第25回 不滅のジャズ名曲-その25-マイナー・スイング(Minor Swing)

Murphy:「Djangoくん、知り合いのデザイナーから、頼まれたんだけど、その人がプランニングしたお店にマッチした音楽をセレクトしてほしいということなんだ。それで、多分ジャズが合うんじゃないかと思っているんだけど。」
Django:「どんなお店?」
M:「ビールのお店なんだけど、これまでのドイツのビアホールのようなイメージでなくて、もう少し新しい感じ。店はそんなに広くなく、カウンター中心。ドイツやオランダ、イギリス、ベルギーなどのヨーロッパのビールを豊富に取り揃えているらしい。」
D:「イギリスのパブのようなイメージかな?」
M:「カウンターで飲むスタイルは、似ているけど。インテリアは、古いイメージなんだけど、コンテンポラリーな雰囲気もあるらしいよ。ヨーロッパの様々なビールを味わってもらう店。気軽に入りやすいんだけど、どちらかと言えば大人のイメージで、落ち着いた雰囲気にしたいらしい。それと、お店のイメージを説明するのに、オールド感というか、レトロ、ヴィンテージ、といったキーワードを使っていたよ。」
D:「そうか、ヨーロッパのビールね。日本のビールと違って、本当に種類が豊富だからね。しかも味わい深いし。ボクはもともとドイツビールが大好きなんだ。」
M:「Djangoくんなら、どんなイメージの音楽がいいと思う?」
D:「やはりジャズだね。でも、あまりうるさくても困るからね。それと、ごくごく一般的な、どこにでもかかっているようなジャズでは面白くないしね。だいたいイメージが固まってきたよ。」
M:「じゃ、教えてくれる?」
D:「そう、急ぐなよ。一つ質問していい? お客さんのイメージは?」
M:「30代から40代って言ってたね。男性だけでなく、女性にも魅力的なお店ということらしい。決まった?」
D:「決まりました。トランペットやサックスは外そう。管楽器なし。ヨーロピアン・イメージのジャズだね。フランスのシャレた雰囲気もほしいし。耳障りにならず、いつでも聴けて、聴いているとスイング感が心地よいもの。ピアノトリオはいかにも、っていう感じだし、今回ははずそう。ヴォーカルはときどきアクセントにかければいいね。」
M:「おいおい、具体的にいってくれよ。Djangoくんは、いつももったいぶるんだから。」
D:「言いにくいな。」
M:「どうして」
D:「今回は、ボクと同じ名前だから。」
M:「えっ、ひょっとしてジャンゴ?」
D:「そのとおり。ギターのジャンゴ・ラインハルトとヴァイオリンのステファン・グラッペリのコンビ。ジャンゴ・ラインハルトとフランス・ホットクラブ・五重奏団。レトロで、どこか昔聴いたような懐かしさがあり、優雅な香りも漂い、リラックスして聴ける。その上、アップテンポでのスイング力は凄まじい。後の、ウエス・モンゴメリーを思わせる一瞬も感じられる。ジャンゴの演奏のなかで、真っ先にあげたい名曲は、マイナー・スイングという曲だね。」120515_2
M:「ジャンゴか、いいね。今でも人気があるの?」
D:「ヨーロッパでは日本以上に人気があるね。特にフランスでは未だに根強い人気のなかで、コンスタントに彼のレコーディングを復刻してきた。最近では、ナクソスレーベルが、NAXOS Jazz Legendsシリーズでいいアルバムを復刻している。ジャンゴだけで10枚ほどになるかな。でも、ジャンゴのアルバムの決定版は、イギリスJSP盤だね。ステファン・グラッペリとの黄金時代を記録した演奏集(5枚組)。それと続編の1937年〜1948年までの演奏を収録した、Vol.2の4枚組セット。音質向上は著しいね。いくら名演でも古い時代の録音なので、これまでのノイズの入った音質では魅力が半減していたことも事実であり、そういった意味で、最新のリマスター技術を駆使したアルバムの功績は評価したいね。」
M:「Djangoくん、さすが、同じ名前だけあって、ジャンゴ・ラインハルトのことは詳しいね。またいつかじっくり聞かせて。」
 ◇◇◇
●NAXOS Jazz Legendsシリーズ
○ジャンゴ・ラインハルト:「ジャンゴロジー 第1集」〜フィーチュアリング・ステファン・グラッペリ(1934-1935) 8.120515
○ジャンゴ・ラインハルト 第2集:フランス・ホットクラブ五重奏団録音集 (1938-1939) 8.120575
○ジャンゴ・ラインハルト 第3集:「スウィング・ギターズ」フランス・ホット・クラブ五重奏団録音集 1936-1937 8.120686

●イギリスJSP盤 グラッペリとの黄金時代を網羅したジャンゴの決定版。
The Classic Early Recordings in Chronological Order
Djangovol1ジャンゴ・ラインハルトがヴァイオリンのステファン・グラッペリと組んだ、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代(1934年から39年)の傑作124曲が収録された決定版(5枚組)。発売はイギリスのJSP Records。JSPは、ブルースとジャズの復刻版では定評があり、いまや世界中のマニアが注目するレーベル。古い時代の録音ながら、音質は素晴らしくよくなった。(最初は下記のVol.2よりこちらの5枚組をおすすめします。)

●イギリスJSP盤 「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編で、1937年から1948年までの演奏を収録した後期の決定版。
Paris and London: 1937-1948, Vol. 2
Django193748_1「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編として2001年にリリースされた4枚組85曲入りのボックスセット。こちらは、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代の演奏に加え、グラッペリとのコンビを解消後、クラリネットのユベール・ロスタンとのコンビ時代の演奏やビッグ・バンドとの共演などが収録されている。Vol.1同様、音質改善が著しい。なお、名曲「Minor Swing」はこちらのセットに収録されている。