第15回 不滅のジャズ名曲-その15- サマータイム(Summertime)

Django:「Murphyくん、今回はだれもが知っている名曲、サマータイム(Summertime)を選びました。」

Murphy:「サマータイムね。みんな知っているよ。」

D:「そうだろうな。誰の作曲かわかる?」

M:「さあ、作曲家までは知らないけど。かなり古い曲のようだね。作曲者はジャズ・ミュージシャン?」

D:「いや違う。これはクラシック好きの人でもよく知っている作曲家だよ。」


M:「本格的な作曲家かな。でもアメリカ人でしょう?」

D:「そう。ジョージ・ガーシュイン(George Gershwin)という人。20世紀前半のアメリカを代表する作曲家だね。おそらく、彼の作品はジャズ・ミュージシャンにとって欠かせないものだろう。サマータイムは、彼の有名なオペラ、「ポーギーとベス」のなかで歌われた曲で、漁師の妻クララが歌う子守歌だよ。」


M:「へえー、子守歌だったの?」

D:「そう。だからスローテンポなんだよ。黒人霊歌の「時には母のない子のように」をヒントに作曲したらしい。」


M:「ボクもこれまでにサマータイムは、いろんな演奏を聴いたと思うけど。改めて聴いてみようか。おすすめは?」

D:「これはやっぱり、歌だから、ジャズヴォーカルのなかから選ぶ方がいいね。ガーシュインは、素晴らしい歌曲をたくさん作曲しているよ。ジャズシンガーにとっては、いろんなジャズのスタンダード曲をマスターし、自分のレパートリーとして増やしていきながら、いずれガーシュインが歌えるようになることが、1つの目標だよ。だから、ガーシュインの名曲集をレコーディングしている歌手は、間違いなく実力派で、一流だね。」


M:「たとえば、誰がいるの?」

D:「名曲集は、ソング・ブックといわれるんだけど、まず、エラ・フィッツジェラルド。それと、クリス・コナー。この二人のソング・ブックは、間違いなく傑作といえる。ガーシュインの歌を、30曲以上歌える人はそう多くはないよ。」


M:「そうか、ソング・ブックか。…で、どちらをすすめる?」

D:「どちらもいいよ。今回は、クリス・コナーにしよう。クリス・コナーの、ソングブックのなかで歌っている、サマータイムは、伴奏がピアノトリオでとてもシンプル。ジャズシンガーの実力が最もあらわれるスタイルだね。アルバムでは、「サマータイム」、「ニューヨーク行きの船が出る」、「愛するポーギー」の3曲がメドレーで歌われている。どれもオペラ「ポーギーとベス」からの曲。このメドレーが実に素晴らしい。」


M:「どういう風に?」

D:「「サマータイム」は、しっとりとスローテンポ。次の「ニューヨーク行きの船が出る」はアップテンポで躍動的にスイングする。そして「愛するポーギー」は再びスローではじまる。3曲目の冒頭は、何度聴いても、心惹かれるね。しかも、あのオスカー・ペティフォードがベースを担当しているし、途中で彼の声が聞けるんだ!。」


M:「そうか? ところで、このアルバムは何曲ぐらい入っているの?」

D:「最新版のCDは、全34曲。2枚組。これはもう決定版ということばがそのままあてはまるね。ガーシュインの歌は、聴けば聴くほど愛着が湧いてくる。やはり、歌ものは、ヴォーカルで聴いてこそ、はじめてそのよさがわかると思うよ。それで、そのうち自分にとっての一生ものという、本当に好きな歌が発見できるんだ。」

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クリス・コナーのガーシュイン・ソングブックは、現在2005年版と2007年版(紙ジャケット仕様[Limited Edition])の2種類のCDが発売されている。そのうち2007年版は、倉庫で発見されたアトランティック・オリジナルマスターからの、初のリマスタリングで音質は格段によくなった。1956年、57年、59年録音。(追加の1曲は61年)

ガーシュイン・ソングブック(+4)(紙ジャケット仕様)Gershwin_sngbk_cc

第12回 不滅のジャズ名曲-その12- バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)

Murphy:「Djangoくん、気楽にくつろいで聴けるジャズで、何かいい曲ない?」

Django:「そもそもジャズは気軽にくつろげる曲が多いんだけど。気楽っていうけど、どういうときに聴きたいの?」


M:「そうだな。夜、まわりが静まりかえったあと、落ち着いて聴ける曲だね。」

D:「夜に聴く曲か。うーん、いっぱいあるんだけど…、例えば子守唄なんかどう?」


M:「Djangoくん、まじめに答えてくれよ。子どもじゃないんだから。大人が聴く曲だよ。」

D:「そうか、それなら大人が聴く子守唄はどう?」


M:「大人の子守唄? ジャズでそんなのあるの?」

D:「あるよ。バードランドの子守唄(Lullaby Of Birdland)っていう曲。有名なニューヨークのマンハッタンにあるジャズ・クラブ「バードランド」に由来する曲で、盲目のピアニスト、ジョージ・シアリングが1952年に作った曲だよ。」

M:「誰の演奏がいいの?」

D:「もちろん作曲者自らの演奏したアルバムもいいけど、今回はジャズ・ボーカルのなかから選んでみよう。クリス・コナーという歌手、知ってる?」


M:「いや、知らないな。女性なの?」

D:「そう。クリス・コナー(Chris Connor)という白人女性歌手のアルバムで、「バードランドの子守唄」っていうタイトル(ベツレヘム・レーベル)。Murphyくんもこれまでに、きっと聴いたことあると思うよ。」


M:「そうかな。ところで、クリス・コナーってどんな人?」

D:「白人ジャズ・ボーカルを代表するシンガーの一人で、ジューン・クリスティとならぶ、白人特有の理知的なタイプ。一言でいえば、クールな歌声だね。」


M:「そう。実はジャズ・ボーカルの世界は、あまりよく知らないんだ。でも、これから是非いろんな歌手のアルバムを聴いてみたいと思うんだ。」

D:「それなら、是非クリス・コナーのこのアルバムをおすすめするよ。クールに淡々と歌いながら、よくスイングするし、しつこく粘らず、そのさりげなさがいいね。彼女は、スタン・ケントン楽団で認められただけあって、本当の意味での実力シンガーだ。このアルバムを録音したのは、確か1953〜54年だと思うけど、当時彼女は20代の半ばで、非常に安定しており、完成度が高いね。ボクは、10インチ盤の復刻LPを持っているんだけど、今入手できるCDだと1枚にまとめられていて、ピアノ・トリオ、オーケストラ、クインテットのさまざまな伴奏の曲が入っている。彼女の初期の名盤だね。」

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他に、「星影のステラ」、「スプリング・イズ・ヒア」、「風と共に去りぬ」などの名曲が入っている。このアルバムは現在東芝EMIよりリリースされている。

バードランドの子守唄Birdland_conn