第72回 不滅のジャズ名曲-その72-イン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)

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デューク・エリントン・ソングブック

Django:「エリントンは実に多くの名曲を残しており、これまで選んだ曲は、ほんのわずか。これからもっと採り上げたいと思うけど、誰もが知っている有名曲で、まだ掲載していない曲の一つが、イン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)。この曲は、デューク・エリントン・オーケストラが1935年にBrunswick labelに吹き込んだヒット曲。その後、ベニー・グッドマンも演奏し有名曲となった。その後、現在に至るまで、実に多くのジャズ・プレイヤーに演奏され、この曲を吹き込んだヴォーカリストも多い。そうしたなかで、この曲の名演をひとつだけ選ぶとすれば、ボクはやはり、エラ・フィッツジェラルドのソングブック・シリーズのなかで吹き込まれたものが忘れられないね。」

Murphy:「ジャズ入門者のボクでも知っている有名曲だね。ゆったりとしたバラードでああジャズだ!と思わせる独特の雰囲気を持っている。それにしても、Djangoくんにソングブック・シリーズを教えてもらって思ったんだけど、エラ・フィッツジェラルドってよくこれだけ多くの曲を歌ってきたものだと感心するね。」

D:「エラのソングブックシリーズは、ジャズヴォーカル界の金字塔ともいえる名作だ。Verveのノーマン・グランツとの出会いにより、前人未到のソングブック・シリーズが出来上がったのだから二人とも凄いね。でも、その中で、ボクが最高傑作だと思っているアルバムは、やはりエリントンのソングブック。これはもう人類の宝と言っても過言ではない。

このアルバムは、エラの伴奏を、エリントン楽団自らが演奏しているからすばらしい。それと、曲ごとに、オーケストラ演奏、コンボ演奏、さらにバーニー・ケッセルのギター一本、あるいはオスカー・ピーターソンのピアノによるシンプルな伴奏も含まれており実に多彩な内容だ。エラとエリントンの引き合わせをノーマン・グランツが企てたのだから、まさに名プロデューサーである。」

M:「なるほど、ノーマングランツだから出来たことか。」

D:「エリントンの曲はいずれエラという第一級の歌手が歌う運命にあったのだ思うと、このソングブック集は感慨深いものがある。実は、エリントンの曲のなかで、ソリチュード(Solitude)は、ピアノかギターのシンプルな伴奏が最もこの歌曲の美しさを発揮すると思っていたんだけど、まさにここでは、バーニー・ケッセルのギター一本による歌伴で実現された。他に、アズール(Azure)と今回採り上げたイン・ア・センチメンタルムード(In A Sentimental Mood)も同様だ。でもギター一本で歌える人なんて、ジャズヴォーカリスト多しといえども、そうはいないわけで、エラはまさに適役といえる。

それと、エリントンの片腕、ビリー・ストレイホーンの名作ラッシュライフ(Lash Life)を、オスカー・ピーターソンとのデュオで吹き込んでいるから、これまた貴重な永久保存版ともいえる演奏だ。」

M:「ぼくもジャズのことが少しわかってきたような気がする。改めて聞くけど、ジャズで最も大事なことはなに?」

D:「歌うということ、どんなアドリブ演奏でも結局は歌うということだと思う。実際、すぐれたジャズの名手は、みんな歌いながら演奏している。」

第67回 不滅のジャズ名曲-その67-ソリチュード(Solitude)

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デューク・エリントン・ソングブック

Django:「今年は、エラ・フィッツジェラルド生誕90周年ということで、6月にユニヴァーサルから一挙にエラのアルバムが11タイトル限定版でリリースされた。そのなかには、Verve時代の作曲家別のソングブックシリーズも含まれている。コール・ポーター、ガーシュイン、ロジャース&ハート、アーヴィング・バーリン、ハロルド・アーレン、ジェローム・カーン、それにエリントンなど、もうこれだけでほとんどのジャズの名曲が揃ってしまうほどの、20世紀のアメリカを代表するソング集だ。」

Murphy:「すべて、エラ・フィッツジェラルドが歌っているの?」

D:「そのとおり。これだけの珠玉の名曲を作曲家別にシリーズ化して、すべて歌える人は、おそらくエラ・フィッツジェラルドを除いて他にはいないだろうな。」

M:「エラ・フィッツジェラルドは以前にもDjangoくんに紹介してもらって、サッチモとのデュオアルバムや、1954年に吹き込んだエリス・ラーキンスのピアノ伴奏による「ソングス・イン・ア・メロウ・ムード」というアルバムを買ったんだけど、そのときの印象は、ボクのようなジャズヴォーカルの素人でも抵抗なく聴けて、けっこう好印象を持ったことを覚えている。他のアルバムでもそうなの?」

D:「エラは、おそらくどのアルバムを聴いても満足すると思うよ。Murphyくんのようなジャズ・ヴォーカルの入門者にこそ聴いてもらいたいアルバムだね。エラの魅力っていうのは、やはりグラミー賞13回受賞が物語るように、すばらしい歌唱力にあると思うね。自然で変なくせがなく、のびのびと歌っているし、声量は豊かだし、その余裕というのは、すごいものがある。抜群の安定感で突き進むグルーブ感、バラードにみられる抒情感、アップテンポの曲での、スピードに乗ったスイング感など、どれも最高だ。

今回は、ソングブック集のなかでも特に傑出したアルバムである、デューク・エリントン・ソングブックを紹介したい。6月6日にユニヴァーサルから再発売されたこのアルバムは3枚組で、チェルシー・ブリッジのリハーサルも入っている。エリントンの曲は、音程が正確でないと、原曲の持ち味を十分生かしきれないんだけど、エラは本当にエリントンナンバーを歌う最適なシンガーだ。

このアルバムのなかから、今回の不滅のジャズ名曲として一曲だけ選ぶのは、大変むずかしけど、しいてあげれば、ソリチュード(Solitide)かな。この曲は、1934年に発表されたスローバラードで、色彩感溢れる叙情詩は、聴けば聴くほど魅力が高まる曲だね。でも、エリントンの名曲は他にもそれこそ数多くの優れたものがあり、このアルバムに収録された全曲がまさに不滅のジャズ名曲だといえる。」

第29回 不滅のジャズ名曲-その29-バット・ノット・フォー・ミー(But Not For Me)

Murphy:「前回のビール・バーのデザイナーから、また問い合わせがあったんだけど。ジャンゴについては、文句なしということで非常に気に入っている。それで、時たまジャズ・ヴォーカルを流したいんだけど、誰がいいかDjangoくんにぜひ聞いてほしいということなんだ。ヴォーカルも、どこにでも流れているようなものではなく、こだわりを持って選曲するほうがいいだろうって。」
Django:「確かにその通りだね。ヘレンメリルのYou’d Be So Nice To Come Home Toなんかだと、最近どこの店でも流れているしね。”一応ジャズをかけています”っていう程度で、体裁だけととのえてそれ以上のお店のポリシーが感じられない。店主のこだわりというか。だから今度のその店は、新しいビール・バーということで、せっかくジャンゴを選んだんだから、ヴォーカルもそれに見合うだけのものが必要だ。」
M:「ボクもそう思う。最近やたらジャズをかける店が多くなって、有線か何か知らないけど、流れているものは、居酒屋も、寿司屋も、カフェも、何かおきまりの定食のような感じだから。Djangoくんの言うようにもっとこだわり持て!って、言いたくなるね。まあ、一般はそれでいいかもしれないけど、今度のお店は、こだわりの店にしようということだからね。何かいいアイデアある?」
D:「そうだな。ジャンゴが、戦前の古い録音だから、ヴォーカルもそのように…」
M:「そうすると、古い時代のもの、っていうこと?」
D:「そのとおり。」
M:「黒人のシンガー? それとも白人? 確かそのデザイナーが言ってたけど、黒人女性のヴォーカルは、ちょっとくせが強くて一般には聴きづらいのではないかって。だから白人女性シンガーあたりでどうか、と言っていたよ。」
D:「白人女性シンガーね。別のコンセプトの店なら合うけど。ここは黒人女性シンガーでいこう!」Dizzella_a
M:「でも、大丈夫? せっかくジャンゴを選んだのに、ムードを壊さない?」
D:「そんなことないよ。黒人シンガーでもいろんなタイプがいるから。まず、選ぶにあたって、相当実力のある女性シンガーを選ぶべきだな。中途半端な、素人に毛が生えたようなシンガーはだめ。その上で、聴いている方は、その歌手が黒人か白人か、区別がつかないような人?」
M:「そんなジャズ・シンガーっているの?」
D:「いるよ。それが、エラ・フィッツジェラルドだよ。歌のうまさは天才的。そのうえ、バラードは実にしっとりと歌い、暖かみがあり情感が伝わってくる。サラ・ボーンなんかは、すごく黒人ぽい歌い方をするんだけど、彼女は、歌い方に変なくせもないし。クラシック好きの人でも、おそらく納得し、脱帽だろうな。アップテンポの曲も、思いっきりスイングして、ひとたび調子にのれば、アドリブで自由自在にスキャットができる。変幻自在だね。」
M:「へえ、そうなの。」
D:「それで、これからがポイントなんだけど、彼女は、1917年4月にヴァージニア州で生まれている。一般に市場に出回っている アルバムは、50年代の半ば以降で、年齢でいえば、40歳過ぎてからの吹き込みが圧倒的に多いんだ。」
M:「そりゃそうだね、1960年の録音なら43歳か、70年なら50歳以上だ。」
D:「もちろん、これほど歌のうまい彼女のことだから、50歳を過ぎても第一線でバリバリ活躍できたし、今でもその頃のアルバムも素敵だと思う。でも、彼女の若い頃の歌声は可憐で初々しくて本当に素晴らしいよ。もっと聴いてあげてもいいくらい。だから、今回は、エラを起用して、あまり一般には聴かれていない50年代までのアルバムで統一すればいい。30代の頃までの録音だね。そうすると、ジャンゴと時代的にも統一がとれるから。」
M:「なるほど、Djangoくん、うまいこと考えるね。」
D:「Murphyくんも、そのころのアルバムを一度聴いてみたら?」
M:「でも、その時代のアルバムって、簡単に手にはいるの?」
D:「最近はね、いい復刻盤が出てきたよ。それでね、ピアノのエリス・ラーキンスという歌伴の名人と2人で録音した曲があるんだ。そのなかで、おすすめは、バット・ノット・フォー・ミー(But Not For Me)という曲。このあいだ出てきたガーシュインの作曲。ジャズ・スタンダードとして大変人気のある曲で、これまでいろんなアーティストがこの曲を採り上げてきた。まさに名曲だね。例えば、歌では、ダイナ・ワシントン、クリス・コナー、リー・ワイリー、チェット・ベイカーなど。演奏では、マイルスがバグズ・グルーブというアルバムのなかで採り上げている。」
M:「ところで、そのバット・ノット・フォー・ミーの入っているアルバムは?」
D:「彼女も何度も録音しているけど、ここは、エリス・ラーキンスの歌伴で1950年に吹き込んだのを選ぼう。アルバム名は、「Ella Fitzgerald Vol.3 Oh! Lady Be Good」。彼女の1945年から52年までのレコーディング。レーベルは、イギリスのNAXOS JAZZ LEGENDS(直輸入盤)。NAXOSは、このところ大変いい復刻盤を次々と出している。デジタルリマスター技術により相当音質がよくなっている。このアルバム、全17曲中、8曲はピアノ1台による伴奏で、他はトリオ、オーケストラ伴奏。これ一枚で、彼女の多彩な歌い方が楽しめるんだ。」
M:「わかった、とりあえずそのアルバムをデザイナーに紹介するよ。」
D:「ところで、そのデザイナーには、アルバムを先に見せずに、先入観なしで、だまってまず曲を聴いてもらって」
 ◇◇◇
Oh! Lady Be Good Ella Fitzgerald Vol.3 Original 1945-1952 recording NAXOS JAZZ LEGENDS 8.120716 2003/6/2 Release 120716

第18回 不滅のジャズ名曲-その18- スターダスト(Stardust)

Django:「Murphyくん、ウクレレの調子はどう?」
Murphy:「毎日弾いてるよ。最近ね、Djangoくんに刺激されて、ウクレレでジャズをやりたくなったんだ。」
D:「それは、いいね。」
M:「Djangoくんも知ってると思うけど、ハワイのウクレレ奏者、オオタさん。ウクレレでジャズスタンダードをやっているだろう。ボクも少しジャズを勉強しようと思って、楽器屋で探していたら、偶然オオタさんの輸入楽譜が見つかったんだ。内容はスタンダードジャズ。そのなかでまずどれから始めようかと思って見ていたら、偶然「スターダスト」が目にとまった。よし、これだ、と思って練習しているんだ。」
D:「スターダストは、みんな知っている名曲だからね。いいね。それ、マスターしたら聴かせて。」
M:「うん。ところで、この曲、誰の作曲だった? 」
D:「ホーギー・カーマイケルだよ。確か1920年代の作曲だったと思うけど。」
M:「そうか。古い曲なんだね。この楽譜にはアドリブが載ってないんだ。どうしようDjango君、教えてくれる?」
D:「当たり前だろ。アドリブなんて楽譜には出てないよ。自分で考えるものだよ。」
M:「そういわずにヒントを教えて?」
D:「ヒントなんかないよ。まず、いろんな人の演奏を聴くことだね。ところで、Murphyくん、この曲、楽器でなくて、歌で聴いたことある?」
M:「ないね。楽器の演奏はけっこう聴いているんだけど。」
D:「そうか。それならまず、ヴォーカルで聴いてみたら? まず歌から入った方がいいよ。」
M:「確かに。でも、この曲有名だから、いろんな人が歌っているだろう。誰がいい?」
D:「スターダストは名曲中の名曲だから、ほとんどのシンガーが吹き込んでいるね。スターダストのオムニバス・アルバムまで出ているぐらいだから。1人だけあげるのは難しいよ。そうだなあ、若い人がいい? それともベテラン?」
M:「両方とも。昔の古いものも、新しい録音のものも聴きたいね。」
D:「それなら、まず古い録音の方から選ぼう。やはり、エラ・フィッツジェラルドだね。彼女が1954年に吹き込んだアルバムで、「ソングス・イン・ア・メロウ・ムード」というアルバム。伴奏はエリス・ラーキンス という人のピアノ。この人は本当に歌の伴奏がうまいんだ。本当は、ヴォーカルものは、こういったピアノ1台だけのシンプルな伴奏が一番いいよ。」
M:「有名なアルバムなの?」
D:「昔から、このアルバム、エラの数ある録音のなかでも、決定版の一つだといわれている。全曲バラードで、しっとりと落ち着いたアルバムだね。このなかに入っている「スター・ダスト」、これは、ボクがこれまで聴いた「スターダスト」のなかで、最も印象に残っている演奏だね。このアルバムから、エラ・フィッツジェラルドを聴いていけばいいと思うよ。」
M:「わかった。それで、あと、最近の若い人の録音では?」
D:「これに匹敵するものは、なかなかないんだけど...。そうだな。こちらの方も、シンプルなピアノ1台だけの伴奏の方がいいし。歌い手もそうだけど、こういった歌伴ができるピアニストは、ベテランの本当に味のある人でないとなあ。テクニックをひけらかす人はだめだし。相手に寄り添って、本当に歌いやすく弾いてあげられる人でないとね。あのハンク・ジョーンズあたりが伴奏すれば最高なんだけど...、ちょっと、待てよ。.....ん...出てこないなあ。じゃあ、次回までに考えておくから。」
  ◇◇◇
エラの歌が円熟し絶頂期にさしかかった頃の名盤。全曲スタンダード・ナンバーのバラードでまとめられている。エリス・ラーキンスのピアノオンリーの伴奏が、一段とエラの素晴らしい歌唱力を引き立てている。1954年録音。Daccaレーベル。

ソングス・イン・ア・メロウ・ムードElla_mellowmood

第16回 不滅のジャズ名曲-その16- 霧深き日(A Foggy Day)

Django:「Murphyくん、今回もガーシュインの曲を選びました。曲名は、「霧深き日(A Foggy Day)」。霧の日。とも訳されているけど、一般的には、日本でも「ア・フォギー・デイ」とそのまま英語名で呼ばれている。」

Murphy:「ガーシュインは、たくさんの曲を作曲したんだね。今回もヴォーカルのなかから選んでくれるかな。以前はあまりヴォーカルものは聴いてなかったんだけど。このあいだから、ちょっと聴きだしたら、興味がわいてきたなあ。ジャズの歌、って、大人の雰囲気がするよ。ビールやワインにも合うし、CDをかければ、部屋の雰囲気が変わるね。余裕があるっていうか。くつろげるし。お子様ランチのような曲やミュージシャンはもう飽きたし、その点、ジャズはいいね。特にヴォーカルは。」

D:「そうだろう。ジャズを聴けば確実にセンスがよくなるね。昔からデザイナーなんかは好きな人が多い。ジャズを聴いていると余裕がうまれるんだ。ジャズは100年の蓄積のなかで演奏されているんだもの。それは深いよ。でも、一般にジャズを聴いている人って、あまりヴォーカルものを聴かない人が多いようだね。反対にヴォーカルが好きな人は、あまり楽器ものは聴かなかったりして。でも、ジャズって、もともとブルースから始まっているんだから、歌がやっぱり基本だよ。ヴォーカルを聴けば、これまで以上にジャズが理解できると思うね。それと生活のなかにジャズが溶け込んでいくんだ。」


M:「その通り! ボクもそう思うね。」

D:「アメリカでは、そこら中のホテルのバーラウンジでジャズが演奏されているし、グランドピアノが一台だけのラウンジでも、リクエストをとりながら、弾き語りやピアノソロをやっているよ。そこで、ソルティ・ドッグを飲みながら聴いていると、これが驚くほどうまい。」


M:「え?、ソルティ・ドッグが?」

D:「違うよ、もちろん演奏だよ。無名の人がこれだけうまいんだからすごいね。いや、うまいだけでなく、本当に楽しんでいるよ。毎晩ラウンジでピアノを演奏するのがうれしくて仕方がないような表情だね。それと、もうひとつ、お客さんとのコミュニケーション。さりげなく、ユーモアを交えながら、お客さんとの会話を楽しむ。でも、決して出しゃばらない。そこのセンスは絶妙だね。こんな日常の光景が、ジャズの底辺を支え、生活に根づかせているんだと思う。その生活文化こそがジャズなんだ。もちろん、ストリート・ミュージシャンもそうだしね。」


M:「確かにそうだね。Djangoくん、いいこと言うね。でも、どうして、そこでソルティ・ドッグなの?」

D:「ただ好きなだけ。以上、説明なし。」


M:「ところで、今回のおすすめの歌手とアルバムは?」

D:「エラ・フィッツジェラルドルイ・アームストロング


M:「ついに出ましたね。そろそろ出てくるのでは、と思っていたんだ。そうすると2枚のアルバムってこと?」

D:「と、思うだろう? これが1枚で聴けるんだ。つまり、デュエット。アルバムタイトルは、ズバリ、「エラ・アンド・ルイ」」


M:「へえー、二人のヴォーカルが一枚で聴けるって最高だね。」

D:「そう。このアルバム、すべてのジャズアルバムのなかでも、ボクの最も好きなアルバムの一つ。伴奏がまた素晴らしいよ。ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがご存知レイ・ブラウン、ドラムスがバディー・リッチ。エラとサッチモのデュエットのサポート役としては最高のメンバーだね。「ア・フォギー・デイ」以外にも、「ヴァーモントの月」、「4月のパリ」、「アラバマに星落ちて」など、名曲ぞろい。さすが、ヴァーヴのノーマン・グランツ。こういった、楽しくて、リラックスして、アットホームで、ユーモアがあり、しかも正統的で、思いっきりスイングして、いつでも聴けて、いつまでも飽きない、素晴らしいアルバムがつくれる、ジャズとは何かを知り尽くした名プロデューサーだね。以上、決定的名盤です。」

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「エラ&ルイ」は、1956年の録音。他に同メンバーによる2枚目のアルバム「エラ&ルイ・アゲイン」も1957年にレコーディングされている。これら2枚に加え、別テイク、さらにオーケストラバージョンも含めたコンプリートアルバムは米国ポリグラムから1997年に発売された。なお、レコーディング状態は50年代当時の最高水準といえるレベルであることから、復刻LPレコードも数度にわたり発売された。

エラ・アンド・ルイEllalouisjpg