50年代の雄であるといえる。1949年にレスター・ケーニッヒにより設立された。彼自身が、プロデューサーをつとめ、気に入ったアーティストだけを厳選してすぐれたアルバム作りを行ってきた。主なアーティストは、アート・ペッパー(as)、チェット・ベイカー(tp)、ハンプトン・ホーズ(p)、バーニー・ケッセル(g)など。特筆すべきことは、このレーベルは、当時の最先端の録音技術を駆使して、50年代の録音であるにも関わらず、現在の水準からみても立派に通用する優れた音質を誇ってきたことだ。このレーベルのアルバムをかけると、自分のオーディオシステムがグレードアップした気分になるくらいそのクオリティーは高い。

リヴァーサイドは、ビル・グロウアーが社長、オリン・キープニュースが副社長となって設立された名門レーベル。初期の頃は、ニューオリンズジャズなどの古い音源の発掘などを手がけ、1955年からモダンジャズの新録音を開始した。ワルツ・フォー・デビーで有名なビル・エバンス(p)のスコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)とのトリオ時代のアルバムは特に有名。セロニアス・モンクもこのレーベルに吹き込んでおり、彼の最高傑作といわれるブリリアント・コーナーズも残している。その他には、50年代後半から60年代にかけて、ジャズ・ギターの分野で幾多の優れたアルバムを残した、ウェス・モンゴメリーも、リヴァーサイドに多くの名盤を残している。

このリヴァーサイドに吹き込んだウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)のアルバムのなかで、ザ・ウェス・モンゴメリー・トリオフル・ハウスなどとともに名盤として今でも人気の高い、インクレディブル・ジャズ・ギター(The Incredible Jazz Guitar)を是非紹介したい。このアルバムは、ギターをリーダーとしたクァルテットアルバムで、管楽器が入っていない分、ウェスの演奏を十分に堪能できる。パーソネルは、ウェス・モンゴメリー(g) 、名脇役のトミー・フラナガン(p) 、MJQのパーシー・ヒース(b)、それにアルバート・ヒース(ds)という当時の理想的なリズム陣で構成されている。

ウェスといえばオクターブ奏法が有名だが、彼のギターは、シングルトーンでも、芯のある太い音を奏で、それだけでも十分迫力がある。ミディアムゲージ以上の太い弦を張り、ピックを使わず右手の親指だけで演奏する。その音色は他に追従を許さぬ独自のものだ。このアルバムのなかで、ウェス自らが作曲した、フォー・オン・シックス(Four On Six)を是非聴いていただきたい。素晴らしいノリで突き進む、彼のジャズギターの特徴が最もよく表れている。

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The Incredible Jazz Guitar of Wes Montgomery

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第45回 不滅のジャズ名曲-その45-ダイナ(Dinah)

ジャズのCDは少し油断して買いそびれると入手困難になることが多い。50〜60年代のいわゆるジャズの名盤といわれるアルバムは、少し待てば再発されるし、それほど問題はない。特に、ブルーノート、プレスティッジ、リバーサイドなどの名門レーベルは、ほとんどいつでも入手可能である。ところが、1980年代以降の比較的新しいジャズCDは、いったん廃盤になると、再発されることも少ない。

現在、NYで若手No.1のトランぺッターといわれる、ニューオリンズ出身のニコラス・ペイトン(Nicholas Payton)のアルバムをもう一度、彼のデビューした当初から聴いてみようと思い、自分が購入してなかったCDを調べてみたが、残念ながら90年代のものは廃盤になっているものが多い。

ニコラス・ペイトンは、1973年9月26日ニューオリンズ生まれ。現在34歳。4歳でトランペットを始め、13歳の時にウィントン・マルサリスと出会い、エリス・マルサリスの「ニューオリンズ・フォー・クリエイティヴ・アーツ」で学ぶ。90年にマーカス・ロバーツの全米ツアーに加わり注目を集める。その後、自己の故郷であるニューオリンズスタイルからスイング、モダン、さらにはそれ以降の、ハービー・ハンコック、ウエイン・ショーターなどの新主流派も含め、まさにジャズの歴史遺産を伝承しつつ、新解釈で数々の名アルバムを録音してきた。

最新作はMysterious Shorter(チェスキー・レーベル)で、ウエイン・ショーターの作品をフィーチャーしたアルバム(2006/10/24 Release)。1997年にリリースされたFingerpainting: The Music of Herbie Hancockは、サブタイトルどおり、ハービー・ハンコックの作品集。ウエイン・ショーターとハービー・ハンコックは、60年代以降の最も重要なミュージシャンであるばかりでなく、作曲家としても今後ますますその評価は高まるものと思われるが、この二人の作品集をニコラスが採り上げたことは注目すべきことだ。

2001年には、ルイ・アームストロング生誕100周年記念トリビュート・アルバムDear Louis(Verve)を発表している。同じニューオリンズ出身でもあり、スタイルもサッチモに似ていることから"ヤング・サッチモ"と呼ばれてきたニコラスが、満を持して発表した話題作。1928年にサッチモが吹き込んだ名曲、 「ウェスト・エンド・ブルース」や戦後の大ヒット曲、「ハロー・ドーリー」などが網羅されている。

ニコラス・ペイトンの一連の作品のなかで、ヴォーカルの入ったユニークなアルバムがある。CDタイトルは、Doc Cheatham & Nicholas Paytonで、Verveから1997年にリリースされたもの。もちろんニコラスはトランペットのみで、ヴォーカルは、ドック・チーサム(Doc Cheatham)(tp,vo)。ドック・チーサムは、このアルバムがリリースされた年に92歳で亡くなっているが、もともとディキシー、スイング系のトランぺッターであり、歌の方も相当な腕前の持ち主。この二人が往年のスイング系の演奏を繰り広げており、リラックスしたなかで時には名人芸的な技をみせながら、最後まで楽しませてくれるアルバムだ。ドック・チーサムの歌にあわせ、ニコラスがオブリガートでやさしくトランペットを奏でるあたりは、思わずこんなヴォーカルアルバムを聴きたかったんだと実感し、これは自分の愛聴盤になること間違いなしと確信したことを今でも強く覚えている。

このアルバムは、実は前回採り上げた、ディキシーの名曲、世界は日の出を待っている(World Is Waiting for the Sunrise)が収録されており、他にStardustや、サッチモやベニー・グッドマンが戦前に盛んに演奏したダイナ(Dinah)も吹き込まれている。とにかく実に楽しいアルバムだ。

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Doc Cheatham & Nicholas Payton Verve1997

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第44回 不滅のジャズ名曲-その44-世界は日の出を待っている(The World Is Waiting For The Sunrise)

前回紹介したBurgandy Street Bluesとならぶ、ジョージ・ルイスの十八番、世界は日の出を待っている(The World Is Waiting for the Sunrise)は、かつて世界中のディキシーランド・ジャズの楽団が盛んに演奏した曲。この曲は、もともとカナダのクラシック系ピアニスト兼指揮者のジーン・ロックハートとその友人であるアーネスト・サイツが合作した歌曲であったといわれている。第一次世界大戦当時に流行したポピュラー曲で、その後、ニューオリンズ・ジャズバンドのスタンダードとなり、後にはベニー・グッドマンやレス・ポールもこの曲を録音している。ジョージ・ルイスのコンサートでは、必ずこの曲が採り上げられている。

東京公演でも(前回紹介のCD)でも、この曲が始まると、待ってましたとばかりに観客から声がかかり、大変な盛り上がりを見せた。ジョージ・ルイスのアルバムで、一時幻の名盤といわれた、1954年3月3日のオハイオ州立大学でのライブレコーディングアルバム、Jass At Ohio Unionでも、この曲が始まると、会場全体に熱気が漂い、素晴らしい演奏を披露された。特に、バンジョーのローレンス・マレロが素晴らしかった。

このオハイオ・コンサートは、会場全体にただならぬ熱気が漂い、当時のジョージ・ルイスバンドの巡回コンサートへの大変な歓迎ぶりが伺える。この時は、ロサンジェルスから東部までの長い巡業のなかの途中であったらしい。1954年のコンサートであるから、ニューオリンズ・ジャズ誕生から数えると、既に半世紀ほど経過しており、決して時代の先端ではなく、どちらかといえばトラッドな過去の音楽であるにも関わらず、観客は同時代的なリアリティのなかでこのバンドの演奏を存分に楽しんでいたように思える。

ジョージ・ルイスをはじめ、各プレイヤーと、観客が一体となり、会場を興奮のルツボに巻き込んだこの日のライブの熱気は、レコードを通してこちらの方までダイレクトに伝わってきた。LPレコード2枚組のボックスセットから1枚目のレコードを取り出したときは、最後まで聴く気はなかったのだが、針をおろした瞬間から惹き込まれ、2枚目の終わりまで一気に聴いたのを覚えている。

このアルバムを聴いて、ニューオリンズ・ジャズというのは、ワイルドでラフで俗っぽくて、時には崇高ともいえる音楽だと思った。人間の喜怒哀楽がすべて含まれ、これほど各プレイヤーが理屈抜きで生き生きと音楽を奏でられるということが自分には驚きであった。ドラムスのジョー・ワトキンスのヴォーカルは、南部なまりで、洗練されておらずワイルドであるが故に文句なしの説得力を持つ。地域色が豊かであるからこそ、誰もが新鮮に感じるのだ。トロンボーンのジム・ロビンソンは、Ice Creamで迫力満点のソロを見せる。バンジョーのローレンス・マレロも大活躍。

ニューオリンズ・ジャズは、かつてはローカル音楽だったのが、ラジオ、レコードなどにより1930年代の終わり頃から、アメリカ中に知れ渡るようになった。そして一大センセーションを巻き起こした。いわゆるニューオリンズジャズ・リバイバルだ。戦後も、このジョージ・ルイスのオハイオコンサートに例をみるように、ジョージ・ルイスらの全米ツアーにより多くの感動を与え、人気は衰えなかった。また、ヨーロッパでもブームが起きた。60年代には、日本でもツアーが行われ、多くの人々にディキシーランド・ジャズの魅力や楽しさを教えてくれた。しかし、1968年12月31日にジョージ・ルイスは亡くなる。本当のニューオーリンズジャズバンドの終わりであった。(Djangoより)

※参考文献:河野隆次: JASS AT OHIO UNION(BMC-4032〜33) LPレコード ライナーノート

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※このアルバム(JASS AT OHIO UNION 徳間ジャパン)は、2000/3/16にリリースされましたが、新品は入手困難です。

ジャズ・アット・オハイオ・ユニオン

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第43回 不滅のジャズ名曲-その43-バーガンディ・ストリート・ブルース(Burgandy Street Blues)

最近街のどこのレコード店に行っても、ジャズのコーナーでジョージ・ルイス(George Lewis)のCDが見あたらない。大型ストアでは、アルファベット順に並んでいるなかで、一応 ジョージ・ルイスのタグは、存在するのだが、一枚も入っていないことが多い。ジョージ・ルイス に限らずニューオリンズ・ジャズはめっきり影をひそめてしまった。かつて、LP時代には、ジョージ・ルイスといえば、OJC盤などを含め10枚程度のレコードが置いてあったのに。世の中で次第に忘れ去られようとしているトラディッショナル・ジャズ。レコード店の現状を見るとそう思わずにはいられない。

ジョージ・ルイスは、1900年にニューオリンズ市で生まれた。奇しくもこの年に、もう1人のニューオリンズ出身の巨人、ルイ・アームストロングも生まれている。1940年代にニューオリンズ・リバイバルブームが訪れ、その頃からバンク・ジョンソンとともに、ニューオリンズ・ジャズの代表的存在として認められるようになった。その後、天性の音楽的才能と素朴で暖かみのあるヒューマンな人柄により、その名声は次第にアメリカ全土にまで及んだ。

1960年代の前半、63年、64年、65年の3年にわたり日本にやってきて、延べ250回にもおよぶコンサートを行った。1963年の東京厚生年金でのコンサートは、深い感動をもたらした歴史に残る伝説のライブといわれている。当日の模様は、幸いにもキングレコードが、レコーディングを行い、LPをリリースし名盤となった。その後、85年にそのCD版が発売された。2004年8月にも再リリースされたので、現在でもまだ入手が可能である。録音状態も良く、今でもそのライブの熱気を高音質で味わうことができることは、有り難いことだ。

歴史に残る名演がレコード化され、今でもその演奏が聴けるということの有り難みをつくづく感じるアルバムの一つが、このアルバムで、タイトルは、ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963。このアルバムに初めて触れたのは今から20年以上前になるが、これがきっかけで、ディキシーランド・ジャズにも興味を持つようになった。それまではひたすらビバップ以降のいわゆるモダンジャズばかりを聴いていたし、当時ジャズ喫茶に行っても、モダンジャズばかりで、普段からあまり耳にする機会がなかったので、ディキシーランド・ジャズについては、特に強い関心を持っていたわけではなかった。

ところが、このアルバムを初めて聴いて、大変深い感銘を受けた。特に驚いたのは、ジョージ・ルイスのクラリネットだった。8曲目のバーガンディー・ストリート・ブルース(Burgandy Street Blues)は、ジョージ・ルイス自らの作曲で、彼の十八番中の十八番であり、この静かな曲を聴いて、しみじみと響き渡る彼のクラリネットが、聴き終わったあとも、いつまでも自分の心に残り、忘れられなかった。彼のクラリネットは、独自の奏法でユニークなスタイルを持っており、他の誰もがそう易々とまねのできないものである。

セントルイス・ブルースが3曲目に入っている。普段聞き慣れたセントルイス・ブルースとは随分異なり新鮮だ。ジョー・ワトキンズのヴォーカルを是非聴いていただきたい。ヴォーカルの後は、ジョー・ロビショーのピアノが続く。このブギスタイルのピアノは、ロックンロールにつながるノリの良さを持っており、これなら今の若い人が聴いても、けっこう惹かれるのではないかと思う。そこへバンジョーが絡む。最後のルイスのクラリネット・ソロが光る。

エマニュエル・セイレスのバンジョーを聴いて、これは到底ギターで代用は無理だと思った。あの歯切れの良さ、カラッとした音色は、ディキシーラン
ド・ジャズには不可欠である。どうしてバンジョーが入っているのか、初めてわかったような気がした。それ以来、バンジョーにも関心を持つようになった。
バンジョー抜きでは魅力は半減する。このアルバムの最後を飾る聖者の行進での、彼のバンジョー・ソロは圧巻である。フォスターのスワニー河が出てくる。

この歴史的記録を収録したアルバムのライナーノートは、野口久光、油井正一という、かつて日本のジャズ論壇を代表した両氏が書かれ、ニューオリンズ・ジャズ研究家の平松喬氏も寄稿されている。ライナーノートの冒頭で野口久光氏は、ジョージ・ルイスの音楽について以下のように記されている。(Djangoより)

「ある人たちが古いとおもい込んでいるジョージ・ルイスのジャズには素朴ではあるが純粋な美の追究、ヒューマンな温いこころが脈打っていてわれわれに大きなよろこびと感銘を与えずにおかない。」(野口久光、ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963 ライナーノート、1963年)

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ジョージ・ルイス&ニューオルリーンズ・オールスターズ、イン・トーキョー1963
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第42回 不滅のジャズ名曲-その42-スティープルチェイス(The Steeplechase)

パーカーの名曲スティープルチェイス(The Steeplechase)。この曲を最初に聴いたのは、パーカーのサヴォイ(SAVOY)盤だった。メンバーは、Charlie Parker (as)、Miles Davis (tp)、John Lewis (p)、Curly Russell (b)、Max Roach (ds)。ダイアルのパーカーよりもサヴォイの方が気に入って、ほぼ日常的に聴いていた。サヴォイ盤は、何回聴いても聴き飽きなかった。はじめはマスターテイクで満足していたが、その後、全テイクの入ったアルバムを入手して、それぞれのテイクごとの違いを楽しむようになった。でも、普段聴くときは、マスターテイクの方がよい。同じ曲を何度も聴かずに済むからだ。

学生時代に同級生が、パーカーのNow’s The Timeを口笛で吹いていた。もちろんテーマだけだった。さすがにDonna Leeあたりは、口笛ではなかなか難しいと思うが、これなら可能かも知れないと思い、自分でも練習した。でも、もともと口笛がそれほど得意でないので、あまりうまく吹けなかった。自分で一番吹きたかったのは、スティープルチェイス(The Steeplechase)だった。この曲は、パーカーの数ある曲のなかでも特に気に入り、他のサックス奏者のアルバムでも、この曲が入っているとつい買ってしまうようになった。

あるとき、ワーデルグレイ(Wardell Gray)のアルバムのなかで、スティープルチェイスが入っているのを発見し、すぐにその場で買って帰った。アルバムタイトルは、邦題がザ・チェイス、オリジナルは、The Chase and The Steeplechaseというまさに、曲そのものがアルバムタイトルになっていた。このアルバムは、ワーデルグレイ(ts)、デクスター・ゴードン(ts)、ボビー・タッカー(p)、ドン・バグレー(b)、それにドラムスがチコ・ハミルトン。2曲目に入っているスティープルチェイスは、収録時間が14分近くにも及ぶ長時間セッションで、ライブの雰囲気を存分に楽しむことができる。

ワーデル・グレイは、歌うようなフレージングが次から次へと沸き上がり、聴いている方も思わず惹き込まれる。代表作は、プレスティッジから出ている、ワーデル・グレイ・メモリアル、Vol.1と2の2枚のアルバム。1950年から52年の録音。B000000y3501_sclzzzzzzz_sl210__1残念ながら、彼は1955年に亡くなり短命に終わっている。だから、作品の数は少なく、それほど知名度も高くなかった。しかしそのアドリブは一度聴くと忘れられないほどの魅力を持ち、聴き手を引きつける。フレーズが自然でなめらかだ。しかも、フレーズの間(ま)が絶妙で、全く抵抗なく聴き続けられる。こちらの耳が、積極的にアドリブ展開を聴き逃さないように追いかけるようになる。ソニー・ロリンズ出現以前では、最もよく歌うモダンテナーだとも言われている。チェースのアルバムでは大和明さんがライナーノートを担当。岡崎正通さんとの共著モダン・ジャズ決定版で、氏は以下のようにワーデル・グレイを絶賛している。(Djangoより)

「レスター・ヤングとチャーリー・パーカーを統合化しモダン化したテナーマンで、歌心とスイング感に溢れたくつろいだプレイは他のテナーマンの追従を許さぬものがある。」(大和明、岡崎正通:モダンジャズ決定版、音楽の友社、1977年)

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ワーデル・グレイ=デクスター・ゴードン/ザ・チェイス (紙ジャケット) DECCA
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第41回 不滅のジャズ名曲-その41-星影のステラ(Stalla By Starlight)

DjangoよりMurphyくんへ:

前回(第40回)ジャズ・ヴォーカルの素敵なアルバムとして、ジューン・クリスティを紹介しましたが、このジューン・クリスティ、以前に採り上げたクリスコナーとならんで、忘れてならないシンガーがいます。それは、アニタ・オデイ(Anita O’day)。アニタは、この2人の先輩格にあたります。白人女性ヴォーカルのトップといえる存在です。アニタは、ジーン・クルーパ楽団、スタン・ケントン楽団を経て独立。スイングジャズもモダンジャズも自在にこなします。1918年生まれ。

今からずいぶん前(15年以上前)になりますが、いつもポータブルCDプレーヤーを持ち歩き、レコード屋で買った時にもすぐに聴けるようにしていました。アニタ・オデイを初めて聴いたのは、実は、このポータブルCDプレーヤーにヘッドフォンをつけて聴いたのが最初です。彼女の存在は、もちろん知っていたのですが、そのうち購入しようと思いながら、LP時代は一度も買ってなかったということです。どうして買わなかったのか、よくわかりませんが、なぜかジャケットを見てあまり気が進まなかったのかも知れません。でも、50年代から60年代のアルバムですから、決してジャケットデザインに魅力がなかったわけではなく、アニタの容姿ももちろん悪くありません。単に購入を見送っていたというだけです。

ところが、ヘッドフォンで初めて聴いたとき、その本格的な歌唱力に驚きました。ジャズシンガー特有の楽器のように自在に歌いこなす力量、スキャットのうまさ、どんなアップテンポの曲でも、バックの伴奏に遅れをとらないどころか、リードしていくスピード感など、いやもう正直言って予想以上の素晴らしさで思わずうれしくなりました。この1枚のCDを買ってよかったという思いとともに、これまで自分がアニタのアルバムを買ってなかったことが、つくづく悔やまれました。でも、こんな素晴らしいシンガーを見つけたのだから、これからじっくり聴いていけばいいという気持ちにもなり、なにか宝物を探し当てたような喜びを正直、感じたわけです。

そのときのアルバムは、アニタの50年代の名盤アニタ・シングズ・ザ・モスト(Anita Sings The Most)です。1956年の録音ですが、これが自分にとってもアニタ・オデイとの出会いです。バックは、オスカー・ピーターソン・トリオにドラムスが加わりカルテットでの演奏。1曲目のS’Wonderfulから、ピーターソン独特の急流下りのようなスピード感に乗って、アニタは、ものすごい速さで軽々とフレーズを渡り歩いていく。歌に力みがなく、全く自然体で歌える人、だからスイングする。喉によく効くハーブ・エリスのギターも、アニタのスキャットに刺激されてか、Them There Eyesで全快。アニタのスキャットもハーブ・キャンディ効果でさらに調子が高まる。

6曲名に入っている、星影のステラ(Stalla By Starlight)を、電車のなかで何回も繰り返し聴きました。書店で自分の欲しい本を見つけたときや、素晴らしいオーディオの音に触れたとき、あるいは欲しいカメラをやっと探し当てたときのような、本当に好きなものを見つけたときに、からだのなかでエネルギーがグッとわき起こってくる感覚が、彼女の音楽を聴いて感じられました。

クリス・コナーやジューン・クリスティを知りながら、アニタ・オデイを知らなかった、その頃がなつかしく、彼女の歌声からその時の自分が、今でも思い出されます。彼女の歌は、料理で言えば、あっさり味で淡泊で、ベタベタしていない、サラッとしているんですが、味付けは決して単調ではなく、バリエーション豊富で、何回聴いても飽きがこないという印象です。

一生に一度でいいからアニタ・オデイのライブを聴きたかった、とつくづく思ったのがアニタ・オデイ・アット・ミスター・ケリーズです。このアルバムは、1958年にシカゴのミスター・ケリーズでのライブ録音で、バックはピアノ・トリオ。大阪梅田にある同名のミスター・ケリーズというライブハウスへ行くたびに、このアルバムのことを思い出します。もう少し、早く気がついたらアニタのライブが聴けたのに。

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※アニタ・オデイは、Verveレーベルに50年代から60年前半にかけての数々の名盤を残しているが、追悼企画として、今月(2007/3/7)一気に16枚のアルバムが復刻再発売された。しかも、今回のアルバムは、オリジナルLPに忠実な紙ジャケット仕様で、新規にオリジナル・アナログマスターからリマスタリング。

アニタ・シングズ・ザ・モスト(紙ジャケット仕様) 1956年 Verve

パーソネル:オスカー・ピーターソン

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第40回 不滅のジャズ名曲-その40-ミスティ(Misty)

Django:「40回目ということで、今回はとっておきのジャズ・ヴォーカル・アルバムを紹介しよう。このアルバムは、意外に知られていないんだ。」

Murphy:「白人女性歌手で、さりげなく自然に歌っていながら、それでいてジャズ・フィーリングが豊かな人の方が、ボクはいいんだけど。」

D:「Murphyくんの好みはわかっているよ。ジューン・クリスティ(June Christy)がまさにそのとおりだ。もともと、スタン・ケントン楽団で歌っていただけあって、歌の実力は相当なもの。歌い方に変なクセがなく、聴きやすい。そうかといって、一般のポピュラー歌手とは違って、自然なジャズ・フィーリングが備わっている。」

M:「スタン・ケントン楽団っていえば、クリス・コナーもそうじゃなかった?」

D:「そのとおり。クリス・コナーの先輩格に当たる人。この二人はともに白人知性派ジャズ・シンガーともいわれていた。以前にクリス・コナーを採り上げたときに、いずれ、ジューン・クリスティも紹介しようと思っていた。今回は、ジャズの名曲中の名曲といわれる、エロール・ガーナー(1921〜77)が1954年に作曲した、ミスティが収録されているアルバムをおすすめしたいね。しかも、クリスティは、この曲を、アル・ヴィオラ(Al Viola)のクラシックギターの伴奏だけで歌っている。」

M:「それはよさそうだ。しかも曲がミスティだからね。」

D:「この曲、飛行機の機内で聴けばいっそう雰囲気が出るよ。」

M:「機内?」

D:「この曲は、有名な話なんだけど、エロール・ガーナーが、ニューヨークからシカゴに行く飛行機の中で、窓から霧深い情景を眺めていて浮かんだメロディーをもとに作曲したらしい。」

M:「ところで、アル・ヴィオラってどういう人?」

D:「アル・ヴィオラは、1919年NYブルックリン生まれのジャズ・ギタリストで、幼少の頃からギターを始め、チャーリー・クリスチャンに傾倒してプロになった。クラシックギターでも演奏し、特に歌伴では定評のある人。歌伴のうまい人は、ピアノでもギターでもそうなんだけど、本当に実力のある人。名脇役っていうのは、相手の気持ちを汲み取りながら、そのシンガーの実力を引き出し、いかに歌いやすくサポートしていくかという点で抜きん出ている人だから。」

M:「録音は相当古いの?」

D:「いや、1962年だからまだ比較的新しいよ。」

M:「62年で新しいって! 録音悪そうだな。」

D:「ジャズを聴いているものにとって、1962年っていうのは、そんなに古くない。ここでちょっとオーディオの話をしておくと、50年代末から、ステレオ録音になり、録音技術は完成域に入っている。ある意味では、今の時代を基準に考えても、この時代は、相当音質の優れた時代であったと言える。こと、録音技術に関しては、50年代後半から60年代中頃までが、ある意味で黄金時代。真空管マイクロフォン、真空管アンプを使用し、テープレコーダー技術も相当なレベルに達していた。オーディオに全精力が傾けられていた時代だね。」

M:「そうか。そういえばブルーノートの名録音もその時代だ。」

D:「ところで、話を戻すと、ジューン・クリスティのアルバムのタイトルは、ジ・インティメイト・ミス・クリスティ(The Intimate Miss Christy)聴きやすくて、センスがよく、しかも本格的なジャズ・フィーリングに溢れたこのアルバムは、広くジャズ・ヴォーカル入門の方にもお薦めします。ギター1本、あるいはフルートとギターの伴奏だけで、ジャズを歌える人は、そう多くはない。相当な実力シンガーでないとむずかしい。そんななかで、肩の力を抜いてさりげなく歌う、リラックスしたなかで、余裕を持って大人の歌を聴かせる、クリスティはそんなシンガーです。このアルバム、2006年9月Blue Note Records(U.S.)より再発売され、今なら購入可能です。」

 ◇◇◇

The Intimate Miss Christy/June Christy 1962

Intimate_miss_christy

第39回 不滅のジャズ名曲-その39-ムーンライト・セレナーデ(Moonlight Serenade)

Murphy:「映画スウィング・ガールズの影響がまだ残っていて、ビッグバンドをもう少し聴いてみようと思うんだけど。家にあるグレン・ミラーの古いアルバムは録音も古いし、新しい演奏でなにかおもしろいものってない? せっかくビッグバンドを聴くんだったら最新CDの方が録音もいいからな。」

Django:「録音は古くてもオリジナル演奏はやっぱり価値あるよ。」

M:「それは、わかっっているけど。」

D:「そういえば、昨年ルイス・ナッシュに会ったとき、2004年にグレン・ミラーとかカウント・ベイシーの有名曲を録音したって言ってたね。2004年は、二人の生誕100年目にあたり、それにちなんだアルバムが企画されたって。..確か、湯どうふ定食を食べていたときだ。」

M:「へえー、ルイス・ナッシュって、湯どうふ食べるの?」

D:「彼はベジタリアンで、大の日本食好きだよ。日本に来たときは、湯どうふとか鍋物をよく食べている。「ゆず」とかも知っているしね。」

M:「それで体力が持つの?」

D:「全然問題ないらしいね。その方がヘルシーだし。..ちょっと、話が脱線したので、もとに戻すと、ルイス・ナッシュが参加したそのアルバムは、スーパー・トロンボーン/ムーンライト・セレナーデ〜プレイズ・グレン・ミラー&カウント・ベイシーというタイトルで、普通の編成と違って、なんとトロンボーンが4人。それにピアノとベースとドラムスが加わり7人編成で演奏している。メンバーは、トロンボーンが、ジム・ピュー、コンラッド・ハーウィグ、デイヴ・バージェロン、デイヴ・テイラー(b.tb)。あと、ピアノがビル・メイズ、ベースがチップ・ジャクソン、それにルイス・ナッシュのドラムス。編曲があのデビッド・マシューズ。この顔ぶれをルイス・ナッシュから聞いて、次の日に買ったんだ。」

M:「曲目は?」

D:「Murphyくんの期待している曲が全部入っているよ。グレンミラー作曲した大ヒット曲ムーンライト・セレナーデ(Moonlight Serenade)、イン・ザ・ムード (In The Mood )、茶色の小瓶(Little Brown Jug )など、あと、ベイシーのヒット曲、ワン・オクロック・ジャンプ(One O’clock Jump)、ジャンピング・アット・ザ・ウッドサイド(Jumping At The Woodside)も入っている。小編成で、しかもトロンボーンが4人だから、かなりユニークでおもしろいサウンドだよ。ピアノのイントロに続き、スローテンポでトロンボーンがムーンライト・セレナーデのメロディを奏でるあたりはなかなかいいね。」

M:「サウンドはどんな感じ?」

D:「どの曲も、暖かみのある柔らかいトロンボーンのサウンドに対し、ルイスナッシュのドラムスがそれらを引き締め、素晴らしいコントラストを成している。編曲が秀逸だね。」

 ◇◇◇

Super Trombone:ムーンライト・セレナーデ~プレイズ・グレン・ミラー&カウント・ベイシー
【パーソネル】
ジム・ピュー(tb) コンラッド・ハーウィグ(tb) デイヴ・バージェロン(tb) デイヴ・テイラー(b.tb) ビル・メイズ(p) チップ・ジャクソン(b) ルイス・ナッシュ(ds) 2004
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第38回 不滅のジャズ名曲-その38-ソフト・ウインズ(Soft Winds)

Murphy:「北欧インテリアの、木質を生かしたシンプルでモダンなカフェがあるんだけど、今回はその空間にマッチする音楽をアドバイスしてくれる?」

Django:「北欧のインテリアっていうと、まず家具を思い浮かべるね。有名な"Yチェア"もそうだったかな。」

M:「そう、デンマークのアルネ・ヤコブセンがデザインしたもの。あと、セブンチェアも彼の代表作で、そのカフェで使っている。北欧家具は飽きのこないシンプルさと機能性を尊重してきたし、見た目の美しさと実用性が共存しているからボクも好きなんだ。それで、Djangoくん、どんな音楽がいい?」

D:「リラックスしたムードのなかで、温かみのある音楽かな。それこそ北欧のジャズを流せばいいんじゃない?」

M:「なるほど。北欧のジャズってどんな感じ?」

D:「スウェーデンは、とてもジャズが盛んで、生活に密着している。どちらかと言えば、泥臭くなく、上質で洗練されている。超絶技巧や迫力で圧倒する方じゃなく、じっくり聴かせるタイプ。北欧インテリアが素材を生かしたデザインを得意としているように、北欧ジャズもアコースティック楽器本来のサウンドを最大限生かしたものが多い。だから、リラックスして聴けるし、スインギーな演奏だ。特にジャズをいつも聴いていない人でも抵抗なく十分楽しめるよ。」

M:「ずいぶん前に採り上げたグループも北欧だったね。確か、スイート・ジャズ・トリオ。あれ本当に気に入ってるよ。コルネットとギターの組み合わせが抜群だった。」

D:「あのイメージだよ、北欧ジャズ。他に最新アルバムでいいのがたくさんある。ギターが入ると、リラックスできて、しかも聴きやすいし、空間イメージがずいぶん変わると思うね。今、一番おすすめしたいのは、スウェーデン生まれ(1959)のジャズ・ギタリスト、ウルフ・ワケーニウス(Ulf Wakenius)。オスカー・ピーターソンが、絶賛し、現代のスウェーデンで最も国際的な活躍をしている一人。実は、1997年からオスカー・ピーターソン・カルテットのレギュラー・メンバーでもある。これまでに何枚かアルバムを出しているんだけど、昨年(2006年6月)、イン・ザ・スピリット・オブ・オスカー(In the Spirit of Oscar)というグループを結成し、ケーク・ウォーク(Cake Walk)というファースト・アルバムをリリースした。さすがにオスカーの薫陶を受けただけあって、実によくスイングしている。収録曲は、オスカーの曲が多いんだけど、古い曲も入っている。例えば、ベニー・グッドマンの演奏で有名な、ソフト・ウインズ(Soft Winds)。」

M:「聞いたことないなあ? その曲。」

D:「あまり有名じゃない。でも、この曲、実は、チャーリー・クリスチャンが、グッドマンのバンドで演奏していた曲。そういった意味では、なかなか興味深いよ。フレッチャー・ヘンダーソンが作曲したともいわれている。まずアルバムの1曲目、"ケーキウォーク"を聴けば、Murphyくんもすぐに気に入ると思うな。」

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スウェーデンのジャズギタリスト、ウルフ・ワケーニウスの最新アルバム

ケークウォーク/イン・ザ・スピリット・オブ・オスカー Savvy 2006/06 Release

Cakewalk