第27回 不滅のジャズ名曲-その27-ニューヨークの秋(Autumn in New York)

Django:「Murphyくん、久しぶりに今回は女性ヴォーカルを採り上げたいと思うんだ。ブロードウェイのミュージカルのヒットナンバーは、これまで多くのジャズ・シンガーに歌われてきたけど、そういったミュージカルの名曲ばかりを集めたアルバム。」
Murphy:「そのアルバムはDjangoくん、かなり気に入っているの?」
D:「そのとおり。「大都会のノスタルジーを歌った極めつけの名唱」というコピーが、アルバムの帯に書かれているとおり、聴いていて実に心地よい素敵なアルバムだね。」
M:「それで、誰が歌っているの?」
D:「白人女性歌手で、「ジョー・スタッフォード」という人。40、50年代に大活躍した人。伴奏は、ポール・ウェストン楽団。バックがストリングスの入ったオーケストラだから、ノスタルジックな映画を見ているようだ。このアルバムは、これまであまりジャズにふれていない人にも、おすすめだね。古きよき時代の映画が好きな人にピッタリだろうな。」
M:「どんな歌い方?」
D:「Murphyくん。一度聴くと絶対に気に入るよ。あまり黒人ぽい歌い方の人は苦手だといっていたね。ジョー・スタッフォードは、さらっとした歌い方。原曲に対し忠実に歌い上げる人。それとほとんどビブラートをかけずに、息の長いフレージングで歌うのが特徴。」
M:「そうか、あまり歌い方にくせがないんだね。」
D:「そのとおり。いわゆる”トランペット・ヴォイス”と呼ばれる歌唱法をマスターし、トロンボーン奏法からヒントを得たという、独自の管楽器に近づけた歌い方が特徴で、しかもさらっと歌いあげるところが魅力だね。」
M:「アルバム名は?」
D:「1曲目の「ニューヨークの秋(Autumn in New York)がアルバム・タイトルになっている。アルバムのなかで、やはりこの曲が一番いいね。」
M:「だれの作曲?」
D:「ヴァーノン・デューク。「パリの四月」を書いた人。この曲は、ジャズのスタンダード曲として多くのシンガーやプレーヤーが吹き込んでいる。演奏では、チャーリー・パーカーやソニー・スティット、チェット・ベイカーなど。シンガーでは、ビリー・ホリディやフランク・シナトラなど。」
M:「この一曲だけがいいんじゃない?」
D:「このアルバムに限っては、そんなことないね。確かにこの曲が突出しているかもしれないけれど、どれもいい曲ばかりだよ。他にジュローム・カーンの曲で「煙が目にしみる」、リチャード・ロジャーズのミュージカル南太平洋のなかのヒット・ナンバーで「魅惑の宵」などが入っている。」
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Autumn in New York(1934)
◆作詞・作曲:Vernon Duke
◆Key:F major
◆形式:A1 – B – A2 – C
◆主な収録アルバム:Charlie Parker with Strings (Verve)
◆推薦アルバム:Joe Stafford(vo) “Autumn in New York” (Capitol)
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ニューヨークの秋 ジョー・スタッフォード 1955年録音
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Autumn in New YorkとStarring Jo Staffordの 2枚のアルバムのカップリング版
Autumn in New York/Starring Jo Stafford
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第26回 不滅のジャズ名曲-その26-ボーイ・ミーツ・ゴーイ(グランド・スラム)(Boy Meets Goy (Grand Slam))

Murphy:「Djangoくん、前回のジャンゴのアルバム、ボクも初めて聴いたんだけど、とってもよかった。素晴らしくスイングしているね。それにヴァイオリンが加わって、とてもいい雰囲気だね。」
Django:「そうだろう。以前は録音が古いこともあって、聴きづらかったんだけど、ずいぶんクリアになったしね。ジャンゴのギターが生き生きと響くようになった。」
M:「そうだね。ところで、ジャンゴを聴いて、少しジャズギターに興味を持ったんだけど、まず何から聴けばいい?」
D:「Murphyくんは、アコースティック・ギターを演奏するんだろう。マーティンのギターについても詳しそうだし。ジャズギターはあまり聴いてなかったの?」
M:「うん。自分で演奏しようと思っても、あまりにもむずかしくてね。ちょっと敷居が高そうだし。」
D:「確かにジャズギターは、それなりのテクニックが必要なんだけど。聴いて楽しむ分には関係ないから、是非聴いてみたらどう?」
M:「うん。それで、まず誰から聴けばいい?」
D:「そうだな。Murphyくんはけっこう古いものが好きだから。それにあまりうるさくないものが好みだろう?」
M:「オールドファッションというか、レトロなものが好きだね。それと、やはりスイングしているもの。」
D:「そうか。この前、Murphyくん、戦前の古いハワイアンなんか聴いていたね。そのぐらい古くてもいいの?」
M:「その方がいいよ。あのハワイアン、Djangoくん覚えていたのか。」
D:「しっかり覚えているよ、あれよかったね。ところで、今回のアルバムなんだけど、ジャズギターで最高のものを選ぼうか?」
M:「いきなり? むずかしくない?」
D:「全然、そんなことないから安心して。それより、Murphyくんがジャズギターに興味を持ったんだから、この際中途半端なものはだめだと思ったんだ。それに、Murphyくん、アコースティックギターをやっているからね。」
M:「誰の演奏?」
D:「このアルバム、BGMで聴いてもいいと思うよ。いわゆるスイングジャズで1939年から40年ごろの演奏だから。レトロな味わいがあるよ。1曲3分前後だからすぐ終わるし。でも、ギターのパートが出てきたらいつか真剣に耳を傾けてくれる?」
M:「Djangoくん、また始まった。もったいぶるなよ。はやく言えよ。」
D:「わかった。伝説のジャズギタリスト、ビバップの元祖、チャーリー・クリスチャン。その彼が、ベニー・グッドマン六重奏団に加わっていた頃のアルバムで、「ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー」というアルバム。そのなかに入っている、「ボーイ・ミーツ・ゴーイ(グランド・スラム) (Boy Meets Goy (Grand Slam))」という曲を是非聴いてくれる?」
M:「チャーリー・クリスチャンって、聞いたことあるなあ。確かギブソンのギターでチャーリー・クリスチャンモデルっていうのがあったと思うけど、その人?」
D:「そのとおり。そのギター、ギブソンのES-150っていうモデルだね。」Es150
M:「どんな演奏なの。」
D:「このボーイ・ミーツ・ゴーイでみられる彼のアドリブソロは、フレーズがものすごくカッコいいんだ。非常にシンプルで、音に全く無駄がない。シンプルなアドリブ・フレーズで、一つの音を的確なところに落とし込むことがどれほどむずかしいものかは、多くのジャズギタリストが指摘しているが、彼はいとも容易くやってのけ、カッコいいフレーズを連発する。」
M:「へえ、そんなにシンプルなの?」
D:「そのとおり。すばらしいテクニックをもったジャズギタリストは、多く存在するが、彼ほどシンプルで生き生きとしたフレーズを奏でることのできるギタリストはいないね。それと一音一音が太くて明晰で、リズム感がすばらしい。かつてジム・ホールが、ボーイ・ミーツ・ゴーイでのチャーリー・クリスチャンのアドリブラインを自ら弾きながら、目を輝かせて、「素晴らしいフレーズだ。」と言っていた。「ボクはこのフレーズを弾きたくてギターを練習したんだ。こんなにカッコいい、フレーズを連発するチャーリーは本当に素晴らしいね。」って生き生きと語っていたんだ。」
M:「そうか、他のジャズギタリストにも影響を与えてるんだ。」
D:「そのとおり。実は先ほどのアルバムは、2002年に4枚組で発売された「チャーリー・クリスチャン/ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター」のダイジェスト版なんだけど、ボックスセットのライナーノートに、多くのギタリストからのチャーリーに対する絶賛の言葉が集められている。レス・ポール、ウエス・モンゴメリー、ジョージ・ベンソン、タル・ファーロウ、バーニー・ケッセル、B.B.キング、ラッセル・マローン、ジョン・スコフィールドなど、蒼々たるギタリストがこぞって絶賛している。実は、ボクも、この曲のアドリブフレーズを弾けるようになりたくて、ジャズギターを始めたんだ。いまでも何てカッコいいフレーズだなあって思うね。」
M:「そうだったのか。」
 ◇◇◇
ザ・オリジナル・ギター・ヒーロー ダイジェスト版 チャーリー・クリスチャン 1939〜1941年録音 Benny Goodman Sextet
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ザ・ジーニアス・オブ・ザ・エレクトリック・ギター 完全版4枚組セット
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アウトドア仕様、オリンパスμ770SW発売開始

アウトドアのために生まれたカメラOLYMPUS・μ770SWが3月2日発売された。昨年秋に発売されたμ725SWとの主な違いは、水中5mまでだったのが10mまで防水機能が強化されたこと、さらに堅牢性が増したこと、マイナス10℃の環境での動作を可能にしたこと、ハイパークリスタル液晶モニターの表面輝度アップならびにコントラスト比が20%向上したことなどがあげられる。μ725SWから短期間で新モデルのμ770SWを発売したことは、オリンパスのこのシリーズへの意気込みが感じられる。強化された性能をみると、どれもより本格的なアウトドアへの対応力を高めたものであり、決して表層的なマイナーチェンジでない点で好感が持てる。
実は、昨年11月からμ725SWを使用して以来、まだ3ヶ月した経過していないが、こんなに早くその上位機種が発売されるとは思ってもいなかった。μ725SWも継続して販売されるようだ。μ770SWとμ725SWは、仕様を見る限りレンズ構成は変わらない。8群10枚で、その内EDレンズ1枚、非球面レンズ3枚という非常に凝った構成である。このあたりのスペックで、オリンパスのレンズに対する妥協を許さないこだわりが感じれる。焦点距離は6.7mm〜20.1mmで、35mmカメラ換算では、38mm〜114mmの光学ズーム倍率3倍で、開放F値はF3.5(W〜F5.0(T)である。
これまでμ725SWを使用してきたなかで、一番実用的だと思った点は、レンズが飛び出さないことである。これは実際に使用してみないとなかなかその便利さが実感できないが、電源を入れて撮影状態に入っても、レンズがボディ内に格納されたままの状態で撮影でき、望遠側にズームしても飛び出さないという点が大きな特徴である。レンズがボディに格納されたまま撮影可能であるということは、最もアウトドアで役立つ機能だと使ってみてつくづく思った。いくら沈胴式のレンズを搭載しても、撮影モードでレンズが飛び出すと、レンズ部をどうしてもかばうようになり、ラフな使い方はできなくなってくる。その点μ725SWはレンズが飛び出さず、撮影時の軽快さを維持している。
レンズ表面の撥水コート処理も不可欠な機能である。雨にぬれたり、水の中につけると、必ずレンズに水滴が付着し、取り除かないと画像がぼけてしまうが、この処理によりレンズ表面にほとんど水滴が残らなくなった点は、小さな工夫であるが、実用上大変役にたつ点である。
レンズについては、現状35mm換算で広角側が38mmであるが、これがもう少し広角側にシフトしてくれればよいのだが。あとわずかであるが35mmになればさらに実用価値が高まると思う。カメラの写りについては、実用上全く問題ないレベルである。この種のアウトドア用カメラは、記録性が第一であり、「ちゃんときちっと」写ればよいと思っている。「ちゃんときちっと」ってどの程度かといえば、いざというときにA4サイズぐらいまで引き延ばしても十分鑑賞に耐えられる写りだと思っているが、すでにその程度の描写力は、この機種を含め500万画素以上のカメラなら十分合格点をつけられる機種も多いわけであり、とくにこの機種においても描写性能はなんら問題ないといえる。というより、ボディ内にレンズが格納されたまま飛び出さないという制約のなかで、新開発された屈曲型のレンズでありながら、従来型レンズと同等以上の描写性能を持っていることが特筆すべき点である。P1120010一昔前までのデジカメは、画素数が増大しても、レンズ性能がついていけず、写りのよくない機種がかなり存在していた。特に歪曲収差については、いまでもいっこうに改善されてない機種も依然存在する。デジタル一眼レフにおいても、デジタル対応以前の旧モデルの廉価版ズームレンズを装着すると、とたんに描写性能が劣化するものが少なからず存在する。デジタルカメラにおいては、レンズ性能が非常に大切であることは言うまでもない。その点、オリンパスのデジカメは、画素数とレンズ性能との関係において、非常にバランスがよく、レンズについては決して妥協しないメーカーである。このことが、μ725SWにおいても実感できた。
振り返れば、オリンパスペンが開発されたとき、ハーフサイズなるが故に、レンズの重要性を認識し、高性能なレンズを搭載し、結果としてハーフサイズながら35mmフルサイズにも負けない描写力をもったことが、その後のペンシリーズの爆発的な人気に至ったわけである。P2260045オリンパスペンシリーズは、いまだに大切に使っているが、このμ725SWを使っていると、どこかペンを使っているときのような気分になる。オリンパスペンを持って撮影にでかけると、いまでも肩の力が抜けてリラックスした気分になる。小型軽量のボディでレンズも飛び出さないし、ハーフサイズ独特の軽快感が楽しい。撮影する視線も変わってくる。いままで見逃していた光景やモノに注目するようになる。これを自分では「PEN効果」と勝手に思っているが、そういった気軽さが、μ725SWを使っているときも感じられる。しかも、ペンと違って、今度は、防水だ。堅牢性は高い、その上1ギガのカードを入れれば数百枚写せる。レンズも、ペンの思想と同様、こだわりを持っている。いざというときは、大きく引き延ばせる。あとは、次期モデルで、なんとか広角側が35mm(35mm換算)にならないかと願っている。 
  ◇◇◇
撮影データ:( )内は35mm換算の焦点距離
 左上:μ725SW 6.7mm(38mm) 1/20秒 F3.5 ISO200
 右下:μ725SW 6.7mm(38mm) 1/500秒 F6.3 ISO80

第25回 不滅のジャズ名曲-その25-マイナー・スイング(Minor Swing)

Murphy:「Djangoくん、知り合いのデザイナーから、頼まれたんだけど、その人がプランニングしたお店にマッチした音楽をセレクトしてほしいということなんだ。それで、多分ジャズが合うんじゃないかと思っているんだけど。」
Django:「どんなお店?」
M:「ビールのお店なんだけど、これまでのドイツのビアホールのようなイメージでなくて、もう少し新しい感じ。店はそんなに広くなく、カウンター中心。ドイツやオランダ、イギリス、ベルギーなどのヨーロッパのビールを豊富に取り揃えているらしい。」
D:「イギリスのパブのようなイメージかな?」
M:「カウンターで飲むスタイルは、似ているけど。インテリアは、古いイメージなんだけど、コンテンポラリーな雰囲気もあるらしいよ。ヨーロッパの様々なビールを味わってもらう店。気軽に入りやすいんだけど、どちらかと言えば大人のイメージで、落ち着いた雰囲気にしたいらしい。それと、お店のイメージを説明するのに、オールド感というか、レトロ、ヴィンテージ、といったキーワードを使っていたよ。」
D:「そうか、ヨーロッパのビールね。日本のビールと違って、本当に種類が豊富だからね。しかも味わい深いし。ボクはもともとドイツビールが大好きなんだ。」
M:「Djangoくんなら、どんなイメージの音楽がいいと思う?」
D:「やはりジャズだね。でも、あまりうるさくても困るからね。それと、ごくごく一般的な、どこにでもかかっているようなジャズでは面白くないしね。だいたいイメージが固まってきたよ。」
M:「じゃ、教えてくれる?」
D:「そう、急ぐなよ。一つ質問していい? お客さんのイメージは?」
M:「30代から40代って言ってたね。男性だけでなく、女性にも魅力的なお店ということらしい。決まった?」
D:「決まりました。トランペットやサックスは外そう。管楽器なし。ヨーロピアン・イメージのジャズだね。フランスのシャレた雰囲気もほしいし。耳障りにならず、いつでも聴けて、聴いているとスイング感が心地よいもの。ピアノトリオはいかにも、っていう感じだし、今回ははずそう。ヴォーカルはときどきアクセントにかければいいね。」
M:「おいおい、具体的にいってくれよ。Djangoくんは、いつももったいぶるんだから。」
D:「言いにくいな。」
M:「どうして」
D:「今回は、ボクと同じ名前だから。」
M:「えっ、ひょっとしてジャンゴ?」
D:「そのとおり。ギターのジャンゴ・ラインハルトとヴァイオリンのステファン・グラッペリのコンビ。ジャンゴ・ラインハルトとフランス・ホットクラブ・五重奏団。レトロで、どこか昔聴いたような懐かしさがあり、優雅な香りも漂い、リラックスして聴ける。その上、アップテンポでのスイング力は凄まじい。後の、ウエス・モンゴメリーを思わせる一瞬も感じられる。ジャンゴの演奏のなかで、真っ先にあげたい名曲は、マイナー・スイングという曲だね。」120515_2
M:「ジャンゴか、いいね。今でも人気があるの?」
D:「ヨーロッパでは日本以上に人気があるね。特にフランスでは未だに根強い人気のなかで、コンスタントに彼のレコーディングを復刻してきた。最近では、ナクソスレーベルが、NAXOS Jazz Legendsシリーズでいいアルバムを復刻している。ジャンゴだけで10枚ほどになるかな。でも、ジャンゴのアルバムの決定版は、イギリスJSP盤だね。ステファン・グラッペリとの黄金時代を記録した演奏集(5枚組)。それと続編の1937年〜1948年までの演奏を収録した、Vol.2の4枚組セット。音質向上は著しいね。いくら名演でも古い時代の録音なので、これまでのノイズの入った音質では魅力が半減していたことも事実であり、そういった意味で、最新のリマスター技術を駆使したアルバムの功績は評価したいね。」
M:「Djangoくん、さすが、同じ名前だけあって、ジャンゴ・ラインハルトのことは詳しいね。またいつかじっくり聞かせて。」
 ◇◇◇
●NAXOS Jazz Legendsシリーズ
○ジャンゴ・ラインハルト:「ジャンゴロジー 第1集」〜フィーチュアリング・ステファン・グラッペリ(1934-1935) 8.120515
○ジャンゴ・ラインハルト 第2集:フランス・ホットクラブ五重奏団録音集 (1938-1939) 8.120575
○ジャンゴ・ラインハルト 第3集:「スウィング・ギターズ」フランス・ホット・クラブ五重奏団録音集 1936-1937 8.120686

●イギリスJSP盤 グラッペリとの黄金時代を網羅したジャンゴの決定版。
The Classic Early Recordings in Chronological Order
Djangovol1ジャンゴ・ラインハルトがヴァイオリンのステファン・グラッペリと組んだ、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代(1934年から39年)の傑作124曲が収録された決定版(5枚組)。発売はイギリスのJSP Records。JSPは、ブルースとジャズの復刻版では定評があり、いまや世界中のマニアが注目するレーベル。古い時代の録音ながら、音質は素晴らしくよくなった。(最初は下記のVol.2よりこちらの5枚組をおすすめします。)

●イギリスJSP盤 「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編で、1937年から1948年までの演奏を収録した後期の決定版。
Paris and London: 1937-1948, Vol. 2
Django193748_1「The Classic Early Recordings in Chronological Order」の続編として2001年にリリースされた4枚組85曲入りのボックスセット。こちらは、フランス・ホット・クラブ5重奏団時代の演奏に加え、グラッペリとのコンビを解消後、クラリネットのユベール・ロスタンとのコンビ時代の演奏やビッグ・バンドとの共演などが収録されている。Vol.1同様、音質改善が著しい。なお、名曲「Minor Swing」はこちらのセットに収録されている。

第24回 不滅のジャズ名曲-その24-サーフ・ライド(Surf Ride)

Murphy:「Djangoくん、また、ハワイの別の友人から、ジャズのアルバムについて問い合わせがあったんだけど。」
Django:「今度はどんな質問?」
M:「彼は、サーファーなんだ。Pict0083sもちろんプロでなく趣味でやっているんだけど。その彼が、ノースショアでサーフィンをした帰りに、クア・アイナでハンバーガーKua_icon_burgを買って、車の中に持ち込んで食べていたら、ラジオでジャズが流れてきたんだ。いつもは、ジョン・クルーズやIZのCDなどをかけているんだけど、たまたま聴こえてきたジャズがけっこう良かったらしい。それで、何か、ジャズのCDを買おうかと思ったらしく、ボクのところにメールが来たんだ。」
D:「そう、サーファーか。」
M:「Djangoくん、また何か選んでくれる? 前回は、その後確かめたらピッタリ当たっていたよ。」
D:「わかった。その人に合いそうなCDをセレクトするよ。ところで、その人は、いつもアロハを着てるの?」
M:「そうだな。いつもではないけど、アロハはけっこう、こだわりを持って着ているようだね。Django君は、知らないと思うけど、ビッグ・アイランドのヒロに店を構える、シグ・ゼーンのデザインしたアロハをよく着ているね。」
D:「シグ・ゼーン? 聞いたことないね。」
M:「で、どうして、アロハを着ているかって聞いたの? 関係あるの?」
D:「いや、それほど関係はないんだけど。アロハの柄って、ほんとに種類が豊富だよね。ちょうど、ジャズのアルバムみたいに。だから、ジャズ・アルバムを選ぶということは、好みのアロハ・シャツを探すのと似ていると思ったから.
何かヒントになるものはないかと思ったんだけど。それで、シグ・ゼーンのアロハって、どんなイメージ?」
M:「シグ・ゼーンは、もともとサーファーなんだよ。サーフィンをした後、街で着る気に入ったアロハが見つからなかって、自分のオリジナルデザインのアロハを考案したのが、きっかけらしいよ。」
D:「そうか。そのハワイの友人は、相当こだわりをもっている人だね。その人のアロハが好きだということは。」
M:「その通り。」
D:「それなら、センスのよいもの、こだわりを持ったものを選ばないとね。泥臭いものではなく、洗練されていて、聴いててあまり重くないものだな。」
M:「そういう感じだね。Djangoくん、イメージできた?」
D:「ある程度ね。いまイメージしているのは、Murphyくんの話の中に出てきた、ヒロにある、シグ・ゼーンのお店でBGMとして流れていても、おかしくないアルバムを考えているんだけど。」
M:「なるほど、それはおもしろいね。」
D:「それで、もうひとつ。イメージとしては、ハワイだろう。それにサーファー。そうなるとますます重いものはだめだね。普段着で軽く聴けて、さらっとしているもの。でも、味がなければね。」
M:「決まってきた?」
D:「これはね。Murphyくん、思いっきりスイングしているものがいいね。でも、重量級の大編成スイングジャズは、合わないし。あと、風がキーワードだね。ハワイ、海、風となると、ウエスト・コースト・ジャズだね。」
M:「ウエスト・コーストって?」
D:「西海岸だよ。」
M:「なるほど、それは合うかもね。西海岸はサーファーも多いしね。気候もハワイと似ている。」
D:「そうだろう。決まったよ。ズバリ、アート・ペッパーの50年代初期の傑作、「サーフ・ライド」 。人形のような女性がサーフィンしているジャケットもお似合いだし。」
M:「それはスゴい。アルバムのタイトルといい、ジャケットまでピッタリだね。ところで、アートペッパーって、サックス?」
D:「そのとおり。アルト・サックスの名手。このアルバム、50年代の録音で、軽快にスイングしながら、けっこう波乗りのようなスリルもあるし。重くないからいいね。」
 ◇◇◇
アート・ペッパー(as)のファースト・リーダー・スタジオ・アルバム。
サーフ・ライド / アート・ペッパー(as) 1952〜54年録音
サーフ・ライド Surfrider2

第23回 不滅のジャズ名曲-その23-モーニン(Moanin’)

Murphy:「ハワイの友人から、最もジャズらしいアルバムを探しているんだけど?って聞かれたんだけど。Django くんならどう答える?」
Django:「それはむずかしいね。ジャズは時代によって様々な演奏スタイルを持っているからな。どのあたりのジャズを聴きたいかで、選曲も変わるし。なにか参考になるものある?」
M:「そうだね。その人が言っていたのは、ホノルルのカイムキ・タウンにある古いカフェでコーヒーを飲んでいたら、BGMでジャズが流れていたんだって。ものすごくかっこいいフレーズだと思ったらしいよ。」
D:「ああ、カイムキ・タウンか。古いお店がけっこうあるところだね。そのフレーズって、みんな知っているぐらい有名なフレーズかな?」
M:「そうらしいよ。以前にも聞いたことあるって言っていたね。一度聞いたら忘れないくらいシンプルだって。そのカフェが50年代風のインテリアで統一されていて、その曲が流れたとたん、すごくその場の雰囲気に溶け込んだそうだよ。それで、家に帰って、急にジャズを聞きたくなったらしい。できれば、その時流れていた曲が入っていたらいいんだけど、と言っていた。彼はもともとゴスペルが好きなんだ。」
D:「そうか、だいたいわかってきた。そのフレーズって口ずさめるぐらい?」
M:「さあ、それはどうかわからないな。」
D:「じゃあ、その曲が入っているアルバムを選んだらどう?」
M:「そう言っても、Djangoくん、その曲、わかるの?」
D:「およその検討はついている。たぶんレーベルは、ブルーノートじゃないかな。」
M:「ああ、あの有名なブルーノート・レーベルね。そういえば、これまで一度も、ブルーノートのアルバムは、採り上げていなかったね。ところで、その曲はなんていう名前?」
D:「まだ、少し迷っているんだけど、他に何か言ってなかった?」
M:「そうだなあ。覚えてないなあ。」
D:「よし。それじゃあ、アルバム強引に決めよう。ゴスペルが好きだと聞いてピンときたんだ。その曲は、モーニン。演奏は、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ。ブルーノート4000番台のはじめで、4003番だ。」
M:「アートブレイキーね。聞いたことあるな。ボク実は、ブルーノートのアルバムはほとんど持ってないんだ。モーニンっていう曲、ボクでも知っているかな?」
D:「もちろん。モダンジャズ史上で最も人気の高い曲だよ。いわゆるファンキー・ジャズっていうカテゴリーに入るんだけど。この曲、1958年の吹き込みで、当時一世風靡した大ヒット作。かつてソバ屋の出前持ちまでが口ずさんでたっていうのが伝説になっている。そのくらい流行った曲。」
M:「ああ、思い出した。ソバ屋で。あの曲か。知っているよ。曲名を知らなかっただけだね。」
D:「今でも、ライブでとても人気があるね。ウィントン・マルサリスがリンカーンセンター・オーケストラを統率して来日したコンサートで、アート・ブレーキー特集をやったんだけど、モーニンが始まると、会場は大拍手。みんなこの曲の演奏を待っていたんだね。それから、昨年春、ルイス・ナッシュと会った時に、その年の秋のライブは、50年代のハードバップ全盛時代の有名な曲をシリーズで採り上げる予定だと言っていた。美術館で名画を見るように、50年代ハードバップ・ギャラリーという企画にしたいと言っていたね。それで、その秋のライブでは、50年代ギャラリーとして、モーニンも演奏したんだけど、会場の拍手はすごかった。みんな、このモーニンが今でも大好きなんだ。ところで、その時のルイス・ナッシュの編成したグループの演奏は、本当に素晴らしかったね。」
M:「よし、このモーニンの入っているブルーノートのアルバムを彼にすすめるよ。ところで、いつも聞くけど、この曲は誰が作ったの? アート・ブレーキーだろう。」
D:「いや、違うんだ。ジャズ・メッセンジャーズのメンバーでピアノのボビー・ティモンズ(Bobby Timmons)の作曲。 そうそう、Murphyくん、その人に伝えておいて。確かにこのアルバムは大ヒット作で、名盤なんだけど、ジャズはこれだけではないからって。それに、このモーニンは、もう一つ有名なライブアルバムがあるからね。そちらの方のタイトルは、サンジェルマンのジャズ・メッセンジャーズ 。」
  ◇◇◇
Mornin_bnモーニン+2

第22回 不滅のジャズ名曲-その22-ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ(You’d Be So Nice To Come Home To)

Murphy:「Djangoくん、今日は自分の持っているアルバムを持ってきたよ。ボクが最初に買ったジャズ・ヴォーカルのアルバムはこれなんだけど。」
Django:「Murphyくんも、ジャズ・ヴォーカルのアルバムを持ってたのか。どれ、あっ、これか。超有名なアルバムだね。ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン。」
M:「ヘレン・メリルの有名な曲、ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥを聴きたくてね、買ったんだ。いつもほとんど、この一曲だけしか聴かなかったんだけど、Djangoくんの影響を受けて、全曲通して聴いてみたよ。」
D:「どうだった?」
M:「ホワッツ・ニュー、とか、イエスタデイズもいいね。でもやっぱりこの曲が一番だと思った。それと、この間から、Djangoくんのジャズの話を聴いて、少しジャズ・ミュージシャンの名前がわかってきたんだけど、あの、クリフォード・ブラウンが演奏していたんだね。それと、ベースが、オスカー・ペティフォードだったんだ。」
D:「その通り。Murphyくんも詳しくなってきたね。このメンバーはすごいよ。それに編曲は、その後一世風靡した、クインシー・ジョーンズ。ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥの間奏で、出てくるトランペットのあの音色がブラウニーなんだ。」
M:「ところで、この曲は、誰が作ったの?」
D:「コール・ポーター。「サムシング・トウ・シャウト・アバウト」という映画のために作曲したんだけど、1943年ごろだね。コール・ポーターは、1920年代から60年代まで、数々のスタンダードを書き続けた作詞・作曲家で、この曲以外にも、All Of Youや Night And Day、Begin The Beguineなど、数多くの名曲を残しているんだ。2005年には、彼の一生を綴った映画『五線譜のラブレター 』が公開されたし、その概要はいまでもホームページ上で見られるよ。」
M:「そう、さっそく見てみるよ。もう一つ質問なんだけど、ヘレン・メリルは、他に有名なアルバムがあるの?」
D:「あるけど、当分は、Murphyくんにはこのアルバムだけでいいと思うよ。ヘレン・メリルは、60年代の後半から5年ほど日本にも住んでいたんだ。その後、毎年のように来日しているから、そのうちまた、ライブでも聴けると思うけど。」
 ◇◇◇
Youdbesonice_h_mjpgヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

第21回 不滅のジャズ名曲-その21- アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)

Murphy:「Djangoくん、さっそくW.C.ハンディのアルバム聴いてみたんだけど、これ、すごくいいね。ルイ・アームストロングってこれまで、あまり聴いてなかったけど、けっこうおもしろいね。」
Django:「そうだろ。Murphyくんは、明るい曲が好きだからね。ルイのアルバムは、前回にも言ったけど、1920年代から録音していたから、かなりのアルバム数で、おそらくどれを選べばよいかわからないと思って、真っ先に決定版といえるものを選んだんだ。」
M:「ところで、Djangoくん。ルイのアルバム、もっと教えてくれない? 実はね、この間、たまたま戦前のハワイアン・ミュージックを聴いてみたんだけど、かなりジャズのようにスイングして、とてもノリがよかったんだ。ギターのかわりにウクレレが入っていたりして、編成もおもしろかったね。それがきっかけで、モダンジャズ以前のスイング時代のジャズを少し聴いてみたいと思うようになったんだ。それと、もう一つ、映画の「スウィング・ガールズ」を見て、ああ、ジャズっていいなあって、実感したよ。」
D:「そう、スウィング・ガールズ、見たのか。あれはビッグ・バンドだったね。それなら、Murphyくん、ルイのかなり古い頃の演奏を聴いてみたら?」
M:「それって、いつ頃のもの?」
D:「1920年代から30年代の頃だね。」
M:「そんなに古いのか。でも、そのころの録音って、ものすごく悪いんじゃない? ノイズなんかも多くて。SPレコードだろう?」
D:「そう、SPレコードの時代だよ。でも、けっこう聴けるよ。以前は、CD化されてもかなり音質が悪かったけど、今ではかなりよくなっているよ。」
M:「音質ってそんなによくなったりするの?」
D:「そう。デジタル技術が発達して、ノイズが除去できるようになったんだ。しょせん古い録音だから限界もあるけど、ヘッドホンで聴いても耳障りでなくなったし。そうだな、最新のデジタル・ノイズ・リダクション技術をつかって、見事に復刻した、ルイのアルバムがあるんだ。これ一度聴いてみたら?」
M:「そうか。音質がよくなっているのか。知らなかったなあ。古い録音というだけど、これまで見向きもしなかったよ。それで、どんなアルバム?」
D:「ナクソス(NAXOS)レーベルって知ってる?」
M:「ああ、クラシックの廉価盤で有名なレーベルだろう。」
D:「その通り。ここのナクソス・ジャズ・レジェンド(NAXOS JAZZ LEGENDS)というシリーズで、ルイの20年代から30年代のアルバムが確か2枚ほど出ていたと思うんだけど、おすすめは、「アイヴ・ガット・ザ・ワールド・オン・ア・ストリング(I’ve Got the World on a String)」というアルバム。このアルバム名は、ハロルド・アーレン(Harold Arlen)という人が作った、コットン・クラブのショーのために書かれた曲をタイトルにしている。もちろんアルバムの1曲目に入っている。」
M:「ハロルド・アーレンって有名な作曲家?」
D:「そう。Murphyくんの好きな、ハワイの「イズ」が歌っているOver The Rainbowの作曲者だよ。数々のスタンダード名曲を残した人だね。ハロルド・アーレンは、NYのハーレムのコットン・クラブでピアノを弾いているうちに作曲家としての頭角をあらわした人で、数々の名曲は、今でも多くのジャズ・シンガーに歌われている。ところで、コットン・クラブといえば、その昔デューク・エリントンが出演していたクラブ。コッポラ監督の「コットン・クラブ」という映画もあるよ。」
M:「タイトル曲以外にどんな曲が入っているの?」
D:「有名な曲では、スターダストやセントルイス・ブルース、ベイジン・ストリート・ブルースなど。太くて、誰よりも遠くまで届く元気なトランペット、ルイ独特の大きな目玉を動かしながらの歌声、ラップのようなメンバー紹介など、すべてが生き生きとジャズを奏でる。特に、スローになりすぎず、軽快なミディアムテンポで演奏する、スターダストは、何度も聴きたくなるね。一度聴けば、忘れられないほど、印象的だ。」
M:「そうか、またスターダストが出てきたね。同じスターダストでも、今回の1930年代のルイの録音、第18回に出てきた50年代のエラ・フィッツジェラルドの録音など、同じ曲でも、演奏スタイルによって曲の雰囲気がガラッと変わるところが、ジャズの面白さだね。」
D:「Murphyくん、いいこというね。そのとおりだよ。」
 ◇◇◇
Louis Armstrong Vol.2 / I’ve Got the World on a String (Naxos Jazz Legends)は、OKehレーベルとVictorレーベル時代のSPレコード音源。1930〜1933録音。
Louisarmstrong_naxos_1I’ve Got the World on a String/Louis Under the Stars

第20回 不滅のジャズ名曲-その20- セントルイス・ブルース(St. Louis Blues)

Django:「このところ、ヴォーカルアルバムの話題が続いているんだけど、ジャズ・ヴォーカルを語るなら、やはりこの人のことをもっと言わないと...。」
Murphy:「だれ?」
D:「第16回に登場したんだけど、もう一度、今回改めて採り上げたいんだ。」
M:「第16回といえば、エラ&ルイのアルバムだけど、どっち?」
D:「ルイの方だよ。サッチモことルイ・アームストリング。Murphyくんは、ルイの曲は他に何か知ってる?」
M:「そうだな、以前にホンダのCMに出てきた歌ぐらいかな。」
D:「ああ、What a Wonderful Worldね。この曲は一番ポピュラーかもしれないね。今回は、ルイのもっと古い録音で、どうしても採り上げたいアルバムがあってね。ルイのアルバムはとても多いけど、そのなかで彼のベストアルバムの1つだと思っているのがあるんだ。でも、案外このアルバム、あまり知られていないかもね。」
M:「古い録音って、いつ頃の?」
D:「1954年の録音で、CBSに吹き込んだ「ルイ・アームストロング プレイズ・W.C.ハンディ」というアルバム。」
M:「W.C.ハンディ? 聞いたことないけど、ひょっとして作曲家の名前?」
D:「そのとおり。このアルバムは、ルイの傑作の1つだね。ハンディという作曲家は、ブルースの父といわれる人で、数々のブルースを作曲している。一番有名な曲は、セントルイス・ブルース。」
M:「ああ、その曲知っているよ?」
D:「そうだろう。みんな知っている曲だね。ルイは、この曲を1920年代から何度も吹き込んでいるんだけど。このアルバムでの演奏が間違いなくベストだね。あの陽気なルイが、いつになく真剣に取り組んだアルバムで、相当な集中力で気迫が漂っている。すべてハンディの曲で11曲も録音するっていうことは、ルイにとっても、相当なプレッシャーがあったと思うね。ブルースの父、ハンディの曲を演奏するんだから、へたなものは作れないという気持ちが、アルバム全体を支配している。当時のレコードのライナーノートで、大和明さんが書いているけど、作曲者であるハンディ自らが、

「当時出来上がったテープを、レコード編集室で聴いた81歳のW.C.ハンディは視力を失った目に感激の涙を浮かべ、自分の作品をこれ以上に素晴らしく演奏したのはルイ以外にかつてなかった。(大和明著 ライナーノートより)」

と、絶賛したらしい。」
M:「あの、サッチモがそんなに気迫を込めて演奏したのか。」
D:「そう。Murphyくんにも、ぜひ一度聴いてほしいんだけど。ボクは初めてこのアルバム聴いた時、1曲目のセントルイス・ブルースで、うわあ、スゴイと思ったね。ルイが素晴らしいリズム感でリードしていく。これまで聴いてきたこの曲のイメージとは異なり、セントルイス・ブルースって、こんな生命力があったのか、と思ったね。まさに、ブルース。名曲!。でも、ルイのことだから、ユーモアも忘れていない。この曲を聴いて以来、一番好きなブルースは? と聴かれれば、真っ先に、ルイのセントルイス・ブルースが浮かぶんだ。」
M:「Djangoくんにとって、セントルイス・ブルースは、マイ・フェイバリット・ソングだったのか。」
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プレイズ・W.C.ハンディLouishandy

Louis Armstrong- Live

第19回 不滅のジャズ名曲-その19- マンハッタン(Manhattan)

Murphyくん、今回は手紙を送ります。
  ◇◇◇
Murphyくん、いまボクは、リー・ワイリ(Lee Wiley)「ナイト・イン・マンハッタン(Night In Manhattan)というアルバムを聴いています。このアルバム、初めて出会ったときのこと、今でも覚えています。それ以来、このアルバムを聴くたびに、いつも初めてのアルバムを聴くときのような新鮮な気持ちになります。

1曲目の「マンハッタン」という曲は、リチャード・ロジャースロレンツ・ハートのコンビによる若い頃の作品。本当にロマンティックな曲とは、この曲のことでしょうか? リー・ワイリーの歌は、モノクロ写真を見ているような渋い味があり、ハスキーで独特のビブラートの歌声が、ニューヨークのマンハッタンを巡り、飽きることなく街じゅうを案内してくれているようです。マンハッタンのブティックや小物雑貨の古くてもシャレた店や、昔からの古い佇まいのカフェでくつろいでいるようです。オールドファッションに身を包んだカフェで飲むコーヒーの香りや、昔からの板張りの床の木目などの味わいは、リー・ワイリーの歌のようです。

このアルバムを聴くと、いつも心地よい気分になります。ニューヨークから、ヨーロッパに移り、ハプスブルグ家の都、ウィーンの街に着いたときの気持ちや、シュテファン寺院からドナウ川方面へ少し歩いたところにある、何気なく見逃しそうな、普段着で気取らないカフェに入ったときのイメージに近いものが、リー・ワイリーの歌から感じられます。
リー・ワイリーの歌は、昼間でも、聴きたくなる曲があるかと思えば、夜の静けさのなかで、そっと聴いてみたい曲もあります。一日の終わりには、アルバムのなかの「ストリート・オブ・ドリームズ」という曲がぴったりです。

このアルバムの伴奏役をつとめる、ボビー・ハケットのトランペットも、50年代のクラシックカメラのような、味わい深さがあり、リー・ワイリーにぴったり寄り添ってオブリガードを奏でます。このいぶし銀のトランペットを聴きたくて、またこのアルバムをかけることもよくあります。

リー・ワイリーは、アルバム数の少ないジャズ・シンガーですが、この一枚のアルバムだけで十分です。なぜなら、何回も聴きたくなるからです。このアルバム、誰にでもおすすめできるものではありません。なぜなら、モノクロ写真のよさがわかるような、味わいが感じられる人でないと困るからです。リー・ワイリーは、そんな地味で隠れた存在です。ある街角で、昔も今も変わらずひっそりと続いているお店のような感じがして、このまま騒がれずに、リー・ワイリーが本当に好きな人だけに、聴き続けてほしいと思います。

そして、今、最後の曲が終わり、ふたたび、1曲目の「マンハッタン」をかけました。ウィーンの街角で見つけた、小さなお店は、またふたたび訪れたくなるように、もう一度リー・ワイリーを聴いてみたくなります。夜になれば、こだわりをもったケラーでビールとワインをもう一度飲みたくなるような、心地よい空間と味わい深さ、それがリー・ワイリーのこのアルバムです。

では、Murphyくん、次回を楽しみに。      Djangoより
                                                                      
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Lee Wiley  Night In Manhattan   1951,52年録音
Nightinmanhattan1ナイト・イン・マンハッタン