第9回 不滅のジャズ名曲-その9- ボヘミア・アフター・ダーク(Bohemia After Dark)

Django:「今回は、ジャズ・ベースのプレーヤーが作曲した名曲を採り上げたんだけど。Murphyくん、誰の曲だと思う?」

Murphy:「ベース奏者といえば、ポール・チェンバース、MJQのパーシー・ヒース、ビル・エバンスのグループにいたスコット・ラファロなどを、思い浮かべるんだけど、その中に入っている?」

D:「いや、入っていないよ。他にだれか思い出さない?」

M:「そうだなあ…、あ、そうそう、忘れていたよ。肝心な人、ロン・カーター。ロン・カーターは結構作曲数も多いし、彼じゃない?」

D:「残念でした。ヒントを与えよう。今言ったロン・カーターが、ベース界の大先輩として大変尊敬している人だよ。」

M:「うーん、ますますわからなくなってきた。そろそろ答えを言ってくれよ!」

D:「では、発表します。オスカー・ペティフォードです。曲は、彼の代表作で、ボヘミア・アフター・ダーク。一般にはあまり知られていないようだけど。ペティフォードはモダン・ベースの巨匠といわれる人で、作曲家としても多くの名曲を残しているんだ。他に、ブルース・イン・ザ・クローゼットタマルパイスなどが有名。アルバムでは、自分のリーダーアルバムより、サイドで演奏しているものの方が知れ渡っているね。例えばMurphy君も知っているだろう、ハスキーボイスで有名なヘレン・メリルの人気アルバム、「ウィズ・クリフォード・ブラウン」や、他に「オスカー・ペティフォードの神髄「コンプリート・オスカー・ペティフォード・イン・ハイファイ」なんかがよく知られているよ。多くのベーシストに影響を与えたオスカー・ペティフォード は、一般のファン以上にプロのベース奏者から慕われ、いつかはペティフォードのように演奏したいと思うあこがれの人だったんだよ。」

M:「そうか、知らなかったなあ」

D:「ペティフォードはモダン・ベース奏法の確立者で、ベーシストはみんな、彼の奏法を学んだんだ。Murphy君の知っている、ロン・カーターもそうだよ。実は、数年前に、ロン・カーターが来日したとき、念願のペティフォードに捧げるアルバムを録音したと言っていたのが印象的だったね。そのときの情景は、今でも覚えているよ。車の中で、目を輝かせて「今月リリースされるんだけど、このアルバム、スイング・ジャーナルのゴールドディスクに選ばれたんだ」と言って大変喜んでいたんだ。」

M:「へえー、それで。」

D:「「発売はいつなんですか?」と尋ねたら、なんと次の日に発売だということがわかった。それで、明日発売なら、きっと前日にレコード店に入荷してるんじゃないかと思い、急いで買いに行ったんだ。でも、残念ながら手に入らなかった。ロン・カーターは、その新譜が紹介されているスイング・ジャーナルを記念に是非入手したいと言っていたので、後日NYまで郵送したんだ。」

M:「そうだったのか。」

D:「ベースの神様と言われる、ロン・カーターが、自分たちの大先輩のペティフォードのことを想い続けていたんだ。それがやっとアルバムになって、ボクも胸があつくなったね。」

M:「そのアルバムのタイトルを教えてくれる?」

D:「2001年10月に東芝EMIのsomethin’elseというレーベルからリリースされたスター・ダスト(Star Dust)というアルバム。1曲目のタマルパイス(Tamalpais)と4曲目のボヘミア・アフター・ダークはともに、印象に残るメロディーラインで哀愁が漂う名曲だね。」

  ◇◇◇

オスカー・ペティフォードは、1922年生まれ。1958年に渡欧。1960年コペンハーゲンにて死去。ロイ・エルドリッチやディジー・ガレスピーの楽団を経て、自己のコンボを率いた。モダン・ベース奏法の確立者。代表的アルバムは、Bethlehemレーベルの「オスカー・ペティフォードの神髄」1955年録音、このアルバムに名曲「ボヘミア・アフター・ダーク」が入っている。(このアルバムは入手困難なことが多い。) ここでは、ペティフォードに捧げたロン・カーターの「スター・ダスト」をあげておく。
Ron_stardustスターダストロン・カーター (b)、ローランド・ハナ(p) 、 ベニー・ゴルソン(ts) 、 ジョー・ロックス(vibe) 、 レニー・ホワイト(ds) 東芝EMI TOCJ-68053

第8回 不滅のジャズ名曲-その8- アイ・リメンバー・クリフォード(I Remember Clifford)

Django:「Murphyくんは、今の時代に新しく録音されたジャズは聴かないの?」

Murphy:「いや、最近のジャズもけっこう聴くよ。でも、どのCDがよいのかあまり見当がつかないんだ。50年代や60年代のアルバムは、情報も多いし、だいたい見当がつくんだけど。」

D:「そうか。もちろん50年代60年代のアルバムは、定番としていつまでも聴けるし、いわゆるクラシックジャズとして、永遠に語り継がれると思うけど。でも、最近の録音でも、素晴らしいアルバムがたくさん出ているから、こちらの方も是非聴いてみたら。そうだな、Murphyくん、最近のヨーロッパ・ジャズは聴いたことある?」

M:「ヨーロッパの方は、あまりよく知らないんだけど。…、あ、思い出した! 第6回のときのアルバムが確かスウェーデンジャズだったね。あれ、聴いてみたら、思わずこんなジャズが欲しかったと、つくづく思ったよ。実にシャレていて、重くなく、心温まる演奏だ。毎日聴いているよ。コルネットの響きがいいね。」

D:「そう。やっぱり。実は今回紹介する曲は、よくトランペットで演奏される曲なんだけど、最近聴いた、スウェーデンの若手トランペッターのアルバムに収録されていて、思い出したんだ。曲名は、アイ・リメンバー・クリフォード(I Remember Clifford)。作曲は、前回と同じ、ベニー・ゴルソン。この曲は、「ブラウニー」の愛称で親しまれている、50年代に活躍した天才トランペット奏者「クリフォード・ブラウン」に捧げたバラード曲。ブラウニーは、1956年に惜しくも交通事故で亡くなり、その追悼曲としてこの曲が作られたんだ。ブラウニーは、完璧なテクニックと歌心溢れるフレージングで、当時最高のトランペット奏者といわれ、ドラマーのマックス・ローチとのバンド活動は不滅のジャズ演奏として、いまでも高く評価されている。」

M:「トランペットといえば、マイルスと較べてどうなの?」

D:「クリフォード・ブラウンとマイルス・デイビスとは、かなり演奏形態やコンセプトが違うね。マイルスは一言でいえばクール。一方、ブラウニーは歌心溢れるフレーズが次々と沸き起こってくる素晴らしいアドリブ・プレイが魅力で、テクニック面でも、おそらく当時クリフォード・ブラウンの右に出る人はいなかったんじゃないかな。」

M:「よし、クリフォード・ブラウンを聴くぞ!」

D:「Murphyくん、その前に今回の、アイ・リメンバー・クリフォードをまず聴こうよ。」

M:「でも、この曲、追悼曲だから、クリフォードの演奏では聴けないし、誰の演奏がいいの?」

D:「トランペットに限らず、ピアノでも演奏されるし、この間採り上げたMJQもヨーロピアン・コンサートで録音しているよ。今回は、新しいアルバムの中から選んでみたんだ。スウェーデンの若手トランペット奏者「カール・オランドソン(Karl Olanndersson)」の「Introducing」というアルバム(2002年10月)を是非おすすめするよ。テクニックに走らず、自然で、よく歌う演奏だ。実は、このアルバムでは、自らヴォーカルも担当している。ちょうどチェット・ベイカーのような感じ。」

K_ola 「Introducing(イントロデューシング)」Karl Olanndersson(カール・オランドソン) Spice of Life SOLJ-0012

第7回 不滅のジャズ名曲-その7- ファイヴ・スポット・アフター・ダーク(Five Spot After Dark)

Django:「今回は、50年代後半の、ジャズプレーヤー自らが作った曲のなかから選曲したんだけど。」

Murphy:「50年代後半といえば、ハードバップからファンキージャズ全盛時代だね。」

D:「そう。その時代、ニューヨークの多くのライブハウスで連日連夜、名演奏が繰り広げられたようだけど。そのなかの有名ジャズスポットのひとつに「ファイブスポット」という店があったんだ。そこで、一日の演奏が終わり、閉店前のラストに演奏された曲が、今回採り上げる、ファイブスポット・アフターダークという曲」。

M:「ああ、その曲知っているよ。確かテレビCMでも流れていたね。その時、カッコイイ曲だなあと思ったけど。誰の作曲?」

D:「ベニー・ゴルソンという人。ゴルソンは、作曲・編曲にも優れた能力をもつ、テナーサックス奏者なんだ。」

M:「ああ、ベニーゴルソンか。」

D:「Murphyくん知ってるの?」

M:「うん。何年か前に、大阪のブルーノートにロンカーターが来たとき、そのメンバーのなかに、ベニー・ゴルソンがいたよ。」

D:「そう。その人だよ。この曲を含め、1959年にサヴォイ(Savoy)レーベルからリリースされたアルバムが、「ブルースエット」。パーソネルは、カーティス・フラー (トロンボーン), ベニー・ゴルソン (テナーサックス), トミー・フラナガン (ピアノ), ジミー・ギャリソン (ベース), アル・ヘイウッド (ドラムス) 。」

M:「あのメロディー、シンプルで、一度聴いたら忘れられないね。トロンボーンが加わり、厚みのある実にほのぼのとしたサウンドだなあ。」

D:「このアルバムにはじめて触れた時、「ジャズを聴いてて本当によかった!」と、多くのジャズファンが思ったそうだよ。名サポート役のトミー・フラナガンも参加しているよ。このアルバム、どの曲も素晴らしいんだ。」

M:「Djangoくん。実はぼくも、このアルバムを聴いてジャズが好きになったんだ。」

D:「そうだったのか。このアルバムからサヴォイレーベルに興味を持ち、サヴォイのファンになった人も多いよ。ジャズは、レーベルごとに特徴を持ち、CDを選ぶ時、アーティストもさることながら、レーベルで選ぶと、全く聴いたことのないアルバムでも、およその見当がつき、買って聴いてみて、自分の予想が当たることが多いんだ。ブルーノート、サヴォイ、プレスティッジ、リバーサイド、コンテンポラリー、パシフィックなど、レーベルごとに特徴を持っている。レーベルの特徴がわかってくるとますます面白くなってくるね。」

 ◇◇◇

アルバム「ブルースエット」は、サヴォイ(SAVOY)レーベルから発売された。サヴォイは、「ブルーノート」や「プレスティッジ」とならんで、モダン・ジャズの黄金時代に数々の名アルバムをリリースしてきた。40年代のパーカーやガレスピーなどのビバップの決定的名演奏は特に有名。50年代以降のサヴォイは、ミルト・ジャクソン(vib)の「オパス・デ・ジャズ」、ケニー・クラーク(ds)の「ボヘミア・アフター・ダーク」、アート・ペッパー(as)の「サーフ・ライド」、ハンク・ジョーンズ(p)の「ハンク・ジョーンズ・カルテット&クインテット」など、数々の名アルバムをリリース。サヴォイ盤は、一言でいえば、"Good Tasts"(趣味の良さ)であり、ジャズも持つ、スイング感、リラックス感に満ちた演奏が多い。
ブルースエットSavoy_bluesette

第6回 不滅のジャズ名曲-その6- 時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)

Django:「今回は、もともと映画音楽なんだけど、ジャズスタンダードとして演奏されている曲を選びました。ジャズ・スタンダードといわれる曲は、素晴らしいものがたくさんあるんだけど、原曲はミュージカルや映画音楽のために作曲されたものが多いんだ。」

Murphy:「そうだね。特に最近は、ジャズ・スタンダードがよく演奏されるようになったね。ボクにとっては、大変ありがたいね。メロディーがきれいだしね。ところで、曲はなに?。」

D:「今回の曲は、ジャズプレーヤーの間ではそれほど頻繁に演奏されないかも知れないけど。でも、みんなが知っている曲だよ。Murphy君、映画「カサブランカ」の主題曲知っている?」

M:「ああ、知っているよ。「時の過ぎゆくままに」、英語で言えば、"As Time Goes By"だったかな。」

D:「そのとおり。それが今回選んだ曲です。この曲、ただメロディーラインを演奏しているだけでも、ジャズプレーヤーの手にかかると、見事にジャズになってしまう。実は、この曲の素敵な演奏を最近聴いたんだ。」

M:「へえー。興味あるなあ。誰の演奏?」

D:「あまり日本では知られていないんだけど、スイート・ジャズ・トリオというスウェーデンのグループの最新のCDなんだ。コルネットとギターとベースのトリオ。このアルバムのタイトルが、「時の過ぎゆくままに」で、アルバムの1曲目に入っている。アルバムを通して全曲スタンダード・ナンバーばかり。他に、ホーギー・カーマイケルの「スターダスト」や、ビリー・ホリデイの名唱で有名な「君を見つめて」などが入っている。どれも心温まる演奏で、実によく歌っている。演奏に、これといって新しい試みはみられないんだけど、大人のジャズといった感じで、引きつけられるね。北欧らしい静かなムードのなかで、コルネットの渋くて深い音色に、温かみのあるギターがとけ込み、素晴らしいテイストの室内楽サウンドに仕上がっているんだ。」

M:「聴きやすそうだね。ジャズが初めての人でも大丈夫?」

D:「全くのジャズ初心者でも、おそらく、このアルバムは受け入れられると思うよ。ワイン片手に聴けば、上質のジャズバーにいる気分だね。また、演奏に深みがあるから、ベテランの人にも好まれそうだよ。」

M:「北欧のジャズということと、コルネットとギターとベースの組み合わせが新鮮だね。ドラムが入ってないから、余計に落ち着くんじゃないかな。」

D:「そう。原曲を大切に、心を込めて歌っており、聴き手に北欧ジャズ特有の心地よいリラクゼーションをもたらしてくれるという感じ。」

  ◇◇◇

スイート・ジャズ・トリオ(Sweet Jazz Trio)のパーソネルは、ラッセ・トゥーンクヴィスト:コルネット、マッツ・ラーション:ギター、ハンス・バッケンロス:ダブルベース。このグループのデビュー版は2002年でアルバム名は、「ソフト・サウンド・フロム・ア・ブルー・コルネット(Soft sound from a blue cornet)」。2005年には、「マイ・ロマンス"-スタンダード・コレクションVol.1("My Romance" -Standard Collection Vol.1」がリリースされている。
発売元は、Spice of Lifeという会社で、スウェーデン・ジャズやハワイミュージックなど大人の音楽を扱うユニークなレコードレーベル。Sjtrio1

第5回 不滅のジャズ名曲-その5- バグズ・グルーブ(Bag’s Groove)

Murphyくん、第5回の原稿は手紙でお送りします。
 ◇◇◇
不滅のジャズ名曲第5回は、MJQのミルト・ジャクソン作曲の「バグズ・グルーブ(Bag’s Groove)」です。
ミルト・ジャクソンはいつもブルース・フィーリング溢れる演奏で定評がありますが、特にこの曲を演奏したときは、水を得た魚のように、生き生きとアドリブを展開していきます。この曲は、ブルース形式のシンプルなコード進行で、いわゆる「ブルース」と呼ばれる曲です。それだけに、このシンプルなコード展開にのって、思いっきりスイングし、天心爛漫で自由自在なアドリブプレイが行われます。「バグズ・グルーブ」は以降、現在に至るまで、多くのアーティストが、ライブで (特にアンコールで) よくとりあげます。

ミルト・ジャクソンは、MJQ以外でも、他のアーティストと組んで、この曲を何度も録音していますが、やはりMJQでの演奏がベストです。ジョン・ルイスとミルト・ジャクソンとのコンビは、いわば静と動というコントラストのなかで、お互いを引き立て合います。そこに、世界一美しいベース音といわれた、パーシー・ヒースが、ドラムのコニー・ケイとともに、名サポート役を果たします。よく「インタープレイ」という表現が用いられますが、まさにその言葉どおり、4人の絶妙なコラボにより、お互いに対話しながら、緊張とリラクゼーションを見事に引き出しています。彼らMJQは、まさにモダン・ジャズの集団即興演奏の永遠の模範となる存在でしょう。ボクの名前がジャンゴだから、一層MJQに惹かれるのかもしれないけど。

今回は、彼らMJQの数ある演奏のなかでも、あえて最高のアルバムとして推薦したいものがあります。なぜかというと、MJQをはじめすべてのジャズ演奏は、ライブでこそ、その実力が遺憾なく発揮されるからです。スタジオ録音より観客を前にしたライブ録音の方が、よりスリリングで、ジャズならではのノリが最大限に表出されるからです。MJQのライブレコーディングのなかで、決定的な名演奏を収録したものがあります。それは、1960年に北欧から東欧にかけての長期ツアーのなかの、スウェーデンでの演奏を2枚のLPにまとめた、アトランティック盤のヨーロピアンコンサート(最新の紙ジャケ仕様の方が断然録音が良い)です。ちなみにこのアルバムは、ボクの名前の「ジャンゴ」から始まり、MJQお得意の名曲が次々と展開されます。ジャズならではのスイング感とはまさにこのアルバムでの演奏のことです。スイングするから、何度も何度も聴きたくなるということです。永遠の名盤です。
では、ボクのお話、これで終わります。B000jlsvj201_aa240_sclzzzzzzz__1

第4回 不滅のジャズ名曲-その4- オール・ザ・シングス・ユー・アー(All The Things You Are) 

Django:「マーフィー君、不滅のジャズ名曲の第4回目は、オール・ザ・シングス・ユー・アー(All The Things You Are)です。 この曲は、もともとはジャズの曲ではなく、オスカー・ハマーシュタイン(Oscar Hammerstein Ⅱ)作詞とジュローム・カーン(Jerome Kern)作曲の名コンビによるミュージカルナンバーで、現在に至るまで数多くのジャズプレーヤーが、この曲を採り上げ、いわゆるジャズ・スタンダードとなったものです。」

Murphy:「そうだったのか。ジャズの演奏ではよく聴くけど、オリジナルはあまり聴いたことなかったな。」

D:「パーカーもサヴォイ・セッションで演奏しているよ。ところで、どうしてこの曲、ジャズプレーヤーにこれほど愛されているのか知ってる?」

M:「曲そのものがいいからだろう。このメロディーラインはすばらしいね。」

D:「それもあるけど。実は、この曲のコード展開が魅力なんだよ。順番に4度ずつ移行していく、いわゆる4度進行なんだ。だから、アドリブの展開が大変おもしろい。」

M:「ジャンゴ君はジャズギターをやっているから詳しいね。そのへんは、僕にはよくわからないんだけど、でも聴いていて次々とシーンが変わっていくような感じはあるね。」

D:「この曲、ある有名な曲にコード進行がそっくりなんだけど、わかるかな?」

M:「枯葉じゃないかな。」

D:「そのとおり。枯葉も同じ4度進行なんだ。枯葉は、マイルスが演奏していらい一躍ジャズのスタンダードになったけど、実はオール・ザ・シングス・ユー・アーとよく似ているということ。」

M:「でも、ボクは、枯葉より、オール・ザ・シングス・ユーアーの方が好きだね。ジャンゴ君はどう?」

D:「ボクも同じ。」

  ◇◇◇

「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のように、ミュージカルの名曲が、ジャズになった例は実に多い。オスカー・ハマーシュタインとジュローム・カーンのコンビニよる名作は、ジャズ・スタンダードとして、多くのジャズ・プレーヤーに愛されている。ジャズの聴き方として、このような「歌もの」から入っていけば、知らないうちに、いろんなプレーヤーの演奏に接し、プレーヤーごとの違いがおもしろくなってくる。そして自分のジャズの森が広がっていく。ジャズもやはり「」が基本だと思う。大半のジャズプレーヤーは、原曲を歌い、アドリブも楽々と口ずさむ。超絶技巧のアドリブラインでさえ、多くのプレーヤーは歌っている。

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【コンプリート・スタジオ・レコーディングス・オン・サヴォイ・イヤーズ VOL.2】

第3回 不滅のジャズ名曲-その3- スペイン(Spain)

Django:「マーフィー君、不滅のジャズ名曲の3回目は、少し時代の新しいもので考えているんだけど。」

Murphy:「へえー。でも新しいって、どの程度なの?」

D:「70年代ぐらいをイメージしているんだけど。」

M:「70年代というと、マイルスがビッチェスブリューを出したころだね。この頃からジャズは次第にフュージョンに向かっていったね。今思うとフュージョンは、過渡期のものだったということがよくわかるなあ。80年代に入り、ウィントン・マルサリスが登場したころから再びジャズは4ビートの勢いを取り戻し、往年のスイング感がふたたび出てきたからね。フュージョン期の頃で、不滅のジャズ名曲なんてあるのかな。」

D:「ありますよ。おそらく現在でも多くのライブで演奏されるし、確かにフュージョン期に出たものだけど、他のフュージョンものとは明らかにレベルが違うんだなあ。」

M:「そうか、わかった。ジャンゴ君が思ってるのは。それは、・・・、キース・ジャレットの曲じゃないの?」

 D:「残念でした。キースは確かに素晴らしいし、今でも決して色あせない数々の名演奏を残しているんだけど、ここで言うジャズ名曲としては、すぐに思い当たらないんだ。」

M:「確かに、ここで採り上げるのは不滅のジャズ名曲だからね。キースは、彼の全演奏に意味があり、テーマは単なるモチーフにしか過ぎないしね。で、だったら、誰の曲なの?」

D:「作曲者本人以外に、他の演奏家も好んで採り上げ、後世の人たちにまで語りつがれる曲だよ!」

M:「うーん。誰だろう。もったいぶるなよ、そろそろ答えを言ってくれよ。」

D:「では。発表します。この曲は、ジャズ以外の他ジャンルの人からも大変人気の高い曲です。それは、・・・スペイン。」

M:「あ、スペインか。作曲者はチック・コリアだね。ジャンゴ君らしい選曲だね。この曲、ずばり言うと、ジャンゴ的だ!」

○D:「オリジナルは、ピアノ演奏だけど、最近は、ギター演奏がずいぶん多くなったね。先日この曲のギター演奏を聴いた人が、すっかりギターのために作曲されたものと勘違いしていたけど。多分この曲は、不滅の名曲として、後世まで演奏され続けるでしょう。」

   ◇◇◇

チックコリア作曲の「スペイン」は、彼の最新盤「スーパー・トリオ」にも収録されている。クリスチャン・マクブライドのベース、スティーブ・ガッドのドラムスという最強のリズム陣を率いて、じつにのびのびと自由奔放に弾きまくっている。全曲これまで以上に充実したプレーだ。なお、本アルバムは、先日、スイング・ジャーナル2006年度ジャズ・ディスク大賞金賞に選ばれた。
Supertrio

第2回 不滅のジャズ名曲-その2- ドナリー(Donna Lee)

B000a7q2ci01_aa240_sclzzzzzzz_○Django:「マーフィー君、ウィントン・マルサリスの最新アルバム聴いた?」


●Murphy:「LIVE AT THE HOUSE OF TRIBES」だろう。もちろん。ジャズはやはりライブだよ。このアルバム聴いて、ジャズはライブアルバムが最高!と思った。ニューヨークでこのライブに遭遇していたらどんなに楽しかっただろうなあ。聴衆のノリが素晴らしいね。ウィントンと彼のグループのホットなプレイ、聴衆の演奏への参加、完全に一体になっている。ジャズ特有の、ステージと聴衆とが一緒になって演奏を盛り上げ、全員が参加する。楽しさが充満しているアルバムだ。それにしても、ウィントンの演奏は快調だね。」

○D:「そのとおり。こんなに楽しいアルバムは久々だね。ウィントンのアドリブフレーズは、余裕で歌いまくるし、同じフレーズが二度と出ないほど、クリエイティブで、その上どこかやっぱりジャズだという懐かしさもある。」

●M:「パーカーの演奏で有名なドナリーが4曲目に入っているね。すさまじいスピードだ。あたかも急流下りで、川の流れに身をまかせ、流れのスピードにノリながら、2倍も3倍も余裕があるなかで、変幻自在に、パフォーマンスを繰り広げている。」

○D:「やはりジャズはリズムが命。ところで、日本の中村健吾がベースで参加しているね。」

●M:「2曲目のジャスト・フレンズでソロを繰り広げているが堂々たる演奏だ。ドラムのジョー・ファーンズワースもいいね。」

○D:「ルイス・ナッシュのライブを思い出したよ。」

●M:「ところで、ジャンゴ君、どれが一番よかった?」

○D:「どれも素晴らしいよ。その中から一曲選ぶなら、ボクの一番好きな曲「ドナリー」だね。」

●M:「やっぱりそうか? ジャンゴ君は、もともとパーカーが大好きだからね。」

 ◇◇◇

ウィントン・マルサリスの最新アルバム  LIVE AT THE HOUSE OF TRIBESに登場する名曲「ドナリー」の、パーカーによるオリジナル演奏は、不滅の名盤「チャーリー・パーカー・オン・サヴォイ」で聴ける。このドナリーの作曲者は、実はマイルス・デイビス。
「オン・サヴォイ」では、他に、「 ビリーズ・バウンス」「 ナウズ・ザ・タイム」「パーカーズ・ムード」など、ジャズ史上屈指の名演奏が満載されている。パーカーの数あるアルバムのなかで、この「サヴォイ盤」と「ダイヤル盤」が最も有名であるが、どちらか一つを選ぶなら、「サヴォイ盤」をおすすめする。「サヴォイ盤」は、パーカー絶頂期の演奏で、録音状態もけっこうよい。パーカーの演奏は録音年代が古い(1940年代〜50年代)ので、それだけで嫌ってしまう人が多いが、最新のCDでは、驚くほど音がよくなっている。パーカーの演奏の素晴らしさを体験すると、録音の古さなんて全く気にならない。最近思うことは、モダンジャズは、やはりパーカーで始まり、パーカーで終わるのではないかと。そういう意味では、パーカーの演奏は、本当のクラシックであり、時代を超越して今聴いても実に新鮮だ。1940年代に、サヴォイやダイヤルがよくぞ録音していてくれたものだ。

●DATA

曲名:Donna Lee (1947)

作曲:Miles Davis

第1回 不滅のジャズ名曲-その1- ジャンゴ(Django)

不滅のジャズ名曲ーその1ー「ジャンゴ(Django)

ベルギー生まれのジプシーギタリスト「ジャンゴ・ラインハルト」に捧げた、今はなきMJQのジョン・ルイスが作曲した屈指の名曲。

実は、うちのチョコラブにつけた名前が「ジャンゴ」です。男の子なのでみんなからジャンゴ君と呼ばれています。散歩の途中に、「お名前は?」と聞かれ、「ジャンゴです」と答えると、大半の方は不思議そうに「もういちどお名前は?」と聞かれます。「ジャンゴ」というのは独特の響きを持ち、わかりづらく不思議な名前に聞こえるようです。でも、一度覚えてもらうと、ほとんどの人はいつまでも忘れず覚えていてくれます。
「ジャンゴというお名前は、どういう意味なのですか?」とよく聞かれます。そのたびに、「ジャズギタリストでジャンゴ・ラインハルトという人がいて、そこから名前をつけました。」と説明します。そこで、「あ、そうですか」といって、会話が終わる場合が多いのですが、なかには、興味を持っていただき、続いて質問がきます。「ジャズがお好きなんですね。ジャンゴという人はどんな人ですか?」と。「はい。ジャンゴ・ラインハルトという人は、ずっと昔の戦前にベルギーで生まれ、フランスで活躍した人で、今はもうおられません」。「私もジャズに興味があるのですが…」と言われると、次第にジャズの話に入っていきます。

●「作曲者は、ジョン・ルイスで、MJQのリーダーです。彼が、1950年代の初めに作曲し、その曲を含む「ジャンゴ」というタイトルのアルバムを作りました。すばらしい名曲です。」

◇「ああ、そうですか。ジョン・ルイスという人もやっぱりギター奏者ですか?」

●「いや、ジョン・ルイスは、ピアニストです。ジャズをあまり聴かない人にも、彼の演奏はきっと気に入られるでしょう。クラシック畑の人もファンが多いです。」
・・・・という風に会話が続くのですが、その頃には、当の本人であるチョコラブのジャンゴが、そろそろ退屈し、そわそわしだします。
 

 ◇◇◇

1955年作曲の「ジャンゴ」は、ジャズ史上屈指の名曲だけあって、MJQもその後、さまざまなアルバムでこの曲を取り上げている。例えば、59年の「ピラミッド」、60年の「ヨーロピアン・コンサート」、74年の「ラスト・コンサート」などにも収録されている。また、ほとんどのライブで、この曲は演奏されてきた。静かで哀愁の漂うスローな導入部が終わると、中間部はうってかわって、アップテンポで、ブルース・フィーリングにあふれるミルト・ジャクソンが活躍する。エンディングは、再び前半の静かな曲に戻る。この前後半と中間部の対比がすばらしい。導入部から中間部に入った瞬間、これまで押さえていたミルト・ジャクソンが一気に厚くなるところは、何度聴いても新鮮だ。
ジャンゴ」は、やはり初録音のプレスティッジ版から聴くべし!

●DATA
曲名:Django(1955)
作曲:John Lewis

ジャンゴ:MJQ

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今日からジャズ!

さあ、今日からジャズの話、始めます。よろしく!
長期連載します。
みんなが聴きたいジャズ!、ジャズフィーリングとは?、おすすめのアルバム!、ジャズCDの買い方・集め方、ジャズ・ミュージシャンのはなし、などジャズ入門から始まり、LP、CD、ライブ情報など、ジャズにまつわる様々な話題をお送りします。
毎日掲載するのですか?、と聞かれたら、できるだけということにしておきます。
不定期ですが、多いときには1日に数回更新するかもしれません。でも・・週に1回のときもあるかもわかりません。不定期です。でも末長く続けますのでよろしく!

どうして今頃ジャズの話を始めるのですか?
前からやりたかっただけです。
実は、ニューヨークのトップジャズドラマーであるルイス・ナッシュに昨年、会ったときから密かに思っていました。
ルイス・ナッシュと食事をしたときに、こんなすばらしいジャズマンたちのことを、もっとみんなに知らせなければと思いました。

以前にジャズのコンサートの企画もしました。
そのときは、ホームページで、多くの人に知っていただきました。
ロン・カーターのライブを企画した時は、「へえ、あの有名なロン・カーターが身近に聴けるとは!と、皆さんに喜んでいただきました。

実際に、第一線で活躍するジャズプレーヤーたちと身近に接して以来、もっとジャズのすばらしさを伝えなければと思うようになりました。ジャズもすばらしい。でもジャズマンたちはもっとすばらしい!、というのが私の本音です。
アドリブでノリのよいフレーズを即座に意図もたやすく口ずさむ人たちや、演奏中、各奏者がお互いにコミュニケーションをとりながら、一体となって、意気投合して、音楽を作っていく姿を見ていると、ジャズを聴いててよかった!、とつくづく思います。
では次回を第1回とし、進めていきます。
どのような方向で進むのか、わかりません。ここはやっぱりアドリブです。
ではよろしく!