ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第15回- Stitt Plays Bird / Sonny Stitt

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スティット・プレイズ・バード(紙ジャケット仕様)

パーカーはSPレコードの時代に数多くの名演奏を吹き込んだ。それらは、ビバップといわれるスタイルのジャズだった。その後、初期LP時代にもいくつか録音したが、若くして世を去った。

もし、パーカーがもう少し長生きしていたら、ステレオ録音を残したかもしれない。せめて1960年頃まで生きていたらと思う。もちろんパーカーの演奏は、たとえ録音が古くても、今でもいっこうに色あせないどころか、時代とともに一層の輝きを増している。その上で、もしステレオ録音のパーカーがあったら...。

夢の共演。今回はステレオ録音でビバップを聴いてみたいというリクエスト。サックスはもちろんアルトでなければおもしろくない。ステレオ録音だから時代設定は、50年代の終わりから60年代の前半。もちろんパーカーはこの世にいない。では、誰を起用するか?バリバリのビバップが吹ける人、しかもアルトで。んー、この人しかいない。

そう、ご想像のとおり、ソニー・スティットだ。彼は、アルトもテナーもバリトンもこなす万能選手だが、ここはアルト一本で通してほしい。

さて、ソニー・スティットとチームを組む上での要としてピアノは、根っからのビバップ体験を持った人がいい。その上で、出しゃばらず、シンプルにして的確で、絶妙な間合いを持った人。そうです。ご想像のとおり、その人は、あのMJQのリーダー、ジョン・ルイス。40年代にパーカーと演奏を共にした人だから、願ってもない人選だ。

ジョン・ルイスがピアノを担当するなら、ドラムは同じMJQのメンバーである、コニー・ケイにまかせよう。あれっ!これは前回に引き続きまたまたMJQのリズム陣か。

いや、これではおもしろくない。ここはあっという驚きがほしい。では、誰がいいか? まず、楽器の編成からいえば、この際、一般的な編成とは違った新鮮な組み合わせがほしい。ユニークさからすると、ギターだ。

時代は、60年台前半。さて、誰を選ぶか? ソニー・スティットがリーダーだから、その主役を盛り立てる名サポート役のギタリストがほしい。と、なると、あのソニー・ロリンズの名脇役。ジム・ホールだ。これで、俄然このバンドがおもしろくなってきた。

ベースは? ここまでくれば、MJQのパーシー・ヒースで決まり!といいたいところだけど、運悪くパーシー・ヒースは都合が付かない。ここは、急遽代打で、リチャード・デイビスにお願いしよう。彼なら、クラシックにも精通し、その上超絶技巧を持ったベース奏者だから文句はない。

メンバー構成が決まったところで、選曲をどうするか? ビバップの名曲をそろえるか? いやいやそれだけでは物足りない。ここは、思い切って全曲パーカーに統一しよう。これはすごいぞ。ジムホールもパーカーの曲をやるんだから実に新鮮だ。パーカーに似ていると言われるの毛嫌いしてテナーに持ち替えたソニー・スティットには、真っ向からアルトでパーカーの曲に挑んでもらおう。

レーベルは? 数々のMJQの名録音を手がけてきたアトランティックがいい。これなら名録音も期待できるぞ!

そして、ついに夢の共演が現実となり、Stitt Plays Birdというタイトルのビバップの名盤が誕生した。全曲パーカーの曲で統一され、ステレオ録音された。

その後.....。アトランティックレーベル60周年にあたる2006年に、待望のオリジナルマスターからの最新24ビットリマスタリングにより、見事に蘇った音質のCDが、ワーナー・ミュージックから紙ジャケット使用でリリースされた。このアルバムは、スイングジャーナル第40回ジャズディスク大賞最優秀録音賞(リマスタリング部門)の栄誉に輝いた。 ーDjango

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第3回- Jim Hall in Berlin / Jim Hall

Garo1Django:「今日は主人に連れられて、旧大宮通りを南へ進み、北山通りを渡り、そのまままっすぐ下って行った。しばらくすると、大徳寺前に到着。その後北大路の交差点を渡り、さらに南下した。鞍馬口通りにさしかかると右折。そのまままっすぐ鞍馬口通りを西へ歩いた。このあたりは商店街で、昔からの店が建ち並んでいる。八百屋さんをこえたあたりから、コーヒーの香りが漂ってきた。ボクは嗅覚が人間より発達しているから、かなり遠くからでも嗅ぎ分けることができる。ああそうか、いつものコーヒー屋さんに珈琲豆を買いに行くんだ!。

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自家焙煎コーヒーのガロという店。主人が言うには、ここのコーヒーが一番おいしいって。お店のお兄さんがドアを開けて店の前まで出てきてくれた。主人は、いつものように300g注文した。匂いでオリジナルブレンドだとわかった。店内からジャズが聞こえてきた。小さな店だけど、珈琲に対するこだわりは半端じゃない。珈琲豆の種類は豊富で、名機ポンド釜直火型焙煎機で丹念に焙煎しているらしい。店の入り口付近には、ジャズのライブ情報が溢れている。この店の2階では定期的にライブが開催されている。京西陣・町家で一番小さなLIVEと書いてある。

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ここから家まで約25分。途中、鞍馬口通りでいろんなお店に出会った。おもしろい招き猫を発見。少し行くと、ボクの鋭い嗅覚がニッキと抹茶に反応した。茶洛というわらび餅の店だった。この店には多くの観光客が訪れ、時々売り切れの札が出る。うちの主人はここのわらび餅未体験らしい。

家に帰ると、珈琲の香りが部屋中ただよった。主人は棚からレコードを取り出した。珈琲を一口飲んだ後、レコード盤をターンテーブルに置き、針をセットした。ギターの音色が聴こえた。まろやかで繊細な響きはジム・ホールに違いないと思った。

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アルバムタイトルは、Jim Hall in Berlin。1969年6月にベルリン市内のスタジオで録音され、MPSレーベルからリリースされた。パーソネルは、ジム・ホール(g)、ジミー・ウッド(b)、ダニエル・ユメール(ds)。ホールが単身ベルリンに渡り、現地のリズム陣と演奏したアルバム。」

Murphy:「ジム・ホールのリーダー・アルバムで、ギタートリオ編成なんだね。」

D:「そのとおり。実はこのアルバム、ドイツのジャズ評論家兼プロデューサーのヨアヒム・E・ベーレントがプロデュースしたもの。LPレコードのライナーノートに、ベーレントがその時の状況について詳しく書いている。簡単に紹介すると、1960年代の後半、ギターアルバムは過剰とも言えるほど反乱していた。しかし、ジム・ホールのリーダーアルバムは一枚もなかった。ベーレントも認める現代(当時)最高のジャズギター奏者であるにもかかわらず。そこで、彼自らがプロデュースしたわけだ。」

M:「意外だね。当時はそうだったのか。今ではボクでもジム・ホールの存在は知っているし、リーダーアルバムがいっぱい出ているのに。」

D:「ベーレントは、ライナーノートのなかで、この吹き込みテープを10回以上聴き直した結果次のように述べている。

『芸道を極めつくした名人にしかみられない洗練の極地ともいうべき単純性を発見することができた。(ヨアヒム・E・ベーレント(油井正一訳)、LPレコードライナーノートより)』

レコードのB面は、I’ts Nice to Be With Youという曲で始まった。この曲は、ホールの奥さんが作った曲らしい。昼下がりのひととき、珈琲の香りに満ちあふれた部屋で、このレコードが流れると、実にリラックスする。ジム・ホールのギターは、音を吟味し、単純化の極地ともいうべき音楽を奏でる。ベーレントも言っているように、これほどのシンプルな演奏は、一流のアーティストにしかみられないものだ。単純でしかも的確な音を選ぶ。そのサウンドがシンプルであるからこそ、ボクの耳がしっかり受け止め、一音たりとも聴き逃すまいとする。いくら聴いても飽きない。」

 

第84回 不滅のジャズ名曲-その84-枯葉(Autumn Leaves)

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Hallmarks: The Best of Jim Hall

Django:「今回はスタンダードジャズの中でも、誰もが知っている曲、枯葉(Autumn Leaves)。ご存知のようにもともとJoseph Kosma作曲のシャンソンで、1947年に誕生。ジャズの世界では女性ヴォーカリストのジョー・スタッフォード(Jo Stafford)が最初にレコーディングしたといわれる。その後、1958年にBlue Noteレーベルより発売されたキャノンボール・アダレイ名義のSomethin’ Elseにマイルスが吹き込み大ヒットした。」

Murphy:「Somethin’ Elseはジャズの超入門アルバムだね。ところで今回はだれの演奏を選んだの? 枯葉は有名だからそれこそ無数にアルバムがあるからね。

D:「ジャケット写真でおわかりのように、今回はジム・ホール(Jim Hall)の演奏を選んだ。実は、このアルバムは、コンコード・レーベルから2006年10月に発売されたジムホールの2枚組ベスト盤で、アルバムタイトルは、Hallmarks: The Best of Jim Hallコンコードに吹き込んだものだから、1980年代以降の比較的新しい録音。ジム・ホールの演奏に、より豊かな独自の個性が輝きだした頃からのものだといえる。

これまでベスト盤はどちらかといえばあまり採り上げなかったのだけれど、このアルバムは例外で、コンピレーションの内容もよく、しかもジャケット写真が魅力で印象に残った。全20曲収録されており、ジム・ホールコンテンポラリーでクリエイティブな側面を知るには最適なアルバムだね。」
 

第50回 不滅のジャズ名曲-その50-アローン・トゥゲザー(Alone Together)

Murphy:「4/20の大阪ブルーノートでのジム・ホールとロン・カーターのデュオは本当に素晴らしかったね。Djangoくんに誘われて行ったんだけど正直言って驚いたよ。ジャズの演奏というのは大音量だと思っていたんだけど、意外に小さくて、アンプを通しているにもかかわらず生音のようなピュアな音だった。ギターとベースのサウンド・クォリティはさすがだね。耳を澄ませて思わず聴き入ってしまった。それと、ジムホールがあの年齢で、エフェクターを通して様々なサウンド作りをするからびっくりした。本当に行ってよかったよ。次の日も、余韻が残っていたし、もう一度聴いてみたくなった。」

Django:「いい音楽は、聴いた後の余韻がいつまでも持続する。Murphyくんの言うようにもう一度聴いてみたくなるね。ロン・カーターはライブで、PAには最新の注意を払っているし、ベースの生音にできるだけ忠実な再生を心がけている。ジム・ホールも同様で、二人とも究極のエレクトリック・アコースティックサウンドを目指している。」

M:「よくアマチュアのジャズライブを聴きにいくと、これなら家のオーディオでCDを聴く方が余程よいサウンドだと思うことがある。音量が大きすぎてうるさくて長時間聴き続けると疲れてくることもあった。PAは大切だね。」

D:「その通り。現在第一線で活躍するジャズプレーヤーのライブ演奏は、概して思ったほど大音量ではない。特にロン・カーターなんかは、サウンドクォリティを最優先するし、音量もかなりセーブしている。ジム・ホールも80〜90年代に較べ、最近はますます音量を小さくする傾向にある。MJQなんかは、昔からいつも適正な音量で定評があったし、室内楽的サウンドクォリティを追求していた。」

M:「ジム・ホールは生で初めて聴いたんだけど、今回使っていた楽器はなに?」

D:「ギターはSADOWSKY(サドウスキー)のジムホール・モデル。アンプはポリトーン。」

M:「ジム・ホールが最初ステージに現れたとき、かなりのお年だと思ったけど、何歳ぐらいなの?」

D:「ジム・ホールは1930年12月4日生まれで76歳。一方のロンカーターは、1937年5月4日生まれだからもうすぐ70歳になる。」

M:「でも、演奏はいつまでも若々しいね。」

D:「そのとおり。ひとたび演奏が始まると、二人とも驚くほどクリエイティブな演奏を展開する。当日の最初の曲は、マイ・ファニー・ヴァレンタイン、2曲目はジム・ホールのオリジナル・ブルース・ナンバーでケアフル、3曲目は確かpeaceというオリジナル曲、4曲目は、オール・ザ・シングス・ユー・アー、ラストは、ソニー・ロリンズのセント・トーマス、そしてアンコールはミルト・ジャクソンのバグズ・グルーブだった。ところで、2曲目のケアフルという曲は、通常ブルースは12小節なんだけど、16小節だから注意しなければいけない、という意味でジム・ホール自らが、ケアフルと名付けたらしい。」

M:「Djangoくんが、ジム・ホールを聴くなら出来るだけステージに近い席で聴く方がいいと言っていたけど、最前列で聴いてよかったな。アンプを通したり生音のままで伴奏したり、ジム・ホールがあれほど音色を変えるとは思っていなかったので驚いた。」

D:「ジム・ホールも80年代の頃はライブでもっと大きな音量だったけど、先ほども言ったように最近はかなり小さくなった。そのことによって、聴衆は耳を澄ませ、積極的に聴こうとするようになるんだ。その分以前にも増して、多彩な音色を追求するようになった。」

M:「ところでDjangoくんは、いつ頃からジム・ホールが好きになったの?

D:「70年代からだね。それ以前はあまり知らなかった。60年代初めのソニー・ロリンズのバンドに参加していた頃の演奏は、あとで知った。70年代に入り、マイルスが電化サウンドにシフトし、多くのプレーヤーがフュージョン路線へとシフトし始めた頃から、最新録音盤は徐々に購入を見合わすようになったんだけど、ジム・ホールだけは例外だった。彼の演奏は一番肌に合うと言うか、体質的に最も受け入れやすかったので、よく彼の演奏を聴いていた。もし、ジム・ホールがいなかったら、途中でジャズを聴かなくなっていたかもしれない。

70年代の後半から、カリフォルニアでカール・E・ジェファーソンコンコード・レーベルを主宰し、次々と往年のスインギーなジャズプレーヤーを起用し録音するようになった。特に、ハーブ・エリス、カル・コリンズ、ジョニー・スミス、ジョージ・ヴァン・エプス、ケニー・バレルなどの名ギタリストを起用して数々の優れたギターアルバムを制作した。これは画期的だったね。フュージョン一色の時代に、往年のフォービート・ジャズ復活を復活させた功績は多大だ。当時このコンコードレーベルの輸入LPを好んで購入するようになった。コンコードレーベルは、ジム・ホールの新録音も開始し、ジム・ホールとロン・カーターのデュオアルバムLive at Village Westが82年にリリースされた。続いて84年にふたたびリリース。これが、再会セッションといわれるテレフォン(Telephone)というタイトルのアルバム。その中に収録されているアローン・トゥゲザー(Alone Together)は、70年代にリリースされた二人のデュオアルバムのタイトルにもなった曲。」

M:「それにしても、二人のデュオはもう一度聴きたくなるね。」

D:「素晴らしいライブに触れたときはいつもそうだよ。」

 ◇◇◇

Ron Carter and Jim Hall / テレフォン(Telephone)

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