第93回 不滅のジャズ名曲-その93-オール・ブルース(All Blues)

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July 5th~Live at BIRDLAND New York~(紙ジャケット仕様)

Django:「ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)の最新アルバム聴いた?」

Murphy:「いやまだ。NYのバードランドでのライブ・レコーディングだね。11月21日に2枚同時発売され、気になっていた。」

D:「現役最長老といってもいい、89歳になるハンク・ジョーンズのピアノトリオアルバムで、2007年7月5日のライブがJuly 5th  Live at BIRDLAND New York、翌日の6日の方が、July 6th Live at BIRDLAND New York。曲目も大変興味深いね。2枚とも最新録音だけ合って、当日にライブの熱気が実にリアルに収録されている。5日の方はスタンダード曲が中心。選曲がいいね。7曲目に、マイルスの作曲したオール・ブルース(All Blues)が、そして8曲名には、ソニー・ロリンズのセント・トーマス(St. Thomas)、ラストが同じくロリンズのオレオ(Oleo)。こういうアルバムが発売されることは、実にうれしいね。2枚とも永久保存盤!」

第58回 不滅のジャズ名曲-その58-身も心も(Body And Soul)

Murphy:「今回もピアノソロアルバムについて教えてほしいんだけど。」

Django:「ハンク・ジョーンズ、バリー・ハリスなどを以前紹介したけど、もうひとり是非ピアノソロで採り上げたい人がいる。Murphyくん、MJQのピアノ奏者は誰だったか知っているよね?」

M:「もちろん、ジョンルイス(John Lewis)だろう。」

D:「MJQは、1952年から1974年まで、実に22年という長期にわたり演奏活動を行ってきた。1961年に初来日し、その後66年、74年にも来日している。解散後、76年に、ジョン・ルイスは、ハンク・ジョーンズ、マリアン・マクパートランドとともに日本コンサートツアーを行った。そのときの、東京郵便貯金ホールでのライブレコーディング・アルバムが確か1980年ごろにLPで発売されたが、1994年にCDで再発されている(その後2002年にも再発)。

このアルバムは、全9曲のうち6曲が、ジョン・ルイスのピアノソロで、残りの3曲が、ハンク・ジョーンズとのデュオというとても興味深い作品。ジョン・ルイスとハンク・ジョーンズのデュオアルバムというのは、おそらくこれが初めてだと思う。二人は個人的にも親しい間柄であったそうで、お互い演奏スタイルが全く異なるだけに、そのコントラストがすばらしく、ボクの座右の愛聴盤になっている。」

M:「ジョン・ルイスのピアノはMJQを聴いて知っているつもりだけど、ピアノソロになるとかなり演奏スタイルは変わるの?」

D:「基本的には同じ。スインギーで雄弁に語りかけてくるオスカー・ピーターソンのような華麗なピアニストとは対極をなす演奏スタイルで、一言でいえば簡素で地味な演奏だ。音数は少なくムダな音を奏でない。音と音の間が実に見事に生かされており、一音一音を大切にし心をこめて歌っている。初めて聴いてもそれなりに良さがわかると思うが、2度、3度と聴けばジョン・ルイスの音楽のすばらしさがもっとわかってくる。聴くたびにその音楽から新しいことを発見でき、実に味わい深さを持った演奏だ。彼のピアノからは一種の気品とでもいえるものがあり、作曲家としても優れた多くの作品を残し、アレンジャー、プロデューサーとしても人望の厚い、彼の人柄がそのまま表れた音楽だ。

このアルバムで、ジョン・ルイス自らが作曲したジャンゴ(Django)をソロで弾いているが、これは、ボクがこれまで聴いたジャンゴの演奏のなかでも最も好きな演奏だ。淡々と語りかけるなかで、何度聴いても聴き飽きない一種のクラシックとでもいえる気品の高さが一貫して表出されている。作曲者自らがソロで演奏したこの曲を聴くと、クラシック、ジャズなどのジャンルの垣根を超えて、ジョン・ルイスならではの個性が、本当に人の心を打つ人間性豊かな音楽として、ひしひしと自分に伝わってくる。

ハンクジョーンズとのデュオのなかで演奏されるセントルイス・ブルース(St. Louis Blues)もすばらしい。向かって左がジョン・ルイス、右がハンク・ジョーンズ。演奏スタイルが全く異なるだけに、デュオで演奏しても重ならず、それぞれの個性がいっそう引き立っている。

二人のデュオで、ジャズスタンダード曲、身も心も(Body And Soul)も演奏している。この曲は、1930年にソング・ライター、ジョニー・グリーン(Johnny Green)が作曲したブロードウエイ・レビュー、Three’s A Cloudのなかの曲。ビリー・ホリデイが歌いコールマン・ホーキンスが演奏し、その後今でも多くのジャズ・ミュージシャンに演奏される名曲。他に、四月の想いで(I’ll Remember April)もラストに収録されている。

なお、このアルバムのカバー・ジャケットを飾る、ジョンルイスの肖像画は、映画、ジャズ、ミュージカル評論の第一人者であった、野口久光氏が描かれたスケッチ。

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ジョン・ルイス・ソロ/デュオ・ウィズ・ハンク・ジョーンズ Live in Tokyo

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第53回 不滅のジャズ名曲-その53-ブルー・モンク(Blue Monk)

Django:「今回はとっておきのピアノソロを紹介しよう。以前にロンカーターとジムホールのデュオアルバムを紹介したけど、その時のレーベル名を覚えてる?」

Murphy:「確か、コンコード(Concord)レーベルだったね。」

D:「そう。そのコンコードレーベルが1989年から、カリフォルニアのバークレイにある、メイベック・リサイタル・ホール(Maybeck Recital Hall)で、ユニークなソロピアノコンサートを企画し、ライブレコーディングを行ってきた。このホールはライナーノートによると、定員50〜60名ぐらいの小さなホールで、アットホームな雰囲気のなかで、往年の名ピアニストのソロコンサートをすでに40回以上開催している。」

M:「へえ、それはユニークだね。これまでどんなピアニストが登場したの?」

D:「70年代からコンコードレーベルでおなじみのデイブ・マッケンナを始め、ケニー・バロンやバリー・ハリス、それにエリス・ラーキンスなども登場した。今回はその中から、第16回のコンサートで1991年11月11日に収録された、大御所ハンク・ジョーンズを採り上げてみたい。」

M:「ハンク・ジョーンズといえば、この間、ロバータ・ガンバリーニの最新アルバムで歌伴をやってた人だね。」

D:「そのとおり。ラッシュ・ライフというアルバムだった。ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)は、古くて新しい大人のジャズといった感じで、決して派手ではないが、実に味のある渋いピアノを聴かせる人で、今となっては貴重な存在だ。ボクはこのアルバムを発売と同時に買ったのだけど、期待どおりの演奏で、久々にくつろいで楽しむことができた。以来、このCDは、まわりが静まり返った夜によくかけるんだけど、聴けば聴くほど味の出るアルバムで、もう10数年飽きずに聴き続けている。

全部で17曲収録されており、スタンダード曲を中心に、どの曲も3分〜5分程度の時間にまとめられている。こういったソロアルバムは、案外少なく、コンコードのこのシリーズは今となっては実に貴重な記録だ。セロニアス・モンクの作品が2曲収録されており、ブルー・モンク(Blue Monk)ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)という名曲中の名曲が、ハンク・ジョーンズならではの、さらっとした演奏で楽しめる。あまり重くならず、かといって軽快に流れすぎず、中庸を得た演奏は絶品で、先ほども言ったように、大人のジャズをたっぷりと聴かせてくれる。リラックスしてさりげなく味のあるジャズを聴きたい人に最適だね。」

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Live at Maybeck Recital Hall, Vol. 16 : Hank Jones 1991

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第49回 不滅のジャズ名曲-その49-ラッシュ・ライフ(Lush Life)

Django:「今月の新譜で素晴らしいアルバムがリリースされたので、Murphyくんに紹介しよう。その前に、ビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)という人知っている?」

Murphy:「知っているよ。前回出てきたエリントン楽団のA列車で行こうを作曲した人だろう。」

D:「そのとおり。このビリー・ストレイホーンの作曲した数々の名曲を、ブルーノート・アーティスト達により新録されたアルバムが東芝EMI(BlueNoteレーベル)より4/11に国内リリースされた(輸入版は既に1/23リリース)。スペシャル・ゲストに、あのピアノの名匠、ハンク・ジョーンズが参加。アルバムタイトルは、ラッシュ・ライフ(Lush Life)。」

M:「ラッシュ・ライフといえば、以前にDjangoくんが紹介してくれた、ガンバリーニもアルバムを出していたね。」

D:「そう。ラッシュ・ライフは、1938年にストレイホーンがエリントン楽団に入る前に書いた曲で、エリントン楽団入団オーディションのための曲だったといわれている。いわばストレイホーンの出世曲だといえる。さすがに名曲だけあって、ナット・コールをはじめ、エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレイなど、多くの歌手が歌っている。彼の作曲したなかで一二を争う人気曲。

ストレイホーンは、この曲を書いてエリントンに認められ、以後エリントンの片腕として、次々と傑作を発表した。前回採り上げた、A列車で行こうサテン・ドール、日本語で雨切符と訳されているレイン・チェックチェルシーの橋などいずれも40年代以降のエリントン楽団の代表作。

エリントンの片腕、ストレイホーンは、残念ながら1967年に亡くなった。今年の5月はちょうどストレイホン没後40年にあたる。実は、昨年、アメリカでストレイホーンの90分ドキュメンタリーフィルムが作られたが、このアルバムはそのサウンドトラック版。」

M:「ラッシュ・ライフは誰が歌っているの?」

D:「ダイアン・リーブス(Dianne Reeves)ラッセル・マローン(Russell Malone)のギター伴奏一本で歌っている。ラッセル・マローンといえば、NYで現在、ピーター・バーンスタインと並んで人気のギタリスト。あと、4曲目に入っている名曲サテン・ドール は、ハンク・ジョーンズ(Hank Jones)のピアノソロ。他に、ビル・シャーラップ(Bill Charlap)が、ファンタスティック・リズム、トンク、ヴァルスの各曲でピアノソロを担当。このあたりを聴いただけで、いかにこのアルバムが魅力的で、貴重なアルバムであるかがわかる。
とにかく久々の永久保存版ともいえる内容の深い傑作だ。」

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Billy Strayhorn: Lush Life / Blue Note 2007年新譜

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第32回 不滅のジャズ名曲-その32-チェロキー(Cherokee)

Django:「今回は、燻銀のトランペッター、”ジョー・ワイルダー(Joe Wilder)”を採り上げる。」
Murphy:「聞いたことないね。」
D:「ジョー・ワイルダーは、マイルスやクリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、アート・ファーマーなどのように、知名度があるわけではない。しかし、その実力は第一級で、何よりトーンの美しさは特筆すべきものがあるんだ。歌うようなメロディーライン、シンプルな中にもスインギーなアドリブは、他に代え難い魅力を持っている。」
M:「そうか、ほとんど知られていないのか。アルバムの数は?」
D:「あまり録音していないんだ。」
M:「いつ頃の人?」
D:「ジョーは、1922年2月22日生まれ。マイルスが1926年だから、4歳年上だね。」
M:「そうすると同世代になるのか。どこの人?」
D:「ペンシルバニア州コルウィンで生まれ、フィラデルフィアで育った。」
M:「フィラデルフィア出身のジャズマンも多いんだね。その後は?」
Market Street Loop, Philadelphia, Pennsylvania

D:「父親がバンドリーダーで、12歳のときにその父親からトランペットを学んだ。その後、音楽学校に入学し、卒業後レス・ハイト楽団に入団。そこで、ディジー・ガレスピーと共演した。42年からは、あの有名なライオネル・ハンプトン楽団の所属する。その後、いくつかの楽団を歴任し、50年代からブロードウエイの劇場オーケストラに所属。54年には、カウント・ベイシー楽団の欧州ツアーに参加。このころから多くのジャズメンと交流する。当時、彼の実力は相当なレベルに達していたようだ。」
M:「ジャズのプレイヤーって、ほとんど最初は、楽団に所属する人が多いんだね。」
D:「その当時はね。そこで鍛えられるんだ。62年にはベニー・グッドマン自らの要請でソ連へのツアーにも参加。以降は、フリーランサーとしての仕事と、レコーディング、Broadway, 45th Street, New York City

ニューヨーク市のコンサートオーケストラのソリストを初めとするオーケストラでの活動が中心だった。」
M:「ということは、比較的地味で堅実な生活だったのか。」
D:「そうだな。当時のアメリカには、ジョーのように本当の玄人好みのミュージシャンが多数存在していた。そのあたりが、ジャズの底辺をしっかり支え、根付かせていたと思うんだ。オーケストラ活動の合間に、ひとたびジャムセッションをすれば、有名ジャズメンと互角、あるいはそれ以上のパフォーマンスを披露した。いたずらにスター・プレーヤーを目指さず、地道に音楽を追究しながら、自分の音楽生活を楽しんでいたと思うんだ。決して、有名ジャズメンばかりが、ジャズを支えたのではないっていうこと。目立たない隠れたなかに一流のミュージシャンが潜んでいる。このことをしっかり認識しておかなければならないと思う。」
M:「そうだなあ。ともすればスタープレーヤーばかりに目がいくものね。マイルスを聴いてそれだけでジャズがわかったことにはならないということか。」
D:「Murphyくんの言うとおりだよ。ジョーのようなほんとうに音楽を知っていてうまいミュージシャンの演奏を聴くとわかるよ。実は、ジョーは、クラシックのアルバムも残しているんだ。ハイドンやサンサーンス、ルロイ・アンダーソンなんかの曲を録音している。今でこそ、ウイントン・マルサリスのようにジャズとクラシックの両方を演奏するミュージシャンもいるけど、当時はあまり前例がなかったと思うね。ところで、”チェロキー”っていう曲知ってる?」
M:「ああ、知ってるよ。確かクリフォード・ブラウンも録音しているね。」
D:「そのとおり。ガレスピーもよく演奏したスタンダード曲だ。ジョーも50年代にSAVOYに吹き込んでいる。「ワイルダーン・ワイルダー」というアルバムで、1曲目に演奏している。この”チェロキー”いいよ。普通はこの曲、アップテンポなんだけど、ミディアムテンポで原曲のメロディーラインを大切に歌い上げている。ジョーのスインギーで流麗なアドリブも素晴らしく冴えわたっている。音色も抜群。それと、リズム陣がまたいい。あのハンク・ジョーンズがピアノを担当している。ハンクは、シンプルで控えめながらいつも音楽が深い。ジョン・ルイスとハンク・ジョーンズは本当に音楽とは何か、ということを実に良く知っているね。このアルバムを聴いていると、ああ、ジャズを聴いていて本当によかったってつくづく思うね。」
M:「そうすると、”ジャンゴ効果”も高そうだね。」
D:「そりゃもう。”ジャンゴ効果”100%を超えてしまっているよ。」
※本文中のジョー・ワイルダーの履歴に関しては、「ワイルダーン・ワイルダー(キングレコード)」LPレコード付録の大和明氏のライナーノート(1989)を参考にした。
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Joewilder ワイルダーン・ワイルダー/ジョー・ワイルダー SAVOYレーベル