第90回 不滅のジャズ名曲-その90-Cジャム・ブルース(C Jam Blues)

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ラブ・ユー・マッドリィ

Django:「キーがCメジャーのシンプルなブルース・リフ、Cジャム・ブルース(C Jam Blues)は、デューク・エリントンの有名なナンバー。この曲は、もともとエリントン楽団のメンバーで、ニューオリンズ生まれのクラリネット奏者、バーニー・ビガード(Barney Bigard)がよく吹いていたそうだ。そのリフを1942年にデュークがアレンジしたらしい。この曲のノリの良さ、12小節のシンプルなブルースは、その後多くのピアニストに愛された。」

Murphy:「Cジャム・ブルースといえば、レッド・ガーランドの有名なGroovyというアルバムを思い出すね。確か1曲目に入っていた。」

D:「そのとおり。Prestigeレーベルに1957年に録音された、超有名なアルバム。」

M:「みんな知ってるアルバムだね。ところで、今回は誰の演奏?」

D:「今回も、新しい録音のなかから選んでみた。やはり、ビル・チャーラップ(Bill Charlap)がいいね。エリントン・ナンバーばかりを集めた、ラブ・ユー・マッドリィ (Love You Madly)というアルバム。2003年にN.Y.で録音され、ヴィーナス・レコードより発売された。その中の9曲目にこの曲が収録されている。レッド・ガーランドよりもスローなテンポで演奏している。このアルバム、これまでのエリントン曲集とは違い、アプローチが個性的で新鮮だ。耳を澄ましてじっくり聴ける。何回聴いても飽きない。アルバムに収録された11曲、すべて素晴らしい。永久保存盤!

このアルバムは、Swing Journal選定ゴールドディスクに選ばれた。名盤だと思う。」

第89回 不滅のジャズ名曲-その89-恋人よ我に帰れ( Lover Come Back To Me)

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星へのきざはし

Django:「"Lover Come Back to Me”は、大変有名な曲でジャズスタンダードとしてこれまで多くのプレーヤーに演奏されてきた。"恋人よ我に帰れ"と訳されている。  Oscar Hammerstein II(作詞)、Sigmund Romberg(作曲)の名コンビにより、1928年に作られたブロードウェイ・ミュージカル、"ザ・ニュー・ムーン"のナンバー。ジャズ・ヴォーカルでは、ミルドレッド・ベイリーが1938年に録音しており、この曲の決定的名唱といわれている。その後、ビリー・ホリデイも1944年に録音している。ヴォーカル以外では、ロイ・エルドリッジが1936年、レスター・ヤングが1946年、ディジー・ガレスピーが1948年にそれぞれ吹き込んでいる。」

Murphy「最近の録音で、おすすめは?」

D:「こういう1920年代から30年代の曲を演奏させたら、ピアノでは、やはりビル・チャーラップ(Bill Charlap)がうまいね。2004年秋にヴィーナス・レコードに録音された、Stairway To The Stars(星へのきざはし)というアルバムの1曲目に収録されている。冒頭から思わず引き込まれる。軽やかなタッチで聴き手を引きずり込む力は、この人ならではもの。歌うような演奏。しかもスリルがあり斬新だ。このアルバムは、スイングジャーナル誌の読者のリクエストに応えたスタンダード曲を収録しており、初めてジャズを聴く人から、ベテランまで広くおすすめできる名アルバム。」

M:「あれー、確かLover Come Back to Meって、以前に採り上げたんじゃなかった?」

D:「あっ、そうだった! 思い出した。第60回でね。その時はホッド・オブライエン・トリオの演奏だった。」

第59回 不滅のジャズ名曲-その59-ブルー・スカイズ(Blue Skies)

Django:「ブルー・スカイズ(Blue Skies)という曲、知ってる?」

Murphy:「聞き覚えのある曲名だけど、思い出せない。確か、以前にDjangoくんが紹介したアルバムのなかで出てきたような気がするけど。」

D:「そのとおり。ジャズヴォーカリストのバーバラ・リーのアルバム(彼女の名前がアルバム・タイトルになっている)のなかに入っていた曲で、アーヴィング・バーリン(Irving Berlin)という人が1927年に作詞・作曲した。ベニー・グッドマンのヒット曲でもある。1938年のカーネギーホール・コンサートでも演奏している。」

M:「アーヴィング・バーリンという人は有名な作曲家なの?」

D:「アメリカン・ポピュラーソングの作詞作曲家。いわゆるシンガー・ソング・ライターだね。ジョージ・ガーシュインは、アーヴィング・バーリンのことを、”アメリカのシューベルト”と呼んで敬愛していたそうだ。Murphyくんも知っている、I’m Dreaming of a White Christmas〜♪で始まるホワイト・クリスマス(White Christmas)は、彼の代表作(1940年)。出世作は、1919年のアレクサンダース・ラグタイム・バンド(Alexander’s Ragtime Band)。他に有名な曲では、チーク・トゥ・チーク(Cheek to Cheek)など。彼は長生きした人で、1888年生まれで1989年に亡くなっている。

ところで、このブルー・スカイをピアノ・トリオで演奏した好アルバムがあるので紹介しよう。ビル・チャーラップ(Bill Charlap)が、ピーター・ワシントン(b)ケニー・ワシントン(ds)と組んで、2000年にブルー・ノートに録音したWritten In The Starsというアルバムで、4曲目に入っている。ビル・チャーラップは以前に紹介した、ビリー・ストレイホーンの名作集、ラッシュ・ライフ(Lash Life)にも参加しており、今最も充実した演奏を聴かせてくれるピアニスト。スタンダード曲の解釈における洞察力や構成力が見事。ピアニストからフォルテシモまでのダイナミックレンジを生かした彼の演奏は、ピアノという楽器の素晴らしさを改めて教えてくれる。いつも歌心溢れ、最新録音版でありながら、古き良き時代のジャズの香りを今に伝えてくれる。かといって単なるオールド色に彩られた音楽ではなく、新しい時代の若々しい感性が溢れ、どの曲も一貫して高い音楽性を維持している。リズム陣も素晴らしい。」

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Bill Charlap Trio : Written in the Stars (Blue Note 2000年5月NY録音)

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第49回 不滅のジャズ名曲-その49-ラッシュ・ライフ(Lush Life)

Django:「今月の新譜で素晴らしいアルバムがリリースされたので、Murphyくんに紹介しよう。その前に、ビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)という人知っている?」

Murphy:「知っているよ。前回出てきたエリントン楽団のA列車で行こうを作曲した人だろう。」

D:「そのとおり。このビリー・ストレイホーンの作曲した数々の名曲を、ブルーノート・アーティスト達により新録されたアルバムが東芝EMI(BlueNoteレーベル)より4/11に国内リリースされた(輸入版は既に1/23リリース)。スペシャル・ゲストに、あのピアノの名匠、ハンク・ジョーンズが参加。アルバムタイトルは、ラッシュ・ライフ(Lush Life)。」

M:「ラッシュ・ライフといえば、以前にDjangoくんが紹介してくれた、ガンバリーニもアルバムを出していたね。」

D:「そう。ラッシュ・ライフは、1938年にストレイホーンがエリントン楽団に入る前に書いた曲で、エリントン楽団入団オーディションのための曲だったといわれている。いわばストレイホーンの出世曲だといえる。さすがに名曲だけあって、ナット・コールをはじめ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレイなど、多くの歌手が歌っている。彼の作曲したなかで一二を争う人気曲。

ストレイホーンは、この曲を書いてエリントンに認められ、以後エリントンの片腕として、次々と傑作を発表した。前回採り上げた、A列車で行こうサテン・ドール、日本語で雨切符と訳されているレイン・チェックチェルシーの橋などいずれも40年代以降のエリントン楽団の代表作。

エリントンの片腕、ストレイホーンは、残念ながら1967年に亡くなった。今年の5月はちょうどストレイホン没後40年にあたる。実は、昨年、アメリカでストレイホーンの90分ドキュメンタリーフィルムが作られたが、このアルバムはそのサウンドトラック版。」

M:「ラッシュ・ライフは誰が歌っているの?」

D:「ダイアン・リーブス(Dianne Reeves)ラッセル・マローン(Russell Malone)のギター伴奏一本で歌っている。ラッセル・マローンといえば、NYで現在、ピーター・バーンスタインと並んで人気のギタリスト。あと、4曲目に入っている名曲サテン・ドール は、ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)のピアノソロ。他に、ビル・シャーラップ(Bill Charlap)が、ファンタスティック・リズム、トンク、ヴァルスの各曲でピアノソロを担当。このあたりを聴いただけで、いかにこのアルバムが魅力的で、貴重なアルバムであるかがわかる。
とにかく久々の永久保存版ともいえる内容の深い傑作だ。」

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Billy Strayhorn: Lush Life / Blue Note 2007年新譜

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