第20回 不滅のジャズ名曲-その20- セントルイス・ブルース(St. Louis Blues)

Django:「このところ、ヴォーカルアルバムの話題が続いているんだけど、ジャズ・ヴォーカルを語るなら、やはりこの人のことをもっと言わないと...。」
Murphy:「だれ?」
D:「第16回に登場したんだけど、もう一度、今回改めて採り上げたいんだ。」
M:「第16回といえば、エラ&ルイのアルバムだけど、どっち?」
D:「ルイの方だよ。サッチモことルイ・アームストリング。Murphyくんは、ルイの曲は他に何か知ってる?」
M:「そうだな、以前にホンダのCMに出てきた歌ぐらいかな。」
D:「ああ、What a Wonderful Worldね。この曲は一番ポピュラーかもしれないね。今回は、ルイのもっと古い録音で、どうしても採り上げたいアルバムがあってね。ルイのアルバムはとても多いけど、そのなかで彼のベストアルバムの1つだと思っているのがあるんだ。でも、案外このアルバム、あまり知られていないかもね。」
M:「古い録音って、いつ頃の?」
D:「1954年の録音で、CBSに吹き込んだ「ルイ・アームストロング プレイズ・W.C.ハンディ」というアルバム。」
M:「W.C.ハンディ? 聞いたことないけど、ひょっとして作曲家の名前?」
D:「そのとおり。このアルバムは、ルイの傑作の1つだね。ハンディという作曲家は、ブルースの父といわれる人で、数々のブルースを作曲している。一番有名な曲は、セントルイス・ブルース。」
M:「ああ、その曲知っているよ?」
D:「そうだろう。みんな知っている曲だね。ルイは、この曲を1920年代から何度も吹き込んでいるんだけど。このアルバムでの演奏が間違いなくベストだね。あの陽気なルイが、いつになく真剣に取り組んだアルバムで、相当な集中力で気迫が漂っている。すべてハンディの曲で11曲も録音するっていうことは、ルイにとっても、相当なプレッシャーがあったと思うね。ブルースの父、ハンディの曲を演奏するんだから、へたなものは作れないという気持ちが、アルバム全体を支配している。当時のレコードのライナーノートで、大和明さんが書いているけど、作曲者であるハンディ自らが、

「当時出来上がったテープを、レコード編集室で聴いた81歳のW.C.ハンディは視力を失った目に感激の涙を浮かべ、自分の作品をこれ以上に素晴らしく演奏したのはルイ以外にかつてなかった。(大和明著 ライナーノートより)」

と、絶賛したらしい。」
M:「あの、サッチモがそんなに気迫を込めて演奏したのか。」
D:「そう。Murphyくんにも、ぜひ一度聴いてほしいんだけど。ボクは初めてこのアルバム聴いた時、1曲目のセントルイス・ブルースで、うわあ、スゴイと思ったね。ルイが素晴らしいリズム感でリードしていく。これまで聴いてきたこの曲のイメージとは異なり、セントルイス・ブルースって、こんな生命力があったのか、と思ったね。まさに、ブルース。名曲!。でも、ルイのことだから、ユーモアも忘れていない。この曲を聴いて以来、一番好きなブルースは? と聴かれれば、真っ先に、ルイのセントルイス・ブルースが浮かぶんだ。」
M:「Djangoくんにとって、セントルイス・ブルースは、マイ・フェイバリット・ソングだったのか。」
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プレイズ・W.C.ハンディLouishandy

Louis Armstrong- Live

第16回 不滅のジャズ名曲-その16- 霧深き日(A Foggy Day)

Django:「Murphyくん、今回もガーシュインの曲を選びました。曲名は、「霧深き日(A Foggy Day)」。霧の日。とも訳されているけど、一般的には、日本でも「ア・フォギー・デイ」とそのまま英語名で呼ばれている。」

Murphy:「ガーシュインは、たくさんの曲を作曲したんだね。今回もヴォーカルのなかから選んでくれるかな。以前はあまりヴォーカルものは聴いてなかったんだけど。このあいだから、ちょっと聴きだしたら、興味がわいてきたなあ。ジャズの歌、って、大人の雰囲気がするよ。ビールやワインにも合うし、CDをかければ、部屋の雰囲気が変わるね。余裕があるっていうか。くつろげるし。お子様ランチのような曲やミュージシャンはもう飽きたし、その点、ジャズはいいね。特にヴォーカルは。」

D:「そうだろう。ジャズを聴けば確実にセンスがよくなるね。昔からデザイナーなんかは好きな人が多い。ジャズを聴いていると余裕がうまれるんだ。ジャズは100年の蓄積のなかで演奏されているんだもの。それは深いよ。でも、一般にジャズを聴いている人って、あまりヴォーカルものを聴かない人が多いようだね。反対にヴォーカルが好きな人は、あまり楽器ものは聴かなかったりして。でも、ジャズって、もともとブルースから始まっているんだから、歌がやっぱり基本だよ。ヴォーカルを聴けば、これまで以上にジャズが理解できると思うね。それと生活のなかにジャズが溶け込んでいくんだ。」


M:「その通り! ボクもそう思うね。」

D:「アメリカでは、そこら中のホテルのバーラウンジでジャズが演奏されているし、グランドピアノが一台だけのラウンジでも、リクエストをとりながら、弾き語りやピアノソロをやっているよ。そこで、ソルティ・ドッグを飲みながら聴いていると、これが驚くほどうまい。」


M:「え?、ソルティ・ドッグが?」

D:「違うよ、もちろん演奏だよ。無名の人がこれだけうまいんだからすごいね。いや、うまいだけでなく、本当に楽しんでいるよ。毎晩ラウンジでピアノを演奏するのがうれしくて仕方がないような表情だね。それと、もうひとつ、お客さんとのコミュニケーション。さりげなく、ユーモアを交えながら、お客さんとの会話を楽しむ。でも、決して出しゃばらない。そこのセンスは絶妙だね。こんな日常の光景が、ジャズの底辺を支え、生活に根づかせているんだと思う。その生活文化こそがジャズなんだ。もちろん、ストリート・ミュージシャンもそうだしね。」


M:「確かにそうだね。Djangoくん、いいこと言うね。でも、どうして、そこでソルティ・ドッグなの?」

D:「ただ好きなだけ。以上、説明なし。」


M:「ところで、今回のおすすめの歌手とアルバムは?」

D:「エラ・フィッツジェラルドルイ・アームストロング


M:「ついに出ましたね。そろそろ出てくるのでは、と思っていたんだ。そうすると2枚のアルバムってこと?」

D:「と、思うだろう? これが1枚で聴けるんだ。つまり、デュエット。アルバムタイトルは、ズバリ、「エラ・アンド・ルイ」」


M:「へえー、二人のヴォーカルが一枚で聴けるって最高だね。」

D:「そう。このアルバム、すべてのジャズアルバムのなかでも、ボクの最も好きなアルバムの一つ。伴奏がまた素晴らしいよ。ピアノがオスカー・ピーターソン、ギターがハーブ・エリス、ベースがご存知レイ・ブラウン、ドラムスがバディー・リッチ。エラとサッチモのデュエットのサポート役としては最高のメンバーだね。「ア・フォギー・デイ」以外にも、「ヴァーモントの月」、「4月のパリ」、「アラバマに星落ちて」など、名曲ぞろい。さすが、ヴァーヴのノーマン・グランツ。こういった、楽しくて、リラックスして、アットホームで、ユーモアがあり、しかも正統的で、思いっきりスイングして、いつでも聴けて、いつまでも飽きない、素晴らしいアルバムがつくれる、ジャズとは何かを知り尽くした名プロデューサーだね。以上、決定的名盤です。」

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「エラ&ルイ」は、1956年の録音。他に同メンバーによる2枚目のアルバム「エラ&ルイ・アゲイン」も1957年にレコーディングされている。これら2枚に加え、別テイク、さらにオーケストラバージョンも含めたコンプリートアルバムは米国ポリグラムから1997年に発売された。なお、レコーディング状態は50年代当時の最高水準といえるレベルであることから、復刻LPレコードも数度にわたり発売された。

エラ・アンド・ルイEllalouisjpg