ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第6回- リカード・ボサノヴァ / Harry Allen

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リカード・ボサノヴァ

Django:「先ほど主人が買ってきたCDのジャケットを見たら、犬が写っていた。たぶん、ジャケットに魅せられて買ってきたのだろう。でも聴いてみるとなかなかいい曲ばかり。梅雨のこの時期にぴったり。軽くて気楽に聴けるジャズの定番はやっぱりボサノヴァだ。

アルバムタイトルは、リカード・ボサノヴァ。演奏は、ハリー・アレン(Harry Allen)。以前に紹介したスコット・ハミルトンとならび、オールドファッションというか、スイング時代に逆戻りしたような古いスタイルにこだわるサックスを奏でる。

でも、実際の演奏は決して古くさくはなく、今の時代にぴったりというか、とても温もりがあり、リラックスできる。曲目は、ボサノヴァの名曲がズラリ。コルコヴァード、カーニヴァルの朝(黒いオルフェ)、イパネマの娘をはじめ、アルバムタイトル曲のリカード・ボサノヴァなど。2006年にリリースされたアルバムなので録音も優秀だ。蒸し暑い季節にこれをかけると除湿器に早変わり? 今の季節におすすめのアルバム。」
 

マリオン・カウィングスと井上智トリオの日本ツアー

ニューヨークで活躍するジャズ・ヴォーカリストのマリオン・カウィングスと井上智トリオの日本ツアーの日程は以下の通りです。
6/12(木)京都:ル・クラブ 075-211-5800
6/13(金)神戸:サテンドール 078-242-0100
6/14(土)大阪:ロイヤルホース 06-6312-8958
6/15(日)奈良:生駒市 北コミュニティセンターISTAはばたき午後2時 0743-71-3331
6/17(火)松山:ハーフノート 089-921-2023
6/18(水)倉敷:旅館御園・MISONO THE LIVE 086-422-3618
6/20(金)福井:響きのホール 0776-30-6677
6/21(土)富山:プライベートイベント
6/22(日)金沢:石川県立音楽堂 金澤ジャズスクエア 076-232-8632
6/24(火)栃木:さくら市氏家公民館 028-682-1611
6/25(水)東京:Body&Soul 03-5466-3348

ジャズヴォーカリスト、マリオン・カウィングス公式サイト

井上智トリオ来日

今週の6/14(土)、大阪の老舗ライブハウス「ロイヤルホース(Royal Horse)」にニューヨーク在住のジャズギタリスト、井上智トリオが出演する。しかも今回は、ニューヨークの大物ジャズシンガー、マリオン・カウィングス(Vo)との共演。マリオンは、ニューヨーク生まれ。あのジョン・ヘンドリックスの指導を受けた実力派シンガー。ジョン・ヘンドリックスといえば、数々のジャズの器楽曲を超絶的なボーカルで歌いまくり、CBS時代のモンクのアルバムにも参加したジャズシンガー。

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第5回- In The Mood 〜Plays Glenn Miller〜 / Manhattan Jazz Orchestra

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Django:「京都シティハーフマラソン、平安神宮前9時スタート。今日は朝から散歩に行けそうな気配。マラソンコースは、平安神宮→河原町御池→烏丸御池→烏丸今出川→河原町今出川→(加茂街道を通り)北山大橋へと続く。北山大橋通過時刻を主人は頭に入れた。先頭ランナーが9時25分に到着だ。

鴨川河川敷に到着し北山大橋に向かって歩いた。気がつくと橋にはすでにランナーの姿が見えた。いつものように、寄り道しながらにおいを嗅ぎわけている暇はない。そこから駆け足でやっと橋の南側に到着した。北山大橋を東へ渡ったあたりで、ブラスバンドのマーチが聴こえた。ここで観戦。

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鴨川河川敷でいつもマラソン練習をしているT花さんはもうすでに通過したんだろうか。匂いを嗅いでみたけどボクの鼻でもわからない。T花さんのいつもの練習コースは北山から京都駅までの往復。相当な距離だ。それだけ走り込んでいるから、今日のレースもきっといい位置につけているに違いない。6200人のランナーが走ってくるのだから、相当集中しないと見逃してしまう。スピードが速く目の前を通過するのは一瞬だ。ブラスバンドの演奏に熱が入ってきた。サウンド全開だ。中学生にしてはなかなかうまい。先Kitayama001
生の指揮の姿もいい。気がつけばボクはランナーよりもサウンドに耳を奪われていた。曲が終わった。と、そのとき一瞬T花さんの匂いがした。思わず前方を見ると、風のようにT花さんが通り過ぎ去った。主人は気がつくのが遅かった。T花さんはボクの顔を見て微笑んで行った。

家に帰っても、ブラスバンドのサウンドが耳に残った。急にビッグバンドを聴きたくなった。ひょっとして主人も同感ではないかと思っていると、ボクの勘が当たった。棚からCDアルバムを取り出した。CDのプラスティックケースがピカピカだ。新しい。最新盤に違いない、と思っていると、ビッグバンド・サウンドが流れ始めた。グレンミラーの真珠の首飾り(A String Of Pearls)。でも演奏はグレンミラーではない。誰の演奏か? サウンドは相当新しい、ニューヨークっぽい、などと思いながら再度ジャケットを覗いてみた。

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わかった! マンハッタン・ジャズ・オーケストラ。略してMJOと呼ばれる、デビッド・マシューズ率いるNY最強のジャズオーケストラだ。アルバムタイトルは、イン・ザ・ムード〜プレイズ・グレン・ミラー〜。2007年の作品。今年の6月にジャパンツアーが決定している。関西では6/21(土)に大阪ザ・シンフォニーホールで開催が予定されている。このオーケストラの編成は、通常のビッグバンド編成とは相当異なっている。もっとコンテンポラリーというかギル・エバンス的だ。でも、ギルよりデビッド・マシューズの方が親しみやすい。編成は、4トランペット、4トロンボーン、2サックス、2フレンチ・ホーン、ベース・クラリネット、チューバ、ピアノ、ベース、ドラムからなる。マシューズの斬新でコンテンポラリーなサウンドは、からだに心地よいね。」

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第4回- At the Stratford Shakespearean Festival / Oscar Peterson Trio

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Django:「いつもの散歩コースである鴨川へ出ると、急に風が強くなってきた。3月にしてはまだまだ寒いなあ、と思いながら歩いてると、雪が舞い降りてきた。真冬のようだ。主人は、ポケットに手を突っ込み、かなり寒そうな様子だった。ボクは、寒いのは平気。"ラブラドール・レトリバー"は、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州が原産だけあって、これぐらいの寒さではびくともしない。これまで真冬の鴨川でも、何度も川に飛び込んだ。雪の中をずぶ濡れになって家まで帰ったこともある。その度に主人は呆れた顔をする。

北大路橋を過ぎてしばらく歩くと出雲路橋に到着。いつもはここで引き返すのだが、主人はいっこうに戻る気配がない。橋をくぐりさらに歩き続けた。下鴨神社の近くの葵橋を超え、ついに出町柳に到着。ひょっとして今日は、と行き先を予想していると、ボンボンカフェの横の階段を上り、今出川通りに出た。その通りを西へ進み、河原町今出川交差点を南へ渡った。やはり今日の行き先はあそこだ!と思った。交差点を過ぎパチンコ屋を超えた角で主人は立ち止まった。ドーナツの香りがする。通りを挟んで南はミスター・ドーナツだった。角の電柱にリードを括り付けると、”行ってくるからな”とボクに声をかけた。

行き先は、予想通りレコード屋だった。つだちくという名前のレコード店で、なんでも昭和9年創業の老舗らしい。今は店を移転しビルの1階に入っているが、以前は今出川通りの河原町西入ルにあったそうだ。30分ほどで主人は戻ってきた。手には、大きな袋をさげていた。臭いを嗅ぎ分けると、LPレコードだとわかった。結構古そうだ。いわゆる中古レコードに違いない。いつものように、ドッグフードを2粒もらった。

出町の河川敷のベンチに座り、主人は袋からレコードを取り出した。ジャケットの裏のライナーノートを読み出した。1枚目は、オスカーピーターソンのアルバムだ。タイトルは、At the Stratford Shakespearean Festival / Oscar Peterson Trio。あれっ、確かこれ聴いたことあるぞ! と、そのとき思った。シェークスピア・フェスティバルでの1956年のライブレコーディングだ。当時のメンバーは、ドラムレスで、ピアノのオスカー・ピーターソンに、ギターのハーブエリス、ベースのレイ・ブラウンの3人編成。当時まだハーブエリスが参加していた初期の貴重なトリオ盤。ドラムが入っていないから、このサウンド覚えているけど、確かCD盤が家にあったはずだ。

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家に帰って、さっそく主人は、ジャケットからレコードを取り出し、両面を丁寧にチェックした。ぼくが見たところ無傷できれいだと思った。針がおろされた。スインギーなピアノトリオの演奏が始まった。3人のスインギーなノリの良さが、ボクの体に伝わってきた。56年のライブ録音でもともと音質はややこもり気味だが、レコードならではの音の勢いは十分感じられた。」

Murphy:「やはり、そのアルバムのCD盤は持っていたの?」

D:「そう。ひょっとして主人は、忘れていたのかなあと思ったけど、あとからそのCD盤を棚から取り出していた。」

M:「どうして、同じものを買うの?」

D:「ぼくも最初はよくわからなかったけど、あとで納得した。その後、主人はLPレコードを、ジャケットサイズの木製の額縁に入れて壁に飾っていた。そうか、主人はこのアルバムが好きでLPジャケットを部屋に飾りたかったんだ。」

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第3回- Jim Hall in Berlin / Jim Hall

Garo1Django:「今日は主人に連れられて、旧大宮通りを南へ進み、北山通りを渡り、そのまままっすぐ下って行った。しばらくすると、大徳寺前に到着。その後北大路の交差点を渡り、さらに南下した。鞍馬口通りにさしかかると右折。そのまままっすぐ鞍馬口通りを西へ歩いた。このあたりは商店街で、昔からの店が建ち並んでいる。八百屋さんをこえたあたりから、コーヒーの香りが漂ってきた。ボクは嗅覚が人間より発達しているから、かなり遠くからでも嗅ぎ分けることができる。ああそうか、いつものコーヒー屋さんに珈琲豆を買いに行くんだ!。

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自家焙煎コーヒーのガロという店。主人が言うには、ここのコーヒーが一番おいしいって。お店のお兄さんがドアを開けて店の前まで出てきてくれた。主人は、いつものように300g注文した。匂いでオリジナルブレンドだとわかった。店内からジャズが聞こえてきた。小さな店だけど、珈琲に対するこだわりは半端じゃない。珈琲豆の種類は豊富で、名機ポンド釜直火型焙煎機で丹念に焙煎しているらしい。店の入り口付近には、ジャズのライブ情報が溢れている。この店の2階では定期的にライブが開催されている。京西陣・町家で一番小さなLIVEと書いてある。

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ここから家まで約25分。途中、鞍馬口通りでいろんなお店に出会った。おもしろい招き猫を発見。少し行くと、ボクの鋭い嗅覚がニッキと抹茶に反応した。茶洛というわらび餅の店だった。この店には多くの観光客が訪れ、時々売り切れの札が出る。うちの主人はここのわらび餅未体験らしい。

家に帰ると、珈琲の香りが部屋中ただよった。主人は棚からレコードを取り出した。珈琲を一口飲んだ後、レコード盤をターンテーブルに置き、針をセットした。ギターの音色が聴こえた。まろやかで繊細な響きはジム・ホールに違いないと思った。

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アルバムタイトルは、Jim Hall in Berlin。1969年6月にベルリン市内のスタジオで録音され、MPSレーベルからリリースされた。パーソネルは、ジム・ホール(g)、ジミー・ウッド(b)、ダニエル・ユメール(ds)。ホールが単身ベルリンに渡り、現地のリズム陣と演奏したアルバム。」

Murphy:「ジム・ホールのリーダー・アルバムで、ギタートリオ編成なんだね。」

D:「そのとおり。実はこのアルバム、ドイツのジャズ評論家兼プロデューサーのヨアヒム・E・ベーレントがプロデュースしたもの。LPレコードのライナーノートに、ベーレントがその時の状況について詳しく書いている。簡単に紹介すると、1960年代の後半、ギターアルバムは過剰とも言えるほど反乱していた。しかし、ジム・ホールのリーダーアルバムは一枚もなかった。ベーレントも認める現代(当時)最高のジャズギター奏者であるにもかかわらず。そこで、彼自らがプロデュースしたわけだ。」

M:「意外だね。当時はそうだったのか。今ではボクでもジム・ホールの存在は知っているし、リーダーアルバムがいっぱい出ているのに。」

D:「ベーレントは、ライナーノートのなかで、この吹き込みテープを10回以上聴き直した結果次のように述べている。

『芸道を極めつくした名人にしかみられない洗練の極地ともいうべき単純性を発見することができた。(ヨアヒム・E・ベーレント(油井正一訳)、LPレコードライナーノートより)』

レコードのB面は、I’ts Nice to Be With Youという曲で始まった。この曲は、ホールの奥さんが作った曲らしい。昼下がりのひととき、珈琲の香りに満ちあふれた部屋で、このレコードが流れると、実にリラックスする。ジム・ホールのギターは、音を吟味し、単純化の極地ともいうべき音楽を奏でる。ベーレントも言っているように、これほどのシンプルな演奏は、一流のアーティストにしかみられないものだ。単純でしかも的確な音を選ぶ。そのサウンドがシンプルであるからこそ、ボクの耳がしっかり受け止め、一音たりとも聴き逃すまいとする。いくら聴いても飽きない。」

 

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第2回- Dearest Duke / Carol Sloane

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Django:「午後2時、主人に連れられて熊野神社前に到着。交差点を渡り東南角から少し東へ向かうとバス停があり、その脇に京都の老舗ジャズスポットYAMATOYAの看板を見つけた。今日の目的はジャズ喫茶だとそのとき初めて気づいた。ボクはこのバス停で括られて待機させられるのかと思ったが、そのまま路地を南へ入り、店の前に到着。イヌを同伴できないから、外でしばらく待機。主人は1人で店の中に入った。ボクはウトウトしはじめ地面に屈み込んで居眠りをしてしまった。

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20分ほどで主人は戻ってきた。コーヒーの香りがした。いつものドッグフードを2粒もらった。この店は、昔と同じアットホームな雰囲気が残っているらしい。なんでも入って直ぐ左手には、アップライトピアノが置かれ、その両側にはイギリスのスピーカー、名器ヴァイタ・ヴォックスが並んでいるという。主人が言うにはここの店は今でもLPレコードをかけており、CDと違って聴き疲れしない柔らかな音らしい。ボクもだいたい想像がつく。というのは、いつも家では、主人はCD以外にLPレコードもかけているので、音質の違いはよくわかる。どちらかといえばボクは、LPレコードの音の方が好きだ。アナログの音って、なにかホッとする空気感を発してくれる。

Django080304_2主人が言うには、CDの方が物理特性は上だけど、聴感上はアナログの方がリアルに聞こえることもあるらしい。ボクもそう思う。人の声(ヴォーカル)なんかはLPの方が本物にそっくりだと思えることがよくある。」

Murphy:「CDと違って、LPレコードはノイズが出るだろう。」

D:「確かにそのとおり。でも、あまり気にならないよ。レコード盤の状態によるけどね。今のCDは出始めた頃に比べてずいぶん音がよくなった。最新のリマスター盤なんか驚くほど改善された。もうどっちがいいとか悪いとかの話じゃなくて、それぞれに良さがあるわけで、これからも共存していってほしい。

ところで、その夜、主人はジャズヴォーカルをかけていた。このアルバムはCDだけど、音質が素晴らしかった。演奏内容も申し分なし。びっくりするほど深みのある声だった。」

M:「誰のアルバム?」

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D:「あまり有名な人ではなさそうだ。白人の女性ヴォーカリストで、キャロル・スローン(Carol Sloane)という人。アルバムタイトルは、Dearest Duke。2007年1月の録音。Arborsレーベルから2007年6月にリリースされたらしい。伴奏はシンプルで、Ken Peplowski(テナーサックス、クラリネット)とBrad Hatfield(ピアノ)の二人。曲目は、すべてエリントンナンバーばかり。」

M:「そういえば、Djangoくんもご主人の影響をうけて、デューク・エリントンが好きだったね。」

D:「うちの主人が言うには、キャロル・スローンは、エラ・フィッツジェラルドの亡き後、本当のプロフェッショナルとして玄人好みの貴重なジャズ歌手だって。穏やかに語りかけるその歌声は、大人の成熟した女性ならではの説得力を持つ。若い頃からずっとデューク・エリントンにあこがれ、エリントンナンバーをライフワークとして歌ってきた人ならではの深みをもった歌声だ。ボクは、1曲目のSophisticated Ladyが始まった瞬間から、自分の耳がピクッと震えてしまった。ああ、この曲はこういう歌い方でなければ!と思った。半音階での移行を伴う複雑なメロディーラインは、キャロル・スローンのような熟達した歌い手でないと、曲の心を決して表現することは出来ない。

2曲目のSolitude。これがまた素晴らしい。周りが静まりかえった夜に聴く歌だ。Peplowskiのサックスが寄り添い、Hatfieldのピアノが丁寧に控えめに奏でる。もっとも上質なジャズが流れる時間だ。Sophisticated LadySolitudeはボクの最も好きな曲。本物が歌うと曲の魅力が一層高まる。主人は、このアルバム、2007年度の最高のジャズヴォーカルアルバムではないかと言っていた。ボクも同感だ。」

新連載!ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第1回- Bud Plays Bird / Bud Powell

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Django:「"ラブラドールが聴いた今日のジャズ"と称して、新連載を始めます。」

Murphy:「そのタイトル、どういう意味?」

D:「Murphyくんのご主人も最近ジャズを聴き始めただろう。うちなんか、ボクがこの家にやってきたときから、ずっとジャズが流れていた。今では結構覚えたよ。そこで、ボクたち二人で、ジャズのことを話し合おうというわけ。

あ、そうそう、ブログを初めて見た人にもわかるように、説明しておくと、僕たち二人は、ラブラドール・レトリバーという犬種。Djangoはボクのことで、通称チョコラブと呼ばれるチョコレート色。Murphyくんは、イエローのラブ。ボクの主人は根っからのジャズ好きで、スイングギターの名手ジャンゴ・ラインハルトにあやかって、ボクをDjangoと命名したんだ。いつも部屋ではジャズが流れている。この4月でボクは3歳になる。この家に来てもう2年半ほどジャズを聴いている。最初はあまり興味なかったけど、そのうち繰り返し聴いていると、自然に覚えるようになった。ジャズってけっこういいもんだ。今では、ジャズは子守歌がわり。ジャズが流れてウトウトしているときが一番快適。ジャズって、リズムがあるから楽しいね。スイング感っていうか、独特のビート感覚がある。いつもL.L.ビーンのマットがボクの居場所だけど、その上でゴロゴロしながらジャズを聴くのが楽しみになったんだ。Murphyくんはどう?」

M:「うちの主人も最近ジャズを聴くようになった。ボクはまだ聴き始めたばかりなんで、正直言ってあまりよくわからない。でも、何かいい香りがするね。Djangoくんのいう、スイング感というかビート感覚というのか、独特のノリがいいね。タイトルの意味はわかった。そうか、そういうことだったのか!」

D:「たぶん、Murphyくんもそのうちジャズが好きになるよ。繰り返し聴いていると、だんだんわかってくる。最初は、何も考えずに気軽に聞いているだけでいいから。そのうち、曲名やアーティスト名なんかもわかってくる。少し、曲を覚えたり、ジャズプレーヤーの名前を知るようになってくると、毎日が楽しくなる。

ところで、さっそく第1回、はじめるぞ。Murphyくんの方から何でも質問して」

M:「実はうちの主人、最近ジャズピアノをかけている。ジャズピアノっていいね。ピアノとベースとドラムの3人編成かな。特にベースのビート感が。」

D:「さすが、Murphyくんいい耳しているね。それってピアノトリオっていうんだよ。」

M:「聴覚なら、ボクたち主人には負けないもんな。Djangoくんにダイレクトに質問するけど、ピアノトリオでのなかで、これぞジャズピアノという名盤を教えてくれる!」

D:「おいおい、いきなり直球を投げるなよ。ジャズピアノだったら最初はなんでもいいんじゃない。」

M:「一番いいジャズピアノのアルバムを主人にすすめようと思って。」

D:「おまえ、飼い主にしゃべれるのか?」

M:「あたりまえだろ。テーブルに置いてあるジャズの雑誌のなかでおすすめのアルバムが載っているページを開いて、"ワン"というだけだよ。」

D:「そうか、新聞や雑誌などを口に咥えて飼い主のところに持って行くのは、Murphyくんの特技だったもんな。」

M:「いきなり、主人にジャズピアノの真打ちといえるものを紹介すれば、三日坊主に終わらずに、気に入ってジャズを聴き続けると思うから。」

D:「なるほど。その戦略はいいね。それなら教えよう。

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バド・パウエル(Bud Powell)のピアノトリオで、Bud Plays Birdというアルバム。このアルバム、案外知られていないんだけど、実に素敵だ。何がいいって、アルバムまるごとほぼチャーリー・パーカーの名曲ばかり。パーカーは、アルトサックス奏者で、ビバップの開祖のひとり。一方バド・パウエルはビバップ・スタイルのピアノの開祖。パーカーの没後、1957年の10月から58年の1月にかけて、NYで録音された。レーベルは、Roulette(現在はブルーノート傘下)。ジャズピアノを聴くならこのアルバム、何はともあれビバップを聴くべし!というのが、今日のボクの提言だね。」

M:「聴きづらくない?」

D:「全然問題なし。ジャズピアノの醍醐味、なかでもホーンライクに右手で自在にアドリブフレーズを奏で、左手で、実に見事なリズム感でコードを入れる。これがバド・パウエルのスタイル。1940年代に起こった画期的なピアノスタイル。いわゆるモダンジャズの黎明期だね。このバドが、先輩格のパーカーの名曲ばかり演奏しているのだからこれ以上ベストなものはないぞ。このアルバムを聴き続けると、ビバップのフレーズに親しみを覚えるようになり、次第に霧が晴れたようにジャズがわかってくる。繰り返すけど独特のビバップフレーズは、言葉と同じ。最初は、Murphyくんも人間の言葉がわからなかったけど、今では100ぐらい単語を知っているだろ。近所のポチなんか400から500ぐらいの言葉を覚えているぞ。言葉を覚えると飼い主のいうことがなんでもわかってくる。言葉、イディオムだね。ジャズも同じ、ビバップのイディオムの宝庫は、ピアノではバド・パウエルだ。

ジャズピアノのアーティストのなかで、いわゆるパウエル派と呼ばれる人たちがいる。例えば、現役の長老格として今でもNYで活躍するバリー・ハリスなんかは、まさしくパウエル派の中核を成す人。いまでも、NYの彼が主催するワークショップでは、ビバップフレーズを口ずさむように教えている。ジムホールも言っていたけど、ジャズは言葉だと。だからNYに行けばジャズという言葉に接する機会が多くなり、ジャズ演奏を通じてプレーヤー同士がコミュニケーションできるようになる。言葉がわかれば楽しいぞ。繰り返し聴けばだれでもわかってくる。それに、バップイディオムっていうのは、実にかっこいい。

ベースは、いわゆるウォーキング・ベースという、1小節で4つのビートを刻むのが基本。オスカー・ペティーフォードポール・チェンバースなどのベースラインは、それだけで生き生きとしたビートがわき起こってくる。ああ、ジャズだ!という独特の感覚が見事に表れる。それにドラムが加わる。ビバップにおけるモダンドラムの開祖がケニー・クラークだ。ジャズは、優れたベース奏者とドラム奏者の二人で音楽の骨格を作り上げる。体が自然にスキップし、動く、音楽に合わせて体がスイングする。その感覚がジャズの一番の基本だ。今日はこのぐらいにしておくから。次回からは、ジャズのアルバムを紹介していこう。但し、断っておくが選定は僕たちイヌの感性で選んだものだから。」

M:「わかった。次回を楽しみにしているから。」

第100回 不滅のジャズ名曲-その100-イン・ウォークド・バド(In Walked Bud)

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Murphy:「Djangoくん、ようやく第100回を迎えることになったね。いよいよ最終回だね。」

Django:「そう。このシリーズはこれで終わり。」

M:「最終回となると、それなりに選曲にも力が入ると思うけど。でもDjangoくんのことだから、単純に誰でも知っている有名曲を選ばないだろうなあ。」

D:「最後はね、やはりこれぞジャズ!、ビバップを選んでみたかった。でもディジーやパーカーの路線とは違うサウンドを目指したもの。1940年代の始め頃にNYのミントンズ・プレイハウスで、これまでのジャズとは違う新しいジャズのムーブメントが沸き起こった。その中心人物の一人で、これまでの誰とも違うきわめてユニークなピアニストがモンクだった。ドラムのケニー・クラークとともに明日のジャズを切り開いたんだ。そのセロニアス・モンク(Thelonious Monk)が作曲した名曲、イン・ウォークド・バド(In Walked Bud)。この曲は、1947年11月21日、NYのWORスタジオでのブルーノートにおけるモンクの初リーダー・セッション・シリーズの中で吹き込まれたもの。まさに時代の最先端だった。今でも実に新鮮に聴こえる。1947年といえばブルーノートが時代の先端をいく新しいジャズを積極的に発表し始めた頃。そのスタートを飾ったのがモンクだった。

この曲は、その後多くのミュージシャンに採り上げられる。例えば、Art Blakey’s Jazz Messengers With Thelonious Monk(Atlantic 1957年録音)、1982年には、ウィントン・マルサリス(Wynton Marsalis)、ブランフォード・マルサリス(Branford Marsalis)らが参加するArt Blakey & The Jazz MessengersのLiveアルバムKEYSTONE 3の1曲目にも収録された。」

M:「1947年のモンクのリーダー・セッションは、ブルーノートにとってとても重要なものだったんだね。

D:「その通り。当初はSP盤で発売された。でもモンクのSP盤はあまり売れなかったらしい。50年代に入り、BN5002番(10inchLP)のジーニアス・オブ・モダン・ミュージック(Genius Of Modern Music)とBN5009番のジーニアス・オブ・モダン・ミュージックVol.2(Genius Of Modern Music Vol.2)の2枚のアルバムにまとめられた。その後12インチLP盤で1500番台としてリリースされた(BN1510)。先程も言ったように、ブルーノートは、それまでニューオリンズ・ジャズやブギウギなどを手がけていたが、1947年に新しいジャズ、つまりビバップの録音を開始した。その記念すべきアルバムが今回のもの。最新盤は、かつての5000番台(BN5002)のアルバムジャケットを使っている。タイトルは、コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(Complete Genius Of Modern Music Vol.1)

M:「そうか。ブルーノートの記念すべきアルバムか。モンクのアルバムというだけで、これまで素通りしてきたけど。でも、モンクのアルバムって、風変わりで聴きづらくない?」

D:「確かにモンクの音楽は、風変わりで個性的かもしれない。初めての人には、よくモンクは敬遠されがち。でも、今回採り上げたアルバムは、決して聴きづらいアルバムではないよ。そうだね、普段、ガレスピーやパーカーなどのビバップに親しんでいる人には全く違和感がないだろう。」

M:「パーカーが好きだったら違和感なしに聴けるのか。」

D:「モダン・ジャズは、パーカーに始まってモンクで終わるといえば、言い過ぎかもしれないけど、ボクは、そういう気がする。モンクはジャズを理解する上で、とても重要な人だね。もしMurphyくんが、これからもずっとジャズを聴けば、いつかそう思うかもしれない。というより、モンクを聴けばもっと世界が開けるかも。モンクは、パーカーとともにビバップを切り開いた人だけど、それだけでは終わらない。これからの新しいジャズにも影響を与え続ける人だと思う。時代が経過すればするほどその革新性とともに音楽的評価は一層高まるだろう。」

M:「だから最後にモンクを持って来たの?」

D:「まあ、そういうことだね。モンクの音楽は不思議な魅力を思っている。最初は取っつき難いかもしれないけど、聴いていけば次第にその良さがわかる。聴けば聴くほど味が出るタイプ。エリントンもそう。モンクとエリントンは、ジャズのなかの正に巨人だね。」

M:「これまでの100回を振り返ってみれば、あまりブルーノート・レーベルのアルバムが出てこなかったね。なにか理由があるの?」

D:「ブルーノートを採り上げるには、今回のアルバムを欠かすことはできないと思っていた。これが出発点だから。当時、ブルーノートの創始者であるアルフレッド・ライオンにモンクを紹介したのが、アイク・ケベック。ここでライオンがモンクの録音に踏み切ったことが、時代の先端を行くジャズレーベルに発展した。このあたりは、原田和典氏のライナーノート(今回のアルバム)にも記載されている。

『ライオンは47年のある日、ケベックを通じてセロニアスモンクの存在を知ることになる。”なんてユニークなピアノなんだ、なんて斬新な曲想なんだ”と感動したライオンは直ちにモンクを録音スタジオに誘い出した。− コンプリート・ジーニアス・オブ・モダン・ミュージック Vol.1(TOCJ-7003) 原田和典氏ライナーノートより−』

モダンジャズの宝庫ブルーノートはこのアルバムで始まった。ブルーノートはいずれまとめて採り上げるつもり。」

M:「ところで、このシリーズはこれで終わりだからDjangoくんに聞いておきたいと思うんだけど、普段Djangoくんが一番よく聴くアルバムを教えてくれる?」

D:「その時々によって変わるけど。一枚だけあげるならモンクのアルバムだね。」

M:「また、モンクか!」

D:「そう。しかもエリントン・ナンバー」

M:「ああ、まさにDjangoくん好みだね。」

D:「いやいや私好みと言うより、みんなにおすすめできる誰が聴いてもいいアルバムだよ。モンクがデューク・エリントンの曲をトリオで吹き込んだアルバム。タイトルは、Thelonious Monk Plays Duke Ellington。リバーサイド・レーベルに1955年に吹き込んだこのアルバムは、不滅の名演奏だね。無駄な音が全くない。エリントンの曲を弾かせたらモンクが一番いい。

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Plays Duke Ellington
それにこのアルバム、リズム陣が素晴らしい。ベースがオスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)、ドラムがケニー・クラーク(Kenny Clarke)。このアルバムを聴けば、ロン・カーターが目標にしてきたベーシストが、
ペティフォードであることが、なるほど!と、Murphyくんもきっと思うに違いない。弾力性のあるあの太い音。ベースがリズムを刻めば、独特の推進力で音楽をリードしていく。前へ前へと音が出て、それだけで生き生きとスイングする。オスカー・ペティフォードの絶妙な4ビートのウォーキングベースとケニー・クラークのモダンなドラムが織りなすジャズのドライブ感。これがモダンジャズ! まさに元祖だね! 彼らの安定した推進力の上にモンクが乗っかる。ケニー・クラークのドラムは出しゃばらず、彼ら二人と見事に調和する。

曲目は、すべて名曲ぞろい。全部ひっくるめて不滅の名曲だね。全8曲。It Don’t Mean a Thing (If It Ain’t Got That Swing)、Sophisticated Lady、I Got It Bad (And That Ain’t Good)、Black and Tan Fantasy、Mood Indigo、I Let a Song Go out of My Heart、Solitude、そしてラストは、おなじみのCaravanで締めくくる。

原曲の香り、雰囲気や良さを最大限に生かしたモンクの演奏。シンプルで聴きやすくてしかも深い。スイングするジャズの楽しさを満喫できる。モンクの奏でるコード(和音)の深みが、色彩の魔術師といわれたあのエリントン楽団独特の"Color"をたった一台のピアノで、他の誰よりも豊かに醸し出す。もはやこれはクラシックだ!と思う。アルバムまるごと『不滅のジャズ名曲』とはまさにこのセッションのこと。

このアルバムで、不滅のジャズ名曲、最終回、締めくくります。」

第99回 不滅のジャズ名曲-その99-ゼア・ウィル・ネヴァー・ビ・アナザー・ユー(There Will Never Be Another You)

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  プレジデント・プレイズ・ウイズ・ジ・オスカー・ピーターソン

Django:「一度聴けばそのメロディーラインがいつまでも残り、思わず口ずさみたくなる曲、ゼア・ウィル・ネヴァー・ビ・アナザー・ユー(There Will Never Be Another You)。まさにジャズ・スタンダード。Harry Warrenにより1942年に作曲された。1942年に上演された映画Icelandの主題歌で、レスター・ヤング、スタン・ゲッツ、チェット・ベイカーを始めとし、これまで数々のジャズミュージシャンがこの曲を演奏してきた。」

Murphy:「ぼくも、この曲をウクレレでマスターしようと思い、随分練習した。」

D:「親しみやすくて、すぐに覚えられる曲だからね。今回は、数多いこの曲の演奏のなかで、とっておきのアルバムを紹介しよう。アルバムタイトルは、プレジデント・プレイズ・ウイズ・ジ・オスカー・ピーターソン(President Plays With The Oscar Peterson)。ノーマン・グランツのプロデュースによる1952年の録音。オスカー・ピーターソン・トリオ(オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、 J.C. ハード(ds)) とギターのバーニー・ケッセルをバックに、テナーのレスター・ヤングが熱演する名盤。ノーマン・グランツ企画のこういったアルバムは、いつでもどこでも楽しめる親しみやすいアルバムだから、ジャズ初心者にもOKだね。」

M:「オスカー・ピーターソンといえば、先日(12/23)惜しくも亡くなった(82歳)。オスカー・ピーターソンを聴いてジャズを好きになった人は本当に多いね。来日回数は20回を超えていた。スインギーで華麗なピアノは、本当のジャズの楽しさを教えてくれたし、スイングすることの素晴らしさは、どのアルバムでも実感できた。録音枚数も数百枚以上といわれる。まさにジャズピアノ界の巨人だった。」

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D:「オスカー・ピーターソンを聴くなら、今回のアルバムより、ピアノトリオかソロアルバムの方がいいかもしれない。
とにかく録音枚数が多いから、選びきれないけど、ベースのレイ・ブラウン(Ray Brown)、ドラムスのエド・シグペン(Ed Thigpen)のトリオ時代のものならVerveレーベルに多くのアルバムが残されている。1964年録音のスタジオセッション、We Get Requestsは名録音ということもありベストセラーアルバムの一つ。」

31quweqzl_aa115_M:「ソングブックシリーズもいいね。例えば、Oscar Peterson Plays the Harold Arlen SongbookIt’s Only a Paper MoonやCome Rain or Come Shine、Over the Rainbowなどハロルドアーレンの名作がズラリ

D:「他に、コール・ポーターガーシュインデューク・エリントンカウント・ベイシーなど多くのソングブックシリーズを残している。このあたりを聴けば、自然にジャズ・スタンダード曲が覚えられるね。

ところで、今回のアルバムは、バーニー・ケッセルが参加しているけど、Murphyくんはこのギタリストを知っている?」

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M:「もちろん。チャーリー・クリスチャンに憧れてプロになった人だけに、実によくスイングするギターだね。」

D:「その通り。ジャズギターの系譜は、チャーリー・クリスチャンに始まり、戦後バーニーケッセルがクリスチャンの演奏を継承した。50年代には、ジム・ホールもパシフィックレーベルに吹き込んだし、みんなクリスチャンに憧れた。他にノーマン・グランツのヴァーヴ・レーベルには、タル・ファローが凄31jdubucttl_aa115_
いテクニックで吹き込んでいる。チャーリー・クリスチャン以降、それまでリズム楽器としての役割しか与えられなかったギターを、一躍ホーン楽器なみの地位に浮上させたわけだ。ホーンライクなビバップ・フレーズを奏でることにより、ギターは一躍ジャズのリード楽器としての市民権を得た。

チャーリー・クリスチャンは今聴いても、実にカッコいいフレーズをつぎつぎと奏でている。ビバップの誕生と深く関わった彼の才能は、時代が過ぎても色214mc9dx79l_aa115_
あせない。また、ジャズのもつスイングすることの楽しさも待ち合わせている。

ブルースフィーリング、スイングする楽しさ、ジャムセッションにおけるプレーヤー同士の対話、もちろん、ジャズはアドリブが命。インスピレーションを最も大切にする音楽だ。だからこそ、一回限りのライブの魅力がジャズのすべてを物語る。ジャズは言語だ。だから、プレーヤー同士、聴衆とのコミュニケーションなど、お互いが触発されて新たなアドリブが生まれる。

ジャズを聴くのはライブが一番いい。素晴らしいライブに出会った時はおそらく一生忘れないだろう。固苦しい形式をすてて、ジャズという言葉で自然に会話する姿を見ると、誰でもジャズの素晴らしさがわかるはずだ。

お互いがジャズを演奏するのにルールが必要だ。キー、コード進行、リズム、テンポなど。だから初めてのセッションではよくシンプルな12小節のブルースが演奏される。ブルースといえば誰でもすぐに仲間に入り演奏できる。そのブルース以外にもミュージシャン同士がすぐに演奏できる曲、それがジャズ・スタンダードだ。1000曲以上のレパートリーを持っている人も少なくない。それらはオリジナル曲もあるけど大半がスタンダード曲だ。そういった意味で、ジャズスタンダード曲は、人類の宝だ。

ジャズ・コンサートを主宰してきたノーマン・グランツはそういった、ミュージシャン同士の自然なジャム・セッションを重視してレコーディングしようとした。またコンサート形式も導入した。その遺産は、Verveレーベルに残された。

いくらジャズはライブがいいといっても、昔の演奏を二度と聴くことは出来ない。録音されていない限り。ジャズが記録されたことが、その後のジャズを発展させた。いま私たちは、古い演奏をCDで聴くことができる。ジャズの遺産は、メディアに録音されたからこそ、生き残ったわけだ。でも、当時録音を手がけた人は、企業ではなく、個人ベースで細々と録音を続けてきた人が多かった。1939年にアルフレッド・ライオンが設立したブルーノート(Blue Note)、NYのジャズ専門レコード店の店主ミルト・ゲブラーが、1938年に発足させたコモドールレコード(Commodore Records)、そして元レコードコレクターでNYにJazz Record Comerというレコード店を開いたボブ・ワインストックが1948年に創設したプレスティッジ(Prestige)、1952年には、コロンビア大学出身の二人の熱烈なジャズファンである、ビル・グラウアーとオリン・キープニュースによって創設されたリバーサード(Riverside)、西海岸では1951年にレスター・ケーニッヒによってLAに設立されたコンテンポラリー(Contemporary)同じくLAで1952年にリチャード・ボックが設立したパシフィック(Pacific)など、そのいずれもが本当にマイナーなレーベルだった。そして、ヴァーヴ(Verve)のノーマン・グランツ。ジャズへのひたむきな情熱がこれらの素晴らしいアルバムを生んだ。

それと、あと、ジャズの発展に寄与したのは、ライブハウスだ。ミントンズハウス(Minton’s House)ファイブスポット・カフェ(Five Spot Coffee)、1935年から今も続く名門ヴィレッジ・ヴァンガード(The Village Vanguard)、NYミッドタウンのバードランド(Birdland)、ハーレムの老舗レノックス・ラウンジ(Lenox Lounge)など。現在のNYジャズシーンでは、他にアップタウンのスモーク(Smoke)、ダウンタウンのスモールズ(Smalls)などをはじめ多くのジャズクラブで毎日何かが起きている。そして、ジャズの遺産を継承し、伝承していくことの重要性を認識し、文字通りジャズの殿堂として、2004年秋にオープンしたのが、タイム・ワーナー・センター内にあるジャズ・アット・リンカーン・センター(Jazz At Lincorn Center)の専用ホール群。NYのジャズ・コミュニティの懐はますます深まるばかりだ。」