第98回 不滅のジャズ名曲-その98-ストレート・ノー・チェイサー(Straight No Chaser)

413kev3v3ml_aa240_

Live at the 1964 Monterey Jazz Festival

Django:「ストレート・ノー・チェイサー(Straight No Chaser)セロニアス・モンクが1951年に作曲した、Eb majorのシンプルな12小節ブルース。1958年にマイルスが、CBSレーベルからリリースされたMilestonesにこの曲を録音。以降、多くのミュージシャンが同曲を演奏している。」

Murphy:「モンクの作品のなかでも特に有名な曲だね。」

D:「今回紹介するアルバムは、2007年の夏に初めて世に出た文字通り新譜で、タイトルはLive at the 1964 Monterey Jazz Festival。このアルバムは、西海岸の有名なジャズ・フェスティバル、Monterey Jazz Festivalにセロニアス・モンクが1964年に出演したライブをCD化したもの。

実は、Monterey Jazz Festivalが今年で50周年を迎えたことを記念して、同フェスティバルとコンコード社の提携により、新レーベル"Monterey Jazz Festival Records"が発足した。貴重な未発表ライブ音源が続々とCD化され始め、その内の1枚がこのアルバム。

今回のライブでのパーソネルは、Thelonious Monk(p), Charlie Rouse(ts), Steve Sawllow(b), Ben Liley(ds)のカルテットが主体で、Think Of OneStraight No Chaserの2曲は、他に4名が加わりビッグバンド編成になっている。演奏内容は、カリフォルニアでのフェスティバルだけあって、1曲目のBlue Monkの冒頭から、終止一貫してリラックスしたムードのなかで展開されており、非常に聴きやすく親しみやすいものになっている。」

第97回 不滅のジャズ名曲-その97-ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)

41ei5ea80l_aa240_

ミステリオーソ+2

Django:「当初の予定通り、このシリーズは100回で一応終わり!」

Murphy:「今回で97回目か。100回で終わるとなると、今回を含めてあと4回だね。」

D:「100回ぐらいでは、まだまだ少ないけど、一つの区切りにしよう。採り上げていない曲はたくさんある。今回は、ジャズ史上まさに不滅の名曲、ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)セロニアス・モンク(Thelonious Monk)が作曲したもののなかで、最も有名な曲。1944年作。モンク自身のこの曲の初レコーディングは、1947年でブルーノート・レーベルに残した。」

M:「そういえば、80年代の半ばに同名の映画が作られたね。」

D:「そう。テナーのデクスター・ゴードンが主演だった。ところで今回紹介するアルバムは、NYの有名なファイブ・スポット・カフェでの1958年のライブレコーディング。アルバムタイトルは、ミステリオーソ(Misterioso)。テナーのジョニー・グリフィン(Johnny Griffin)が参加している。もちろん、ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)も含まれている。

モンクは、他とは異なる独自の和音とリズムで、孤高のピアニストと言われたけど、その音楽性の高さは、没後ますます評価されている。また、数々のユニークな名作を生み出し、作曲家としての名声も高まるばかりだ。現在NYのジャズシーンでは、必ずと言っていいほど、セッションのなかでモンクの曲をとりあげるミュージシャンが多い。残念ながら、モンクの評価は、日本より欧米の方が高いようだ。今年はモンクの生誕90周年にあたる。

初めて聴けば無骨なピアノに思えるモンクの不思議な魅力、聴いていて飽きない深みのある響き。巧みな空間表現とでもいうべきか、間が生きている。このアルバムは、初めてジャズを聴く人には少しむずかしいかもしれないが、ジャズに少し親しんだ人なら是非!」

第96回 不滅のジャズ名曲-その96-ホワッツ・ニュー(What’s New?)

51frjwyzyol_aa240_コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.3&ミルト・ジャクソン

Murphy:「ジャズを初めて聴く人、モダンジャズの入門として、たった一枚のアルバムを選ぶなら、Djangoくんはどれを選ぶ?」

Django:「入門編だからといって、中途半端なものは選びたくないね。入門だからこそ、これぞモダンジャズの決定版!というものを選ばないと。でないと、次から聴かなくなるからね。でも、いつでも店頭にならんでいる超名盤と称されるものは敢えてさけたい。

そこで、ヴィンテージ盤というか、いつまでも色あせない、これぞモダンジャズの原点として、とっておきのアルバムを紹介しよう。

ブルーノートレーベルの5011番。アルバムタイトルは、"コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.3&ミルト・ジャクソン / WIZARD OF VIBES"。実はこのアルバム、2つのセッションをカップリングしたもの。1つは、モダン・ジャズ・カルテット(MJQ)の母体ともなった1952年のセッション。メンバーを紹介すると、ミルト・ジャクソン(vib)、ルー・ドナルドソン(as)、ジョン・ルイス(p)、パーシー・ヒース(b)、ケニー・クラーク(dms)。このメンバーを見てわかるように、後のMJQレジュラーメンバーにルー・ドナルドソンが加わっている。ここがポイント。

2つ目は、1948年のセロニアス・モンクとの歴史的な共演。メンバーは、ミルト・ジャクソン(vib)、セロニアス・モンク(p)、ジョン・シモンズ(b)、シャドウ・ウィルソ(dms)。」

M:「アルバムジャケットもいいね。」

D:「特にブルーノート5000番台のジャケットデザインは実にいい味が出ている。ところで、このアルバムは、2つのセッションを通していずれの演奏も素晴らしく、すべてが決定的名演だと思うが、あえて1曲選ぼう。その曲は、ジャズ・スタンダード屈指の名曲として、多くのミュージシャンに愛されている曲。ホワッツ・ニュー(What’s New?)Bob Haggartによる1939年の作曲。

へレン・メリルがクリフォード・ブラウンをバックにこの曲を吹き込んだアルバムは有名。他にパーカー、ファッツ・ナバロ、ビル・エバンスなどがこの曲の名演を残している。ミルト・ジャクソンのこのアルバムでの演奏も、実に味わい深い演奏だ。誰が聴いても、冒頭からのあの何とも言えない独特の香りに酔いしれることまちがいなし。」

M:「ミルト・ジャクソンといえば、バグス・グルーブが有名だけど、ここでの演奏はどう?」

D:「MJQの多くのアルバムにこの曲を吹き込んでいるけど、ここでは、アルトサックスのルー・ドナルドソンが加わっているから、実に新鮮。一段と充実している。

それにしても、ブルーノートRVGセレクション、リマスター技術により随分音がよくなったものだ。録音年月日が古いからといって敬遠する人がいれば、是非一度聴いてもらいたいね。先入観が変わるよ。ブルーノートは5000番台がいい! 

初めてジャズに接する人、クラシック好きの人、ジャズを少しでも聴いてみたいと思ったことのある人、ヴィンテージ風の味わいを求めている人、全17曲モダンジャズの醍醐味がぎっしり詰まった、このアルバムからスタートです。」

第95回 不滅のジャズ名曲-その95-ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス(Polka Dots And Moonbeams)

35354

ニューヨーク・ララバイ

Django:「第91回で採り上げた、フランチェスコ・カフィーソ(Francesco Cafiso)のファーストアルバム。2005年NYで録音。当時弱冠16歳。アルバム名は、ニューヨーク・ララバイ/フランチェスコ・カフィーソ・ニューヨーク・カルテット。パーカー直系のスタイルを完全に自分のものとし、実に表情豊かに歌っている。」

Murphy:「これもヴィーナス・レコードからリリースされたの?」

D:「そう。1曲目のバードランドの子守歌を聴いたとたん、とても16歳の少年とは思えなかった。表現の幅の広さ、堂々としたプレイに驚かされてしまう。力もあり、しかも歌うような演奏。リズム感が抜群だ。

ところで、Jimmy Van Heusen作曲のポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームス(Polka Dots And Moonbeams)が3曲目に入っている。この曲は、1940年に作られ、フランク・シナトラが歌い大ヒットした。ウエス・モンゴメリーやビル・エバンスをはじめ多くのプレーヤーがこの曲を吹き込んでいる。名曲だ。そして名演奏だ。」

第94回 不滅のジャズ名曲-その94-チェルシー・ブリッジ(Chelsea Bridge)

51rgn4cd8vl_aa240_

ザ・コンプリート・オーバーシーズ+3 ~50th・アニバーサリー・エディション~

Django:「デューク・エリントンの片腕として活躍したビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)が作曲した名曲、チェルシー・ブリッジ(Chelsea Bridge)。1941年の作。そのチェルシー・ブリッジを、名ピアニスト、トミー・フラナガン(Tommy Flanagan)は1957年に録音している。

そのアルバム(オーバーシーズ)は、ピアノトリオの屈指の名盤と言われた。スイングジャーナルの第1回ゴールドディスクにも輝いた。ベテランのジャズ・ファンならみんな知っているアルバム。」

Murphy:「1957年というと、ちょうど50年前になるね。」

D:「そう。50年が経過し、この12月にコンプリート・ヴァージョンが再発された。そして今回は、チェルシー・ブリッジの別テイクが2曲初収録されている。」

M:「チェルシー・ブリッジは、特にエリントン、ビリー・ストレイホーンが好きなDjangoくんに薦められて、ぼくも知っている曲だね。」

D:「このアルバムは、スウェーデンのストックホルムで録音された。ドラムスは、エルビン・ジョーンズ、ベースはウイルバー・リトル。80年代半ばまで一時入手困難な時期もあったこの名盤を、誕生50周年に再発企画したDIWの功績は大きい。」

第93回 不滅のジャズ名曲-その93-オール・ブルース(All Blues)

Jacket_m

July 5th~Live at BIRDLAND New York~(紙ジャケット仕様)

Django:「ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)の最新アルバム聴いた?」

Murphy:「いやまだ。NYのバードランドでのライブ・レコーディングだね。11月21日に2枚同時発売され、気になっていた。」

D:「現役最長老といってもいい、89歳になるハンク・ジョーンズのピアノトリオアルバムで、2007年7月5日のライブがJuly 5th  Live at BIRDLAND New York、翌日の6日の方が、July 6th Live at BIRDLAND New York。曲目も大変興味深いね。2枚とも最新録音だけ合って、当日にライブの熱気が実にリアルに収録されている。5日の方はスタンダード曲が中心。選曲がいいね。7曲目に、マイルスの作曲したオール・ブルース(All Blues)が、そして8曲名には、ソニー・ロリンズのセント・トーマス(St. Thomas)、ラストが同じくロリンズのオレオ(Oleo)。こういうアルバムが発売されることは、実にうれしいね。2枚とも永久保存盤!」

第92回 不滅のジャズ名曲-その92-ノー・プロブレム(No Problem)

35360

ティー・フォー・トゥー

Django:「ウイントン・マルサリス率いるリンカーン・センター・ジャズ・オーケストラのピアノ奏者といえば、相当な実力の持ち主だということを、すぐにイメージするが、実は、そのピアニストが、ダン・ニマー(Dan Nimmer)。年齢は、20代前半。その彼のデビューアルバムがこれ。 ティー・フォー・トゥ(Tea For Two)というタイトルで、ヴィーナスレコードに2005年の夏、録音された。」

Murphy:「ウィントン・ケリーに傾倒しているらしいね。」

D:「そう。ケリーやガーランドを思い出させるブルース・フィーリング豊かなピアニストだね。このアルバムの7曲目に出てくる、ノー・プロブレム(No Problem)という曲は、曲名自体は知らなくても、誰もが耳にしたことのある有名曲。デューク・ジョーダンの作曲で、映画「危険な関係」の主題曲。要注目のピアニスト。」

第91回 不滅のジャズ名曲-その91-マイルストーンズ(Milestones)

353741

天国への七つの階段

Django:「 イタリアの10代の若手アルト・サックス奏者、フランチェスコ・カフィーソ(Francesco Cafiso)のセカンドアルバム。アルバム・タイトルは、天国への七つの階段(Seven Steps To Heaven)。2006年1月録音。1989年生まれだから当時17歳。パーカー直系のスタイルをわがものにして、現在急成長中。」

Murphy:「確かデビューアルバムは、ニューヨーク・ララバイで16歳のときだったね。」

D:「今回のセカンドアルバムは、全編バラードの一作目とは打って変わって、アップテンポの曲を収録しパワフルだ。アルバムの6曲目には、マイルスの名曲、マイルストーンズ(Milestones)を吹き込んでいる。これがまた素晴らしい。」

第90回 不滅のジャズ名曲-その90-Cジャム・ブルース(C Jam Blues)

35320

ラブ・ユー・マッドリィ

Django:「キーがCメジャーのシンプルなブルース・リフ、Cジャム・ブルース(C Jam Blues)は、デューク・エリントンの有名なナンバー。この曲は、もともとエリントン楽団のメンバーで、ニューオリンズ生まれのクラリネット奏者、バーニー・ビガード(Barney Bigard)がよく吹いていたそうだ。そのリフを1942年にデュークがアレンジしたらしい。この曲のノリの良さ、12小節のシンプルなブルースは、その後多くのピアニストに愛された。」

Murphy:「Cジャム・ブルースといえば、レッド・ガーランドの有名なGroovyというアルバムを思い出すね。確か1曲目に入っていた。」

D:「そのとおり。Prestigeレーベルに1957年に録音された、超有名なアルバム。」

M:「みんな知ってるアルバムだね。ところで、今回は誰の演奏?」

D:「今回も、新しい録音のなかから選んでみた。やはり、ビル・チャーラップ(Bill Charlap)がいいね。エリントン・ナンバーばかりを集めた、ラブ・ユー・マッドリィ (Love You Madly)というアルバム。2003年にN.Y.で録音され、ヴィーナス・レコードより発売された。その中の9曲目にこの曲が収録されている。レッド・ガーランドよりもスローなテンポで演奏している。このアルバム、これまでのエリントン曲集とは違い、アプローチが個性的で新鮮だ。耳を澄ましてじっくり聴ける。何回聴いても飽きない。アルバムに収録された11曲、すべて素晴らしい。永久保存盤!

このアルバムは、Swing Journal選定ゴールドディスクに選ばれた。名盤だと思う。」

第89回 不滅のジャズ名曲-その89-恋人よ我に帰れ( Lover Come Back To Me)

35344

星へのきざはし

Django:「"Lover Come Back to Me”は、大変有名な曲でジャズスタンダードとしてこれまで多くのプレーヤーに演奏されてきた。"恋人よ我に帰れ"と訳されている。  Oscar Hammerstein II(作詞)、Sigmund Romberg(作曲)の名コンビにより、1928年に作られたブロードウェイ・ミュージカル、"ザ・ニュー・ムーン"のナンバー。ジャズ・ヴォーカルでは、ミルドレッド・ベイリーが1938年に録音しており、この曲の決定的名唱といわれている。その後、ビリー・ホリデイも1944年に録音している。ヴォーカル以外では、ロイ・エルドリッジが1936年、レスター・ヤングが1946年、ディジー・ガレスピーが1948年にそれぞれ吹き込んでいる。」

Murphy「最近の録音で、おすすめは?」

D:「こういう1920年代から30年代の曲を演奏させたら、ピアノでは、やはりビル・チャーラップ(Bill Charlap)がうまいね。2004年秋にヴィーナス・レコードに録音された、Stairway To The Stars(星へのきざはし)というアルバムの1曲目に収録されている。冒頭から思わず引き込まれる。軽やかなタッチで聴き手を引きずり込む力は、この人ならではもの。歌うような演奏。しかもスリルがあり斬新だ。このアルバムは、スイングジャーナル誌の読者のリクエストに応えたスタンダード曲を収録しており、初めてジャズを聴く人から、ベテランまで広くおすすめできる名アルバム。」

M:「あれー、確かLover Come Back to Meって、以前に採り上げたんじゃなかった?」

D:「あっ、そうだった! 思い出した。第60回でね。その時はホッド・オブライエン・トリオの演奏だった。」