ラブラドールが聴いた今日のジャズ -第20回- セロニアス・ヒムセルフ / セロニアス・モンク (Thelonious Himself / Thelonius Monk) SMJ-5052M

ロニアス・ヒムセルフ+1

1957年録音のセロニアス・モンクのソロアルバム。モンクはソロで聴くのが一番いい。モンクのソロは特別だ。最近になってつくづくそう思う。ジャズピアニストの誰もが、ソロピアノを得意としている訳ではない。むろんライブなどで趣向を凝らし、1〜2曲ソロの場合もあるが、アルバムまるごとピアノソロで吹き込む人は少ない。

そんな、モンクのソロアルバムのなかで、このアルバムはヴォーグ盤(1954年)に次ぐアルバムだ。レーベルはリヴァーサイド。だからプロデュースは、オリン・キープ・ニューズ。油井正一氏のライナーノーツに、キープ・ニューズのソロピアノへの意向が述べられている。「ニューオリンズのマーチ・バンドからはじまったジャズの編成にピアノはなかった。一方ラグタイムにはじまるピアノは、ソロ楽器としての伝統を守り続け、バンド編成に加えられたあとも、ソロイストとしての誇りを持ち続けた。・・・(中略)・・・もしそのようなピアニストを現代に求めるとしたらセロニアス・モンクを措いて他になかろう。(同LPライナーノーツより引用)」

それにしても、モンクのピアノソロは、静かに聴ける。詩情豊かだ。音と音との「間」、ピアノでしか表現できない世界だ。真剣に聴くのもよし、環境音楽として気軽にBGMで聴くのもよし、どんな聴き方でも自在にできる。昔はモンクの音楽は難解だと思ったが、今ではうそのようだ。ごくごく自然に打ち解けて聴けるから不思議だ。一人でモンクを聴いていて、すうーっと、入ってくる。なお、このアルバムのB面の最後の曲、MONK’S MOODには、コルトレーンが参加している。これがまた素晴らしい。

ところで、モンクのアルバムは、どうしてもプレーヤーのカートリッジを取り替えて聴きたくなる。オーディオ・テクニカのMC型AT-F7。比較的新しいカートリッジで現行品だと思ったら、現在は生産中止。

ラブラドールが聴いた今日のジャズ-第17回- コットン・クラブ・ストンプ / デューク・エリントン・オーケストラ SOPJ29-30

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このアルバムはエリントン楽団の戦前の録音。1935-39年の録音のなかの未LP化全32曲を収録した2枚組アルバム。帯には、「本年最高の復刻盤」と書かれている。1970年代前半にCBS・ソニーからリリースされた。曲目解説は粟村氏。

粟村氏によると、このアルバムは、デューク・エリントンの熱烈な崇拝者である、アメリカ人のキャラナン氏の所有するSP原盤のなかから、未LP化の曲を選んで作られた。そのきっかけは、粟村氏が直接キャラナン氏に提案したことから始まった。その結果、アメリカ本社の手を経ずに、わが国の CBS・ソニーから発売された。

この2枚組は、30年代後期のエリントン黄金時代の演奏が収録されており、抜群の音質で録音されている。ライナーノーツによると、キャラナン氏の自宅で、家庭用ルボックス・テープレコーダーを使用して作成された。同時代の他レーベルでの録音に比べると、常識をはるかに超えた高音質だ。

このアルバムはやはりLPで聴いてこそ、音の素晴らしさが味わえる。確かにCDの方が物理的特性は優れているが、このアルバムのように、1930年代の古い録音で、しかもSP原盤からの収録だから、ディスクでないと味わえない音質だといえる。SPからLPになろうとも、ディスクの音は共通したものがある。

レコードプレーヤーのカートリッジは古いものでもいい

これだけのいい音を聞くからには、レコードプレーヤーのカートリッジにも拘りたい。概して50年代から60年代のLPレコードは、古いカートリッジの方が、相性がいい。具体的にどのようなカートリッジがよいか。

結論からいえば、60年代から70年代の前半までに発売された国産カートリッジのなかにいいものがある。いま、手元で聴いているのは、オーディオ・テクニカのAT-6。当時OEMで他社の多くのレコードプレーヤーに供給されたカートリッジだ。VM型になる前のMM型。中域がしっかりして厚みがある。やわらかくて素直で神経質なところがなく、長時間聴いても疲れない。古い録音にこそ本領発揮する。テクニカのAT-1からAT-6ぐらいまでの初期モデルを聴くと、カートリッジの進化って一体何だったのかと思ってしまう。ある意味オルトフォンのSPUに通じるものがある。サックス、クラリネット、トランペットがいい。特にヴォーカルが素晴らしい。エリントン楽団の色彩感がよく出る。

日立Lo-DのMFS-170がいい音していると思ったら、テクニカのAT-6だった。その次のモデルMFS-250もなかなかいい。これで聴くこともある。実はこのモデルもテクニカのOEM。

カートリッジは時代とともに、周波数レンジが広がり、解像度が上がり、高域が強調されるようになったが、何だかCDの音に近づいていく感じだ。物理上の高性能化と聴感上の音の良さは別。CDとは違う音を求めるのであれば、アナログならではの味わいが濃い、古いカートリッジがいい。単に高音質を求めるならCDを聴けば十分だし、せっかくレコードを聴くなら、レコードでしか味わえない音を追求した方が楽しい。古いカートリッジをもう一度活用したい。