第30回 不滅のジャズ名曲-その30-ビリーズ・バウンス(Billie’s Bounce)

Murphy:『Djangoくん、ギターのことで聞きたいんだけど。ジャズ・ギターってどうしたら弾けるようになるの?」
Django:「練習を積むことだね。」
M:「それは、わかっているんだけど。ギターに限らずジャズの人って、アドリブが自在にできるよね。どうしたらできるのか不思議なんだ。」
D:「Murphyくんもジャズをやりたいの?」
M:「いや、そういうわけではないんだけど。いつもアコースティック・ギターを弾いていて、ほとんど譜面どおりなんだ。たまに、アドリブらしきものをやっても、ペンタトニックやダイアトニック・スケールで作るフレージングは、何とか出来るんだけど、ジャズにはならないし、やっぱりどう考えても不思議なんだ。ジャズが弾けるということが。それに、ジャズっていろんなスタイルがあるだろう。スイング・ビバップ・ハードバップ・クール・ファンキー・モードとか、いっぱいあるから、ますますわからなくなってくるんだ。」
D:「Murphyくん、一応ジャズの歴史、知っているんだね。いつのまに、勉強したの?」
M:「いや、ちょっと本を読んだだけなんだ。そしたら、1910〜20年代までは、ニューオリンズ・ジャズが全盛で、30年代にはビッグバンド中心のスイング時代に入った。その後、40年代からビバップ・ムーブメントが起こり、いわゆるモダン・ジャズになった。50年代半ばからハードバップ、そしてファンキーへと続く…、確かそういうストーリーだったような気がするけど。」
D:「確かにそのとおりだけど。」
M:「それで、Djangoくんに聞きたくなったんだ。そういうスイングとかビバップとかハードバップっていうのは、全然違うの? Djangoくんは、どのあたりのスタイルが得意なの?」
D:「それほど明確には区別してないけど。基本はそんなに変わらないし…」
M:「それ、どういうこと?」
D:「確かにスイングからビバップへは、大きく表現が変わったけどね。その後の、ハードバップ以降っていうのは、基本的にはビバップのフレーズの派生型だね。」
M:「その程度なの?」
D:「確かにジャズ史的にみれば、そのようにムーブメントが発展していくのかもしれないけど。前の時代の音楽と次の時代の音楽が、それほど一気に明確に変化しているとは思わないなあ。それと、どちらかと言えば、「発展」とは言いたくないね。前の時代でもいいものがたくさんあるし。新しいスタイルが出てきて古いスタイルがなくなるわけではない。次の新しい時代だといわれても、依然として前の時代のスタイルも脈々と根付いていたと思うね。新しいっていっても、ちょっとスタイルが変わる程度かな。」
M:「なるほどね。確かにビバップとハードバップの違いって、はっきり区別できないよね。」
D:「そのとおり。基本的には、今の時代の演奏もやっぱりビバップ・フレーズが基本だしね。ソニー・ロリンズもクリフォード・ブラウンも、パーカーやガレスピーなどと、フレーズをつくっていく理屈やハーモニーに関しては、そんなに違いはない。その人の個性の方が大きいよ。だた、ひとつ言えることは、40年代に、チャーリー・パーカーを中心に、Cpark_aガレスピーなどのグループが、飛躍的にアドリブの可能性を広げたということ。ジャズのアドリブは、ハーモニーを基本に展開しているんだけど、特にパーカーのフレージングが画期的だったということだね。パーカー以降は、様々なアーティストが登場するが、表現手法は異なっても、基本はみんなビバップ的な発想でアドリブを展開しているんだ。」
M:「そういうことか。みんなジャズのアドリブは、コード進行に基づき展開しているってことだね。」
D:「そう。一部の例外はあるけど、基本的にはそのとおりだ。」
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ー 休  憩 ー

M:「また素人考えなんだけど、アドリブってアルペジオみたいなもの?」
D:「まあ、そういうことだね。フレーズでハーモニーを表現していくんだから、バーチカルに展開していくんだ。その上で、ビバップ・フレーズは、代理コードを使って、別のコードに置き換えたりする。それと、テンション・ノートも付けていく。」
M:「だんだんわからなくなってきたよ。今回はこの程度でいいよ。それにしても、パーカーの存在はすごいんだね。」
D:「ところで、Murphyくんは、パーカーの演奏聴いたことある?」
M:「もちろんあるんだけど。何回かは、でも...」
D:「でも?」
M:「なんだかむずかしそうだよ。」
D:「そうか。どんなアルバム聴いたの?」
M:「あまり古い録音もいやだし、確か50年代のものだったと思う。」
D:「わかった。Murphyくん、パーカーはやっぱり40年代の演奏をまず聴いた方がいいよ。SavoyやDialに吹き込んだもの。演奏は1曲3分前後だから。何回か聴いていくうちに、パーカーのフレーズに親しみを覚えるよ。」
M:「そのSavoyかDialか、どちらを先に聴けばいいの?」
D:「両方だよ。Murphyくん、1940年から48年までのパーカー絶頂期の演奏を1つにまとめた、いいアルバムがあるよ。セットなんだけどボクはこれをすすめるね。以前ジャンゴの時に採り上げたイギリスのJSP Recordsがパーカーの決定版ともいえる、ほんとにいい復刻盤を出してくれた。さすがJSPだけあって、音質は向上しているし、しかも低価格。5枚組で3000円切れるよ。パーソネル、録音年月日などのデータもしっかり記述されているし、JSPのこのセットは、いずれ在庫が切れて品薄になれば値段も上がるだろうね。」
M:「パーカーの代表曲ってなに?」
D:「いろいろあるけど。例えば、ビリーズ・バウンス(Billie’s Bounce)。Murphyくんもこの曲練習してみたら。」
  ◇◇◇
A Charlie Parker: A Studio Chronicle 1940-1948 イギリスJSP Records 5枚組Boxセット
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第29回 不滅のジャズ名曲-その29-バット・ノット・フォー・ミー(But Not For Me)

Murphy:「前回のビール・バーのデザイナーから、また問い合わせがあったんだけど。ジャンゴについては、文句なしということで非常に気に入っている。それで、時たまジャズ・ヴォーカルを流したいんだけど、誰がいいかDjangoくんにぜひ聞いてほしいということなんだ。ヴォーカルも、どこにでも流れているようなものではなく、こだわりを持って選曲するほうがいいだろうって。」
Django:「確かにその通りだね。ヘレンメリルのYou’d Be So Nice To Come Home Toなんかだと、最近どこの店でも流れているしね。”一応ジャズをかけています”っていう程度で、体裁だけととのえてそれ以上のお店のポリシーが感じられない。店主のこだわりというか。だから今度のその店は、新しいビール・バーということで、せっかくジャンゴを選んだんだから、ヴォーカルもそれに見合うだけのものが必要だ。」
M:「ボクもそう思う。最近やたらジャズをかける店が多くなって、有線か何か知らないけど、流れているものは、居酒屋も、寿司屋も、カフェも、何かおきまりの定食のような感じだから。Djangoくんの言うようにもっとこだわり持て!って、言いたくなるね。まあ、一般はそれでいいかもしれないけど、今度のお店は、こだわりの店にしようということだからね。何かいいアイデアある?」
D:「そうだな。ジャンゴが、戦前の古い録音だから、ヴォーカルもそのように…」
M:「そうすると、古い時代のもの、っていうこと?」
D:「そのとおり。」
M:「黒人のシンガー? それとも白人? 確かそのデザイナーが言ってたけど、黒人女性のヴォーカルは、ちょっとくせが強くて一般には聴きづらいのではないかって。だから白人女性シンガーあたりでどうか、と言っていたよ。」
D:「白人女性シンガーね。別のコンセプトの店なら合うけど。ここは黒人女性シンガーでいこう!」Dizzella_a
M:「でも、大丈夫? せっかくジャンゴを選んだのに、ムードを壊さない?」
D:「そんなことないよ。黒人シンガーでもいろんなタイプがいるから。まず、選ぶにあたって、相当実力のある女性シンガーを選ぶべきだな。中途半端な、素人に毛が生えたようなシンガーはだめ。その上で、聴いている方は、その歌手が黒人か白人か、区別がつかないような人?」
M:「そんなジャズ・シンガーっているの?」
D:「いるよ。それが、エラ・フィッツジェラルドだよ。歌のうまさは天才的。そのうえ、バラードは実にしっとりと歌い、暖かみがあり情感が伝わってくる。サラ・ボーンなんかは、すごく黒人ぽい歌い方をするんだけど、彼女は、歌い方に変なくせもないし。クラシック好きの人でも、おそらく納得し、脱帽だろうな。アップテンポの曲も、思いっきりスイングして、ひとたび調子にのれば、アドリブで自由自在にスキャットができる。変幻自在だね。」
M:「へえ、そうなの。」
D:「それで、これからがポイントなんだけど、彼女は、1917年4月にヴァージニア州で生まれている。一般に市場に出回っている アルバムは、50年代の半ば以降で、年齢でいえば、40歳過ぎてからの吹き込みが圧倒的に多いんだ。」
M:「そりゃそうだね、1960年の録音なら43歳か、70年なら50歳以上だ。」
D:「もちろん、これほど歌のうまい彼女のことだから、50歳を過ぎても第一線でバリバリ活躍できたし、今でもその頃のアルバムも素敵だと思う。でも、彼女の若い頃の歌声は可憐で初々しくて本当に素晴らしいよ。もっと聴いてあげてもいいくらい。だから、今回は、エラを起用して、あまり一般には聴かれていない50年代までのアルバムで統一すればいい。30代の頃までの録音だね。そうすると、ジャンゴと時代的にも統一がとれるから。」
M:「なるほど、Djangoくん、うまいこと考えるね。」
D:「Murphyくんも、そのころのアルバムを一度聴いてみたら?」
M:「でも、その時代のアルバムって、簡単に手にはいるの?」
D:「最近はね、いい復刻盤が出てきたよ。それでね、ピアノのエリス・ラーキンスという歌伴の名人と2人で録音した曲があるんだ。そのなかで、おすすめは、バット・ノット・フォー・ミー(But Not For Me)という曲。このあいだ出てきたガーシュインの作曲。ジャズ・スタンダードとして大変人気のある曲で、これまでいろんなアーティストがこの曲を採り上げてきた。まさに名曲だね。例えば、歌では、ダイナ・ワシントン、クリス・コナー、リー・ワイリー、チェット・ベイカーなど。演奏では、マイルスがバグズ・グルーブというアルバムのなかで採り上げている。」
M:「ところで、そのバット・ノット・フォー・ミーの入っているアルバムは?」
D:「彼女も何度も録音しているけど、ここは、エリス・ラーキンスの歌伴で1950年に吹き込んだのを選ぼう。アルバム名は、「Ella Fitzgerald Vol.3 Oh! Lady Be Good」。彼女の1945年から52年までのレコーディング。レーベルは、イギリスのNAXOS JAZZ LEGENDS(直輸入盤)。NAXOSは、このところ大変いい復刻盤を次々と出している。デジタルリマスター技術により相当音質がよくなっている。このアルバム、全17曲中、8曲はピアノ1台による伴奏で、他はトリオ、オーケストラ伴奏。これ一枚で、彼女の多彩な歌い方が楽しめるんだ。」
M:「わかった、とりあえずそのアルバムをデザイナーに紹介するよ。」
D:「ところで、そのデザイナーには、アルバムを先に見せずに、先入観なしで、だまってまず曲を聴いてもらって」
 ◇◇◇
Oh! Lady Be Good Ella Fitzgerald Vol.3 Original 1945-1952 recording NAXOS JAZZ LEGENDS 8.120716 2003/6/2 Release 120716

第28回 不滅のジャズ名曲-その28-アヴァロン(Avalon)

Murphy:「Djangoくん、このあいだの第25回で話題になった、ビール・バーのプランニングを担当しているデザイナーにさっそく、あのジャンゴのボックスセットを聴いてもらったところ、イメージにピッタリだといって、大変喜んでいたよ。お店のインテリアプランもほぼ出来上がり、あとは音楽の方のセレクト段階に入ったということだ。あ、それから、あと、ビールのセレクトBeer_icon
がまだ不十分だと言っていたね。」
Django:「そりゃよかった。ジャンゴを気に入ってもらってよかった。」
M:「例の5枚組のアルバムなんだけど、実はそのデザイナーも以前にジャンゴのCDを買ったことがあったそうだよ。でも、録音が古くてあまり聴く気にならなかったって言っていた。でも、Djangoくんの推薦したそのアルバムの1枚目を聴いたとたんに、驚いたらしい。ボクも正直言ってびっくりした。1930年代のこんな古い時代の録音がここまで、いい音質で聴けるとは。それに演奏がすばらしかったね。」Django_jsp1
D:「ボックス・セットの5枚組の1枚目は、ジャンゴがヴァイオリンのステファン・グラッペリと組んで、QHCF(フランス・ホットクラブ・五重奏団)を結成したときの、ファースト・レコーディングだから、その意気込みが傑作を生んだんだろうね。1934〜35年だからね。Murphyくんは、どの曲が気に入った。」
M:「全部だよ。しいてあげれば、アヴァロン(Avalon)かな。」
D:「ああ、あの曲のスイング力はすさまじいね。さすがMurphyくん、いい曲選ぶね。」
M:「アヴァロンって、以前に聞いたことあるような気がするんだけど。」
D:「そうだね。スイング時代によく演奏された名曲だよ。ベニー・グッドマンが大ヒットさせた曲だね。1920年に作曲された古い曲で、プッチーニのオペラ「トスカ」第3幕のアリアがベースになっていると言われている。ジャンゴの演奏は、いろんなアーティストの数ある演奏のなかでも、最も印象に残る名演だと思う。」
M:「ところで、そのデザイナーが、もうひとつDjangoくんに聞きたいっていってたんだけど。今のミュージシャンで、誰かそういった音楽をやっているグループがいるかどうか。」
D:「なるほど、ジャンゴ系のスイング・ジャズを今もやっているグループね。1つ紹介しようか? あまり、日本では、知られていないと思うけど、パール・ジャンゴ(Pearl Django)というグループ。グループの編成は、ジャンゴと同じ。いわばジャンゴの遺伝子を持ったグループということ。アルバム名は、ズバリ「アヴァロン(Avalon)」
M:「そうか、さっそく彼に伝えるよ。」
D:「Murphyくん、でもね、やっぱりオリジナルのジャンゴの演奏がなんといっても最高だね。いくら録音が古くても、その時代ならではの生きた音楽だし、その当時の最前線だったからね。グラッペリとの絶妙なコンビ、時代を先取りした新しさは、今聴いても新鮮だ。」
M:「わかった。あくまでジャンゴの当時の演奏があっての今だからね。」
D:「その上で、ジャンゴのDNAを持ったグループが、これからの時代、活躍してくれることは、ボクにとっては大変うれしいことだね。とくに、今の時代、ふたたび、あのジャンゴスタイルが求められていると思う。新しいグループは、ライブでその演奏に接することもできるし、彼らなりの新しい解釈も加味されているから、今後楽しみだね。」
M:「ところで、ジャンゴって、何度も聴きたくなるね。」
D:「そのとおり。毎日聴けば仕事の疲れも吹っ飛ぶし、からだもスイングし始めるよ。これ、”Django効果”というんだ。からだがスイングすると、いいアイデアも浮かぶし、発想が豊かになる。」
M:「おもしろいこというね。Django効果か。Djangoくんは、もうその効果がでてるの?」
D:「あたりまえだろう。ボクは、もともと名前からしてDjangoなんだから。」
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Avalon Pearl Django (Modern Hot Records) 2000/11/7リリース
AvalonNeil Andersson(Guitar),
Michael Gray(Violin),
Rick Leppanen( Double Bass),
Greg Ruby(Guitar),
Dudley Hill(Guitar)

第27回 不滅のジャズ名曲-その27-ニューヨークの秋(Autumn in New York)

Django:「Murphyくん、久しぶりに今回は女性ヴォーカルを採り上げたいと思うんだ。ブロードウェイのミュージカルのヒットナンバーは、これまで多くのジャズ・シンガーに歌われてきたけど、そういったミュージカルの名曲ばかりを集めたアルバム。」
Murphy:「そのアルバムはDjangoくん、かなり気に入っているの?」
D:「そのとおり。「大都会のノスタルジーを歌った極めつけの名唱」というコピーが、アルバムの帯に書かれているとおり、聴いていて実に心地よい素敵なアルバムだね。」
M:「それで、誰が歌っているの?」
D:「白人女性歌手で、「ジョー・スタッフォード」という人。40、50年代に大活躍した人。伴奏は、ポール・ウェストン楽団。バックがストリングスの入ったオーケストラだから、ノスタルジックな映画を見ているようだ。このアルバムは、これまであまりジャズにふれていない人にも、おすすめだね。古きよき時代の映画が好きな人にピッタリだろうな。」
M:「どんな歌い方?」
D:「Murphyくん。一度聴くと絶対に気に入るよ。あまり黒人ぽい歌い方の人は苦手だといっていたね。ジョー・スタッフォードは、さらっとした歌い方。原曲に対し忠実に歌い上げる人。それとほとんどビブラートをかけずに、息の長いフレージングで歌うのが特徴。」
M:「そうか、あまり歌い方にくせがないんだね。」
D:「そのとおり。いわゆる”トランペット・ヴォイス”と呼ばれる歌唱法をマスターし、トロンボーン奏法からヒントを得たという、独自の管楽器に近づけた歌い方が特徴で、しかもさらっと歌いあげるところが魅力だね。」
M:「アルバム名は?」
D:「1曲目の「ニューヨークの秋(Autumn in New York)がアルバム・タイトルになっている。アルバムのなかで、やはりこの曲が一番いいね。」
M:「だれの作曲?」
D:「ヴァーノン・デューク。「パリの四月」を書いた人。この曲は、ジャズのスタンダード曲として多くのシンガーやプレーヤーが吹き込んでいる。演奏では、チャーリー・パーカーやソニー・スティット、チェット・ベイカーなど。シンガーでは、ビリー・ホリディやフランク・シナトラなど。」
M:「この一曲だけがいいんじゃない?」
D:「このアルバムに限っては、そんなことないね。確かにこの曲が突出しているかもしれないけれど、どれもいい曲ばかりだよ。他にジュローム・カーンの曲で「煙が目にしみる」、リチャード・ロジャーズのミュージカル南太平洋のなかのヒット・ナンバーで「魅惑の宵」などが入っている。」
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Autumn in New York(1934)
◆作詞・作曲:Vernon Duke
◆Key:F major
◆形式:A1 – B – A2 – C
◆主な収録アルバム:Charlie Parker with Strings (Verve)
◆推薦アルバム:Joe Stafford(vo) “Autumn in New York” (Capitol)
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ニューヨークの秋 ジョー・スタッフォード 1955年録音
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Autumn in New YorkとStarring Jo Staffordの 2枚のアルバムのカップリング版
Autumn in New York/Starring Jo Stafford
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第26回 不滅のジャズ名曲-その26-ボーイ・ミーツ・ゴーイ(グランド・スラム)(Boy Meets Goy (Grand Slam))

Murphy:「Djangoくん、前回のジャンゴのアルバム、ボクも初めて聴いたんだけど、とってもよかった。素晴らしくスイングしているね。それにヴァイオリンが加わって、とてもいい雰囲気だね。」
Django:「そうだろう。以前は録音が古いこともあって、聴きづらかったんだけど、ずいぶんクリアになったしね。ジャンゴのギターが生き生きと響くようになった。」
M:「そうだね。ところで、ジャンゴを聴いて、少しジャズギターに興味を持ったんだけど、まず何から聴けばいい?」
D:「Murphyくんは、アコースティック・ギターを演奏するんだろう。マーティンのギターについても詳しそうだし。ジャズギターはあまり聴いてなかったの?」
M:「うん。自分で演奏しようと思っても、あまりにもむずかしくてね。ちょっと敷居が高そうだし。」
D:「確かにジャズギターは、それなりのテクニックが必要なんだけど。聴いて楽しむ分には関係ないから、是非聴いてみたらどう?」
M:「うん。それで、まず誰から聴けばいい?」
D:「そうだな。Murphyくんはけっこう古いものが好きだから。それにあまりうるさくないものが好みだろう?」
M:「オールドファッションというか、レトロなものが好きだね。それと、やはりスイングしているもの。」
D:「そうか。この前、Murphyくん、戦前の古いハワイアンなんか聴いていたね。そのぐらい古くてもいいの?」
M:「その方がいいよ。あのハワイアン、Djangoくん覚えていたのか。」
D:「しっかり覚えているよ、あれよかったね。ところで、今回のアルバムなんだけど、ジャズギターで最高のものを選ぼうか?」
M:「いきなり? むずかしくない?」
D:「全然、そんなことないから安心して。それより、Murphyくんがジャズギターに興味を持ったんだから、この際中途半端なものはだめだと思ったんだ。それに、Murphyくん、アコースティックギターをやっているからね。」
M:「誰の演奏?」
D:「このアルバム、BGMで聴いてもいいと思うよ。いわゆるスイングジャズで1939年から40年ごろの演奏だから。レトロな味わいがあるよ。1曲3分前後だからすぐ終わるし。でも、ギターのパートが出てきたらいつか真剣に耳を傾けてくれる?」
M:「Djangoくん、また始まった。もったいぶるなよ。はやく言えよ。」
D:「わかった。伝説のジャズギタリスト、ビバップの元祖、チャーリー・クリスチャン。その彼が、ベニー・グッドマン六重奏団に加わっていた頃のアルバムで、「ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー」というアルバム。そのなかに入っている、「ボーイ・ミーツ・ゴーイ(グランド・スラム) (Boy Meets Goy (Grand Slam))」という曲を是非聴いてくれる?」
M:「チャーリー・クリスチャンって、聞いたことあるなあ。確かギブソンのギターでチャーリー・クリスチャンモデルっていうのがあったと思うけど、その人?」
D:「そのとおり。そのギター、ギブソンのES-150っていうモデルだね。」Es150
M:「どんな演奏なの。」
D:「このボーイ・ミーツ・ゴーイでみられる彼のアドリブソロは、フレーズがものすごくカッコいいんだ。非常にシンプルで、音に全く無駄がない。シンプルなアドリブ・フレーズで、一つの音を的確なところに落とし込むことがどれほどむずかしいものかは、多くのジャズギタリストが指摘しているが、彼はいとも容易くやってのけ、カッコいいフレーズを連発する。」
M:「へえ、そんなにシンプルなの?」
D:「そのとおり。すばらしいテクニックをもったジャズギタリストは、多く存在するが、彼ほどシンプルで生き生きとしたフレーズを奏でることのできるギタリストはいないね。それと一音一音が太くて明晰で、リズム感がすばらしい。かつてジム・ホールが、ボーイ・ミーツ・ゴーイでのチャーリー・クリスチャンのアドリブラインを自ら弾きながら、目を輝かせて、「素晴らしいフレーズだ。」と言っていた。「ボクはこのフレーズを弾きたくてギターを練習したんだ。こんなにカッコいい、フレーズを連発するチャーリーは本当に素晴らしいね。」って生き生きと語っていたんだ。」
M:「そうか、他のジャズギタリストにも影響を与えてるんだ。」
D:「そのとおり。実は先ほどのアルバムは、2002年に4枚組で発売された「チャーリー・クリスチャン/ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター」のダイジェスト版なんだけど、ボックスセットのライナーノートに、多くのギタリストからのチャーリーに対する絶賛の言葉が集められている。レス・ポール、ウエス・モンゴメリー、ジョージ・ベンソン、タル・ファーロウ、バーニー・ケッセル、B.B.キング、ラッセル・マローン、ジョン・スコフィールドなど、蒼々たるギタリストがこぞって絶賛している。実は、ボクも、この曲のアドリブフレーズを弾けるようになりたくて、ジャズギターを始めたんだ。いまでも何てカッコいいフレーズだなあって思うね。」
M:「そうだったのか。」
 ◇◇◇
ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー ダイジェスト版 チャーリー・クリスチャン 1939〜1941年録音 Benny Goodman Sextet
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ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター 完全版4枚組セット
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第25回 不滅のジャズ名曲-その25-マイナー・スイング(Minor Swing)

Murphy:「Djangoくん、知り合いのデザイナーから、頼まれたんだけど、その人がプランニングしたお店にマッチした音楽をセレクトしてほしいということなんだ。それで、多分ジャズが合うんじゃないかと思っているんだけど。」
Django:「どんなお店?」
M:「ビールのお店なんだけど、これまでのドイツのビアホールのようなイメージでなくて、もう少し新しい感じ。店はそんなに広くなく、カウンター中心。ドイツやオランダ、イギリス、ベルギーなどのヨーロッパのビールを豊富に取り揃えているらしい。」
D:「イギリスのパブのようなイメージかな?」
M:「カウンターで飲むスタイルは、似ているけど。インテリアは、古いイメージなんだけど、コンテンポラリーな雰囲気もあるらしいよ。ヨーロッパの様々なビールを味わってもらう店。気軽に入りやすいんだけど、どちらかと言えば大人のイメージで、落ち着いた雰囲気にしたいらしい。それと、お店のイメージを説明するのに、オールド感というか、レトロ、ヴィンテージ、といったキーワードを使っていたよ。」
D:「そうか、ヨーロッパのビールね。日本のビールと違って、本当に種類が豊富だからね。しかも味わい深いし。ボクはもともとドイツビールが大好きなんだ。」
M:「Djangoくんなら、どんなイメージの音楽がいいと思う?」
D:「やはりジャズだね。でも、あまりうるさくても困るからね。それと、ごくごく一般的な、どこにでもかかっているようなジャズでは面白くないしね。だいたいイメージが固まってきたよ。」
M:「じゃ、教えてくれる?」
D:「そう、急ぐなよ。一つ質問していい? お客さんのイメージは?」
M:「30代から40代って言ってたね。男性だけでなく、女性にも魅力的なお店ということらしい。決まった?」
D:「決まりました。トランペットやサックスは外そう。管楽器なし。ヨーロピアン・イメージのジャズだね。フランスのシャレた雰囲気もほしいし。耳障りにならず、いつでも聴けて、聴いているとスイング感が心地よいもの。ピアノトリオはいかにも、っていう感じだし、今回ははずそう。ヴォーカルはときどきアクセントにかければいいね。」
M:「おいおい、具体的にいってくれよ。Djangoくんは、いつももったいぶるんだから。」
D:「言いにくいな。」
M:「どうして」
D:「今回は、ボクと同じ名前だから。」
M:「えっ、ひょっとしてジャンゴ?」
D:「そのとおり。ギターのジャンゴ・ラインハルトとヴァイオリンのステファン・グラッペリのコンビ。ジャンゴ・ラインハルトとフランス・ホットクラブ・五重奏団。レトロで、どこか昔聴いたような懐かしさがあり、優雅な香りも漂い、リラックスして聴ける。その上、アップテンポでのスイング力は凄まじい。後の、ウエス・モンゴメリーを思わせる一瞬も感じられる。ジャンゴの演奏のなかで、真っ先にあげたい名曲は、マイナー・スイングという曲だね。」120515_2
M:「ジャンゴか、いいね。今でも人気があるの?」
D:「ヨーロッパでは日本以上に人気があるね。特にフランスでは未だに根強い人気のなかで、コンスタントに彼のレコーディングを復刻してきた。最近では、ナクソスレーベルが、NAXOS Jazz Legendsシリーズでいいアルバムを復刻している。ジャンゴだけで10枚ほどになるかな。でも、ジャンゴのアルバムの決定版は、イギリスJSP盤だね。ステファン・グラッペリとの黄金時代を記録した演奏集(5枚組)。それと続編の1937年〜1948年までの演奏を収録した、Vol.2の4枚組セット。音質向上は著しいね。いくら名演でも古い時代の録音なので、これまでのノイズの入った音質では魅力が半減していたことも事実であり、そういった意味で、最新のリマスター技術を駆使したアルバムの功績は評価したいね。」
M:「Djangoくん、さすが、同じ名前だけあって、ジャンゴ・ラインハルトのことは詳しいね。またいつかじっくり聞かせて。」
 ◇◇◇
●NAXOS Jazz Legendsシリーズ
○ジャンゴ・ラインハルト:「ジャンゴロジー 第1集」〜フィーチュアリング・ステファン・グラッペリ(1934-1935) 8.120515
○ジャンゴ・ラインハルト 第2集:フランス・ホットクラブ五重奏団録音集 (1938-1939) 8.120575
○ジャンゴ・ラインハルト 第3集:「スウィング・ギターズ」フランス・ホット・クラブ五重奏団録音集 1936-1937 8.120686

●イギリスJSP盤 グラッペリとの黄金時代を網羅したジャンゴの決定版。
The Classic Early Recordings in Chronological Order
Djangovol1ジャンゴ・ラインハルトがヴァイオリンのステファン・グラッペリと組んだ、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代(1934年から39年)の傑作124曲が収録された決定版(5枚組)。発売はイギリスのJSP Records。JSPは、ブルースとジャズの復刻版では定評があり、いまや世界中のマニアが注目するレーベル。古い時代の録音ながら、音質は素晴らしくよくなった。(最初は下記のVol.2よりこちらの5枚組をおすすめします。)

●イギリスJSP盤 「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編で、1937年から1948年までの演奏を収録した後期の決定版。
Paris and London: 1937-1948, Vol. 2
Django193748_1「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編として2001年にリリースされた4枚組85曲入りのボックスセット。こちらは、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代の演奏に加え、グラッペリとのコンビを解消後、クラリネットのユベール・ロスタンとのコンビ時代の演奏やビッグ・バンドとの共演などが収録されている。Vol.1同様、音質改善が著しい。なお、名曲「Minor Swing」はこちらのセットに収録されている。

第24回 不滅のジャズ名曲-その24-サーフ・ライド(Surf Ride)

Murphy:「Djangoくん、また、ハワイの別の友人から、ジャズのアルバムについて問い合わせがあったんだけど。」
Django:「今度はどんな質問?」
M:「彼は、サーファーなんだ。Pict0083sもちろんプロでなく趣味でやっているんだけど。その彼が、ノースショアでサーフィンをした帰りに、クア・アイナでハンバーガーKua_icon_burgを買って、車の中に持ち込んで食べていたら、ラジオでジャズが流れてきたんだ。いつもは、ジョン・クルーズやIZのCDなどをかけているんだけど、たまたま聴こえてきたジャズがけっこう良かったらしい。それで、何か、ジャズのCDを買おうかと思ったらしく、ボクのところにメールが来たんだ。」
D:「そう、サーファーか。」
M:「Djangoくん、また何か選んでくれる? 前回は、その後確かめたらピッタリ当たっていたよ。」
D:「わかった。その人に合いそうなCDをセレクトするよ。ところで、その人は、いつもアロハを着てるの?」
M:「そうだな。いつもではないけど、アロハはけっこう、こだわりを持って着ているようだね。Django君は、知らないと思うけど、ビッグ・アイランドのヒロに店を構える、シグ・ゼーンのデザインしたアロハをよく着ているね。」
D:「シグ・ゼーン? 聞いたことないね。」
M:「で、どうして、アロハを着ているかって聞いたの? 関係あるの?」
D:「いや、それほど関係はないんだけど。アロハの柄って、ほんとに種類が豊富だよね。ちょうど、ジャズのアルバムみたいに。だから、ジャズ・アルバムを選ぶということは、好みのアロハ・シャツを探すのと似ていると思ったから.
何かヒントになるものはないかと思ったんだけど。それで、シグ・ゼーンのアロハって、どんなイメージ?」
M:「シグ・ゼーンは、もともとサーファーなんだよ。サーフィンをした後、街で着る気に入ったアロハが見つからなかって、自分のオリジナルデザインのアロハを考案したのが、きっかけらしいよ。」
D:「そうか。そのハワイの友人は、相当こだわりをもっている人だね。その人のアロハが好きだということは。」
M:「その通り。」
D:「それなら、センスのよいもの、こだわりを持ったものを選ばないとね。泥臭いものではなく、洗練されていて、聴いててあまり重くないものだな。」
M:「そういう感じだね。Djangoくん、イメージできた?」
D:「ある程度ね。いまイメージしているのは、Murphyくんの話の中に出てきた、ヒロにある、シグ・ゼーンのお店でBGMとして流れていても、おかしくないアルバムを考えているんだけど。」
M:「なるほど、それはおもしろいね。」
D:「それで、もうひとつ。イメージとしては、ハワイだろう。それにサーファー。そうなるとますます重いものはだめだね。普段着で軽く聴けて、さらっとしているもの。でも、味がなければね。」
M:「決まってきた?」
D:「これはね。Murphyくん、思いっきりスイングしているものがいいね。でも、重量級の大編成スイングジャズは、合わないし。あと、風がキーワードだね。ハワイ、海、風となると、ウエスト・コースト・ジャズだね。」
M:「ウエスト・コーストって?」
D:「西海岸だよ。」
M:「なるほど、それは合うかもね。西海岸はサーファーも多いしね。気候もハワイと似ている。」
D:「そうだろう。決まったよ。ズバリ、アート・ペッパーの50年代初期の傑作、「サーフ・ライド」 。人形のような女性がサーフィンしているジャケットもお似合いだし。」
M:「それはスゴい。アルバムのタイトルといい、ジャケットまでピッタリだね。ところで、アートペッパーって、サックス?」
D:「そのとおり。アルト・サックスの名手。このアルバム、50年代の録音で、軽快にスイングしながら、けっこう波乗りのようなスリルもあるし。重くないからいいね。」
 ◇◇◇
アート・ペッパー(as)のファースト・リーダー・スタジオ・アルバム。
サーフ・ライド / アート・ペッパー(as) 1952〜54年録音
サーフ・ライド Surfrider2

第23回 不滅のジャズ名曲-その23-モーニン(Moanin’)

Murphy:「ハワイの友人から、最もジャズらしいアルバムを探しているんだけど?って聞かれたんだけど。Django くんならどう答える?」
Django:「それはむずかしいね。ジャズは時代によって様々な演奏スタイルを持っているからな。どのあたりのジャズを聴きたいかで、選曲も変わるし。なにか参考になるものある?」
M:「そうだね。その人が言っていたのは、ホノルルのカイムキ・タウンにある古いカフェでコーヒーを飲んでいたら、BGMでジャズが流れていたんだって。ものすごくかっこいいフレーズだと思ったらしいよ。」
D:「ああ、カイムキ・タウンか。古いお店がけっこうあるところだね。そのフレーズって、みんな知っているぐらい有名なフレーズかな?」
M:「そうらしいよ。以前にも聞いたことあるって言っていたね。一度聞いたら忘れないくらいシンプルだって。そのカフェが50年代風のインテリアで統一されていて、その曲が流れたとたん、すごくその場の雰囲気に溶け込んだそうだよ。それで、家に帰って、急にジャズを聞きたくなったらしい。できれば、その時流れていた曲が入っていたらいいんだけど、と言っていた。彼はもともとゴスペルが好きなんだ。」
D:「そうか、だいたいわかってきた。そのフレーズって口ずさめるぐらい?」
M:「さあ、それはどうかわからないな。」
D:「じゃあ、その曲が入っているアルバムを選んだらどう?」
M:「そう言っても、Djangoくん、その曲、わかるの?」
D:「およその検討はついている。たぶんレーベルは、ブルーノートじゃないかな。」
M:「ああ、あの有名なブルーノート・レーベルね。そういえば、これまで一度も、ブルーノートのアルバムは、採り上げていなかったね。ところで、その曲はなんていう名前?」
D:「まだ、少し迷っているんだけど、他に何か言ってなかった?」
M:「そうだなあ。覚えてないなあ。」
D:「よし。それじゃあ、アルバム強引に決めよう。ゴスペルが好きだと聞いてピンときたんだ。その曲は、モーニン。演奏は、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ。ブルーノート4000番台のはじめで、4003番だ。」
M:「アートブレイキーね。聞いたことあるな。ボク実は、ブルーノートのアルバムはほとんど持ってないんだ。モーニンっていう曲、ボクでも知っているかな?」
D:「もちろん。モダンジャズ史上で最も人気の高い曲だよ。いわゆるファンキー・ジャズっていうカテゴリーに入るんだけど。この曲、1958年の吹き込みで、当時一世風靡した大ヒット作。かつてソバ屋の出前持ちまでが口ずさんでたっていうのが伝説になっている。そのくらい流行った曲。」
M:「ああ、思い出した。ソバ屋で。あの曲か。知っているよ。曲名を知らなかっただけだね。」
D:「今でも、ライブでとても人気があるね。ウィントン・マルサリスがリンカーンセンター・オーケストラを統率して来日したコンサートで、アート・ブレーキー特集をやったんだけど、モーニンが始まると、会場は大拍手。みんなこの曲の演奏を待っていたんだね。それから、昨年春、ルイス・ナッシュと会った時に、その年の秋のライブは、50年代のハードバップ全盛時代の有名な曲をシリーズで採り上げる予定だと言っていた。美術館で名画を見るように、50年代ハードバップ・ギャラリーという企画にしたいと言っていたね。それで、その秋のライブでは、50年代ギャラリーとして、モーニンも演奏したんだけど、会場の拍手はすごかった。みんな、このモーニンが今でも大好きなんだ。ところで、その時のルイス・ナッシュの編成したグループの演奏は、本当に素晴らしかったね。」
M:「よし、このモーニンの入っているブルーノートのアルバムを彼にすすめるよ。ところで、いつも聞くけど、この曲は誰が作ったの? アート・ブレーキーだろう。」
D:「いや、違うんだ。ジャズ・メッセンジャーズのメンバーでピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)の作曲。 そうそう、Murphyくん、その人に伝えておいて。確かにこのアルバムは大ヒット作で、名盤なんだけど、ジャズはこれだけではないからって。それに、このモーニンは、もう一つ有名なライブアルバムがあるからね。そちらの方のタイトルは、サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ 。」
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Mornin_bnモーニン+2

第22回 不滅のジャズ名曲-その22-ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(You’d Be So Nice To Come Home To)

Murphy:「Djangoくん、今日は自分の持っているアルバムを持ってきたよ。ボクが最初に買ったジャズ・ヴォーカルのアルバムはこれなんだけど。」
Django:「Murphyくんも、ジャズ・ヴォーカルのアルバムを持ってたのか。どれ、あっ、これか。超有名なアルバムだね。ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン。」
M:「ヘレン・メリルの有名な曲、ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥを聴きたくてね、買ったんだ。いつもほとんど、この一曲だけしか聴かなかったんだけど、Djangoくんの影響を受けて、全曲通して聴いてみたよ。」
D:「どうだった?」
M:「ホワッツ・ニュー、とか、イエスタデイズもいいね。でもやっぱりこの曲が一番だと思った。それと、この間から、Djangoくんのジャズの話を聴いて、少しジャズ・ミュージシャンの名前がわかってきたんだけど、あの、クリフォード・ブラウンが演奏していたんだね。それと、ベースが、オスカー・ペティフォードだったんだ。」
D:「その通り。Murphyくんも詳しくなってきたね。このメンバーはすごいよ。それに編曲は、その後一世風靡した、クインシー・ジョーンズ。ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥの間奏で、出てくるトランペットのあの音色がブラウニーなんだ。」
M:「ところで、この曲は、誰が作ったの?」
D:「コール・ポーター。「サムシング・トウ・シャウト・アバウト」という映画のために作曲したんだけど、1943年ごろだね。コール・ポーターは、1920年代から60年代まで、数々のスタンダードを書き続けた作詞・作曲家で、この曲以外にも、All Of Youや Night And Day、Begin The Beguineなど、数多くの名曲を残しているんだ。2005年には、彼の一生を綴った映画『五線譜のラブレター 』が公開されたし、その概要はいまでもホームページ上で見られるよ。」
M:「そう、さっそく見てみるよ。もう一つ質問なんだけど、ヘレン・メリルは、他に有名なアルバムがあるの?」
D:「あるけど、当分は、Murphyくんにはこのアルバムだけでいいと思うよ。ヘレン・メリルは、60年代の後半から5年ほど日本にも住んでいたんだ。その後、毎年のように来日しているから、そのうちまた、ライブでも聴けると思うけど。」
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Youdbesonice_h_mjpgヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

第21回 不滅のジャズ名曲-その21- アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)

Murphy:「Djangoくん、さっそくW.C.ハンディのアルバム聴いてみたんだけど、これ、すごくいいね。ルイ・アームストロングってこれまで、あまり聴いてなかったけど、けっこうおもしろいね。」
Django:「そうだろ。Murphyくんは、明るい曲が好きだからね。ルイのアルバムは、前回にも言ったけど、1920年代から録音していたから、かなりのアルバム数で、おそらくどれを選べばよいかわからないと思って、真っ先に決定版といえるものを選んだんだ。」
M:「ところで、Djangoくん。ルイのアルバム、もっと教えてくれない? 実はね、この間、たまたま戦前のハワイアン・ミュージックを聴いてみたんだけど、かなりジャズのようにスイングして、とてもノリがよかったんだ。ギターのかわりにウクレレが入っていたりして、編成もおもしろかったね。それがきっかけで、モダンジャズ以前のスイング時代のジャズを少し聴いてみたいと思うようになったんだ。それと、もう一つ、映画の「スウィング・ガールズ」を見て、ああ、ジャズっていいなあって、実感したよ。」
D:「そう、スウィング・ガールズ、見たのか。あれはビッグ・バンドだったね。それなら、Murphyくん、ルイのかなり古い頃の演奏を聴いてみたら?」
M:「それって、いつ頃のもの?」
D:「1920年代から30年代の頃だね。」
M:「そんなに古いのか。でも、そのころの録音って、ものすごく悪いんじゃない? ノイズなんかも多くて。SPレコードだろう?」
D:「そう、SPレコードの時代だよ。でも、けっこう聴けるよ。以前は、CD化されてもかなり音質が悪かったけど、今ではかなりよくなっているよ。」
M:「音質ってそんなによくなったりするの?」
D:「そう。デジタル技術が発達して、ノイズが除去できるようになったんだ。しょせん古い録音だから限界もあるけど、ヘッドホンで聴いても耳障りでなくなったし。そうだな、最新のデジタル・ノイズ・リダクション技術をつかって、見事に復刻した、ルイのアルバムがあるんだ。これ一度聴いてみたら?」
M:「そうか。音質がよくなっているのか。知らなかったなあ。古い録音というだけど、これまで見向きもしなかったよ。それで、どんなアルバム?」
D:「ナクソス(NAXOS)レーベルって知ってる?」
M:「ああ、クラシックの廉価盤で有名なレーベルだろう。」
D:「その通り。ここのナクソス・ジャズ・レジェンド(NAXOS JAZZ LEGENDS)というシリーズで、ルイの20年代から30年代のアルバムが確か2枚ほど出ていたと思うんだけど、おすすめは、「アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)」というアルバム。このアルバム名は、ハロルド・アーレン(Harold Arlen)という人が作った、コットン・クラブのショーのために書かれた曲をタイトルにしている。もちろんアルバムの1曲目に入っている。」
M:「ハロルド・アーレンって有名な作曲家?」
D:「そう。Murphyくんの好きな、ハワイの「イズ」が歌っているOver The Rainbowの作曲者だよ。数々のスタンダード名曲を残した人だね。ハロルド・アーレンは、NYのハーレムのコットン・クラブでピアノを弾いているうちに作曲家としての頭角をあらわした人で、数々の名曲は、今でも多くのジャズ・シンガーに歌われている。ところで、コットン・クラブといえば、その昔デューク・エリントンが出演していたクラブ。コッポラ監督の「コットン・クラブ」という映画もあるよ。」
M:「タイトル曲以外にどんな曲が入っているの?」
D:「有名な曲では、スターダストやセントルイス・ブルース、ベイジン・ストリート・ブルースなど。太くて、誰よりも遠くまで届く元気なトランペット、ルイ独特の大きな目玉を動かしながらの歌声、ラップのようなメンバー紹介など、すべてが生き生きとジャズを奏でる。特に、スローになりすぎず、軽快なミディアムテンポで演奏する、スターダストは、何度も聴きたくなるね。一度聴けば、忘れられないほど、印象的だ。」
M:「そうか、またスターダストが出てきたね。同じスターダストでも、今回の1930年代のルイの録音、第18回に出てきた50年代のエラ・フィッツジェラルドの録音など、同じ曲でも、演奏スタイルによって曲の雰囲気がガラッと変わるところが、ジャズの面白さだね。」
D:「Murphyくん、いいこというね。そのとおりだよ。」
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Louis Armstrong Vol.2 / I’ve Got the World on a String (Naxos Jazz Legends)は、OKehレーベルとVictorレーベル時代のSPレコード音源。1930〜1933録音。
Louisarmstrong_naxos_1I’ve Got the World on a String/Louis Under the Stars