ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第12回- Complete Live in Tokyo 1976 / Barry Harris Trio

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Complete Live in Tokyo 1976

Django:「バリー・ハリス(Barry Harris)といえば、現在もNYで活躍する長老クラスのピアニストで、40年代から50年代にかけてのビバップを今も伝える貴重な存在。ビバップの伝道師ともいわれ、バド・パウエルの直系として今も演奏活動のみならず後任の指導にも力を入れている。

その演奏スタイルは、一言でいえば、”これがジャズだ!”ともいうべき、正当派の演奏だ。

バリー・ハリスは、これまでにも度々来日しているが、最近、1976年に来日の際の、東京の郵便貯金ホールと中野サンプラザでのライブレコーディングを1枚のCDに編集した貴重なアルバム(Complete Live in Tokyo 1976 / Barry Harris Trio)が、イギリスのJazz Lipsレーベルからリリースされた。曲目は12曲収録され、トータルで79分もの長時間におよんでいる。

この時のバリーハリス・トリオのメンバーは、ベースがサム・ジョーンズ(Sam Jones) 、ドラムスがルロイ・ウィリアムス(Leroy Williams)という理想のリズム陣で、白熱した演奏とともに会場のライブの熱気がそのまま伝わってくる。ただ、録音状態は、決してベストとは言えず、特にベースの録音に難点があるのが惜しまれる。

演奏曲目は、パーカーのOrnithology、ガレスピーのSalt Peanuts、モンクのRound Midnightなどビバップの名曲がズラリ並んでいる。また、Like Someone in Love、Tea for Two、I’ll Remember Aprilなどの歌ものも含まれている。

今改めて聴くと、フュージョン全盛時代の70年代にもかかわらず、ひたすらビバップを守り続ける、バリーハリスの気骨あふれるジャズがこのCDからは溢れており、すべてのアドリブフレーズが実に生き生きと伝わってくる。セロニアス・モンクと最後まで親交が深かったバリーハリス、その音楽は、渋くて、深くて、味がある。何度聴いても聴き飽きないどころかますますその魅力が伝わってくる。まさに”これがジャズだ!”と思えるのは、全てのフレーズが聴き手に語りかけてくるからだ。」

第73回 不滅のジャズ名曲-その73-オーニソロジー(Ornithology)

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Breakin’ It Up

Django:「今もNYで活躍するビバップの伝導師、バリー・ハリス(Barry Harris)の初リーダー作Breakin’ It Up(1958年)が、欧州のJAZZ BEATレーベルからこの6月に再発された。音質はかなりよくなっている。しかも、オリジナル盤の8曲以外に、初リーダー作の翌日にソニー・スティット(Sony Stitt)も加わり録音された9曲もボーナス・トラックとして収録されている。実は、この9曲は、ソニー・スティット名義でBurnin!というタイトルで発売されたアルバム。今回のこの復刻盤には12ページのブックレットが付いている。ビバップの好きなMurphyくんにおすすめだね。」

Murphy:「バリー・ハリスといえば、これまでにも何枚かのアルバムをDjangoくんに紹介してもらったけど、今ではボクの愛聴盤になっている。このアルバムはどんな曲が入っているの?」

D:「おなじみのジャズ・スタンダード、オール・ザ・シングス・ユー・アー(All The Things You Are)や、パーカーがダイアル・レーベルに吹き込んだ彼のオリジナル曲、オーニソロジー(Ornithology)など。」

M:「オーニソロジーってむずかしい名前だったので、以前に辞書で調べたんだけど、鳥類学という意味だったね。パーカーのニックネームがバードだから、そのような曲名を付けたんだね。」

D:「そのとおり。オリジナルのパーカー演奏もいいけど、ピアノでバリー・ハリスが奏でると、新鮮で、いっそうこの曲の良さが引き出されるね。ボーナストラックのソニー・スティットが加わった方でも、Lover Man、Koko、Easy Livingなどの名曲が入っている。ソニー・スティットは最もパーカー的な演奏だから、バリー・ハリスとの相性も文句なし。」

M:「バリー・ハリスって年齢はいくつぐらい?」

D:「1929年生まれだから、今年で78歳。今やビバップ・スタイルのジャズピアノを継承する大変貴重な存在。彼は、現在NYのリンカーンセンター近くで、自らワークショップを主宰して多くのミュージシャンを育てている。まさに伝導師だ。」

第61回 不滅のジャズ名曲-その61-あなたに降る夢(It Could Happen to You)

このシリーズも60回を終え、いよいよ第61回を迎えることになりました。「ジャズに名曲なし、アドリブあるのみ」とよくいわれたものですが、昔から「ジャズに名曲あり」といつも思い続けています。ジャズ・スタンダード曲は、もともと映画主題歌やミュージカルなどの挿入歌であったものが多く、いわゆる「歌もの」と呼ばれているものは、メロディが美しく、印象的で、しかもコード進行が魅力的なものが実にたくさん存在しています。

今回は、そういったジャズスタンダード曲のなかでも、とびきりメロディが美しく、一度聴いたら忘れられない名曲を選んでみました。1944年のパラマウント映画、ミュージカル・コメディ And the Angels Sing(邦題:そして天使は歌う)の主題歌で、It Could Happen to You(あなたに降る夢)という明るく軽快な曲です。(作曲Jimmy Van Heusen、作詞Johnny Burke)。

ジョー・スタッフォードのヒット曲でも知られるこの曲は、ジューン・クリスティやダイナ・ワシントンなど、多くのボーカリストに愛されてきました。また、マイルス・デイビスも 1956年にRelaxin’ with the Miles Davis Quintetに吹き込み、ソニー・ロリンズも The Sound of Sonny(1957年)に名演を残し、他に、バド・パウエル、チェット・ベイカーなど、実に多くのジャズプレーヤーに演奏されてきました。

さて、今回、この屈指の名曲を採り上げましたが、あまりにも名演が多くて、誰のアルバムを選ぼうかと考えたのですが、なかなか絞りきれません。そこで、比較的新しい録音(1995年)で、ライブレコーディング、しかもアーティスト秘蔵のテープであったものが、ついに2006年にリリースされたというアルバムを紹介します。演奏は、これまで採り上げた人で、一人は、前回紹介したピアニストのホッド・オブライエン(Hod O’Brien)、もう一人もピアニストで、54、55、56回に連続して掲載したバリー・ハリス(Barry Harris)で、なんと、この二人の共演アルバムです。

アルバム名は、Hod Meets Barry :Hod O’Brien Trio with Barry Harris "Live"で、ヴァージニア大学で95年11月5日に行なわれたコンサートを収録したもので、2006年に初めてリリースされました。ホッド・オブライエンと先輩格のバリー・ハリスという、二人のバップ・ピアニストの共演は、貴重なレコーディングで、想像どおり、素晴らしい演奏を展開しています。このアルバムは曲目も魅力的で、パーカーの名曲、Moose the Mouche、Ornithologyなど、他に Round Midnightも収録され、アルバムのラストは、パーカーのYardbird Suiteをホッド・オブライエンの奥さんが歌っています。(Django)

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ホッド・ミーツ・バリー“ライブ”(Hod O’Brien Trio with Barry Harris "Live")

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第56回 不滅のジャズ名曲-その56-ムース・ザ・ムーチェ(Moose The Mooche)

Murphy:「ジャズピアノというのは硬質で力強く明確なフレーズを奏でるような男性的なタイプと、やわらかくて雰囲気たっぷりに弾くどちらかといえば女性的なタイプに分かれるような気がしたんだけど、前回のバリー・ハリス(Barry Harris)は硬質のタイプと思った。ぼくはどちらかといえばそういったタイプの方が好きなんだけど、Djangoくんどう思う?」

Django:「確かにバリー・ハリスは、そちらの方だね。いわゆるパウエル派といわれる人は、Murphyくんのいう男性タイプに相当するかな。ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーたちが40年代にビ・バップ・ムーブメントを起こした頃から、ピアノのスタイルも変わってきた。バド・パウエルがその先兵で、新しいモダンなピアノ奏法が出現した。一言で言えば、ホーンライクな奏法。右手で管楽器のようなフレーズを奏で、左手はどちらかといえばかなり省略した和音をサブ的に用いて、トランペットやサックスのように単音でアドリブフレーズを次々に展開していくスタイル。このパウエル・スタイルをこれ以降の多くのピアニストたちが用いるようになった。だからそういった意味では、当時のピアニストの大半がパウエル派といえる人たちで、バリー・ハリスもその1人。

多くのパウエル派のなかでも、バリー・ハリスは、当時の典型的なバップ・フレーズを奏でるタイプの人。シングルノートで次々とアドリブ展開していくので、右手のタッチはとても重要になる。力強く歯切れのよい音で、鋭いタッチがバップフレーズを生きたものにしていく。だから思わず引き込まれる。」

M:「なるほど。確かに右手のタッチが鋭い。だからいわゆるモダンジャズらしさが感じられるんだね。それと、音にムダがない。」

D:「そうなんだ。装飾的な音はあまり用いない。いわゆるビバップの典型的なフレイジングを次々と展開していく。時代は少し遡るけど、30年代の終わりから、チャーリー・クリスチャンが現れて、ジャズギターに革命を起こした。彼の演奏は、まさにホーンライクなスタイルで、当時開発されたエレクトリックギターを使ってアンプで増幅し、シングルノートでアドリブを展開していった。」

M:「そういった意味では、ピアノにおけるバド・パウエルの果たした役割と似ているんだね。」

D:「ところで、バリー・ハリスの1960年の吹き込みで、アット・ザ・ジャズ・ワークショップ (At The Jazz Workshop)というアルバムがあるんだけど、ここではそういったピアノによる典型的なビバップ演奏が聴ける。このアルバムは、サンフランシスコのジャズクラブでのライブレコーディング。チャーリー・パーカー作曲のムース・ザ・ムーチェ(Moose The Mooche)が入っている。バリー・ハリスは、まさにビバップのお手本のようなアドリブを繰り広げる。ムダがない。バネのような右手の鋭いタッチがパーカー特有のシンコペーションを伴ったリズム感を強調していく。有名な曲なのでMurphyくんも知っていると思うけど、オリジナルのパーカーの演奏と聴き較べてみてもおもしろいよ。」

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Moose The Mooche (Music by Charlie Parker)

|B♭  |Cm7 F7 |B♭   |Cm7 F7|
|B♭7   |E♭7 A♭7|B♭   |Cm7 F7|

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※このCDは2007年4月にユニバーサルより超限定版1100円で発売された。

バリー・ハリス:アット・ザ・ジャズ・ワークショップ

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第55回 不滅のジャズ名曲-その55-スター・アイズ(Star Eyes)

Murphy:「バリー・ハリス(Barry Harris)のコンコード・レーベルに吹き込んだLive at Maybeck Recital Hall, Vol. 12は素晴らしいね。つくづくこういうアルバムが欲しかったんだと思った。それで、バリー・ハリスに興味を持ったんだけど、Djangoくん、他のアルバムを教えてくれる?」

Django:「Live from New York, Vol. 1という最新アルバムがある。昨年(2006年)の夏にLineageというマイナーレーベルからリリースされた。NYのライブハウスでのライブレコーディング。こちらは、ピアノソロではなく、トリオ。ジャズの名曲がズラリ並んでおり全10曲、最初の曲がスター・アイズ(Star Eyes)。この曲はGene De Paulの1943年の作品。1942年に作曲した四月の思い出(I’ll Remember April)に続く当時の大ヒット曲。パーカーを初め、アート・ペッパーもMeets the Rhythm Sectionに吹き込み、ティナ・ブルックスもMinor Move(Blue Note)で秀作を残している。

バリー・ハリスのこのアルバムは、他に、 PerdidoNight in TunisiaTea for Twoなどのスタンダード曲が収録されている。前回でも言ったように、バリー・ハリスはパウエル直系のバップピアニストで、今や貴重な存在。聴けば聴くほど味が出る演奏は、前回紹介したピアノソロアルバム同様で、このアルバムもライブだからリラックスしたなかに、長年ピアノを引き続けてきた彼ならではの洒脱なセンスのよさが溢れている。いずれ入手困難になることは間違いないだろう。パーカーが好きで、ビバップ派のピアニストを捜している人にはまさに至福のアルバムだね。Murphyくん、今からでも遅くないから、彼のアルバムはコツコツ集めておいた方がいいよ。」

M:「バリー・ハリスなんて全然知らなかった。Djangoくんからバリー・ハリスのことを聞いて、自分で調べてみたんだけど、鳩の写真のジャケットで有名なサド・ジョーンズ(Thad Jones)のザ・マグニフィセント・サド・ジョーンズ(Blue Note)でピアノを弾いていたんだね。」

D:「そのとおり。ちなみにサド・ジョーンズは、前々回に紹介したハンク・ジョーンズと兄弟で、ドラムのエルヴィン・ジョーンズを含めてジョーンズ3兄弟だ。」

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Live from New York, Vol. 1 : Barry Harris Trio 2006

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第54回 不滅のジャズ名曲-その54-パーカーズ・ムード(Parker’s Mood)

Murphy:「前回のハンク・ジョーンズのアルバムのように、気軽に聴けるピアノソロのCDを紹介してくれる?」

Django:「コンコードのLive at Maybeck Recital Hallシリーズのなかで、第12回のアルバムは、バリー・ハリス(Barry Harris)のピアノソロなんだけど、これがまた素晴らしい。バリー・ハリスは、パウエル派のピアニストのなかでも通好みで、聴くほどに味が出てくる演奏をする人。ビバップが好きな人に最適なピアニストだ。一聴すればなんでもないんだけど、さりげない音のなかに隠された微妙なニュアンスが込められている。

Live at Maybeck Recital Hallでは、全10曲収録されており、これがまた申し分ない選曲だ。ラストがパーカーの有名なブルースナンバー、パーカーズ・ムード(Parker’s Mood)で、冒頭から惹き込まれるよ。リラックスしたなかにキラリと光る洒脱なセンスが素晴らしい。ブルージーな雰囲気が空間を包み込む。ジャズの醍醐味がピアノ一台で堪能できる。本当はこういったピアノソロこそ、身近でいつまでも飽きずに聴けるんだ。」

M:「そのアルバムは今でも入手できるの?」

D:「いや残念ながら入手困難だね。1990年にリリースされたんだけど。また再発されるかもしれない。」

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Live at Maybeck Recital Hall, Vol. 12 : Barry Harris 1990

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